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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★スカウトしちゃうゾ★★

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【孤児】それぞれの思い・・・・

 1995年3月1日:大胡陸軍士官学校卒業式答辞


「……我ら日本国軍士官学校第451期生。これより先、身命を賭して国の平穏、世界の安寧に貢献し、悪にあらがい善を施すものの守護者として忠勤に励むことをここに誓う!

 戦の世を平穏に導いた大胡親衛隊から始まる栄えある大陸軍だいりくぐんの士官として、ここに血潮を捧げるっ!! 」




 1995年4月1日:1996年度大学入試情報誌「MATHU」


 【甲府医科大学】


「沿革。


 近代医学の祖である〇〇生菊が、義父である〇〇〇〇によって薫陶、研究、実践をしていた甲府の地に、生菊を記念して設立された医科大学です。

 現在、世界屈指の医学研究施設が併設され、あらゆる分野において最先端の研究がなされています。

 生菊(幼名:菊蔵)の物語は国営放送の大型ドラマに何度か取り上げられ、多くの国民、ひいては全世界の知るところとなっていますが……」




 1543年4月中旬

 華蔵寺公園

 まつ(公園きっての優秀な女子)



 私は夕日が嫌いでした。


 あの陽が山に落ちていき、落ち際の血が滴るように見えるのが大嫌い。

 父上が戦から戻らなく、家中の者が皆散々になって逃げているうちに野盗に襲われ、母上が乱暴を働かれているのを、お堂の陰に隠れぶるぶる震えながら見ていたのも夕焼けが周りを染めている頃でした。


 幸い野盗に見つからずに済んだはいいのですが、水すら飲めず戦から逃げ回っていたため、どこにももう逃げる体力も気力も残っていなかったのです。


 ああ、ここで死ぬんだな。そう思い、目をつぶろうとした時も夕日がまぶしかったのを覚えています。

 その翌朝だった? お堂を巡っていたお坊様に握り飯と水をいただいたのは、朝焼けの中でした。


 その後、近くにあったお寺で1月余り休ませていただきました。せめてもの恩返しにと、掃除洗濯炊事、そして仏具の整理など全身全霊で働かせていただきました。


 別に、ここにおいていただきたいとか、そのような下心があったわけではないけど。それを見ていたらしい和尚様が、巡礼姿のお坊さんに何かを伝えた後、私を呼びました。ここを出て、この方についていけばそなたの人生に光明が差すかもしれない。と言われたのです。


 ああ、ここを追い出されるのか……

 そう思ったけれど抗う気力もありませんでした。

 こうしてお坊様・賢祥さまの後について、大胡の町まで連れてこられたのです。


 来る途中もいくつかのお寺に寄り、私と同じような年ごろの子供を数名引き取り旅をつづけました。そして龍蔵寺の境内にほど近い真新しい建物での生活が始まったのでした。


 ここで私は初めて文字の読み書きと計算を教えてもらいました。出される食べ物も父上母上と暮らしていた時より量もおいしさも比べ物にならないもので、16名の引き取られてきた子らは貪るように毎日食べていたもの。私はせめてもと掃除洗濯その他をお手伝いするようになっていきました。


 そんなある日、賢祥様と一緒に一人の子供のお侍様を連れていらっしゃいました。


「やあ。はじめまして~。よく来てくれたね~。ここのご飯はおいし~?」


 とても明るい声で歩いてくると、持っていた籠を振り上げ、


「鯉を獲ってきたから、差し入れね~。たんとお食べよ~♪」


 皆、大騒ぎで感謝を口々に言っていたが、賢祥様の言葉にさらにびっくり。


「このお方は大胡の御殿様で松風丸とおっしゃいます。皆さんをこの大胡に招かれた方ですよ。この方がおられませんでしたならば……」


「おしょさん、それは言わない約束でしょ? ねえねえ。もしよかったら友達になってくれるかな? みんなで楽しく遊ぼうよ。うひ」


 目を輝かせて、踊るように皆の話を聞きに回りだす。私は、嬉しそうにしている皆に食べてもらおうと、鯉こくと鯉の洗いを作ろうと台所へ向かいました。


 皆が楽しくしているのを見るのが私の幸せだと思います。鯉をさばいていると、あの日の事を忘れるために仕事をしているような気がするので。皆の笑顔が私の笑顔を引き出して、取り戻してくれることを願って。


「鯉の洗いは虫がいるかもしれないから、やめた方がいいかもね~」


 急に後ろから声をかけられました。殿さまだ。

 父上の仕えていた殿さまには、声を掛けていただく機会がありませんでした。しかし、このように親し気に話すことは無さそうな方に見えました。なにか、お返事をしなければならないのでしょうか?


「あ、の‥」


「気にしないで、殿さんなんて仕事、ふつ~にやっていれば座ってればいいだけだから偉いなんてことないから、かしこまらなくてい~んで~す、はい」


 わたしが戸惑って口をパクパクさせているのを見ながら、お道化たようにまくし立てていました。殿さまってこんな人が普通なのかな? そうではないのは流石にわかります。


「君は何歳? あ、女性に歳聞くのはご法度だね。

 ネキが言って……アウアウ、しつれ~だよね~。グーパンものだよね。でも君は僕と同じくらいの年? 9歳くらいかな? 僕よりうんと大人っぽいねぇ、尊敬しちゃうなぁ。

 でも、早く大人になっちゃうのはもったいないよ~。もっともっと僕たちは遊ぶ権利があるよね。夢を見る権利もあるよ!

 だから今は食べて寝て遊んで勉きょ~して眠る~。そしてまたみんなとにっこり笑えるように今頑張ろうって思っているんだ……

 あれ? なんでこんなこと言っているんだろ、僕は~? あはは」


 じゃあね~、っと後ろを振り向きつつ手を振りながら外へ出ようとして、殿さまは柱に顔をぶつけてくらくらしながら出て行きました。

 いったい、なんだったのだろう?

 知らないうちに大嫌いな夕日は落ちて、気づくと暗い景色の中に竈の火だけが暖かく周りを照らしていました。まるで松風様が灯していったように……


 これが松風様との出会いでした。







 1546年4月下旬

 華蔵寺公園訓練所

 平助(剣の才能と男気があるリーダー格の青年。後に剣豪のような名前を付けられて遊ばれる)




「それまでっ!」


 疋田先生が稽古終了を告げる。皆、尻もちをついてぜえぜえ浅い息をしている。毎日の事だが、疋田先生のしごきはきつい。


 最後は4名の訓練生が束になって、掛かるのだが袋竹刀すべて空を切り、体のどこかしらに疋田先生の袋竹刀が叩き込まれる。だが、その疋田先生も上泉様の前では赤子同然だそうだ。

 どれだけ上泉様は強いのだろう? いつも見て見たいと思うが、まだ早いとの一言。


「明日から私は御用にて当分相手ができない。よってこれから伊勢守様の剣技を見せていただく。しっかり心に刻むように」


 おおっ! と、皆、喜びの声を上げる。俺もうれしいが、それよりも明日から訓練ができない? 御用とは?


「訓練はこれから伊勢守様より指針を示していただく。それを自分なりに考え実行に移すように」


 訓練についてはこれから楽しみだという事はわかった。しかし、明日から何があるのだろう?


「疋田先生。明日から何があるのでしょうか?」


 思い切って聞いてみた。


「……貴様らは大胡に絶対の忠誠を誓うものであるな?」


 はいっ!

 と、いつもの数倍の大きな声を皆発する。


「よし、こちらに近寄れ。実はな、これから出陣なのだ。松風様の初陣だ。周到な準備をせねばならぬ」


 !!!!

 松風様の初陣!

 我らの恩人、神にも近しいお方。その晴れの舞台。雄姿を見たい。お守りしたい。その一手となりたい。


「某。必ずや殿のお役に立ちます。お傍に!」


 某も某も、と声は続く。

 だが、


「控えよ! 私に向かい4人がかりで一筋も太刀を入れられん奴らを連れてはいけぬ」


 皆、何も言い返せない。でもそれは先生が強すぎるせいで……


「先生! 命に代えてでも殿をお守りいたす所存。ですからこの身はどうなっても構いませぬ。連れていってくださいますよう、殿に!」


 皆口々に粘るが先生は相手にせず、身なりを整えていた。するとそこへ遠くから、大きい、そして底抜けに明るい声が聞こえてきた。

 殿だ。聞き間違えることなどあり得ない


「やぽぽ~。みんな、げんき~~?

 上泉大大大先生を連れてきたよ~。

 皆で剣を教えてもらお~よ~。ワクワク!」


 ここにいる訓練生は皆、賢祥様に助けられ、ここ大胡の龍造寺や公園で過ごす者たちだ。いつかはこの身で恩返しをと思っている者しかここにはいない。武術は疋田先生、読み書きは賢祥様のご子息賢慮様が、算術はたまに瀬川様が見てくださっている。そのうち戦の事についても先生を用意してくださるとのこと。


 殿の後ろから気配を絶つような歩き方で付いてくる上泉様。これから武技を見せていただけるという。


「まずは今からやることができる人は、無条件で召し抱えちゃうからよ~く見ていてね~」


 おお、と、歓声を上げる皆。そんなに簡単ではないことはわかるが、何をするのだろう? すると殿の後ろから付いてきていた弓兵が5名。上泉様から5間の所に並び、構えている。驚く暇もなく、殿の声が聞こえる。


「じゃ、いっつしょーたぁーいむ! がんがんいきましょ~」


 長弓の連射が上泉様に飛ぶ。どれも正確に狙いがつけられている。

 危険だ! 危ない!

 しかし! 当たらない? 5本中1本程度は太刀で払い落すが、見切っているようだ!  3連射が終わった。訓練生が固まっている姿へ向けて、殿が声を掛けてくださる。


「これからね。結構危険な戦に出るかもしれないんだ~。だからね、みんなには死んでほしくないの。まだ自分の事自分で守れないでしょ?

 今回の出陣、最後の切り札伊勢ちゃんの率いる部隊なんだ。今みたいに矢を防ぎながら突進するの。できれば……」


 殿の次の言葉が俺たち訓練生の心を掴む。


「あと5年、いや3年? で、できるようになってよ。そして僕の切り札になってほしいんだ。そのくらいになればそう簡単には死ななくなると思うよん、多分。

 だよね伊勢ちゃん♪」


 上泉様は頷く。


「待ってるよ。

 親衛隊(ガーズ)(注)諸君! 戦場で会おう!!」


 俺たちは、この日、本当に自分の血潮を捧げることを誓った。




 1546年1月上旬

 華蔵寺工業集落

 菊蔵(何をやっても駄目だと思い込んでダークサイドに落ちそうになっている14歳。そんなことないんだよと言ってあげたい)




「なにやってやがるっ! この薄のろめ!! もう来るな。出ていきやがれ!!!」


 親方の罵声が工房に響く。出来上がったばかりの陶器を手が滑って落としてしまった。

 これでもう3度目だ。やはりおいらは出来損ないなのか。


 折角、賢祥様に救われたこの命。何かでお役に立てないか色々と試してみた。親衛隊訓練生と同じ訓練をしようとしたら、1刻もしないうちに足腰が立たなくなり、いいからやめろと言われた。

 まつ達がやっている帳簿付けも全くわからず、計算の間違えばかりで迷惑かけてあきらめた。ここ陶器工房で働き始め、まき割から初めてようやっと工房内の仕事に付いたらこのざまだ……


 もう大胡に来てから4年もたつ。同期の皆はそれぞれ生きる道を見つけたようだ。まだ何も決まらないのは、おいらだけ。

 ぼ~っと、黄昏の粕川の土手で座っていると益々落ち込んでくる。


「よいかな? 隣に座っても」


 急に声を掛けられ、びくっとするも頷くだけの元気しかない。


「何に悩んでいるかは知らぬが、そなたの年齢では皆、心に色々な不安と夢と鬱憤が渦巻いているのが普通じゃ。だからそなただけではない。気にせぬことじゃ」


 むっ、となった。

 おいらたちの大胡への思い。それを知らず何を言うか!!

 そう叫んでいた。


「その思いがそなたを苦しめているのじゃな? それを大胡の殿さまはご存じなのかな?」


 そんなこと知るはずもない。あのお方は、松風丸様は「友達」として遇してくださる。この孤児たちを。そんな殿さまの為になりたいというのは、当たり前の人の思いではないのか?

 そう絞り出すように、声を掛けてきた30過ぎのふくよかな男に答えた。


「ふむ。これは益々、松風丸様にお会いしたいの。

 もしよければ連れて行ってもらえんかの?」


 普通の領主様ならおいらのような、元浮浪児が案内などできないが、ここではお城の門番のおじさんに話せば、大抵お会いしてくださる。


「おじさんは、なんという名前なんじゃ?」


 連れていくにはどこから来た誰なのかくらいは聞かないといけないくらいは、抜け作のおいらでもわかる。


「儂かな? 甲斐の国から来た永田徳本というもので、医者をやっておるのよ」







注)英語でガーズというとナポレオンの近衛兵を指す場合が多い。オールドガーズ(古参近衛兵)は最後まで付き従った。「1814年4月20日、フォンテーヌブローへのお別れ」という絵画が有名です。

 ランペルールというゲームが好きでした。



 竈や暖炉の火ってなんだか見ていて心が落ち着きますね。





 スーパードクター参上!


 強い思いは岩をも穿つ。

 でもそれで心を病む人もいます。

 みんなが自分と同じ強さと思って生きていると残念な人になっちゃいますね;;






 こんな子にも光を当てる作品です。


 【作者からのお願い】


 続きが読みたい!

 菊蔵(林家菊〇の旧名ではない)の成長が見たい!

 永田徳本ってよくゲームに出てくるあれだよね!

 いや、湿布薬で有名人だよ!


 そんな風に感じた方はブクマと★を1つでも結構ですので付けていただくと大変励みになります。よろしくお願いします。

 作者、病弱故、エタらないように★のエネルギーを注入してください!なんとか最後まで書かせてくださ~い





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