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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★スカウトしちゃうゾ★★

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【豪商】全部全部全部~♪


 1995年1月8日:新潟県直江津市大日本商工育成会オンライン講義

【近世日本の豪商:越後蔵田屋】


「蔵田五郎左衛門は、現在のクラタグループ・蔵田財閥創始者である。

 現当主・蔵田善一郎侯爵の26代前の一代目蔵田五郎左衛門は、越後長尾家の御用商人として歴史に登場した。

 蔵田屋の飛躍のきっかけは当時手掛けていた越後上布の原材料である青苧あおその独占販売であった。

 そして更なる飛躍は16世紀中葉の上州生糸の販売で手にした焼酎独占販売や……」





 1993年9月3日:ポケペディア更新


「今様。

 関連項目:梁塵秘抄(りょうじんひしょう)


 平安時代末期に編まれた歌謡集。

 現存するのはわずかな部分のみである。

 ……特に有名なのは

 遊びをせんとや生まれけむ……」



 1547年4月29日

 上野国二ノ宮赤城神社拝殿

 蔵田五郎左衛門(越後上杉家を陰で支えていた経済産業大臣)



 拝殿で宮司が祝詞をあげ終わった。子宝祈願で有名な赤城神社が開運商売の祈祷にふさわしいかどうかはわからない。


 しかし、この真新しい拝殿はこれからお会いする大胡松風丸様の寄進という。宮大工が相当数都から移り住んでいるらしい。移住する者が多いということは、この土地が福を呼んでいるからだろう。

 祈願をするのも吝かではない。


「松風丸様、お着きになりました」


 厩橋の支店を預かる義衛門が近づき耳打ちした。さて、これからがお楽しみの時間だ。


 越後でも最近、(とみ)に噂を聞く国衆だ。一介の国衆にもかかわらず、現在、莫大な収益を上げているらしい。この義衛門が報告するのを怠ったため情報が入るのが遅れた。会津の梁田屋さんに先を越された。5歳にもならないうちに米相場で大儲けしたらしい。


 磐梯屋という行商人、今ではちょっとした身代に成長した新進気鋭の商人を介して、梁田屋さんが座に融通を利かせることで利殖したとの事。

 情報網を手にしていれば美味しい米売買だが、一介の行商人が「次にどこが凶作になるか」を当てて、その場へ他の商人よりも先に米を持って行っている。


 その謎を知りたいと以前から思っていた。それがそれがどうやら大胡の松風様という今年13の元服もまだの童、いや若侍の差配らしいと報告が来た。


 現在、大胡は生糸・焼酎・石鹸・歯ぶらし・釘などの一大生産地となっている。殊に生糸は、青苧(あおそ)を主に扱う繊維商いの当家にとっては、喉から手が出るほど欲しい交易品だ。できれば、仕入れの権限、無理ではあろうが独占販売ができれば更なる実入りがあろう。

 これから始まる会見で、まずは人物を観ようではないか。







 同日少し後

 赤城神社社務所

 瀬川正親(交渉下手だけど実直な、計算などの経理は超優秀)



 宮司が出て行った。

 殿の正面に座るは、蔵田五郎左衛門殿。その横にうまやばし屋の義衛門殿。

 こちらは殿と儂のみ。政影殿は外で警戒に当たっている。


「遥々、越後より山をいくつも超えてまで上州の町々・国衆を訪ねていらっしゃったとか。心より歓迎いたす。ごゆるりと逗留していってくだされ」


 殿から口火を切った。まさかの、商人へ先に挨拶をする。義衛門殿は面食らっている。偉そうにふんぞり返っている国衆が当たり前である。銭を借りる時でも勘定方が面会するだけで、当主が顔を出すことなどほとんどないのが普通だ。


 ふふふ。これが我が殿よ。こんなものは当たり前、酒場で人足にお酌をするとか、最初は目を回してぶっ倒れそうになったが、これが生き残り戦略の一手と知り違和感が払しょくされた。


 だが、どう見ても楽しんでいるとしか見えないのが殿らしい。

 それを問うたら、


「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん」

 などと、『松風様らしくなく』今様を口遊みながら煙に巻こうとした。


 しかし偶々、その意味を知っていたため、これが本音なのだと了解したが。


 おっと、思い出していたら話が進んでいた。蔵田屋が本題を切り出した。


「最近はこの大胡の地にて産出される生糸の品質が良くなりましたな。繊維を扱う者にとっては誠にありがたいことでございまする」


 殿がまだ、余所行きの態度を取っている。


「そのようですな」


 殿もお人が悪い。というかこれが武士としての普通の対応であろう。相手から話を切り出させることが重要である。今後の立場を左右する。


 そして殿には「最終兵器」とご自分で名付けているが、急に普段の所作に変える落差で人を堕とす、というものがある。大胡入城時に我らの人心を掌握した術だ。


「大胡特産の焼酎も売れ行きがとても良く、銭に余裕があるものは(こぞ)って買い求めております」


「それは重畳。ありがたき事」


「守護代、長尾晴景様の跡取り景虎様がご愛飲されていることから、越後の諸将も好んで飲んでいただけておりまする」


 少し切り込んできたな。情報を小出しにして、どこで折り合いが付けるかの腹の探り合いか。

 儂には腹芸はできんわい。すぐ商人に足元を見られて値切られてしまう。


「ほほう。あの高名な景虎殿が愛飲していただけると。今度贈り物をしてみるとしよう。ありがたき知らせ、感謝いたす」


「それはそれは。もし手前でよろしければ景虎様への繋ぎ、お任せくだされ」


 なるほど。ここでわが大胡との関係を結びたいと伝える、もしくは利益を提供したいと申し出るか。


「景虎様は晴景殿との仲はいかがかな? 相当スト……いや、心を痛めておられると拝察しているが。それで酒を嗜むこと、(しきり)りかな?」


「さて、若殿のお考えは推察するしかございませぬ」


「で、あるか。遠からぬうちに商人も旗幟を鮮明にしないと利権を得られなくなるやもしれぬな。大胡も小さいながら他国のことを知らぬと生きてはいけぬ」


 先に臣従された真田殿の伝手で、信濃方面は情勢把握が簡単になった。配下の素ッ破も組織を改編して四方に眼を光らせる方向で準備が進みはじめた。これで商売がしやすいのう。


「そういえば殿は小さき頃より、米の売買をされていたとか。見事な差配、感服しておりました。如何様な方法にて我ら商人を先回りして輸送なさっておられるか不思議でなりませんでした」


「そうであろうな。それは秘密、企業秘密じゃ。だが、これからもっと素早く動けるようになった」


「これは侮れませぬな。商人顔負けの手際でござりまする」


「そこでじゃが……

 う~ん。瀬川ちゃん肩もんで~。

 もうこういうの疲れちゃうよ。

 さてぇ、もう本音でいいかな? 大胡を見に来たんじゃなくて僕を値踏みしに来たんですよね~?」


 ついに始まったか。殿は足を前へ放り出して、後ろで両手を立てて背筋を伸ばしている。儂が膝をついて殿の背後ににじり寄り、肩をもみ始める。


「ははは。参りましたな。良いものを観させていただきました。これは来た甲斐がございました」


 ほう。蔵田屋は目が驚いているが表情は壊れていない。さすが豪商じゃの。


「で、僕は合格点もらえる~?

 頑張っちゃったんだけどね♪」


「御見それいたしました。交渉の業、確かに見させていただきました」


「やったぁ~。でねでね。ここからが本番ね!」


「と申しますと?」


 殿の攻勢が最高潮に達する。


「僕が先に出せる札全部出すからさ、

 【蔵田屋さんを全部】買えるか考えてくれる?」


 さすがに蔵田屋は目を丸くして驚愕した。








 1547年4月29日

 大胡城下旅籠貴志権

 義衛門(手代の話を聞き流したのを後悔している、実は野望があったりする商人)



 大旦那様は旅籠に帰ってから、ずっと腕を組んで考えていらっしゃる。

 松風丸様との会談で、大変な商談を持ち掛けられたためだ。


 生糸の独占販売権

 織物産業の改革

 干し椎茸の独占販売権

 高級磁器の販売網開拓

 素早い情報の共有

 米穀の共同交易

 焼酎の委託製造販売権

 改良され効率の良い荷駄器具の貸与

 或粉保流の極秘販売


 これらの提案を受けたのに対して、松風様は


「御用商人じゃなくて同じことを望む友達になってくれる~?  一緒にたのしも~♪」

 と、それだけを要求として出してきた。


 小さいとき手代の伝兵衛が「えれえ童だぁ」と言っていた気がするが、初めてお会いして痛感した。「もっと早くに面会しておくべきだった」と。


「義衛門さん。詮無きことであるが、今少し早くお会いできればよかったな。お前を責める気はない。ただこのままでは梁田屋さんにすべて持っていかれる」


「ですが、あちらの条件は、一緒にたのしもうよ、という漠然としたものです。あいまいな条件ならばその時の都合によって……」


 すると大旦那様は急に怒ったようにおっしゃった。


「あきんどは信用が第一であるな? 友達の意味、一緒に遊ぼうという意味。これが大事だよ。その友達は盟友という意味だと私は捉えた。

 そして……」


 私は次の蔵田屋の方針を聞き漏らさまいと身構えた。


「天下を明るくする、平穏にする。働いただけ幸せになる世。これを実現するため、一緒に汗を流す仲間にならないかと持ち掛けられたわけです。

 総取りか、はたまた一切手を出せず悔しい思いをすることになるか。総取りは嬉しいが他の大店・商人司殿には総すかんを頂けるね、間違えなく」


「では。蔵田屋の存続をあの少身の国衆に掛けると?」


「義衛門さんは1度しか会う機会がなかったようですが、これから越後の動乱、まずは長尾景虎様が収めることになりますね。

 戦の守護神がついていらっしゃる。

 しかし……商いは一切ご興味を示さない。

 だからこそ御用商人として甘い汁が吸える、越後にて大身になれる、と思っていました。ですが……ここへ来て迷いが生じました。松風様に比べるとあまりにも意識が……低い。景虎様は目の前の戦の事しかお考えでない。そこに全ての人生を懸けていらっしゃる。

 それがどうです? 松風丸様は……」


 大旦那様はいつもより饒舌になっておられる。


「天下国家を語っている。もしそれが建前であったとしても、その行いが百姓(ひゃくせい)、全ての者の安寧に寄与することをしていらっしゃるし、これからもするでしょう。

 どちらに付けば蔵田屋の将来、いや、後世の日ノ本の経世済民に寄与できるか、それで蔵田屋の子々孫々が繫栄していけるか、もう見えているのですが……」


 大旦那様は商人(あきんど)の魂『稼ぐ』という事を超えて、後世のことを考えていらっしゃる。しかし、松風丸様を選ぶとしたら殆ど全ての商人を敵にするかもしれぬ。

 それだけの意味があるのか?


 いや、もっと他の方法があるのでは?

 ……経験の少ない私にも、先ほど別れ際に松風丸様が口ずさんでいた和歌を聞いて、思いついたことがある。


「大旦那様。松風丸様が帰り際に口ずさんでいた今様(いまよう)をお聞きになりましたか?」


「いや。聞こえませんでした。なんの今様ですか?」


 私は真似て諳んじて見た。


 「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん」


「……『梁塵秘抄』ですか。それで?」


「私の拙い思い付きですが、皆さまでお遊びなさればよろしいのではないですか?

 一人で遊んでいても詰まりますまい」


 大旦那様は一瞬私の顔をまじまじとご覧になり、


「義衛門さんや。そなたも大分人が練れてきたようですね。私は気づきませんでした。そうですね。皆で遊べばよい、ですか。

 よし、決めました。義衛門さん、あなたはこれから大胡番として働いてもらいます。私は各地の大店に繋ぎを付けてこの大商いにご一緒する人はいないか、一緒に平和な世で商いをしたい方を探しましょう!

 まずは会津の梁田屋さんに……」


 これは大変だ。一番重要なのは、要である大胡の殿との交渉になる。それを私にやれと? 恐れ多いと共に、これからが私の正念場であり檜舞台であると心が勇んだ。


 それにしても松風丸様は明るい方だ。周りを朗らかにしてくださる。ついつい乗せられている私を感じていた。自分がニヤリと笑っているのに気が付いた。







 本当に遊んでいるんだから、主人公は。だから明るい(あ、軽い)。







 首取り《《物語》》。全部全部全部~♪


 【作者からのお願い】


 続きが読みたい!

 恋愛サーキュ〇ーションとか大好きな人!(関係ないww)

 だから首取り物語なのか!と悟った人。

 いよいよ経済戦争の土台作りか!


  そんな風に感じた方はブクマと★を1つでも結構ですので付けていただくと大変励みになります。よろしくお願いします。

 作者、病弱故、エタらないように★のエネルギーを注入してください!なんとか最後まで書かせてくださ~い

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[気になる点] 梁塵秘抄は和歌ではなくて今様なのでは。
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