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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
SS祭り

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SS6:ガンジスの八咫烏:前篇


 この作品は戦国時代の作品ではありません。

 不必要な場合はブラバしてください。


 本編は10月ごろ再開します。






 第1部「特殊作戦軍」




 皇紀2500年

 帝都東京。



 霧の多かった帝都も、最近は煙突などに排気煙の硫化物質除去装置が付けられて、快晴の日も増えて来た。


 やっと国父政賢の指針「自然を愛せよ」が、絶えざる西洋から仕掛けられた紛争にかまけて遅れに遅れていた公害対策を前に進みだした。



 その政賢の長子松風が創設した総合芸術学園は快晴の下、子供の声に満ち溢れていた。


 古典からサブカルまでを研究、専門家を育成する学び舎に付属する小学校のグラウンドでは8歳から12歳までの子供たちがフットボールをしている。


 初等教育課程の子供であろう。

 芸術に少しでも興味のある子供は、少しでもそれに触れる機会の多いこの学園で過ごせるようになっている。

 これも政賢の「枠に嵌まった教育はしない」という指針が実現した結果だ。



 そんな校庭の脇を長身の男がゆっくりと歩いている。

 隙のない歩き方。

 それでいて足の親指の付け根に重心を乗せて歩く行軍姿勢。

 見る人が見れば明らかに軍人だと分かる。



 その男の足元にボールが転がって来た。

 そのボールを追って駆けってきた7~8歳の男の子に、ボールを拾い手渡してやる。


「フットボールは楽しいかい?」

「うんっ! 楽しいよ! おじさんもやる?」

「また今度誘ってくれないか?」

「いいよ~」


 ボールを大事そうに抱えて友達の所へ駆けて行く子供。

 それを目で追っていた中年の男がベンチに座っていた。

 そこへその男は近づいていく。


 明らかにベンチに座っている男は動揺している。

 数秒間天を仰ぎ、それから諦めたように近寄ってくる軍人に話しかけた。


「誰からだ」

「総司令からです」

「どこへ?」

「ガンジスです」


 それだけだ。

 それだけ聞いてベンチの男は立ち上がる。

 平凡な身なり。

 目立たない顔。

 中肉中背。


「頼まれてくれないか」


 軍人は小さく頷く。


「やっと生まれた一人息子なんだ。

 退役したから結婚して子供を作った。家内には先立たれたが。

 施設で育てたくない。いくつかの持病を抱えているんだ。

 俺に何かあったら後を頼めるかい?」


「私が先輩の願いを、いつも無条件に請け負ったのを忘れましたか?」


「そうだったな。そんなお前だから無理を承知で頼んでいるんだ」


 今度は大きく頷いた。



「では支度をしてこよう。一週間後に出頭でいいかな?」

「三日後でとの命令です」

「そんなに急な展開なのか。わかった、明日本部に出頭するよ」

「日本は再びあなたを必要としています。グアンタナモの英雄、疋田中佐」


 疋田は内心では失敗だったと思っているグアンタナモ防衛戦を忘れるように頭を振りつつ答えた。


「忍びが英雄になっちゃいかんよ。陰であるべきだ。

 表に出てしまったから退役したのに。またお呼びか。宮仕えは一生ついて回るな。

 先祖の祟りのようだな、まるで」


 大胡時代に特殊任務部隊を創設した先祖に向かって何度目か数えきれない愚痴をもらしつつ、被っていたハンチングを脱いでから軍人らしい歩きをしないように気をつけながら校門を出ていった。

 息子に「先に帰る」と伝えてから。


「……帰って来るよ、絶対に」


 呟く声は次第に小さくなるが彼の心の奥底で、ずっと反響していた。







 D-DAY-3日

 ガンジス河口から100km

 支流パットマ河とメグナ河の合流点

 ダッカ中心から南20km

 ナヤランガンジ



「大尉! 日本の特殊部隊が到着しました。

 助かった!」


 ホリの深いアーリア系の浅黒い顔が歓喜にあふれている。

 30年ほど前に共産主義者に支配され始めたインド亜大陸を開放するために立ち上がった国民軍。

 その一兵卒がこの崩れそうな市役所跡に駆けこんできた。


「そうか。間に合ったか! それで幾人だ? 100人位いるのか?」

「11人だ、大尉」


 その会話を遮る日本人の声。

 指揮所に入って来た精鋭部隊の隊長には見えない小柄な男が人数を告げる。


 その場にいたインド国民軍の兵士。

 高々11人の増援が来ても、現在北から攻撃をしているインド共産軍50000をどうにかするなど考えられない。

 ここに籠る国民軍は1000に満たない。

 壊滅寸前なのだ。



「大丈夫だ。心配ない。

 日本の特殊部隊H()()()は1人で1000人を相手にできる。

 10人もいれば10000人は相手にできる。

 相当抵抗できるはずだ」


 彼は日本の士官学校に留学したことがあるのだ。

 そして知っている。

 各種の専門スキルにおいて世界トップクラスの実力者のみで構成されているH部隊。

 その1分隊が派遣されてきたのだ。

 その意味を理解して安心した。

 日本は本腰を入れてくれると。



「さて。大尉。

 現状を戦況と戦力、その配備を教えてくれないか?

 流石にそれがわからないと私でもどうすることもできないよ」


「は。中佐殿。

 その前にお名前をお伺いしても?」


「これは失礼した。

 久しぶりの任務で心が急いてしまった。

 私はH部隊臨時編成分隊隊長。

 疋田豊吾中佐。

 宜しく頼むよ」



 そこにいるインド国民軍の兵から歓喜の声が上がった。


「英雄が来た!」

「グアンタナモの八咫烏!」

「奇跡を可能にする男だ!」

「中佐殿。ここでも奇跡を!」


 疋田は苦笑いしながら頭の緑色のベレー帽をかぶり直した。







 D-DAY―2日

 二階建て市庁舎跡

 インド国民軍指揮所




「あと2日で日本軍は参戦する。

 知っているかと思うが現在カリブ方面で日本海軍の航空艦隊が修理中だ。

 ハリケーンで通信機材が損傷を受けている時に攻撃を受けたんだからしょうがない。

 当分インド方面に全力では戦力を持ってこれない」



 空母15隻を中核とする日本の航空艦隊主力の半数が損傷を受け、艦載機はその多くが海洋投棄された。

 誘爆を防ぐためにはそれしかなかったのだ。


 そのため補給を受けている最中だ。

 本土に残っている空母は訓練中と修理中の8隻のみ。

 その内の2~3隻を大至急戦闘態勢に持って行った。

 現在この2~3隻の空母を中心とした臨時任務部隊がインド洋に入ろうとしていた。


 しかしインド共産軍はヨーロッパ連合から支援された航空部隊をアンダマン諸島に配備。

 その数は300機以上。

 3隻の空母が攻撃しても航空優勢を取れるかどうか。


 更には義勇艦隊!として旧ドイツ海軍の最新鋭戦艦グロスドイッチュラント級2隻がインド洋東部を遊弋していた。


 これを打ち破って日本海軍の任務部隊は、ダッカ方面の航空優勢を取るという大変難しい命令を受けていた。



 陸上の航空部隊は今回の紛争の元となったチッタゴンに置かれた日本空軍の基地は、絶え間ないゲリラ攻撃を受けて使用を困難となっていた。

 インド共産軍はインパールに航空基地を置き、航空優勢を保っている。



「2日後にはチッタゴンの航空基地を夜間の間に整備。

 特殊部隊の別動隊が敵のゲリラ基地を襲撃。組織的な抵抗を排除。

 この付近の航空優勢を確保してくれる。

 そうすれば味方の航空援護を受けられるから」


 大尉を安心させるようなセリフを伝えながらも疋田はこの危険な綱渡りを成功させる手を考えていた。



「印度方面派遣軍からの暗号電です」


 通信兵が電文を大尉に渡さずに疋田に渡す。

 既にこの序列が決まっていた。


「栗林大将はインパール陽動作戦が成功したと判断しているようだな。

 本命のチッタゴンに主力の士魂部隊を派遣したことを敵は陽動ととらえたと観ている」


 インパールを目指してアッサム地方を横断するのが一番たやすい。

 アンダマン海沿岸部は地形が入り組み殆ど補給路が作れないからだ。

 それを承知でチッタゴンを主正面に選んだ。

 本来ならば航空艦隊主力による絶対的な航空優勢の元、ダッカ南方への上陸作戦を決行するはずであった。


 しかしそれが出来なくなった今、インド共産軍は心置きなくアッサム地方インパール正面に戦力を集中している。

 そこへ突っ込むのはいくら精鋭の第3軍でも、兵力を鉄の壁に卵をぶつけるようなものだ。



 補給路は世界に冠たる日本工兵部隊が実力をいかんなく発揮し、トラックが並走できるくらいの高規格道路が最前線まで出来上がっている。

 敵はこれにまんまと引っかかったのだ。



 チッタゴンには通称『士魂部隊』最精鋭の第11戦車連隊を中核とした第7機甲師団と、ほか2個機動師団で編成された第3機動軍団が攻撃態勢で準備している。


 これが北西200kmにあるダッカを狙って進撃する。


 問題は殆ど橋のない地域であることだ。

 渡し船でここの交通は成り立っている。

 この船を如何に調達するか、数少ない橋をどのように占領、維持するかにこの作戦の成否がかかっている。


 いや。

 更に難関なのはチッタゴンに集積した補給物資は1カ月分しかない。あとはインド派遣任務部隊がアンダマン海を打通出来るかにかかっている。


 つまりすべてが綱渡りなのだ。

 このような作戦は邪道中の邪道。

 しかしこのままだとインド国民が共産主義政権の支配に苦しむばかりか、西欧勢力の浸透によって東南アジアへの攻撃が始まるのは目に見えている。


 今動かねばならないのだ。

 インド国民軍が戦っている間に、これを救出する。

 最近流行り出した()()()に出て来る、東部に植民をしている大和民族を襲う西洋人を追い払うために、さっそうと登場する大八洲騎兵隊の役柄を果たすことによりインド国民の一斉蜂起を促すのだ。



「さて始めようか。居留民は最後まで生き残らねばドラマのシナリオが壊れてファンが怒り出すからな」


 99式狙撃銃を片手に疋田は破壊された街並みの物影を伝い、敵正面に向かって10名の部下を散開させて移動していった。

 その行動はかつての大胡時代、敵を恐怖に陥れた疋田豊五郎率いる特殊部隊を彷彿とさせる忍者の襲撃のようであった。




 続く






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