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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
信玄君、きみ、最後まで根暗だゾ!

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【相討】ザマァどころではない悲惨さ

 4代目……考えていません。そのうちあの人が担がれて……




 1999年4月11日:JBCTV歴史スペシャル


【裏切りの日本史①武田4代に渡る裏切りの連鎖】


「甲斐源氏の末裔である武田家、その最後は悲惨なものでした。その源流はやはり父信虎を追い出した嫡男晴信の謀反でした。

 これの原因は東国一円を襲った凶作の不満を全て信虎に押し付けての内政と求心性の崩壊を防いだものだという見方が今では定説となっています。

 その後、晴信の嫡男、義信による謀反。これはその様な生易しいものであありません。大胡による財政基盤の崩壊と品川での大敗北。これにより後には引けなくなった晴信を倒すことにより不満分子ごと晴信を戦場での裏切りによって屠ったものでした。

 これには病死直前であった晴信も加担していたという見方もありますが、問題はそこではありません。忠節を尽くした家臣を屠った事による消せない悪名が武田に定着してしまったことです。

 そしてその連鎖がその後の謀反の多発を生む結果となりました。世にいう「暗人」という名前が流行ったのも頷けます」




挿絵(By みてみん)



 1559年5月8日未の刻(午後1時)

 上野国西甘楽貫前神社東

 飯富虎昌(敵から味方になったよ:正史では義信と武田、どちらに忠誠心を持っていたんだろう?)



 つい先だって山県の名跡を継ぎ山県昌景と名を改めた甥の源四郎。あ奴は頑固だ。曲がったことが嫌い。謀反などということは伝えられなんだ。


 儂の家臣直接の手勢700はついてこよう。あとは寄り騎だ。800のうち小幡あのウォージャンキーはついてくる。(浅利)信種も多分だがついてくるだろう。他は半数が寝返れば引きずられてついてくるしかあるまい。

 もっとも御屋形様の本陣へ突入ともなれば話は違うが。此度は大胡の主力を無事台地の上に登らせることが目的。



 しかしそれだけでは済むまい。

 謀反は敵……御屋形様への攻撃で先鋒を務めなくば大功とはならない。大胡は普通に戦っても勝てる。それを如何に兵を失わずに済むかを腐心していると聞く。

 ならば武田の兵がその身代わりとなってすり減らされることが大胡にとっての大功であろう。


 悲惨なものよ。

 信虎様の代より磨きに磨きぬいた兵の同士討ち。

 これしか武田が生き残る手がないとは。一人の武士としては敵に切込み華々しく散る。これが本望。だが守役となった義信様を生かさねばならない。御屋形様も今、義信様に家督を譲ることは武田の崩壊を招く事、見抜いていた。だから此度の猿芝居となった。


 己は義信様と一緒に謀反をした。そう思えば一時の間ではあるが連帯感が生まれる。その間に義信様への求心力を高める。大胡の先兵として功を重ねていくしかあるまい。それが出来ねば歯が抜けるように雨散霧消するであろう。

 儂も生き残らねば。


 しかし今は命を掛けるべき時。突撃の先頭に立って高坂の鉄砲隊の後背を衝き、大胡の勝利を決定づける。北からは馬場の2400が横槍を入れる。高坂には悪いが武田の捨て石になってもらう。



「赤備えの者! 聞けぃ! これより太郎義信様、御謀反! 我ら赤備えはその先駆けとなる。義信様についていき新しき武田を作りたき者は儂に付いて参れ! 御屋形様、信玄坊主は既に起き上がれぬ病身ぞ! このままでは武田は滅びる! 大胡に恩を着せよ。そして生き残れ! なにがなんでも武田を生き残らせるのじゃ! 

 生き残りたくば儂に続けぃ!!」


 叫ぶと同時に先だって同心を誓った主だった家臣が走り出す。それに引きずられ配下700が走り出した。残り800は戸惑いながらも動き始めたのを確認すると、東に横列を敷いた高坂の陣中央に向けて突撃を開始した。





 半刻後信玄本陣東1町

 武田太郎義信(今や味方:遂に謀反しちゃった。御曹司)



 西の険しき丘の中ほどに、まるで「ここまで登ってこい」というように風林火山の幟が立っている。親父様はあそこにはおらぬかもしれぬ。屍のような体を誰かに見られたら猿芝居が見抜かれてしまう。

 折角の「忠義者を屠る」機会を逸してしまう。


 惜しい人材ばかりが討ち取られていく。南では秋山が重傷で捕らえられたらしい。甘利は討ち取られた。南部は崩壊状態だ。むろん鉄砲隊は包囲され殲滅された。一瞬の出来事であった。高坂の左翼が北から半包囲され潰されるのを見て南の右翼が壊乱。そのあおりを受けて秋山の備えが崩れた。

 それを見た敏い後方の備えであった小山田が謀反に同調。甘利を討ち取った。山県は小山田勢を抑えようとして次第に削られて仕舞には50騎もいないまま崖を登って来た大胡兵の列に突っ込み銃弾で蜂の巣にされた。


 山の北側に布陣している小幡の上野衆は詳細不明だが大胡の後背を衝くには兵力が足りぬ。


 既に親父殿の旗本譜代3000のみが残されている。指揮するのは逍遥軒の叔父御。最後まで抵抗して親父殿個人に対して忠誠を誓う者どもを道連れにする覚悟だ。


「一気に攻めましょうぞ。太郎様、いえ御屋形様。あ奴らが降参すると厄介」


 血まみれになって帰陣した虎昌が急かす。敵の血も味方の血も浴びて来たらしい。双方とも武田の家臣の血か。

 それはそうだが、はっきりさせておかねばならぬ。


「俺は太郎でも御屋形様でもない。只の義信だ。上手くすれば政信か。それが甲斐武田の生き残る道ならば泥でも舐めよう」


 武田の膨大な借財は大胡が肩代わりするという。そして武田の家臣団は武田本家の配下に留まることを許された。根無し草ではあるが生き残ったのだ。そうしなければあの大胡の鉄砲玉を浴びて多くの者が討ち取られ、更には武田の武名まで踏みにじられよう。

 それならばいつか、いつか再び武田の武名を上げる基礎を、礎を残さねば。


 今はそれ以外は考えぬ。

 目の前の親を越えていかねばならぬ。たとえそれが猿芝居であろうとも、最後に勝てばよいのだ。いつか、いつか、必ずや大胡政賢の首を取ってやる!


「皆の者! 武田をここまで窮地に陥れた愚将。武田信玄を今倒す! そして新しき武田を作り直そうぞ!」


 応!


 むろん皆の声は生気が籠っていない。だがよいのだ。ここで生き残れるものだけを連れていく。連戦連戦すり減らされる大胡の埋め草となって初めて得られるであろう信頼。これを最良の機会で裏切るのだ。そして先の七輿山で取りそびれた首を上げる。

 それでよいであろう? 親父殿。それしかもう道はない。裏切り、裏切られがこの乱世の証。国を二つに割っている所を大胡に攻められるよりは遥かにマシと思うしかない。きっと皆も分かってくれよう。


「では、掛かれぃ!!」


 右翼からは馬場の2400。左翼からは小山田の1000が攻め上り始める。そして中軍、俺の3400が一気に坂を駆けのぼる。





 同刻

 鏑川東岸大胡本陣

 大胡是政(味方:久々の一人称!)



「完勝でしたな。殿」


 俺は勝利を祝った。

 殆ど一方的な戦だった。これが平地ならば鎧袖一触だったろう。丘の上15間の高低差をものともしない程、俺の隊は磨きに磨きぬいた。それに射撃の腕を生かすために100丁余りの新式銃、試作松風1号を持ってきた。

 銃身内部に螺旋を切ってある。これにより命中精度が格段に上がった。冬木殿はこれでもまだ納得しないようで、今度は椎の実状の弾を打ち出せないかを考案しているそうだ。

 これだけでも十分だが。それよりもこの装填速度の遅さを何とかしてほしい。1分に1発が精々だ。それは後で考えるというがいつになることやら。また泣きつかれるんだろうな酒場の連中。



「そだね。大胡にとっては完勝だ、今のところは。で、是政隊の損害は?」

「死傷で戦列から離脱するものは五分以下の200名程度。死者重傷者は80名弱」


 俺の右で床几に腰かけている殿の顔には勿論涙。


「武田はそろそろ無力化できるかな。本陣はもう少しで落ちる。間に合ったかな。上杉との決戦に。それと……」


 他にも何かあったのだろうか?

 前線指揮官では他のことはわからん。


「ちょっとね。あとで思いっきり泣かなきゃなんないことが起きちゃってさ。出口調査が終わったんだよ。でも大局的に見れば()()()()()()。いい事さ」


 何を言っているのかさっぱりだが俺にできることをするしかない。次は上杉攻めか。


「これちゃん、これから一息つく暇なく転進。東進して。目標倉賀野。そこで装備を整え指示を待って。決戦場が決まり次第、そっちに戦闘機動してもらうから。向こうで装備整えるまでどのくらいかかる?」


 ここから倉賀野まで約9里。

 小隊毎に銃火薬を輜重部隊が運べば3刻か。ぎりぎり日没に間に合うか。先遣隊を走らせ向こうであらかじめ野営設備を設営させればいけるかもしれんな。


「今日の日没前後に半数は倉賀野で野営できます。残り半数は途中で日が暮れます。よって1里ほど西烏川西岸で野営となりましょう」


 殿が固まっている。

「間に合わない」という小声が聞こえて来た。

「命までが代償なのか?」という声が続く。

 思わず聞いてしまった。


「最終目的地がわかれば2個中隊400のみ先行させて間に合わせますが。もし東進するのであれば河も使えます故、河船の数隻さえ集められれば八斗島程度までは軽々と……」


「いける!?」


「お望みとあれば」


 殿は俺の方を勢いよく振り返り、今にも泣きそうな顔を見事な喜びの表情に変えて命令を下した。


「じゃあ、那和城を攻囲している敵3000を撃破しなくてもいいから南から圧力を加えて。速いことを見せつけるの。それが一番の目的。彼奴には一番効果的だろうから」


 何を言っているのかさっぱりだがやることは決まった。ここにいる筈の俺の隊、大胡の主力部隊が今日のうちに12里離れた那和城に「戦闘態勢で」移動することが重要なんだな。


「了解っ! 是政隊、これより直ちに東進。那和城まで強行軍後、そのまま戦闘に入ります。して、目標は?」


 殿が言い辛そうに敵の名前と素性を説明し、そして戦闘目的を指示した。


「敵はかえでちゃんの従弟。新田のおか~ちゃんの甥で赤井の推政くん。速さが自慢の部隊指揮をします。そいつが松風を磔にしようとしています。これの阻止。駄目ならば……松風を見殺しにして敵が逃げないようにしといて。大胡の全兵力で全ての敵を滅ぼすから。その覚悟でよろしく~」


 これは大変な役どころだぜ。

 殿の顔をふと見ると、顔は笑っていたが目が死んでいる。そんな殿は初めてみた。








 あと2話で武田編が終わるのですが、ここまで書いてつくづく一般受けしない作品だなぁとw

 暗い! 暗すぎる!

 武田を滅ぼすにはやっぱりここまで暗くする必要があった。「暗人」ですから。明るくぶっ潰すのが難しい。作者の力量の無さです。



「引きずられて駆け出す」


 群集心理ですねぇ。

 ある一定数の人が威勢よくどこかへ向かい出すと遅れてはいけないと動き出す人が出て。最後には誰も残らない。火事場で我先に逃げ出すとろくなことないのですが。周りをよく見て行動しましょう。



「試作松風1号」


 なんか色々と一気に出て来てしまいw

 試作品を実戦投入するのは佐藤大輔物のお約束なので~♪

 丸弾でライフリングがしてあるフリントロック式マスケットです。



「小山田信茂」


 葛山に説き伏せられて岩殿城を開城したのは兄の小山田信有ということにしました。やっぱり裏切りと言えばこの人ですから!



「目が死んでいる」


 これ書いている時の作者の目です……気力が尽き果てている@@;



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― 新着の感想 ―
[良い点] 為政者としての選択と親としての選択が乖離しているのが辛いなぁ
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