【桐生・3】どっちへ行った流れ星
こんなゲームになりそうな裏設定w
1972年発売:ボードゲーム『レッドコメット&ブラックプルーバー』
「あちゃ~。こっちは囮かよ。じゃこっちが本隊か?」
「そういうこと。さて前線に大穴が開いたぞ。電撃戦だ。レッドコメットの高速機動モード宣言!」
「それってチートルールだよな。通常の3倍の機動力ってなんだよ? 勝てるわけない」
「だが3ターンに1回しか使えないぞ。使えるタイミングを計らないとな。それにブラックプルーバーにもチートルールがあるじゃないかよ」
「あれも使うタイミングがサイコロ次第じゃなぁ」
「だが当たればでかい。こっちは負けるしかない」
1559年5月7日
上野国桐生街中
桐生七郎(味方:六郎という正史の人物はいるけど、この人とは無関係でしょう)
辺り一面、焼け木杭と化した北部の街並みに比べ中心街から南は略奪も暴行もなかった。
よかった。これで桐生の街は再興できる。人も無事だ。女子供は西の桐生ケ丘へ避難。男どものうち働ける者の多くは後備兵として柄杓山城にいた。
数十名の男たちが暴行を受けたが重傷者は出たものの、死んだ者はいない。略奪できるものは数限りなくあったがそれらも荒らされていない。ただ着物や布地が油まみれにされて火をつける事に使われたらしい。つまり略奪や暴行が目的ではなかったか?
戦乱の世ではありえないことだ。
大胡に服属する前のことを知っている俺にとっては、何とも納得がいかない。宇都宮の雑兵・足軽はそんなに統制が取れているのか?
まるで大胡並みだ。
やっぱり広沢隊長の守備兵を吊り出すための罠だった?
俺は単なる分隊長に過ぎない。そんなことはわかならねぇ。しかし参った。その分隊長の元に後備兵1200だと? それも武器がまちまち。統制なんざ取れねえだろ?
これで何をすればいいんだ?
取り敢えず広沢隊長が昨日夕刻、戦闘していた所へ行ってみるしかねぇな。
「ウップ……げぇ」
周りの連中が中の物を出し始める程の凄惨さ。
広沢隊は全滅?
それはないだろう。宇都宮は殆ど鉄砲を持っていないそうだ。450丁の鉄砲の銃撃で怯まない雑兵はそれ程いない。ましてや撃ち合うわけではなく、一方的に撃たれている中へ突っ込んでいける雑兵、銭で雇われている兵は勿論、徴兵された足軽も浮足立つ。
ここで皆を埋葬してやりてぇが、それに時間をかけていいんか? 敵を追うべきなんじゃ? わかんねぇ。
兎に角、高津戸の隊長さんに聞くしかない。だが、まだあそこは敵に囲まれているんじゃ?
「隊長さん。高津戸から伝令だよ」
後備兵の中で指揮官となるのは予備役の隊長経験者の筈だったが、ここ桐生じゃその制度がなかった。みんな桐生織りの職人か商人人足だ。まっとうな兵隊の仕草は出来ねぇ。
だがこの言葉遣いくらいはきちんと出来ねぇもんか?
「了解。通せ」
だらだらとした態度で衛兵を務める兵に通されてきた伝令が臨時の指揮所へ入ってくる。指揮所と言っても茶屋の軒下だがな。
「高津戸守備隊の指揮官より命令。後備兵200を街の警護と柄杓山城に残し、貴官は1000を率いて華蔵寺を目指し行軍。華蔵寺にて戦略物資を受け取り、武装を整え華蔵寺と赤石城の守備をせよとのこと。以上」
高津戸の指揮官は小隊長だ。俺よりもまともな教育を受けているだろう。それに従うべきだ。それに責任はあっちが取るんだろうから。
俺は南西に延びる華蔵寺と赤石に通じる道を行軍するために、残り200の兵にこの惨状を片付け、死者を丁重に埋葬するように命令した。
さて。この連中。どのくらいの進軍速度にするか。街道は整っているがあまり縦列を増やすとだべり始めるだろうなぁ。2列縦隊か。これは敵には追いつけねぇな。
ま、それでいいか。
敵が正規兵と戦っている時に後ろに到着すればうまく行けば大手柄だ。ゆっくり行けば孤立することもあるまい。分隊長の俺にはこれくらいしかできねえんだ。仕方ないだろう?
高津戸城
守備隊長(味方:名前つけるのめんどくさいので省略w)
陽が登ったら敵が消えていた。2000の兵が西へ向かったのは確認できたが、まだこの城の抑えとして500は残っていた筈だが、昨夜煌々と篝火の灯っていた敵陣には人っ子一人いない。
西へ消えた2000はゆっくりとした行軍だった。多分ある程度離れてから野営しただろう。土地勘のない宇都宮の兵が夜間行軍などするはずがない。
ここの守備隊150を任されている。だが指揮命令系統は広沢隊長だ。昨日から連絡が途絶えている。信号機を使っても誰からも反応がない。2000の敵勢が西へ向かった時には煙弾を使用し、やっと反応があった。それだけは伝えられたようだった。
伝令を出すべきだ。
昨日夕刻、銃声が聞こえた。大して続かなかったから単なる威力偵察だろう。広沢隊に伝令を出そうとした。
その時。
「広沢隊長より伝令。符丁が合いません。符丁が変更されたと言っています。どうしますか?」
?
ああ、そうか。
この城が包囲されていた時に変更になったこともある。聞くだけ聞いてみよう。
通されてきた伝令が早口で伝えた内容に益々混乱してしまう。
「高津戸守備隊は1個小隊100を割き大胡へ向かった敵を追撃。進撃を遅くする可能な限りの策を取れ。後備兵200を向かわせる。大胡を守れ! 以上です」
最後の緊急符丁、「大胡を守れ!」だけは合っていた。
では広沢隊長の部隊は何処へ行くのか? 敵の居場所を掴んでいるのだろうか。残り500。これを追撃して撃破してからこちらへ来るのか? 伝令に聞いても分からないとの事。
考えても仕方ない。情報がないのだ。大胡城と華蔵寺・赤石城が落ちれば我が守備隊はここで遊兵化してしまう。正規兵50と後備200もいればすぐにここは落ちまい。
伝令に了解を伝え、復命に返してから大胡城への進軍の準備を始めるように指示を出し始めた。
岩宿南1町
伝令兵(に化けた佐竹の手の者)
「うまく行ったか?」
「応。これで大胡の守備兵は追い出せた。後は佐竹の後備え2000が桐生とここを落とせば、ここは佐竹のもんじゃ。占領地を返す事となればなったで銭になる。またタラ腹飲み食いできるぞ」
「ああ。楽しみじゃ」
佐竹の義厚の旦那についていった奴。いい働きをするぜ。大胡は流れもんを良く平気で雇い入れるな。すぐ人を信用する。よくこれでこんな大勢力になったもんだ。隙だらけじゃねえか。
ああそうか。でか物になって総身に知恵が回らぬのか。
でかすぎるのも考えもんじゃな。
俺は今度の褒美だけで十分じゃ。
欲をかくとろくなことは無い。
登場人物が多くなり過ぎました。
作戦地域が広くなりすぎてそれを表現するのに色々な視点で書く為に、戦場が移行するたびに敵味方双方の武将が出てくるので混乱してしまいますね。しかしすぐに戦死してしまうので厳しいや。
今後出来るだけ視点変更をしないように……と言っても既に書いてしまっている原稿は変えられないし、もう有名武将しか出てこない決戦に入ってきていしまっています。
よって、時間が出来たら改稿することしかできません。上杉編ではこれを解消するように努めます。ご容赦くださいませ。
「荒砥川と粕川」
この位置がたびたび入れ替わっていました。今回のものが正しいです。具体的に言うと赤石城の東に流れているのが粕川。大胡城の東から南へ流れる川が荒砥川です。大して違わないのですが、これも修正に時間が掛かってしまうので、書き上げてからの修正となります。
「佐竹の旦那」
この人(輜重兵を率いていた人)、人がいいので皆がついてくるけどその中には変なのも混じっているのは世の常。やっぱり佐竹の方面から流れて来ていました。この人。




