【吾妻・1】出世したけどあまりうれしくない
ちょっと危険な言動があるけどこの位はいいよね!
1939年3月2日
ウスリー河ダマンスキー島
吾妻幸太郎戦闘日誌
「コミーの畜生共め! 何処から沸いてきやがる。幾ら倒しても河を渡ってくる。もう数百人分の血でこの大河がどす黒く濁り始めた。
その中に次第とわが国軍の兵士の血も混ざり始めた。こんな所でカクテルにはなりたくねぇ。
俺に預けられた守備兵、総員900名。集成大隊とは名ばかり。寄せ集めの戦力は十字砲火を満足に集中させる事すらおぼつかねえほどだ。
ああ。これは出世じゃねぇ。この世から出ていけという命令だった」
1559年5月4日
上野国華蔵寺戦略作戦指揮所
吾妻幸信(竜騎兵旅団の第1大隊長。あの沼地で捨て奸やった人)
「本条城守備隊からの選抜中隊200。到着を申告。何時でも配備可能。どちらの指揮下でしょうか?」
「第3大隊第4中隊として配属。指揮下に入れ」
各地から守備兵が続々と集まってくる。
もうこれで3個大隊3000、そして段列500が揃った。しかし中核となる隊がない。俺の竜騎兵第1大隊は半数が河越。残りは第2と第3に再配置された。
「お前はお払い箱だ。出世だと思ってあきらめろ」と旅団長に言われて昇進、華蔵寺へやって来た。
旅団長も苦しいのだろう。集成2個大隊2500。大隊長を担える奴がいない。俺がこっちに出張ってしまい2個大隊10個中隊の手駒が上手く動かせないに違いない。
新田の奴は猪突型だから使い勝手が悪い。
中之条がいれば俺の代わりに大胡方面軍を指揮統率できただろう。だがそれももうできない。高崎も死んだ。新しい奴らはまだ経験が足りない。その中隊長達も多数戦死か負傷した。
竜騎兵旅団は弱くなっている。
そして更に俺がこっちへ来て抜ける。旅団長の髭が落ちそうになるくらいのしかめっ面を笑って明るくこっちへ出向したが……
なんだこの戦力外のような奴らは!
士気旺盛なのは認める!
体力があるのも分かった。
だが、鉄砲が、射撃が当たらないではないかっ!
わかるよ。
火薬がなかったのだから訓練が出来ないまま駐屯していたのだから。領内巡視が主な役目だという事も。
だったらせめて弩弓の訓練を。しかしこれも矢を持って行かれたらしい。ここの所の連戦で製造が間に合わんのだとか。竹も取りつくしそうだとか。現在、水車を使った轆轤で木材を削っての製造を研究しているという。
残るは長柄の訓練だ。これだけはしっかりとできている。
しかしな。
この寄せ集めの兵団。これでどうやって組織的に動かして戦うんだよ??
難しい。
撤退戦よりも遥かに難しいぞ!
「軽騎兵中隊の隊長を呼べ。索敵計画を練る」
せめて先手を取らねば。好位置に素早く布陣し敵の移動中を叩くか、各個撃破。
敵は桐生の柄杓山城の守備兵500を攻めようとしている。3000での攻城戦。あの城は桐生の奥地にある山城で結構な堅城だ。兵も正規兵。容易には落ちない。それを後ろから叩く。
3000対3000
しかも相手は鉄砲がないのは確認してある。
それに背後を気にしての戦いとなる。渡良瀬川をどう使うかで勝負が決まるだろう。
兎に角、索敵だ。
幾重にも索敵網を張り巡らせるよう作戦を立てた。
5月4日夕餉後
竹中半兵衛(熱血していても真面目で表面は静かな末成り)
「殿。竹中半兵衛殿が面会を申し出ております」
親衛隊の衛兵の声。
もう皆が歓談に入っている刻限。殿は如何しているであろうか。殿の専用天幕は分厚い冬用から夏用の涼しさを旨としたものへと変わっている。
「お~。はんべーちゃんいいとこ来てくれたね。入って入って、どじょ~♪」
いつもの殿の明るい声の中に、少しだけ苦悩の音色を聞き分けた。一人で現在の状況の打開策を練っているのであろうか。
腰を折り曲げて中へ入ると、ガラス製の燈明(たしかランプといったか)が菜種油を燃やした明るい光で隅々まで照らしていた。まるで昼間のようだ。
殿は、てぇぶるの上に張り付けた地図の上に大胡の各部隊と敵の軍勢を表す駒を様々に動かしている。表情だけ見ると遊んでいるように見えるのが殿らしい。
しかしたまに見せる眉毛の動きと再び癖になったという髷を弄ってイライラしているようにも見える。コロコロと表情を変えるお方だ。この方がいなければ大胡の未来はない。だからこそ……
「ねぇねぇ。これみてよ、東部戦線がツィタデレ後のような崩壊状態~」
つぃたでれ、というものは理解できなかったが、殿に促されて座った床几から見る東上野の戦線は崩壊寸前だ。
「こわ~い「おかーちゃん」のいる新田金山城頼りかぁ。ここ集中攻撃でしょ? それを支援していれば、その間に北部から回り込まれちゃう。大胡・華蔵寺は危険だね。
だから周辺の守備兵力を集めちゃった。
しのっちの一番頼りにしている人を指揮官にしたよん」
そういう事か。
私は後藤隊の事だけで精一杯であったが、東部ではこのようなことが起きていたとは。やはり参謀本部の設立は火急の案件だ。殿が全てに目を光らせるなどできない。
そういうことからか。先の突出は武田ばかりに集中できなかったが為。
「殿。何故ここには秀胤様がいらっしゃらないのです?」
「うん。ちょっと別の角度から見ないとね。その点、最適なのがちーたー君とはんべーちゃん。今、呼んでもらおうかと思っていたんだ」
私と政幸殿はまだまだ若輩。そのように頼りにされても困ってしまうが、それだけ頼りにそして期待してくださっている事は素直に嬉しい。
「そこかしこで城が落ちちゃった。原因は内応。まさか隊の中の指揮官級の者が内応するとはね。でもみんなはそっちへ目が行くけど問題は……」
「東部方面の作戦だけでなく、この戦争をどのように終わらせようとしているかですね。上杉と宇都宮・佐竹が」
殿が顔を上げ、びっくりした様子を見せてから「やはり」という小声と共に小躍りして大げさに私を褒めた。その後に私にその推測を求めて来た。
成程。これでは失礼ではあるが秀胤様では難しい。全体的に物事を考え裏にある意味を探る。これは難しい。
「私の推測ですが、戦略目的は大胡を弱らせる事。広域作戦、この場合は東部戦線ですが武田に主力が向いている大胡の背後から大胡の中枢へ打撃。戦術としてはいくつか考えられますが。
まずは華蔵寺の研究施設の破壊。その周りに広がる工場施設への放火。集積された物資の略奪。
次に大胡に集結している集成守備隊の撃退で空いた穴を西進。手薄になっている厩橋を通り南進しての和田城奪取。もしくは北進しての(渋川)白井城を奪取して越後への退却路を作る」
「う~ん。最後のはないねぇ。この桐生にいる軍勢は宇都宮だよね。自分のためにならないから。和田城奪取してもこっちの決着ついた後は潰されるの待つだけだし、その間に鉱山と炭鉱、工場群を破壊? びみょ~」
殿と私はいくつかの推論を出し合ったが「そのことだけ」は出さなかった。しかしそれが大胡へ最も効果的な打撃を与える力を持っているが、実現は非常に難しいと思っているから無視しようとしたのだ。
だが口に出さねばならなかった。
「殿の首を取る以外に大胡が降参する決定的な一撃はございますか?」
殿は人差し指で頬を掻きながらぼそりと言った。
「かえでちゃん。そしてお市ちゃん、春ちゃんを人質に取られる事……」
「あと松風様でございましょう。それにはあの那和城を落とさねばなりませぬ。それが目標ならば今回の動きは納得がいきます」
私は地図の上で赤い敵の駒を動かした。
大胡の青い駒が見事に前線を作り出す。その背後には駒が殆どない。那和城の駒は後備兵1000を切っている。
「……これ、やっぱ意図的?」
「はい。その可能性は高いかと」
「じゃあ、この前線を突破する部隊は……」
私はその駒を指さしこう言った。
「今回の戦。この軍勢が鍵となるかと」
殿はその駒を手に取って、そこにある名前を感慨深げに眺めた後こう仰った。
「赤井かぁ。新田金山も赤井出身のおか~ちゃんだし、この軍勢も赤井出身の推政君? つくづく館林に祟られた戦だねぇ。北条綱成君の呪いかなぁ~」
赤井推政は義理ではあるが殿のはとこにあたる。華蔵寺で3年間、戦を学んだという。
秀才らしい。
その男が今回の作戦の鍵を握るのか。
「で、この彗星じゃない、推政くんはどう出るかねぇ。本当に那和城狙う? 狙っても落とせないよ3000じゃ。それに吾妻ちゃんの部隊を撃破しないとだし」
それは実際に敵の動きを見ないと分からない。殿に私に行かせてくださいと言おうとしたが機先を制されてしまった。
「こういう時、はんべーちゃん派遣できればなんだけど、お仁王さんの旅団を効率的に動かせるのは他にいないからねぇ。向こうへ向かわせる人材がいない。
今は武田を早く潰さないと。それからだね。それまで持久戦を指示しよう」
問題はその為の戦線を維持できるかなのだが。
地図に広がる赤城の裾野の広さに不安しか覚えなかった。
「裾野は長し 赤城山」
と、殿が呟くのがかすかに聞こえた。
「ダマンスキー島事件」
結構歴史的に見るとチャイナとロシアって関係は険悪なはずなんだけどねぇ。この1968年の中ソ国境紛争も発展しる要素バリバリだったし。早い話が専制主義者は両立しないんですよね。ヒトラーとスターリン。この場合は毛沢東。
今回のウクライナは独り相撲。
「出世」
この世から出て行けという辞令だったという……
「士気旺盛でも訓練が」
神風みたいなものか?
あの部隊は様々な思いを持った人がいたのだろうけど、「職務」に忠実な日本人は「日本人であろうとした」結果だと思います。
「大胡の国民であろうとした」とは思えない。この作品ではもっと根源的な自主性を持たせています。
「索敵で先手を」
ミッドウェーのアメリカ海軍みたいな?
いやいや、練度が全然違う。それに島風を襲おうとするマルユくらい悲惨な事に。
島風=帝国海軍一の高速駆逐艦。マルユ=陸軍主幹の輸送船。鈍足。もちろん武装無し。
「ツィタデレ作戦」
クルスクの戦いともいう。クルスク大戦車戦ともいう。双方1000両以上の戦車を集めての一大会戦。これで負け、前線崩壊したナチス陸軍は潰走してそのまま終戦に。
「人質作戦」
大胡に決定的なダメージを与えて「謙信を越後へ帰す方法」が見つからず。身ぐるみ引っ剥がして追い返すこともできるけど、それだと物語が終わってしまいますw
「裾野は長し 赤城山」
上毛かるたの一句。
前橋高崎方面から見ると赤城山の裾野がえっらく長く見えるんです。地図上で計ると富士山並みに(誇張)広いんですよ。
あとで地図お見せします。




