【昌豊・2】堅実すぎる!
世界線が揺れ動いている。作者の頭の揺らぎでもあるw
2001年1月2日:第200回山梨国際駅伝
「……解説の明智さん。この新春恒例の大学国際駅伝大会。実は200年前、箱根を越えていくコースが検討されたと言いますが本当の事なのでしょうか?」
「はい。当時、岩殿城付近の道は険しく東海道の方が安全であろうと検討されました」
「でもそれでは明智光秀の進撃コースとは変わってしまうのでは? この駅伝の意味も薄れると思うのですが……」
「それが、どうも明智家家伝の偽書が出回っていて、明智軍の進撃したのは駿河方面であったとの研究もなされており……」
1559年5月2日
駿河国入山瀬城北方10町
内藤昌豊(万能タイプの面白みのない武将。弄り甲斐がない)
敵の中軍が崩れた。
あっけない。だが牛車で大砲を無効化されて慌てたのが一番大きかったのだろう。銃撃の間隔が出来たために突っ込むことが出来た。
問題は土塁の上に設置されていた鉄条網とかいう奴が厄介であったことだ。敵の本陣からの射撃で損害が続出した。
殊に勇気のある先頭を駆ける者が倒されたのが痛い。
更に敵兵が逃げる前に土塁上の味方の兵に斉射を加えてから後退したことによる混乱で、敵が潰走するまでには至らなかった。見事な整然とした退却あった。あの煙の出る爆発物も邪魔をした。
敵の大将、相当やる。
さて、どうしたものか。
敵の誘いであろうが、目の前に大きな通路が出来た。街道に出ればそのまま府中に行きつく。今川との合撃で駿河西部は武田の手に落ちよう。
しかし、それでは退路が断たれる。補給もできぬ。更には鬼美濃の騎馬隊がどこに出てくるか分かったものではない。敵の戦力は大方知れた。1500もいまい。
だが問題は富士川沿いの防備兵力だ。まだ使い番代わりの三ツ者が帰ってこない。一山超えての復命。大胡による山狩りが行われているのであろう。素ッ破か? 山伏か?
そちらの兵力は押さえているであろう。敵兵力の500がそちらへ向かうという知らせも欺瞞であった。もしかすれば小畠の兵が南下してくるやもしれぬ。それを待つか。
いや動き出した方が良い。頼りにできぬ兵を待つなど愚の骨頂。
西の城を攻めるか。
東に構築されているという第2防御土塁を攻めるか。東は上り坂の上にある。此度は重たい牛車は使えぬ。もしも大砲があれば悲惨なこととなろう。
どちらも城攻めと同じ困難さだ。
御屋形様の指図は「時間を稼げ」という只一点のみ。なにも駿河を平らげる必要はない。それが目的ならば精鋭をそのまま持たせた筈。ここで対陣するか。
先の勝利にて士気は旺盛。ここで大胡の真似をして鹿砦を築く。敵兵が逃れられぬようにするとともに後詰が来ても良いように抑えの砦を作る。
それだけの時間があるとも思えぬが。
兎に角、深入りはせぬ。
儂は馬上から戦場であった場所を見渡し、今後の配備と防塞建築の采配を振るい始めた。
同日同刻
滝川公爵、もとい滝川一益。
「各中隊、初期の計画通り第2配置に到着ました。損害、第2中隊兵員1割が負傷、もしくは戦死。その他の中隊はほぼ被害なし」
1割、30人か。多いな。
仕方ねえ。敵が多すぎるんだ。
代わりに敵もそれ以上の出血を強いたはずだ。殿さんの言う「らんちぇすたあの法則」という奴に逆らうんだから、仕方あるまい。
「大砲はきちんと使えなくして来ただろうな? あれをこちらへ向けられたら、えれえことになる」
「は。火門に釘。それと砲車を壊しました」
俺は顎に手をやり、髭を撫でながら考える。
ここ第2防御線はそう易々と突破はできねぇ。さっきの防御線は平たん地で防御する長さも長かった。今度は崖に近い台地。上から狙い撃ちできる。
敵の兵の質からすると、強引な侵攻はしない筈。だが兵の損害を押さえての仕寄りが上手い大将だ。ここを仕寄ると見せかけつつ半数ほどで南へ侵攻という手もある。
いや。
ここは敵の身になって考えようぜ。奴は原殿の騎馬隊が怖い筈。ここから先は平たん地だ。半数の4000に対して騎馬で切り込まれれば大損害。それは本意ではないだろう。
あと不安なのは富士川がどうなっているかだろうな。心配なはずだ。まさかあの一人の武将がたった20人で(ああ20人と化け物1人か)400を押さえ込んでいるとは思っていないだろうぜ。そして半ば潰走させた。
これをわざと伝えるか?
今、山伏どもが三ツ者の伝令を排除している。
敵の大将は富士川の戦況を信じるは知らんが、信じたならどう出る?
俺は戦場を見渡せる小高い丘で床几に腰かけて更に髭を弄っていた。
ああ。
敵の事もだが、大胡の戦略目的を達成しなければな。
最低でも、ここで内藤勢8000を拘束。甲斐へ戻さない。
その間に上野付近で武田主力を撃破。既に上杉本隊は髭ギツネが食い止めた。あとは武田に注力できる。既に動き出したとの知らせは来ている。
次善の目標。
敵を完全に無力化、敗走させる。
決戦をすることになるが被害がなぁ。
原殿の騎馬隊が全部1500来たとしても、敵も弩弓を多数揃えているらしい。突撃は出来んだろう。回り込んでの側撃だろうが正面を持たせる隊がない。
明智のキンカン部隊が来るまで待つか。
最善の目標。
戦わずに敗走?だと?
でか物の弟の100人1個小隊もいればできるか?
髭を弄りながら内藤勢を見つめる。
すっかり癖になっちまったな。
そこへ困った2つ情報が同時にもたらされた。
紙縒り状になっていた手紙を続けて読む。
「はぁ?」
「えっ!」
思わず変な声を上げてから、笑い始めちまったぜ。
「万能タイプ」
誰かこの人の苦手を知っている人います? 私の知る限り何でもできちゃう人との印象在ります。
「心理戦」
結局ここまでくると敵の心理をどう動かすかで戦場の様相は一変しますね。
「戦争目的」
心理に影響及ぼす。この二人。優秀だからどっちもここで粘りたい。だから意外なニュースには吃驚する。
孫子ですねぇ。




