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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
太郎は悩むゾ

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【防戦・1】孤立すると弱いんだよね、軍隊も人間も

 遂に伝統芸能まで主人公の魔の手が……

 江戸時代の演劇も変わったのか



 1678年5月1日:東京府歌舞伎座


【演目:甲陽軍勘】 

 

「そこなるは勘助が盟友。飯富兵部少輔。ここは我が秘策を伝授いたそう。この巻物を受け取られよ~」


「よっ! 山本屋!」


「あいや。またれい。その秘策、某の策ではござらぬか? この盗人めぃ。もののふの風上にもおけぬぅ~~~」


「よっ、竹中屋!」



 注)

 特に意味はございませぬw




 1559年5月1日

 上野国東甘楽山上台地南東

 飯富虎昌(騎馬突撃なんかめったに出来ないから嬉しいでしょうねぇ)



 無事渡河できた。

 地元の者が色々と協力してくれた。小幡の統治が良かったせいで、大胡の治世となってもまだ小幡に忠義を尽くしているのかと思うた。 


 しかしそれは間違いじゃった。

 この甘楽の地侍の内政が良かったらしい。それを大胡の代官に変わった途端に親子同然の立場がなくなったと。

 大胡の内政も所によっては問題があるの。そう全てが上手くいくはずもない。


 稲架掛けと煙幕に協力してくれるばかりか、馬が渡れる石の少ない渡瀬を教えてもらい、この絶好の機会が作り出せた。

 大胡の裏をかき、備えのできておらぬ筈の陣の北東側に出ることが出来た。手勢の赤備え700。この突撃を受け止められるか?

 自慢の鉄砲も使わせぬぞ。精々盲撃ちだけじゃ。全く恐れる必要はない。



 一旦、備えを整えるために停止する。


鋒矢(ほうし)!」


 儂の一言で、皆の歓声が上がる。

 めったにない敵中突破の陣形。儂も長い戦経験で初めてじゃ。このような優勢下で一気に敵陣突破するなど滅多になかろう。普通ならば大損害で失敗。

 もし一度でも失敗すれば「最強赤備えの伝説」が途切れる。そのために危険は犯せぬ。大抵は途中で引き返すか、お味方に替わって次の機会を待つ。最初の衝撃力がすべて。継続して戦えば大損害は必至。


 なにせ矢が当たる部分が広すぎる。馬に1本でも当たればそれだけで機動力が削がれる。こちらが与えられた被害よりも多くの被害を与えられるときのみ一気に投入する。

 この采配は天賦の才じゃ。御屋形様ですら間違えることもある。



 しかし此度は確実に「その時」じゃ。


「敵、大胡勢約1200。その敵の中央突破をする! 遅れるな。楽しめ!」


 騎幕を鏃の形で作った先頭集団に精鋭を持って行く。

 少しでも早く駆け、大胡の銃撃を受ける前に敵陣に辿り着き混乱。南北に分断。北で孤立した大胡勢を騎馬で牽制しながら、馬場の先手衆が近寄り接近戦。壊乱させる。

 ここまで行ったら馬場が殿軍をして甘楽郡を西へ移動していく。


 幸いにしてこの蹄鉄というもの、良い働きじゃ。

 蹄を気にせんで良い。全速に近い速さで駆けさせることが出来る。


 さて。

 久しぶりの突撃じゃ。

 あの大胡に一撃を食らわせて、太郎様の株を大きく上げておこうか。



挿絵(By みてみん)



 同日同刻


 三浦鉄仁(仁が付いていると皇室に失礼だけど勘弁してください。鉄人にすると28体作らないといけ無さそうでw)



「第4大隊の第4中隊。南方に下がりました。敵、騎馬部隊に対応可能まで今しばらく……」


 副官の言葉が終わらぬ間に、第4中隊の方から銃の乱射音。

 これは狙いどころか斉射も号令も出来ていなかったな。騎馬に蹴散らされたか。最初から長柄を用意するべきだろうが。指揮系統がしっかりしていないとこうなるという見本だな。


「第3の第1中隊はここにて方陣。前列は長柄。後列は狙撃。なるべく敵を削り取れ」


 まだ北の山上台地(ふもと)に第4の第3中隊がいる。台地上の赤備え500に備えて長柄と矢盾と銃を全て並べ、防御体制を作っていた。

 せめて長柄だけでも後ろへ向けて方陣を作って耐えてくれ。こちらが近づいて合流後南へ逃げる。もし旅団長が救援にくればここで耐えて……


 無理だ。

 あの橋を渡るだけで相当な時間が掛かるし、救援に来るのも確認できないほどの煙だ。救援部隊が来ないと分かれば兵は弱い。孤立が一番の敵だ。



「北東の赤い騎馬勢。この方陣の北をかすめます。一部は方陣を周回。半数はそのまま直進、突破していきます」


 ここだけか? 突破口は。

 それならば助かる。半数の4個中隊は逃れた。あとは壊乱した第4中隊の始末だ。あとは、孤立した第3中隊。第4大隊から預かっている400名の命。俺が何としてでも助ける!



 白煙が薄れてきた。

 なんでこんな時に!

 ああ、多分武田に指図されているのだろう。在地の農民が大胡の統治に不満であったのか。

 赤い馬の大集団に囲まれる恐怖。

 皆おびえているのが伝わってくる。

 

 南も見えてきた。

 本隊はこちらへは来ない。

 ここまでだ。


「火矢と煙弾を第3中隊へ! その後に手旗で信号。長柄のみにて方陣を維持したまま南方へ。無理ならば逃げろ!」



 悔しい!

 このような命令を出さなければならぬとは!


「第1はここで待機。第3が到着後南へ向かい渡河」


 それを聞いた第1中隊長が俺の腕をつかみ俺に周りを見させた。


「大隊長! 正気を保ってください! この隊の士気は崩壊寸前です! もう他の隊を救う時期を失しました! この隊が崩壊する前に撤退を!!」


 ガリリッ!

 奥歯が欠ける音がした。


「……わかった。撤退戦を開始する。第3中隊には……」


 その時、手旗員が大声で伝えて来る。手旗員は最後まで信号を読めなかったらしい……


「第3中隊からの信号! 壮健なれ、大胡の栄光を。……以上」



 うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!


 この悔しさ。

 決して忘れぬ。

 決して!

 必ず皆を守ってやれる強さを養う。其れまで待っていてくれ。冥途で会おう。


「第3の連中!! 冥途で待っていろ! これ以上の被害は出させぬ。少し間、寂しくさせてやるぞ。皆が畳の上で死ねる世にしてやる!」



 俺は隊員に引きずられるようにして川に向かった。




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