表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★山越えは危険だゾ★★
193/262

【越山・4】弓と火薬は下仁田名産、え“?




 1917年4月7日:上信新聞


「日本初の郷土かるた。『上毛カルタ』が100円で発売。44枚の絵札に書いていある77調の言葉で、群馬県の特徴を表している。県内の小学校では必修の行事となる見込み。

 これを暗唱できない者は1級県民となれないとの噂もある。

 この『上毛カルタ』には多くの(いわ)くが付きまとう。例えば「カルタという言葉はあの南蛮人の言葉故、絵札にすべし」という強硬派がいたとか、「下仁田の札は『ネギとコンニャク下仁田名産』とするべき」というとんでもない主張がまかり通っていたとされる。

 しかし大胡と武田との激戦地であった下仁田の名誉の方が遥かに大きいとの意見が通り……」




 1559年5月上旬

 上野国下仁田西普通渓橋

 大野忠治(赤岩砦の時からの歴戦の兵士です)



「中隊長~。なんでこうなっちゃったのですかねぇ」


 第1小隊長の小西が愚痴る。

 こいつは愚痴が多いが、仕事はしっかりしている。なんだかんだ言いながら統率もきちんとできるし軍令・命令は守るが臨機応変に対応できる。なんだか俺よりも才能あるんじゃねぇか?


 俺は背丈も横幅も膂力も普通だ。だが指揮官として優秀だと認められた。ド根性があると。雑草のようにたくましいと殿が言ってくれた。殿が決戦場に出る事は少なくなったが、出る時には「いつ寝てるんだ?」というくらいに皆に声を掛ける。なぜか全員の名前を言える。

 そして皆が「俺のことを知っている?」「こんな人の為なら死ねる!」と気張ってしまう。そうでない奴もいるが、それは表面上拗ねているだけだ。同じことが出来る大名がいるか?


 俺は大胡に生まれてよかった。粕川の畔で狭い畑を耕し麦や粟稗を食って生きてきた。俺の上には2人の兄貴がいた。下にいた弟は食えなくてちっこいまま死んでいった。下にできた妹は水に流した(注)。


 そんな地獄の中、大胡の殿さんが兵を集めるという。飯は腹一杯食えるという。働き手として1人いなくなるのは問題だが、土地が狭いんじゃあ意味がない。志願したさ。


 飯は食えたが、毎日地獄が待っていた。動けなくなるまで走ったかと思うと少し休んだのちまた走る、その内甲冑のようなもんを着て走ることになった。長い槍も使う訓練もした。弩弓も使えるようになった。


 なんでも普通ならば長柄は長柄の足軽。弓は弓兵。騎馬は武将。それぞれ別のもんがやるのだそうだ。だが大胡の兵はその全てが出来るように訓練した。

 勿論、指揮も統率なんかも理論はやった。使うときは無かったが。


 その多くが死んでいったが、残ったものは俺のように中隊長くらいにはなっているんだろう。俺ほどあっちへ行ったりこっちで戦ったりはしなかっただろうけどな。



 色々と働き過ぎたから、少しは休めという感じだったのか? この辺境守備隊の次席指揮官となった。

 600人の下仁田方面の守備隊はこの付近の地侍の威張っている奴がなったが所謂お飾りだ。


 と油断したのが悪かった。

 下仁田城に詰める200の兵の訓練と称して、俺たち前線の砦守備隊の指揮官の半数を集められてそこで拘束された。武田に内通したという。

 この御時世、よくあることだがこのような重要地点を旗色不鮮明な奴に指揮官を任せるのは、やはり大胡の人材不足の表れか?

 いや、これは俺の失態だ。それを考慮して油断しないように御目付としていた筈なのだから。


「すまん。俺の失態だ。むざむざ兵員の半数以上を敵に渡しちまった。188名残っただけでも御の字よ」


「で、その188名のうちに、俺も入っているんですかねぇ。あ~あ、お家へ帰りたい。帰ったら幼馴染に結婚を……」


「よせ! 殿の命令を忘れたか? それを言ってはならぬと。全軍に布告した筈」


 どういう意味であるか分からぬが、色々な言葉が禁句となっている。

「この戦争が終わったら、○○と結婚するんだ」

「ここは俺に任せて先へ進め!」

「崖の上で自分の罪を告白する」

「だ、大丈夫。少し休めば直ぐに元気になるから」


 訳が分からん。時には必要な言葉もあると思うのだがそれを言うなと。



 兎に角、ここは俺たちが死んでも渡らせん。

 それだけは言わせてもらうぜ。


 目の前に架かる粗末な木の橋。だがこの断崖絶壁を越えられる場所はここしかない。田口峠と内山峠から延びる合流地点だ。ここを通らねば下仁田から富岡国峰城を通り和田、那和へは向かえない。

 あの裏切り者の言葉が本当なら、既に和田と倉賀野まで武田に抑えられたという。

 それじゃ益々ここは通せねぇな。



 木の橋は残念ながら新品だ。俺が「すぐに落とせるように工夫するべきだ」と主張したが彼奴がそうさせなかった。その時から既に内応を決めていたのだろう。だからこの幅2間弱(3m程度)の釣り橋を守るしかねえ。釣っている綱は要所要所で鉄製だ。


 手槍を振り回すこともできねえな。突き合いか。あとは敵も100丁以上は鉄砲を持ってきているんだろうな。

 こちらは装備を殆ど回収されちまった。弩弓が何丁かあるが、矢盾なんぞない。こっちは小さい火薬樽が2つ。だが導火線も鉄砲もねえ。幸い樵小屋があったのでそこにあった斧が使えた。木を切り倒して何本もの障害物を作って銃弾除けにした。

 金具がないので鹿砦も作れねぇ。


 太刀が全員分あるだけましか。手槍は100本あまり。

 腰布を使って印地打ちの紐にする。

 後できることは無いか。


 ああ、そうだ。

 大事なことが2つ。

 下仁田城方面、東方の橋を落とした。こちらは改修前だったから容易に落とせた。こちらに鉤縄を掛けさせない工夫も必要だ。

 そして問題は兵糧。

 米と雑穀が2週間分。

 これが限界だ。

 水は渓流から何とでもなるが。

 今のうちに魚を取って干しておくか。



 斥候に出しておいた兵が戻ってくる。既に放棄した前線の砦まで武田主力は来ているようだ。ちょうど武田兵の居ない間に脱出できたのが奇跡的じゃあねえか。

 俺たちはついている!


 それを中隊としては少数の全員の前で宣言した。


「俺たち大胡国民軍は最後まで国民を守る!」

 と。







「上毛かるた」

 1947年に販売開始された、郷土の特色をカルタにしたものです。

「カルタ」ではないです。

 あくまでも「かるた」w

 ほぼ県内全小学校で行事が行われています。地区の子供育成会で熱血おじさんがいる所なんか凄い状態に

 唯一無関心なのは国立大学の附属小学校だったり。

 いやあ、あれ教えると結構時間ロスするから、研究施設としての附属小学校ではやれないよね。ところが上毛かるたの唯一研究していた教授が校長をやっていた時期がありw

 勿論、1級県民というのは冗談です。



「水子供養」


 何処の地域でも行っていたことですが、この辺りでは水沢観音という伊香保温泉そばのお寺が有名な水子供養寺です。何処にもそういったお寺があるのでしょうけど、平和な時代にならないとそれどころじゃないのでしょうね。



「いつ寝てるんだ」


 勿論、ナポレオンの逸話です。

 3~4時間しか眠らず、執務や戦場指揮を執っていたと有名。

 ですが‥‥実はたっぷりと「昼寝」を取っていたと言います。40代の人が4時間睡眠で数年間やれは体と精神を病みます。私みたいに(T_T)



「腹いっぱい飯が食える」


 戦争の原因は大抵、「食料不足」です。

 だから支那大陸では「治水」した人が王様。戦乱の際には「食料調達できた人」が天下を取るのですよね。

 で、今現在、その状況に陥りそうですよね? 穀物の値上がり。最近全く見ていませんがグレーンファンドなんかもう爆上げじゃないんでしょうかね。危険な時代となりました。日本もそろそろやばいですよ。



「故郷に帰ったら俺、○○と結婚するんだ」


 アニメやラノベをあまりお読みでない方へ注釈。

「死亡フラグ」といって、このセリフを言わせると必ずと言っていい程戦死をするというテンプレート(基本)があります。

 外のセリフも同じ^^;




「橋の上のホラティウス」


 今度は古典等に触れる機会が少なかった人向けの注釈


 この地上の全ての人々よ

 死は遅かれ早かれやって来る

 恐ろしく優勢な敵に立ち向かう以上に

 どんなより良い死があるだろうか

 祖先たちの遺灰と

 神々の神殿のために


 トーマス・バビントン・マコーリーが(古代ローマ詩歌集)のなかで、ローマを守った橋の上のホラティウスの物語として1842年に発表しました。


 これ言っちゃうと作品の先行きが見えちゃうような気もしますが、大事な資料的フレーバーテキストなので。


 古代ローマのお話を叙事詩にしたものです。

 ローマがエトルシア軍に攻め入られようとした時、彼は自分たちでエトルシア軍が来ないよう橋の上で足止めしている間に別の者たちに橋を落とさせるようにしようと他の若者たちに提案しますが、他の若者たちはエトルシア軍のことを考えると恐ろしくて誰も同意しません。そこで、ホラティウスは自分一人が足止めをするから、他の者は橋を落としてくれと頼みます。彼はたった一人で橋の上に立ってエトルシア軍に向かって「ローマの兵士と相対するのに十分な勇敢さを持つものはお前たちの中にいるか」と叫びます。エトルシア軍は槍で彼を突き刺そうとしますが、橋が邪魔になってホラティウスに届きません。そしてホラティウスはヒーローのようにエトルシア兵が狭い橋を渡ろうとするのを妨げ、二、三人の友人の助けもあり、ついに橋を落とすことに成功するのです。


 Yahoo!知恵袋から引用


 チャーチルを主人公とした映画で彼が地下鉄?バス?に乗っていた時、この詩を口ずさみます。すると一緒に乗っていた客がその詩の後を受け謡い始めます。それが大合唱となってチャーチルはヒトラーに対して徹底抗戦をする決意を新たにするというものでした。


 大野中隊長はそんな気はないけど、逆に大胡の面々がそっちへ走っちゃったというお話です。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ