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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★忍城泥沼だゾ★★
182/262

【忍城・5】ベトナムか?ここは。

 1976年8月15日:対人地雷禁止条約


「この条約は人道的に、もしくは事後処理の大変さから戦後復興の妨げとなる対人地雷を禁止する条約である。しかし対人地雷は非常に安価なコストで敵を食い止められるために今でも使用されている。

 特に弱者の戦術としてはコストパフォーマンスに優れており使用の根絶は難しいとみられている。

 戦国末期の大胡政賢が撒き菱の使用を禁止したように、戦後復興には大きな障害となろう。

 ただ地雷といっても多くの種類があり……」


 1559年4月下旬

 武蔵国忍城北方15町(1.5km)

 甘粕景持(柿崎景家と二枚看板の猛将だそうです。知恵もある)



 流石は御本城(みほんじょう)様。

 普通なれば左翼1000という少数。罠だと恐れ襲わぬものを、湿地の様子を聞き通路となる平地が多い故に包囲しに来ると見切った。そして儂の後備えに精強な兵を預けて、左翼後背に突出してきた敵を強襲する策を立てた。


 惜しむらくは敵の中央突破を許し左翼が壊乱した。これには中軍左翼が手当に向かっている。儂は兵1000を持って湿地へ逃げ込もうとしている約1000の騎馬を仕留める。

 北で降ったらしい雨により既に荒川と利根川は増水し、その水が周囲の湿地を泥土に変えている。もう騎馬では戦えぬ。鉄砲も実力を発揮できぬ。泥土上では連射は難しいと聞く。


 となれば長柄を持っている我らが有利。敵も手槍程度は持っていよう。だが大胡の竜騎兵と申したか、その甲冑は軽装だ。木っ端みじんにしてくれる!


「物見、帰って参りました!」


「通せ!」


 見つからぬよう背中の旗印を付けていない物見が膝をつき、息を整える間もなく報告する。


「前方3町で左右二股に通行可能な進路あり。敵は下馬してその双方に分かれ撤退中!」


 右は西に逃れる道を発見したか。南は……多分荒川の飛び込み忍城を目指すか。どちらを優先する?

 儂ならば西に多数の残兵を向かわせ被害を減らす。では殿軍(しんがり)はどうじゃ? 西の方が多いか? 


「道に残っていた馬蹄の数は?」


「はっ! 西が断然多く!」


 優秀な奴じゃ。大声で褒める。

 御本城さまの命は『損害少なく劇的な勝利を』とのこと。普通なれば無茶な命令であるがこの儂に託された。光栄じゃ。儂にならばできると。


 損害が少なく劇的。

 さすれば

「荒川で溺死させる!」

 これならば大胡に屈辱を与えられ、流言の種になろう。

「荒川に追い詰められた大胡兵が多数討ち取られて遠く江戸湾まで流れていった」と。


 南へ向かった兵は半数といまい。精々300というところか。最初の鉄砲を撃たせてしまえば怖くはない。突撃で仕留められる。

 西へは徒となった中軍の騎馬武者を向かわせる。その後詰として200は要るであろう。こちらから200手配。残り800で南へ逃げた敵を全滅させる。


 決まりだ。


「皆の者。南へ向かう! 大胡の兵どもの血で荒川を染めてやれ! 今後大胡の絹織物は赤色しか出来ぬであろうな!」


 皆の鬨の声が静まると遠くの川の音が大きく聞こえ始めた気がした。




 同日同刻 

 その3町南

 吾妻幸信



「第1分隊。両脇に大剣ぶっさせ(つきさせ)! その後ろで狙撃姿勢。ツーマンセル。5段構えだ。間隔は5間。撃ったら紐引っ張って逃げろ! 第2分隊もその右奥に散開」


 第1小隊に指示を出していく。いよいよ捨て奸(すてがまり)だ。


 既に第4中隊300は南へ逃がした。第1中隊の残り3小隊も罠を張った後西へ逃がした。

 逃がした部隊の資材は置いて行かせた。殊に大切なのは予備の長銃身の鉄砲。これが狙撃に使える。ここに残る第1小隊には全員に配れた。残り数丁は逃がした兵の中で一番の狙撃手に持たせた。網走だ。奴なら10人以上倒せるだろう。もしもの時の足止めが出来る。


 あとは殿が名付けた大剣がどれだけ実践で使えるかだ。殿、この命、預けたぜ。もっとも入隊した時から預けっぱなしだがな。








 吾妻幸信(なんだ結構、冷静沈着じゃん)



「敵。弓兵近づきます! 2町! 矢、来ます!」


 始まったな。弓兵を先頭に遠くから矢を射掛ける。当たり前だ。こちらは軽装だと《《思っている》》。

 まさか、品川の敗戦の経験を生かさないと思っているのか? 大胡も舐められたもんだぜ。殿の「ぴーでーしーえー」とかいう総括。あれで常に大胡は進化し続ける。


「第1分隊先頭に矢が集中! 無傷です!」


 当たり前だ。佐竹殿の鉄人隊と同じ重装甲を前面だけ臨時につけた。それも射撃姿勢で前面になる左脛と右太腿。両の二の腕を中心にだ。顔面と関節以外は殆ど覆われている。


「狙撃開始。敵1名死傷。勢いが削がれました。前進を指示した敵物頭の顔面に2射目的中。敵弓兵怯えています!」


 いい調子だ。

 このまま以前ならばこの2人は矢に襲われ重傷だ。だが今回は……


 どがが~ん!


 逃げる際に紐を引いたのだ。

 勢いを取り戻した敵兵が追い打ちをかける間合いを狙い、左右に突き刺してあった『大剣』が爆発した。周囲に猛煙を吐き出し、それと共に半円形に鉄玉が飛んだ。鉄玉の威力は少ない。だが「何かが飛んでくる」という恐怖は敵に恐慌状態をもたらした。



挿絵(By みてみん)




 その隙に難なく2名は逃げかえる。



 この『大剣』

 別に剣のような形はしていない。

 だが大剣を振り回したかのように半円形に敵をなぎ倒す「のを夢に見た」という殿の言葉から始まった兵器開発。

 またもや冬木様が酒場で皆に泣きついていた。良い知恵はないかと。


 指向性のある爆発で大量の鉄玉を飛ばす。やるとすれば喇叭状に広がった大筒で打ち出すしかない。だがそれでは持ち運びができない。殿に言わせれば「これは持ち運びできる地雷~」という事らしい。



 皆が困った。

 だがこれがあれば捨て奸が「捨て」ではなくなる。敵の意表を突く。また煙幕にもなるから撤退は遥かに容易となる。







 そこへ一緒に酒を飲んでいた水梨村の申仁という工夫が好きな「片方だけ鉄板付けたらどうだ? 反対側は錫箔みちょう(みたい)にすぐ破れるものつけてさぁ」とぐでんぐでんになって適当な事を言った。

 その途端に冬木様は飛び上がり良夫に飛びついて涙と涎をこすりつけた後、よろけながら研究所へ走って行った。

 あぶねえから見に行ったが一人でありあわせの材料で1号試作品を作っちまいやがった。


 翌日、青い顔をしながら足元に中の物をまき散らさないように桶を用意しつつも、殿の前で試作1号の試験を行った。


 2間程の長さの紐を勢いよく引っ張ると火打石が火花を散らし、発火薬と導火線、炸薬に火が付き猛煙が上がった。

 成功した。

 鉄玉は大した威力がなかったが、この猛煙が大事。それが今、実戦でモノを言っている。



 捨て奸は捨て石ではなくなったのだ。全員無傷。


「よしっ! 撤収。西へ逃げるぞ!」


 先程索敵に出した兵が見つけた、まだ通れる細い道を通って西へ兵を逃がしつつ、冬木様の青い顔に感謝した。


 その後この方式は、水梨申仁方式と呼ばれることになった。


 なぜかまた殿は腹を抱えて笑い続けていたが、まあいつものことだな。






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