【忍城・3】騎兵は奇兵ですね。奇襲強襲。でも損害が……
2015年11月19日:ヤホーオークション初出品
【軍事雑誌HQ創刊号:特集戦場の狐たち】
「状態:良い
廃刊となった日本軍事雑誌の草分け。多くのHQ高い系男児を生み出したことは有名。IQを高くする雑誌ではないことは確かと当時話題となった。
創刊号の特集は主に「大胡の狐」と呼ばれた東雲尚政と「砂漠の狐」と呼ばれたエルウィン・ロンメルとの相違を解説している……
このように同じ狐でも相当戦い方に違いがあったようである。前者の戦いぶりと後者の戦いぶりを解説した最初の雑誌である。
付録に付け髭セットと防塵ゴーグルが付いている。ゴーグルの方が高値かと思えば、意外に人気がなかったせいで付け髭がレアもののため高値が付いている……」
1559年4月下旬
武蔵国忍城北方半里
上杉政虎
騎馬というもの。扱いが難しい。
ここぞというときに「己が手を傷だらけにして」敵の息の根を止めるために騎馬隊を投入させる。その機を見失うこと、よくある。
この前の布施の戦いでは使えなんだ。だが富山の戦いでは騎馬にて敵の脇腹を突き抜け、大混乱に陥れ快勝した。
この機を逃さず一斉に攻勢に出る事、この程度の軍勢ならば容易い。これ以上大軍となると指示が行き届かぬうちに機を逃す。中軍3000。左右2000としたかったが左翼が布陣する所は湿地だ。所々通れるところがあるが、土地の者は雇えなんだ。
大胡はここに土地勘がある筈。むしろこの1000という小勢の左翼に食いついてくる綱渡りをするかもしれぬ。
この東雲という奴は切れる。
作戦自体は政賢が建てたのかもしれぬが、それを確実に実行できる才がある。今までの3度の大きな勲功を立てている。
赤石砦防衛戦。
館林攻防戦。
そして品川防衛戦。
いずれも敵を撃破している。
しかし。品川防衛戦では大きな損害を受けた。その原因は下馬した戦いだったからだ。逃げなかった。いや逃げられなかったからだ。その逃げなかった理由は逃げたら品川が陥落するぎりぎりの決断をしたから。
あっぱれではないか。
臨機応変。多分ではあるが竜騎兵とやらの活用は全部一任されていよう。そして創設から育成までを行い、その長所短所をすべて把握していよう。使うべきところを間違えなかった。
機を冷静に掴める良将よ。
此度は防衛戦ではなかろう。我が軍勢の侵攻を遅らせるだけと見た。わざわざ仕掛けてくるとも思えぬ。
忍城を囲んで見せ、それを遠くから見ているだけと思っていた。そして夜陰に紛れ陣を整え明朝に決戦して敗北させてやろうと思うたが先を越された。その前日に物見か? 南へ回り込んで大物見をしてきおった。中軍の最左翼が山を下りていたので伏兵として襲撃するように命じ、その間に包囲してくれようと思うたが、敵の本隊が邪魔をしてきた。足が速いと逃げ足も速い。失敗した。
此度は、どう出る?
大胡の狐。
誰かがそう呼んでいたが、成程、狐のような狡猾さ。これを捕えるのは誠に面白い。戦のし甲斐があるというもの。昨年の大味な一向宗相手の戦と違うて心が酔うわ!
さあどう出る?
儂を楽しませてくれ。
1559年4月下旬
武蔵国忍城北半里(2km)
第2大隊長新田義国
俺の先祖は新田義貞公だと親父が「言っていた」。そんなのあてにできるかい。どうせ家系図弄ったんだろうよ。
取り敢えず、つい10年前は国衆だった。しかしそれも大胡に吸収された。それより以前から俺は大胡の竜騎兵に参陣する格好で赤石砦の戦いに参加した。
面白かった。
戦とはこんなに面白いものか?
そう思った。爽快じゃねえか。敵の裏をかいて敵の弱点を急襲する。それが竜騎兵だ。あの地黄八幡の尻を思いっきり蹴飛ばしてやったのも爽快だった。
だが品川では多くの部下・同僚を失った。ま、世の常だ。戦で死者が出ぬ方がおかしい。竜騎兵といえども逃げられなければ大損害を被る。これは何度も確認したことだ。
そして。
今、このそこかしこに雨が降れば沼地に変わる泥濘の上で戦うこととなる。さっきは旅団長の元、忍城南方半里まで強行偵察を行った。冷や冷やもんだったが、いくつものしっかりとした道を確保しての進軍だったから包囲されずに済んだ。流石は旅団長だよ。
俺の第2大隊の後ろを見ると旅団長が馬上で酒をちびりちびりやっている。あれはどうやら戦の時だけらしい。家ではあまり飲まないという。戦で失った部下の事でも思っているのだろうか。
ああ。酒瓶をしまったな。水を浴びている。そろそろだ。
「状況開始! お楽しみはこれからだ!」
号令一下、後ろの第3大隊も指令が飛ぶ。うちもやってやるか。
「第2大隊! 傾注! 打ち合わせ通り、第2中隊が小隊銃列騎射4連の後左右に反転。その後ろに続く第1中隊第3中隊が騎馬突撃。第3中隊は拳銃にて長柄を撃破。第1中隊は敵後方まで突入後散開。敵方大将の首を狙え。首を狩ったら赤煙弾を発射する。逃げられたら黒煙弾だ。
逃げる機を間違えるな。敵隊列の穴は第4中隊で保持。退路を絶対に死守せよ!」
皆が頷きハンドサインで「承知」と反応する。
鐙は既に襲撃用の高さに調節した。足が長くない者でも馬の脇腹を支えることが出来る。これで両手を使い戦える。槍をぶん回すまではいかないが。長巻(注1)で徒の者を切り捨てるのは楽になった。
これで騎馬突撃の衝撃力が倍増しとなっただろう。
第2中隊が突撃を開始する。この中隊だけ馬の前面に簡易な矢を防げる鎧状の物を付けている。隊員も小さな盾で飛んでくる矢から身を防いでいる。
そして10間(20m)まで近づき徐に盾を鞍に懸けてから騎兵銃を射撃。各銃30個以上の小粒な鉛玉が敵兵を襲う。それが4射。勿論桶側胴は貫通できない。だがその多数の弾丸は半間(1m)程度の円に拡散する。それは言うまでもなく甲冑で覆われていない部分にいくつかは着弾するのだ。
これで立って引き続き戦える足軽がいるであろうか? 俺なら無理だな。戦の中、頭に血が上っていれば(注2)別であろうが、このように始まって間もない時にこれを喰らっては、痛みで転げまわっているであろう。
そんな敵兵を大量生産した第2中隊が左右に散開して追ってくる矢を交わしながら戻ってくる。左右に散るのも蛇行するのも飽きる程訓練している。
さあ次は第3中隊での拳銃突撃だ。初めての火打石銃実戦投入。無理はするなよ。不発だったら捨ててもよい。命を捨てるんじゃねえぞ。
注1)長巻
薙刀と似た形状の物。槍の補助兵器であるが、主に「斬る」ための武器であるそうな。この場合は敵の徒兵をその重量を生かし上から斬りつけるために使用されています。太刀だと届かないw
注2)血が上る状態
早い話がアドレナリンが放出されていると痛みもあまり感じないのです。