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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★札束で攻撃するゾ★★
148/262

【金山】金だけじゃないよ。お宝鉱山資源


 1557年2月下旬

 伊豆国湯ヶ島

 瀬川正則(オーバーワークを遥かに超えて活躍する超人! の金融経済大臣兼内務大臣ww)



 そろそろ鉱山奉行を設置せねばならんな。

 和田(高崎)の炭田と吾妻の鉄山、それに付け加えこの湯ヶ島の金山、更には今度足尾の銅山を開かねばならん。安中の亜鉛鉱山、沼田の錫鉱山も既に準備に取り掛かっている。とてもではないが私の体がもたない。

 内政官の失敗の帳尻合わせや全体の調整などだけで、もう限界なのに。


「掘削速度はどのくらいだ? なるべく早く金の精練を始めたい」


 現在、殿より『火急的速やかに金銀銅の在庫増やしてね。これせんそ~』と厳命されている。本格的に西国商人との経済戦争に突入するためには最重要な仕事だ。

 しかし今、その『西国商人』が目の前にいる。最重要な仕事を西国商人にさせている。


「はい。既に太い蔓(注1)を探り当てました。これから掘削に入ります。それから灰吹法をするわけですが……」


 博多の神屋と関係の深い金山師が説明を始める。

 神屋が大胡にすり寄ってきた。堺の連中よりはましかもしれんが一筋縄ではいかないのが商人という生き物だ。儲けるためなら何でもする。下手な人材に対応を任せるととんでもないことになる。


「灰吹法の精錬場所はしっかりと換気のできる設備を作り、作業する人足は交代制にせよ。そして流れ出た水銀は再利用できるようにすること。出てきた不純物は掘り終わった穴に捨てる。これは鉄則だ」


 このことは契約時に文書で確認したことではあるが、現場で確認せねば設備を適当に作り銭を懐に入れるやもしれぬ。全ては疑ってかからねばならぬ。


 金山師の説明を聞きながら殿と最初にお会いした時に使われていた複式簿記を使った帳簿を付ける。算盤があるとこういった時に便利だ。この『数字』という物には当初びっくりさせられた。『零』という概念があるお蔭で様々な計算が可能となった。これが無ければ今の大胡はなかったと言ってもよい。


 高等数学も、それに支えられた技術・製造・戦術・砲撃、殆ど全ての事に使われている。殿に言わせれば『これが大胡を守る、ばりあ』だそうだ。つまり技術を盗むためにはこの数学を学ばないとだめだという事だ。


 京の都で算数を教え始めたが、それとこの数学とは全く違う。複式簿記はまだしも、今度開始される『おぷしょん取引』のための計算、『ぶらっくしょおるず理論』(注2)という物は、私にもさっぱりわからない。

 あれは京から連れ帰った臨済宗元東班衆の2人が趣味の研究成果として発見したものだ。

 「基礎技術研究は道楽から生まれるんだね、やっぱ。そこにお金掛けなくちゃ未来はないよん」と仰られていたが、全く瓢箪から駒だ。日ノ本の未来も基礎技術を大事にしているのであろうな。


 あとは落盤防止の技術を確認して殿に報告。浸水時の排水器の改良余地をあとで冬木殿に確認しよう。

 私もだが冬木殿も過労で倒れる前に後進を育成せねばならぬが、後進と言っても私はまだ25なのだが……


 殆ど帰れない我が家で待っている冬に顔を見せねば、親父様にまたお小言を言われる。




 1557年3月上旬

 那和城松の間

 智円(真面に仕事をするときと趣味に没頭するときの顔の変化が見て見たい)



 専門部会なるものが作られた。

 その全てに殿が出られることは現実的に不可能であるため、政影殿が代理として出るか、某が出席するかして対応している。


 此度は、経済産業部門と金融財政部門との合同部会である。

 今回の議題は鉱山開発とその後の加工及び経済金融部門への影響を総合的に検討することだ。

 本来ならば大戦略にかかわることなので殿が参加なされる事が望ましいのであろうが、現在『とあること』で手が離せない。よって拙僧が代理として出席している。


「京の厩橋市長からは、既に相当の西国商人の探りが入っているようで即戦力の職人や手代と言った文字の読める者の中には怪しい奴が多いとの報告が。

 読み書き算盤を教える国民練習所にも新たな応募者の中には相当数が西国商人の息のかかっている者がいるとの事」


 そうであろうな。

 それを勘案しても意味のあることだと結論付けて開所した。

 国民国家をつくるためにはまず『国民の質』を高め『政治意識を高める』こと。これに尽きる。

 この練習所では必修科目として『国家と国民』という科目がある。この講習を1つ受けるごとに読み書き算盤のうち、1つの授業を受けられるようにしてある。

 いくら西国商人の息がかかっていようとも、この仕組みで意識改革を進めれば如何に現在の支配者が一般の民を苦しめているかわかることとなろう。


 更には大戦略である『国民国家の成立』と『良質な資本主義の確立』には人材が絶対に必要。文化の中心である京の都でその教育を始めるのは必然。

 その後、ここで育った生徒から教師を育てて大胡領以外へ派遣することも構想として挙がっている。


 『文化的侵略だよ。敵国にやられると危険』と仰る殿。それはそうであろう。教育を蝕まれた国に未来はない。絶対に守るべきは教育と神話だ。経済と宗教はその次。軍事はさらにその下にある。神話がなぜ重要かというと『その民族の共通意識』だからだそうだ。『無意識・潜在意識としての一体感とそれに基づいた共同体』である。


 これを蔑ろにするとその国の民の精神的拠り所がばらばらとなり、諍いの絶えない地域となる。日ノ本がなぜ今までばらばらにならなかったか。殿が語ってくれたこと。『主上がいるから』であると。


 まさに慧眼。どのような戦乱があろうとも再び国が一つとなるときには必ず主上、帝の権威が使われる。この帝の権威はつまるところ『日本の神話』であろう。故に絶対に守らねばならぬ。

 その上での仏教であり教育なのだ。故に神仏習合が行われる。


 文化も政治経済も皆同じ。これを載せる土台が最終的に神話であるとの見地。拙僧は物事の見方を大きく改めた。

 外交政策も練り直さねばならぬ。



「伊豆湯ヶ島の金採掘は来月から本格的な採掘に移れる模様です。確かなことは分かりませぬが、既に毎月銭にして500貫文程度の産出が見込めるとのこと。直ぐに1000貫文近くになる見込みと」


 これは凄い。

 年で10000貫文か。更に産出が増えればそれを原資に大胡札が大量に刷れる。一番心配されていた西国商人による大胡札の大量兌換(鉄に変えてくれ)取り付け騒ぎという攻撃に対して、ある程度の対策となろう。

 つまりそれをされた際に、兌換所の窓口から見えるところに金の地金を山積みにするのだ。鉄の代わりにこれと交換すると確約する。

 殿は『これでどうだぁ~。これきよの真似!』と仰っていた。「これきよ」とはなんなのであろうか。(注3)


 金の地金は恐れ多くも内裏の御蔵に安置させていただく。勿論必要な時は必要なだけ朝廷にお使い頂く。まさかそれを強奪する者はいまい。



「銅山の方は如何か?」


 拙僧は産業方面の担当、瀬川殿に質問する。


「銅鉱石からは金銀も灰吹法にて副産物として取れまするが、なんといっても真鍮の材料となることが大事。銅銭よりも遥かに長持ちする真鍮を早くつくらねばなりますまい。そろそろ鉄鉱石の生産量が追いつきませぬ。一般の鉄製品を出来る限り真鍮へ置き換えねば。大砲なども真鍮でできるとの事。

 そのための亜鉛精錬工法がようやっと成功いたした故、まずは銅銭を改鋳して新たなる銭を作る。また沼田で取れる事が判明した錫鉱石。これの精錬によって鉄にメッキが出来領になり申した。これにてトタンを作ることにより、『あれ』が出来まする」


 そうなのだ。

 トタンこそが重要。

 建物はおろか、兵器、道路、そして『缶詰』! この缶詰が日ノ本の輸出品になる。南蛮船は遥か彼方より航海してくるという。その際に一番問題となるのは水と食料だ。

 水についてはまだ手が及ばぬが、食料、殊に南蛮人の好む食肉を保存できる。今は塩漬けにして持ち運んでいる為、相当難儀しているようだ。この者たちへ缶詰にした牛馬の肉を売る。

 この缶詰の原理は先だって甲斐から帰ってきた永田生菊殿が考案したものだ。熱で細菌が死ぬために缶に詰めた食料を加熱することで腐敗が少なくなることを発見した。


 いつかは真似をされるであろうが、問題はその供給地が南蛮からすればこの遥か彼方に存在すること。つまり日ノ本への航海がより安全なものとなることだ。

 これにより南蛮との交易が急加速すると殿は見ている。



 この貨幣改鋳とトタン増産・缶詰の作業場を少しでも早くつくることが現在の課題であるとの結論を出して此度の会合は終わりを告げたのである。







注1:金の含有率の高い部分は蔦のように這って見える


注2:ブラックショールズ理論。オプション取引の数値を決める微分方程式の事。金融工学の基礎的で画期的な発明


注3:説明するのも風情がないけれど、戦前の金融恐慌での取り付け騒ぎの際に蔵相高橋是清が取った方法のこと




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