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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★札束で攻撃するゾ★★
147/262

【公界】金融のトリレンマ

ちょっとエピソードがずれました。

先の後半部分と合わせて1エピソードです。


無くなってしまったエピソード名は「楽市楽座よりもっと良い方法?」です。





 1557年正月

 山城国東山公界市

 香菜(張り切っている団子屋女将)



 ふぅ。

 初日は上々の客入りだったわ。

 収支は……赤字だけれど、これは許容範囲だと教わった。ここからが本番。今日来ていただいたお客がどれだけ噂を流してくれるかで勝負が決まる。


 お料理人さんと一緒に片付けと掃除をしてから戸締りをして今日の売り上げを両替屋さんに持って行く。

 銭が入っている袂が重い。両手にも袋を持っているけれど、こう重くては不便ね。銭が入るということは嬉しいけれど持ち運びが大変。

 大胡様が大胡札を早く普及させてくれればいいのに。あれなら持ち運びにも便利。当分この不便さは続くと言っていたわ。


 その時、右から男がぶつかってきた。思わず左右の銭袋を放り出し、腰をついて倒れる。スリ? いえ強盗!

 こんな時のために、と持たされている胸にかけていた呼子を思いっきり吹く。近くの巡査詰所から巡査が飛び出してくる。巡査は山伏が持っているような六尺棒を持っている。たちまちその男は取り押さえられる。


「おい。お前。この市の入り口の高札を見なかったのか? 説明も聞いたであろう。打ち首覚悟の犯行か?」


 男はぎょっとしたようで「本当かよ? 高々団子屋の銭だろう?」などとぶつくさ言っている。でも、この市の中じゃ、たとえ『一銭でも』盗んだら打ち首。喧嘩は百叩き。脅しは罰金か重労働。本当に厳しい。

 それを覚悟して入ってきたわけではないらしいけれど、もう遅いわね。『首取り大胡』様の噂を真に受けなかったのね。

 殿さまは、真面目な人が得をする世界を作りたいと常日頃から言われている、と市長様から聞かされている。

 そんな中で悪人が暮らせるわけがないじゃない。


 そんな人に構っている暇はないわ。早く家に帰って今後の見通しの確認と経理の勉強をしなくちゃ。もっともっと稼いで早く借金を返してお店を広げたいわ。そしてもっと多くの人に美味しいものを食べて休んでいってほしい。

 これが出来ると思ってこのお店を出した。きっとうまくいく。ここ公界市ならば!




 1557年2月中旬

 公界市

 近衛前久(お忍びが好きな変人関白)



 これはまた寂れてしまった京の町では見られない人の賑わい。まるで商いの町、堺の様じゃ。一度あそこには忍びで入ってみたが、活気があふれて物と銭が飛び交う風があった。しかしあの『大店通しの高額な取引』ではない『庶民の活気』をここには感じる。


 あの広場の見世物もそうじゃ。

 宮中の蹴鞠とは違った志向の蹴鞠が行われている。

 どうやら毬が地についてもよいらしい。蹴飛ばして相手の陣へ押し込めばよいようじゃ。これならば気楽に始められよう。童も楽しんでいる。

 

 河原者の出し物が多いな。

 能・狂言から始まり、大道芸・木地師の体験工房とか、これは彼奴の発想じゃな。

 この『ふっと猿』とかいうものも、多分秋の大会へ向けての景品狙いで練習する者向けの講習会などを開くのであろう。賭博もやるかもしれんな。そしてそこにも雇用を生み出す。日枝神社も巻き込んでの懐柔策じゃろう。


 そこかしこに『雇用を生み出す』つまり働くものを生み出す仕組みを見つけ出せる。これにより荒れ果てた京の街を活気に満ちた都に戻していく魂胆なのであろう。そしてそれにより民の支持を集める。

 その内に『京に大胡が来てくれんかな』という大胡待望論を起こさせるのが彼奴の目的であろうな。


 これは御上にお伝えすることが増えた。

 最近頓にやせ衰えた主上に、お気に入りの左中弁が都へ新風を巻き起こすさま、感じさせて差しあげたいのであるが……

 もはや……




 1557年2月中旬

 上野国和田証券取引所

 坂田屋甚八(ノリノリの日本経済を支配する男(仮))

 


「頭取ちゃぁ~ん。どう? 日本経済は? 順調に育っている? 西国も」


 大胡の殿、久しぶりの来所ですな。

 最近は外交や内政、そして軍備増強に忙しいようで経済の事は瀬川様と私を中心に、京公界市長の厩橋さんとのやり取りで決まっていく。

 一応瀬川様を通して大まかな報告はされているでしょうけれど、やはり現場の状況が大事。大胡の殿さまはよくわかっていらっしゃる。


「はい。目下の所東国経済はおよそ年計算で3割以上の経済発展がなされております。大胡札の刷り増しを考えておりますがこれが危険を伴い」


「3割! いいねいいねぇ。『じいでいぴい成長30ぱあせんと』達成! でもやっぱ鉄材不足?」


 そうなのだ。大胡札の担保となる鉄の生産が間に合わない。これ以上大胡札を増やせば『取り付け騒ぎ』には耐えられない。必ずや西国商人はこの仕組みの弱点を突いてくるに違いない。その時に備えて鉄の代わりの銭も用意してあるが、それもこの辺りが限界だ。


「やっぱ、本格的に銅生産するかなぁ。侵略戦争はやりたくないんだけど……『ぷろびんす』は完全掌握しないと効率悪いんです、はい」


 以前仰られていた、足尾の銅山の事ですね。そろそろ銭の鋳造をするべき時か。


「今、朝廷工作始めたんだけどね。うまく行けば貨幣鋳造の許可が下りると思うんだ。銅で銭を。金銀で高額硬貨を作ろうかと。そうすれば兌換紙幣の大胡札も増やせる。まあ改鋳しなくても金銀銅があればいけると思うけど『れえと』が大変で」


 『れえと』とは、銭と大胡札の間にも言える事。『1円』の大胡札が1貫の鉄と交換できるように定められているが、鉄の方の相場が日に日に変わる。だから大胡札と銭の間の『取引れえと』も刻々と変わるのです。

 現在その修正をするとともに、西国勢力に罠を張っている所です。


「大胡札の減価償却の期限はどのくらいがよさげ? これ大事。できれば1年後に使えなくしたいなぁ」


 難しい。

 大胡札の問題点はその減損です。紙でできているからすぐに破れたり文字が読めなくなります。だからすぐに取り換えなければなりません。これによる利点としては『早く手放させる』ことが可能となり、銭よりも流れが速くなります。

 しかし受け取りを嫌がる人が増えるのが問題。期限が違うとそれだけでも価値が変わります。

 この難問を現在解決しようとしているのです。


「現在、試験的に動かしている通貨先物相場ですが、実際に動かしてみないと実効性があるかどうかわかりません。前代未聞の仕組みですので、全く見当がつきません」


 殿さまの言葉では為替相場と『おぷしょん取引』というそうですが、3カ月か1年後に価値のなくなる大胡札に値段を付けてしまおうとしています。

 そうすればどの時期に手放すとどれだけの損得が出来ると計算できます。ただこれの問題点は『その取引自体が儲けの対象となり』市場に混乱を引き起こす可能性があります。


「やはり難しいね。市場の3原則。

 金融政策の自由

 資本取引の自由

 そして固定相場制

 このどれかは諦めなくちゃならない。

 政策は手放せないし資本主義目指しているから資本取引は自由でなくちゃ。

 残るは固定相場を諦めるしかない、シュン」


 どのみち変動相場にならざるを得ない。

 だったらここか京公界市の取引所にて決めてしまわねば、勝手に交換されて大混乱を招くことに。操作が可能なようにその市場を作ってしまえばよいとの考え。

 指標があればそれに合わせて大胡札の発行量を変化させるのだ。


「結局やって見ねば分かりませんね」


「見切り発車かぁ。怖いけど金銀銅の実弾を用意したらやって見よっか。兎に角、もくひょ~打倒悪徳金融資本主義! 大金持ちには金払いを良くしてもらいましょう!」


 1年で使えなくなる大胡札ならば使わないと損です。大金持ちが益々大金持ちにならない工夫もされたいとか。本当にできるとはなかなか思えないのですが。私たちが知恵をこらすしかないですね。


 どのくらいの金銀銅が必要になるか、概算で良いから教えてくれと言って殿は帰って行かれた。






楽市楽座の良い点は資本の集中で「その都市だけ」利益を上げられるわけです。都市はますます発展していき地方は寂れる。どこかで起きている現象ですねぇ。


資本取引の自由とギルド制(座)の廃止。

中小業者の勃興。

自由競争で資本化の増大

上層階級と下層階級の差が広がる

トラストなどが発生

財閥解体?

中小企業にばらされる。


……なんだか、空しくなってきますね。


江戸時代には楽市楽座が廃止されたのは「身分の固定化」の側面もあるわけですね。



1年で減損する紙幣。

これ何とかできないかなぁ。

物で蓄財されるだけかもしれないけど、減価償却財には税金があまりかからないとか……


でも税金って難しくし過ぎるとかえって金持ちに有利になるんですよね。会計士に任せておけばいいんだし。会計士は「節税の方法」たくさん知っているし。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 推敲 >絶対に守るべきは教育と神話だ。 >神話がなぜ重要かというと『その民族の共通意識』だからだそうだ。『無意識・潜在意識としての一体感とそれに基づいた共同体』である。 >帝の権威はつまる…
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