表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★北条なくなっちゃうゾ★★
128/262

【戦略】切取り・船取り・首以外も取る

今日は【自衛】というエピソードから掲載しています。


 1556年1月中旬

 武蔵国八王子城

 上泉秀胤(大勢の前では中々発言できない奥手な参謀)



「ぜえぜえ……と、とりあえずさ。忍城の事は置いておいて、他の戦略決めてから対応策決めていい? 僕もちょっと練り直さなくっちゃ。ご飯食べてから未の刻(午後2時くらい)にここ集合ね」


 その後、皆殿を囲んでがやがやと今までの事を聞くたびに

「なんと! あの宮川が公方の前で剣技を披露したとは!」

「天下の狩野派の御曹司がこちらへ参られるのか?」

「六角の奴腹、許すまじ!」

 など、大声で口々に感想を交わし合っていた。


 それが一段落すると、某は殿に奥の間に呼ばれ2人で話すこととなった。


「たねちゃんさ。君だったら最優先で叩くのはどこ? またその時期は? その理由は? 内政はどうする? その他の抑えは? 忌憚ない意見をどじょ~。ここには誰もいないから、ガンガン言っちゃってよ」


 殿はやはり某の奥手に配慮していただいているのか。

 どうにも大人数となると自分の意見が言えぬ。以前の円卓会議ならば殿の質問に即座に答えられるようになったが、今日のような評定では全く意見を言えなかった。


「たねちゃん、最近すごく良い意見出してくれるのにもったいない。だからね、次から僕の隣で小さい声でいいから伝えてね。僕が代わりにそれを皆に伝える。今度評定が再開されたら真っ先にそれを提案する。

 皆いい人だからたねちゃんの事を腰巾着だとか言わないよ。必要な時に言えるようになればいいよ。だんだんとだよ。段々と人は成長する方が良い結果が出る人のほうが多いよ」


 下を向いた自分の顔が赤くなっているのが分かる。情けなさに消え入りたいが、それもできぬ。大胡の掲げる理念を現実に変えるための一番重要な位置にいるのだ。頑張ろう。

 某は意を決し、了承の意を伝えた。




 同日未の刻

 智円(その内南蛮渡来の魔術とやらに興味を持つと思う外交占い師)



 先ほど殿が「たねちゃんは奥手で皆の前で発言できないから、戦略を練るときは僕の隣で耳打ち位の小さい声で僕に伝えるからね。皆の悪口じゃあないよ。段々と慣れるようにしようよ。皆もそうしてきたじゃない。最近、お仁王ちゃんも頭使ってくれるようになったし、僕もちょっとだけ、ちょっとだけね、体を鍛え始めたんだよ。一気に変えると反動来るから。徐々にね~」と皆に伝えた。


 確かに拙僧も何とかならぬかと感じていた。

 あれだけ優秀な人材を有効に活用できぬのは大胡の損失、いや天下の損失。拙僧も助力は惜しむまい。


「じゃあ、改めて皆の意見を聞きたいな。今は何処を最優先の敵国と認識するか。その勢力を如何に削り取るか。勿論元締めは堺だけどね。堺が操りたい大名などの勢力は何処で、大胡は何処をたたけばいいかな?」


 ……前線指揮官の後藤殿と是政殿には期待しないとして、幸綱殿や石堂殿から何か提案があるであろう。


「では儂からで宜しいか? まず一番厄介なのは利根川と江戸川から品川へ向かう輸送路。これが里見、もしくは古河公方に止められることかと思いまする。

 殿の御尽力により越後直江津から敦賀の湊を通り、坂本から京への道を確保でき申した。

 しかし清水峠を使い多くの物資を輸送することは困難でございます。故に上野国をこれ以上発展させるには利根川を利用するしか手はございませぬ。

 よってこれを手に入れるため、最優先で里見を叩くべきかと。せめて荒川までの武蔵南部を手に入れなくては相模ですら維持できませぬ」


 もっともな意見だ。

 では里見の戦略方針は何処を向いている?


「殿。里見は下野にどの程度関心が向いているか、これを探らねばなりませぬ。そしてこちらへの策謀。

 当主里見義堯は名だたる守旧派。それ故に古河公方を使っての策略がよく効くわけでございまするが、新しき世を作ろうとしている大胡に対しては大いなる脅威、敵対意識をもっておりましょう」


 拙僧の進言を殿は、ふむふむと頷きながら肘を脇息へ凭れ懸けながら聞いている。


「素ッ破の情報は某から。里見は江戸城近辺の武蔵国南部における仕置を終え、国衆への賦役・参陣を免除。あと1年は最低でも内政に注力せねばなりますまい。里見は民心が未だ北条へ向いている見て、頻りと親北条派の者をあぶり出そうとしておりまする。

 それに対し実際の民心は徐々に大胡へと向かいつつあり、里見の支配を受け付けない者がおります。国衆の中にも……」


 その時石堂殿の発言を遮るようにガバッと土下座をして声を上げた者がいた。

 太田殿だ。


「殿! 申し訳ござらぬ! 勝手働きを致しました! 我が太田一族、道灌の頃より江戸の支配を致しておりましたが、あの憎っくき北条氏綱によって奪われ申した。殿にお世話になる以前、なんとしても江戸城を取り返す算段をずっとずっとしてまいりました。

 そのこと、殿はご存じでございましょう。それ故、この資正に河越城を任せていただいたと思うております。しかしそれを聞きつけた江戸城周辺の国衆が幾人も忍んで面会を求めてきました故、密かに殿への取り成しを約束してしまい申した。条件によってはすぐさまにでも大胡へ恭順致すとの事」


 石堂殿は殿へ「知って居りました」というように視線を向ける。

 太田殿がご自身でおっしゃるのを待っていたらしい。


「そっか。すけっちは道灌公を檄尊敬しているからね。しょうがないよ。でも軍規は軍規だから。懲罰ね」


 皆が太田殿を見る。

 太田殿は既に覚悟が出来ているらしい。居ずまいを正し、殿の言葉を待っている。


「懲罰内容! 1年以内に里見から利根川以西を切り取って頂戴な。必要な資金は出すよ。でも軍備は出せない。使えるのは川越城の3000のみ。後は‥‥」


 太田殿がびっくりしつつも覚悟を決めるのが分かった。


「今回だけ! 3年間の猶予付きで国衆の領地安堵をします。でも3年後にまた身の振り方を決めてね。そのあたりの差配は任せます。上手にやってね~」


「殿! 一度許してしまうと、次から次へと領地を安堵せねばならなくなりませぬか? それはお考え直しを!」


 珍しく新田殿が反論をする。そのような性格には見えぬが、それだけ内政にとっては問題が起きるのであろう。

 そのとき、秀胤殿が殿に耳打ちする。


「うんうんそうだね。内政の事だけ見るとそうだね。だけどここが勝負どころだと思うんだ。里見も100万石、こっちと同等。でも外交では地政学的に向こうの方が有利。さらに制海権まで持っている。今一気に武蔵を取っちゃえば、形勢逆転。向こうは陸地伝いの侵攻が出来なくなる。利根川渡るの大変だから」


 きっと秀胤殿が助言されたのであろう。良い指摘だ。内政の問題は後にするべき時。目の前の今にも牙をむきそうな敵を放っておいて態勢を整えさせるには非常に危険だ。


「だからね。2つの事を同時に進行させるつもり。一つは房総水軍対策。船作っちゃいます! それから忍城そっこ~落としちゃお~!」


 皆がそれは無理だろうという顔をする。

 そこでもまた秀胤殿が耳打ち。


「忍城の方は賭けだね。水攻めって考えていたんだけど、里見の事があるからやめた~。その代わり使える火薬全部集めて全砲兵部隊の総合火力演習を行います! 目標! 忍城! ファイエル!」


 勿論、後藤殿をはじめとした前線指揮官が猛烈に反対するが殿は押し切る。


「硝石が足りないのだから、奪えばいいじゃない! という事で南蛮船を直江津に呼ぶの諦めた。いしどーちゃん。第2作戦に変更。倭寇と結託して船ごと奪って三浦の三崎城へ持ってきちゃって~♪ ぶんちゃん、特殊部隊派遣よろ~」


 既にこのことを考えて、上洛時にこのことをお考えになっていたか。拙僧に内緒という事は、反対されると分かりきっているからか。致し方ない。それで多くの人命が助かるならば。

 ……だが、忍城に立て籠る者どもはどうなるのであろう? また日ノ本が海賊として知れ渡るのも殿は考慮に入れているのであろうか? そのことをお伝えした。


「みんな、考えてみてよ。南蛮人はなぜ日ノ本を始め世界中へ船に乗って出かけるの? 勿論、金稼ぎではあるけれども、宣教師というのが宗教広めるために来ているんだよね。「神は唯一なり。改宗すれば人として認めてやろう!」という人ですよ。その坊さんと適当に付き合って利益だけもらい受ける事すればどうなると思う? 絶対に侵略してくるよ。精神的に。

 でもね。そういう南蛮人だけではないと思うんだよね。宗教関係ない。金儲けだけしたい、という人たち。そういった人とお付き合いすればいいじゃない。

 日ノ本は天照大神とその子孫である帝の上に別の存在を置いてしまえば、統一できなくなるよ。大和民族ばらばらだと一気に南蛮に侵略される。だから早めに水軍、いや海軍作る!」


 皆、あっけに取られている。

 毎度のことながら、殿のなんと先読み為されていること、びっくりさせられるばかり。

 確かに心を侵略されるのは非常に厄介。それは拙僧のような宗教に携わる者にとっては十分に理解できる。

 だから今、南蛮船を手に入れ、それに対抗できうる船の建造と、その訓練をするという事か。


 納得するとともに、これは宗教的に自衛のための方策を改めて考えねばならぬと思った。



「まあ、半ば私情なんだけどね~。目指せ! 英国海軍!!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ