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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★北条氏康君の最後だゾ★★
118/262

梨花




 1556年1月9日巳の刻(午前10時)

 武蔵国品川湊北大手門

 冬木梨花(戦場に咲く花。20歳♀)



 大手門の補強で外には土嚢が重ねてある、いや「あった」。

 門は観音開きで外へ向かって開くから、門の前には土嚢が2つ重ねで(おも)しとしていた。それが既に除けられている。あとは閂と蝶番の強度頼りとなっている。破城槌を寄せ付けないように数少ない火薬を使い鉄砲が火を噴いている。

 この2つはなんとしても守らねば。


 「こんくりいと」でできたこの3間の高さを持つ櫓から断続的に射撃をするけれど弩弓での反撃を受け、味方の兵は次第にその数を減らしている。


 徐々に北側に配備されていた兵が集まってくる。だけれどその数は少ない。その訳を聞くとやはり業政様の仇を討つと東へ向かうものが多かったとのこと。

 もはやこの大手門左右の櫓2つだけに残兵は集中している。大手門を中から開けられないように下で陣取っているのは政綱様。100程に撃ち減らされた総予備を弟の昌輝様より引継ぎ、矢盾を立てて今にでも押し寄せてくるであろう搦め手から侵入した武田の兵の攻撃に備えている。

 激突はもうすぐだ。


「もう落とすものがございません! 鉄砲の弾・火薬も残りわずか!」


「いや~。これはしんどいね」


 昌輝様が弱音を吐く。

 そんな言葉を兵に聞かせるなんて!


「でもさ、これ凌いで品川守り切ったら、俺たちって偉くね? きっと皆手放しで喜ぶね。女子にすり寄られて困り放題! だから生き延びよう!!」


 なんだか殿のような言いぐさ。

 少し下品だけれど、大胡の兵はその様な言葉で士気を保つのに慣れている。少し皆に笑顔が戻る。


「ちょっと数人でさ。防壁の上にある武田が投げてきた鉤縄集めて来て。何かに使えると思うんで」


 何に使うか聞きたかったけれど、門の外と中で動きがあった。

 攻勢が始まった。いよいよか。

 腹を決めましょう。

 砥石城の時と同じ。粘って粘って粘り抜く。

 そうすればあの……村上ではなく大胡の緑の狐様が助けてくれる。



「政輝! 梨花! 上は頼む。ここは通さぬ。逐一外の状況を知らせてくれ」


 目の前に迫って来た敵を見据えたまま政綱様が大声で叫ぶ。

 ?

 梨花? 私の名前を呼んだ? 冬木ではなく?

 村上でもなく冬木でもなく、梨花と。

 

 嬉しさがと開放感が込み上げてくる。

 ああ、初めて私個人を見てくれる人に出会えた。

 それがこんなにもうれしいとは!!

 心が弾み、解放された体が何時でも全力で動くことが出来そう。


「兄貴。無茶すんじゃねえぞ、できるだけ長く持たせるんだ。いつもの様に先走るなよ」


 政輝様が政綱様に注意を促す。

 本当に良い組み合わせの御兄弟。

 同じ隊を一緒に率いれば相当強い部隊が出来そう。

 きっと殿は見抜くでしょうけれど、無事この戦闘が終われば上奏しましょう。


 下で弓合わせが終わり、武田兵が突っ込んでくる。

 政綱様は槍が得手。次から次へと足軽を屠っていく。

 見るに見かねた相手の先手を指揮する武者が前に出て相手をするも、ほぼ2合で退ける。槍をいなしてからの突きで勝負が決まる。

 しかし今度は人の数で押し込む作戦に出てきた。押され始める。

 全てのお味方が槍を前方へ向け必死に戦っている。


 その時、すぐ近くにいた大胡兵がそこいらに落ちていた縄を城壁に結び、それを両手に掴み勢いよく壁内向けて跳んだ!?

 その小柄な体は途中で綱に引っ張られ振り子のように大手門にぶつかる……いや止まったらしい。

 下を見ると両足で大手門にぶつかるのを防ぎ、素早く閂を上げ始めた!

 あれは1人では上げられないけど、周りから2人の兵が近づいて3人で閂を外そうとしている。


 下にいる兵は防戦に手いっぱい。

 上の兵は外から登ってくる敵を振り落とすのに手いっぱい。

 どうすれば?


「政輝様。ここの指揮はお任せします。下へ行きます。大手門が危ない!」


 急がねば。

 周りを見ると鉤縄がいくつかある。先ほど集めていたものだ。

 括り付けている暇はない。

 屋根の梁に鉤を引っかけ、先の兵と同じように後ろへ跳ぶ。

 

 コワイ


 でも怖いのはひと時。すぐに頭は戦いへ切り替えられる。

 ガクン、と綱に引っ張られる。

 そして体が勢いよく大手門へ。

 正面に大手門と内応者であろう敵兵3人が見える。

 真ん中の敵へ体ごとぶつかり、息が詰まるけれど一人倒す。


 急いで立ち上がり腰の後ろに付けていた銃を両手で外し撃鉄を歯で噛んで上げ、左右両方の男を同時に銃撃する。

 引き金が落ちると同時に「火打石」が鋼鉄にぶつかり火花を散らし、その火が火皿に着火。発射薬の発火によって1匁弾が敵の顔と首にめり込む。


 火花がちゃんと火薬に火をつけたのは偶然?

 この試作品、拳銃という。火縄ではなく火打石を使う。

「ふりんとろっく」というらしい。

 まだまだ火花が上手く散らないそうだ。

 日ノ本の石では無理であろうと義父様が仰っていた。

 義父様、貴方の愛が私の命を助けてくださいました。今度、そう伝えよう。


 足元に殺気を感じた。

 後ろへ跳び殺気から逃れようとしたけれど、脛に激痛が走る。

 斬られた。

 あの体をぶつけて倒した敵か?

 身構えるも足が踏ん張れない。


 敵は小柄。私は5尺3寸(159cm)。

 それよりも一回り小さい。

 低い姿勢で身構えている。

 石堂様と修験者の方から教わったこと。

 それは格闘の時は体を低くし、決して跳ばないこと。

 跳んだらおしまい。着地の地点は変えられない。敵に読まれてそこを斬られる。


 私も姿勢を低くする。

 足が痛い。でもそれも緊張からか気にならなくなる。

 右手の拳銃を敵に放り投げ牽制。

 敵が左へ動く。

 斬られた左足の方から回り込み襲う気だ。


 右手で左胸に下向きで括り付けられている疋田刀を抜く。

 両刃で刃渡り6寸(18cm)の特注だ。

 敵は長期戦が出来ない状況。

 気が散ったほうが負け。一瞬で勝負が決まるだろう。


 !

 2人の敵らしき者が閂を開けようとしている。

 大声で助けを呼ぶ。


「大手門危険! 大至急。誰か援護を!」


 当たり前だけど隙が生まれる。

 そこへ大きく左から回り込んだ敵が踏み込んできて左腕を突いてくる。

 ギリギリで躱し左手に持っていた残りの拳銃を相手の顔目掛けて投げる。

 怯んだ隙を衝き、右足を踏み込み敵の右腕を薙ぐ。



 敵にも焦りが出てきたか。

 顔の下半分を覆っていた布がずり落ちてきた。


 女か!

 女というよりも少女に近い。


 周りがざわつく。

 少女は逃走に移る。

 逃がさない。

 咄嗟に右肩から下げている「参謀憲章」を引きちぎって伸ばし、敵の足に投げ絡ませる。

 もんどりうって転がった少女に駆け寄り、当て身をくらわして大手門を見る。



 ああ。

 開いてしまった。

 もう町への道、遮るものはない。







 すみません。

 大砲の大きさが間違えていました(*ノωノ)


 3欣砲=12ポンド(フリゲート艦の主砲程度)と書いていましたが、訂正。

 1欣半で12ポンド砲(コルベット艦程度)が現在の大胡主力砲です。

 那波の固定カロネード砲は3欣36ポンド砲(戦列艦や重フリゲート艦の船首船尾についている対人砲程度)です。

 最初に出現した電撃戦時の大筒は4ポンド砲程度で商船の自衛砲(旋回砲で海賊の接弦乗り移りを防止する対人用)程度です。


 どこに書いたかわからなくなったので、全部訂正できていません(^▽^;)

 ご勘弁を。


 梨花の使っていた1匁弾は殆ど護身用。現代でいえば22口径。

 普通の火縄銃は、練習用が2匁、主力の装備品が3匁、最新装備の4匁は現在火薬不足にて使っていません(^▽^;)

 この梨花のトゥーハンド(二丁拳銃)シーンが書きたくてフリントロック拳銃出しました! ははは。レヴィじゃないよ。顔と表情が全く違う。



 ちなみに18世紀末の軽フリゲートには大体12ポンド。

 一般的なフリゲートは18ポンド×28~32門。

 重フリゲート(フランスやアメリカ)には24ポンドなんかを主砲に、その他36ポンドカロネード砲を8~10門ほど積んでいたようです。ネルソン提督の旗艦ビクトリー号のカロネード砲なんかは64ポンドの化け物。

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