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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★北条氏康君の最後だゾ★★
105/262

仕寄


 1556年1月7日巳の刻(午前9時)

 武蔵国品川湊前東方2町

 保科正俊



 厄介な造りだな。

 この品川の周りを囲んでいる防壁。赤色の四角い焼き物か? これを積み重ねて1間半程(3m)の高さの壁にしている。その所々に矢狭間らしき 隙間が空いて居る。

 ちょうど鉄砲を中から撃つのによい高さだな。これはたまらぬ。


 北条と大胡との戦の折、強風で鉄砲が使えなかったとの噂も聞く。さすればこちらの有利かと思っていたが、このような短期間でここまで多くの狭間を持つ壁を作るとは思いもよらなんだ。多分あの赤い四角の焼き物も普通の土塀よりも防御力が強いに違いない。それともこの辺りに土塁にできる土がなかったせいか? それでも防壁を作ってしまう大胡の力に恐れを感じた。


 そしてあの搦め手門の左右にある3間もの高さの矢倉は、壁がのっぺりとしていてまずは素手にて登ること能わぬ。梯子も長柄以上の長さの物を用意できなければまったく歯が立たぬ。

 幸いにも三ツ者の知らせにて3間半の長さを持つ梯子も用意できた。これを懸ければ何とかなろう。鉤縄も数多く用意してある。


 問題は左右の壁のでっぱりから弓鉄砲で狙い撃たれること。これを何とかせねばならぬ。城攻めと違い上から狙われる恐れがないのが救いじゃ。


 大胡の手口が分かって以来、弩弓の製造にも力を入れてきた。仕寄りの際には矢盾の陰に隠れ、弩弓を狭間に狙いをつけたままで居れば鉄砲の射手を倒せるじゃろう。


 信繁様の判断次第じゃが、内応がないと相当な損害が出る事を覚悟せねばならぬ。儂は手の者の表情を見た。よし! 大丈夫じゃ。怯えている者はおらぬ。内応がなくとも行けるであろう。

 城攻めに長けた武田の力、思い知るが良い!





 同刻

 武田信繁



「内応の方、繋ぎは付かぬか」


 勘助に確認を取る。

 無駄だとは思うが聞かずにはおれぬ。ここまで防備が固いと我攻めは大きな損害が出よう。武田は国衆の結束が固いものとなっている。元々、父信虎の代までは実質上武田は甲斐の国衆の代表という地位でしかなかった。それをここまで結束させたのは兄晴信だ。

 兄者はそれに心血を注いできた。砥石崩れなどでも最後まで陣を退かなかったのも、威信を保つためであった。そんな国衆をここで大量に死なせてその努力を無駄にさせるわけにはいかぬ。

 また一からやり直しであればよい。だが真っ新な所からのやり直しでは新羅三郎様に申し訳が立たぬ。既に大胡の策謀にかかり多額の借財を負い、国衆にもその影響が出ている。甲斐信濃の国衆も借財が出来ぬのだ。だからこの出陣も持ち出しはきつかったはず。尚更損害は最小に抑えねば。


「まだでございまする。相当な防諜が為されております。素ッ破の壁が厚い様子」

 

 勘助は表情の読み取れぬ顔でそう言った。


「一番助かるのは壁を壊す事。次に兵の内応。あとは毒と……」


「火薬蔵の爆破でございまするな」


 儂の独り言に追随した勘助の言葉に軽く頷くと、更にあてにはできぬものの「その者ら」の名前を口に出した。


「伊賀者はどうじゃ。使えそうか? 」


「腕は確かにございまする。が、果たしてどこまで本気で戦いますことやら……」


 伊賀者は基本的に傭兵じゃ。一つの戦毎に雇う必要がある。此度は銭を前渡しできなかった。またもや堺の奴腹に銭を出させることになった。この信用度が問題じゃな。武田の信用が落ちている。既に10万貫文の借財の噂が流れ始めておる。伊賀者が此度の戦、手を抜くやもしれぬ。


「伊賀者の働き、無いものとして作戦を立てる。まずは大手門に仕寄る。陽動になるように派手に攻めさせよ。矢はいくらでも使うてよい。火矢も射掛けよ。飛砲は用意できたか? 」


 昨夜から組み立てていた飛砲。8基用意した。じゃが直ぐに潰されよう。大胡は数門の大筒を備えている。いくら鉄張りの矢盾で囲うてもそう長くはもつまい。陽動になればよい。


 その間にできるだけ搦め手門の矢盾を進める。城壁の5間程まで近づければ被害を相当減らせるであろう。後は弩弓で近距離から狭間をけん制しつつ壁を登るまでよ。


 大胡に隠し玉がなければこれで行けよう。あったとしても臨機応変は儂の得意じゃ。勝って見せようぞ。




 同刻品川北西3町

 馬場信春



 大手門1町の所を、内藤殿の備え700が矢盾と竹筒を押し出して仕寄っていく。既に鉄砲の射程に入り弾が雷雨の様に兵たちを襲う。が、幸いにもあまり被害は出ていない。1町では鉄張りの矢盾は貫けぬと見える。弾けつつある竹束はどこまで持つか、それはわからぬ。

 たまに左右の矢倉に備えられている大筒から、大きな音を立てて矢盾の近くに弾が飛んでくる。しかしまだ当たったものはない。大胡と言えどもまだ大筒をうまく扱えていないのであろう。


 それが分かればこちらも動きやすい。そろそろ飛砲を前進させる頃合いか。


「皆の者! まだまだ大胡は大筒に慣れておらんと見える! 当たることは少ないと見た。安心して飛砲を押し出せ! それでも矢盾を移動する者は当たることは覚悟せよ。早く固定位置につけば危険は去る! 急げよ! 」


 大手門から約2町の所まで飛砲を前進させ矢盾と共に地面に杭を打ち固定する。その後必要最小限の物だけ残し移動・固定を終えたものから順に安全な所まで退かせる。この飛砲は囮よ。最小限の攻撃しかせぬ。


 矢盾にとって恐ろしい大砲をこちらへ向けさせ、内藤殿の仕寄りを容易にするだけの役割。大体攻撃を続けるほどの石や火薬など用意できぬ。砂洲と堅い地面が中心の地形、石を掘り起こす手間が掛かり過ぎじゃ。


 内藤殿の仕寄りが10間まで近づいた。鉄砲の被害が出始めるがこちらも弩弓で狭間を狙い撃ちできるようになり、敵方に被害を与えられるようになった。

 よし、計画通りじゃ。

 これを続け、相手を揺さぶり敵の予備をこちらへ向けさせるだけで儂らの仕事は終わる。


 保科殿、あとは槍働き、任せ申した。




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