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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★北条氏康君の最後だゾ★★
100/262

品川・2

 1555年12月下旬

 武蔵国江戸城

 里見義堯



 ようやっと今月上旬に武蔵南部と下総西部の新たな領国における国衆への領地安堵が終わった。この江戸城に入り、儂自ら差配してようやく全ての国衆への安堵書発行と領地の諍い調停ができた。これがしっかりしない内はいくら銭兵糧があろうとも兵を動員できぬ。


 大胡は武蔵国衆を殲滅した。こうなるともう意図的じゃな。戦場に出た国衆当主、主力の士分がいなくなったため領地の支配が非常に困難となった。当分新しき領地は使い物にならぬな。年貢上納と戦への軍の参陣免除をせねばならぬ。


 折角100万石近い大大名となったのにもかかわらず、後先考えなければ別だが普通に動員できる実際の兵数は1万と少々が限界だな。

 ひどいことをするものだ。武蔵の国衆の恨みを買ったな、大胡殿。


 先日届いた武田からの文を思い出す。

 武田も30万石以上の新領地を獲得したが、儂の所と同じで新領地が当分お荷物だな。それでも「今を置いて他日はない」と、大胡追討の兵を起こそうと誘ってきた。

 今川も兵を出すという。まあ今川は戦わぬだろうがな。

 西の三河が安定していないばかりか、その西で敵対している織田が尾張を統一した。そちらへの手当てをしながらとなると、兵は3000程度しか出せないだろう。


 大体領地を取れる場所がないではないか?

 形ばかりだな。

 黒衣の宰相・太原雪斎もくたばったから、戦力は大したことない。

 

 古河公方はまた日和見だろう。相当な額の(まいない)が大胡から寄せられているらしい。

 ホクホクだろうが、あいつは軍や領国に使わず文化や寺社への喜捨に使ってしまう。真に戦乱の世には向かない大名だな。


 そのおかげで関宿を抑えることはできない。大胡の生命線は利根川から江戸湾、相模湾から畿内への海上交通だ。利根川河口から伊豆までは、房総水軍の縄張りだ。

 大胡の生殺与奪は儂が握っているといってもよい。


 そこで大胡と敵対している西国商人、殊に堺の会合衆から1万貫文もの矢銭の提供を打診してきた。これをもって大胡を武田と共に討ってくれと言う。最低でも浦賀水道封鎖をしてほしいと。


 まあ東国商人と縁を切るとなれば1万貫文でも少ないからな。里見の必要とする物の殆どは東国商人から仕入れている。これが無くなれば一大事、それを西国商人が全て賄えるとは思えぬ。

 東国商人は大胡の言いなり。米の輸送は西国からも陸奥からも途絶える。里見は半年も持たずに干上がる。


 だがこの新領地を慰撫するのに銭がかかる時、1万貫文は喉から手が出るほど欲しい。ここは形ばかり水軍を出し、裏で大胡と誼を結ぶか。

 少々儂の名声に傷がつくかもしれぬが、領国が安定するまでだ。そうすれば100万石を十分生かした外交戦略が取れる。あの木偶人形の古河公方を抑えれば坂東の雄となれるであろう。そうすれば少しの名声などすぐに取り返せる。


 いつの間にか膝を叩き続けていた扇子を開いてそこに書かれている「正五」の文字を見つめた。世の秩序を鎌倉殿の時代へ戻す事。北条や大胡の様な時代の破壊者には、とことん敵対してやる。

 だが、今はその時ではない。


 側仕えを呼び、文を書くため祐筆を呼びに行かせた。文は大胡と越後の長尾殿に出そう。

 儂がこいつらを操ってやる。






 1555年12月下旬

 相模国北部津久井城

 武田晴信



 貧すれば鈍す……か。

 莫大な借財をしたために戦略の自由を失ったわ。堺の会合衆に良いように使われるとは新羅三郎義光様から続く名門武田の名折れ。これも全て大胡の策に嵌った儂の不明よ。

 

 徳政を名分として借財を無かったものにしようとしたら、各地の大名・豪商が否を言うてきた。

 「自分の不始末を他の大名商人に押し付けるな。儂らを巻き込むな」と。

 何時かは大胡も堺も打擲(ちょうちゃく)してくれる。


 まずは大胡じゃ。

 堺から益々の矢銭と兵糧、鉄砲煙硝を借り受け(これは必ずや返さぬ策を取ってやるわ)、この1年兵を養った。新しき領地は手の施しようもない程に国衆が疲弊しており、幼き当主や年老いた隠居に跡を継がせ、その領地を安堵させたが己の収入すら覚束(おぼつか)ぬであろう。

 逃散がなし崩しに起きておる。その殆どが大胡を目指しているらしい。


 早く大胡に一度でもよいから一敗させねばならぬ。

 一敗地に(まみ)れさせなくともよい。一地域での部分的な勝利でよいのだ。常勝の伝説が出来つつある大胡の名声に傷を付けねば更なる逃散が起きる。

 下手をすれば佐久を始めとした信濃からも逃散が起きるやもしれぬ。


 今、品川を囲い年始にも攻城する。その陽動としてこれから武田本隊6000が河越へ向かう。里見が堺の要請に応え、武蔵東部から出兵すれれば1万を越えよう。

 しかし陽動だけならば6000だけでも可能よ。景虎にやったようにのらりくらりと時間を過ごす事、容易いであろう。


 大胡は品川がどうしても欲しいと見える。

 我が武田もようやっと海を手に入れた。が、軍船の湊に都合の良い三崎周辺の城は交易には適さぬ。他に交易に使える大きな湊はない。武田にとっても何より欲しい湊じゃ。里見との約定は堺が動き古河公方を通して穏便に侵攻の権利を得た。


 踊らされるのは何とも悔しいが、品川を手に入れればその収入で堺への返済に当てられる。それに大胡の輸送路の喉元を締め付けることが出来る。ここはなんとしても落とさねばならぬ。


 品川には信繁を旗頭として(内藤)昌豊・(馬場)信春ら、4000を送った。

 草の調べでは大胡兵800、法華衆徒の兵200、風魔の残党100から200が詰めている。法華衆徒には身延山から内応の指示を送ってもらっている。

 大胡は既に品川の周りを僅か半年で堅固な要害として作り変えているとの草からの知らせ。更に北条を叩きのめした鉄砲を数多く取り揃えているであろう。


 問題はどれ程の内応者が出るか、そしてそれが兵なのか町民なのか、将又間者のように訓練された者なのか? そこで品川の運命は決まろう。

 逃げ場はない。房総水軍の勢力圏は広い。利根川河口まで逃げおおせる事、能わぬなら全滅させることは出来る!!

 大胡兵800、生き残りは全て黒川金山送りにしてくれよう!!





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