第十一話 冒険者ギルド
委員長=北上結良の食前酒を取り上げ飲んでしまったら、怒り出さずに泣き出してしまった。途方に暮れていると、ウェイトレスのお姉さんが委員長に食前酒のお代わりを持ってきて何とか収まる。ウェイトレスのお姉さんはどや顔を決めるが、あんたのせいだ。
色々と納得できないものは有るが、料理に手をつける。オードブルは薄くスライスされ、緑色のソースが掛かった何かの肉。レタスの様な野菜が添えてある。塩味の肉に甘い緑色のソースがマッチしてとても美味しい。そして、スープは口を付けるとあっという間に無くなった。旨すぎだ。飲みきるまでスプーンを持つ手が止まらなかった。薬効が高いと言うのも本当だろう。委員長のお酒を、半分一気飲みしたせいでボーっとしていた頭もスッキリした。食前酒の度数が高いのはこのスープが有るからだろう。
咲良ちゃんもスープの美味しさに驚いた様子だった。とろけるような笑顔を浮かべ、スプーンを往復させる。最後は籠に盛ってあったロールパンで皿を拭うようにして、一滴も残さなかった。
委員長を見ると料理には手をつけず、お酒だけをちびちび飲んでニマニマしている。
「委員長。スープ飲まないならもらうけど」
「ふーん。それじゃ、アーーーン」
そう言って委員長はスープを入れたスプーンを僕の口元に突き出してきた。酔っているせいか手がふらふらしている。こぼれたら勿体ないので、僕はパクっとくわえてスープを飲み込んだ。やっぱり美味い。
「へーっ、私でもいいんだ。変態、女ったらし、もうあげない」
訳の分からない事を言いながら委員長はスープを飲みだした。その後は、僕や咲良ちゃんと同じ。皿が空になるまで一気に飲み切った。スープの薬効が効いたのか酔いが冷めていくようだ。
最後の一さじを口に運んだ後、スプーンを持った手を凝視して委員長は固まってしまった。酔って赤くなっていた顔が白くなり、青くなり、再び真っ赤になった。しばらくの硬直の後、委員長は僕の顔とスプーンの間で視線を往復させる。委員長の首が左右に勢いよく振られ、三つ編みにした髪が二本の鞭のように激しく宙を舞う。
「私…。イヤーーッ!」
絶叫と共に委員長は頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
逃げ去ろうとした委員長の肩を咲良ちゃんが掴む。そして委員長の顔を他の席に向けさせる。そこには席を立とうとするアナスタシアさんがいた。委員長は悲壮な決意を顔に浮かべ、元の席に腰を落とす。アナスタシアさんも悔しそうな顔をして腰を落とした。
「酔ってたんだからね」
「うん、うん」
「お酒だと思ってなかったんだから」
「うん、うん」
「うーっ、これで勝ったと思わないでね」
頷いていただけなのに、睨まれてしまった。
川魚のフライの後、メインの肉料理とサラダが出された。肉料理は馬ウサギの肉と笑いキノコの薄切りを焼いて重ねた物に茶色いソースをかけたものだ。笑いキノコは、毒キノコではなく採ろうとすると笑い声を上げながら走って逃げるキノコらしい。
最後に出されたフルーツ山盛りのタルトを食べながらコーヒーを飲んでいるとセレンが立ち上がり話を始める。
「食後は自由時間になります。この街は治安がいい方なんだけど、日本と違うから。女性の一人歩きや日没後の外出はしないようにお願いします。それとお金は必要な分だけ小分けして………」
セレンは細かい注意事項を話していく。普段のポンコツ振りが噓のようだと思っていたら、しっかりとカンニングペーパーを見ながら話していた。部屋割りと明日の朝食時間を知らされたところで、セレンの話が終わった。
僕に割り振られた部屋は、表通りの見渡せる三階の部屋だ。居間と寝室が分かれたバス、トイレ付きのスイートだ。本来は二人部屋らしく寝室にはベッドが二つ。居間の窓から川と対岸に広がる農地を一望できる。日本だったらこんな高級な部屋、絶対泊まれない。
居間のテーブルにセレンから貰った革袋の中身を広げる。中に入っていたのは小銅貨が10枚、銅貨が10枚、小銀貨が10枚、銀貨が10枚、金貨が10枚。セレンの説明によれば小銅貨一枚が10円ほどの価値らしい。順番に十倍の価値で、金貨は一枚で10万円ほどになる。全部合わせれば百万円以上?少し恐怖を感じる。
僕は革袋に金貨と銀貨を戻し、残りを上着とズボンのポケットに分けて突っ込んだ。日本から持ってきたサイフとセレンから貰った革袋を居間のカウンターテーブルに仕舞って部屋を出る。
鍵を預け宿の外に出ると、まだ陽が高く街中は活気に溢れていた。バスが通ってきた川沿いの表通りを逆に歩き、車窓から見つけた建物へ向かう。日没まで二時間くらい有りそうだから往復しても明るいうちに帰れるだろう。
西洋人の容姿をした人達が通り過ぎて行くが、しゃべっている言葉は日本語だ。古風な服と相まって吹き替えの映画に囲まれているみたいで違和感が半端ない。
十分ほど歩くと目的の建物が見つかった。石造りの大きな建物で剣と靴をデザインした看板を掲げている。
防具を着け武器を持った人が出入りしている。間違いなく冒険者ギルドだろう。
「リバサイの冒険者ギルドへようこそ」
開放されているドアを潜るとギルド職員らしいお姉さんが近づいてきて話しかけてきた。正面には銀行のようなカウンターが有り、そこに冒険者たちが列を作っている。カウンターには紺色のベストを着た綺麗なお姉さんが座り冒険者の相手をしているが、僕に話しかけてきたのは案内係のお姉さんみたいだ。
「冒険者にはどうすれば成れるんですか」
「君は冒険者に成りたいの?」
「はい」
明後日には日本に帰ってしまうが冒険者証が貰えれば、たとえ最低ランクでも旅のいい記念品になるだろう。少し悪い気がしたが認識票みたいな物だったらとても欲しい。
「残念だけど十五歳にならないと冒険者に成れないの」
「僕は十六歳ですが」
またか、またなのか。子供に見られる自分の容姿が憎い。
「ふふ、十六歳だって言うんだったらステイタスカードを見せて」
「ステイタスカード……」
「まだ十二歳になってないのかしら。それとも神殿の無い田舎からステイタスカードを貰いに来たのかしら」
僕が口ごもっていると案内係のお姉さんは微笑ましい物を見る目で僕を見る。
「まず神殿に行って女神様のギフトとステイタスカードを貰いなさい。ステイタスカードが無いと冒険者登録が出来ないの。そして大人になって、まだ冒険者に成りたかったらもう一度ギルドに来てね」
残念だったがステイタスカードを持っていない以上、冒険者登録は出来ないようだ。残念だが仕方がない。僕はもう一つ気になってた事を聞いてみた。
「そこの酒場なんですが……」
受付カウンターの隣には仕切を挟んでバーカウンターが造られ、その前が酒場の様になっている。その酒場には酔客の姿は無く数人の人が床を掃除していた。
「そこね、グリフォンの翼さん達が飲んでたんだけど。女神様に召喚されて帰ってきたら泥だらけで。うーん、泥だらけと言うよりも泥と一緒に帰って来たの」
受付係のお姉さんはげんなりとした顔でそう言った。僕たちのせいで、と言うよりセレンのせいで冒険者ギルドも大変な事になっていた。
「案内ありがとうございました」
僕はいたたまれなくなり出口に向かう。すると、バーカウンターの横にある階段を少女が凄い勢いで駆け降りてきた。
「わああああぁぁぁぁぁぁあん!私が一番酷い目にあったのに」
「「うるさい!仲間を見捨てるようなやつは二度と顔を見せるな!!」」
少女は酒場を通り過ぎると泣きながら外へ飛び出していった。あの裸で召喚されたエルフだ。罵声を浴びせていたのはヴァルキリアのお姉さんだろう。セレンのせいで色々な人が酷い目に遭ってるみたいだ。冒険者登録も出来なかったし、テンションはダダ下がりだ。僕は大人しく宿に帰る事にした。
ストックが無くなってしまったので一週間を目安に上げていきたいとおもいます。読んで下さっている人ありがとうございます。




