マイン、階層ボスダンジョンを進む
ギルド『プライマリー』……女性5人のメンバーからなる小規模ギルドである。
そのギルドメンバーの1人『シアン』は、自らのギルドホームのギルマスの私室にいた。
「これは驚きだね。まさか、また同盟のお誘いとはね」
そう言うのは、ドワーフの女性で、このギルド『プライマリー』のギルドマスターの『ホワイト』だ。
「えっ他からもあったんですか?」
シアンはフレンドのマインから、『階層ボスの討伐をするので、同盟を組まないか』と誘われたので、それをホワイトに報告に来ていた。しかし、これとは別に他からの誘いもあったようだ。
このギルドは今まで同盟に誘われたことが無い。それなのに、同盟のお誘いが続けてくるなんて驚きの出来事である。
「今さっき、マゼンタとグリンが同盟のお誘いを受けたって言ってきたんだよ」
「そうなんですね。うちみたいな弱小ギルドを誘ってくれるところが幾つもあるなんてちょっと驚きです」
そう、このギルド『プライマリー』は弱小ギルドである。なにより、人数が少ない。
「うん、そうだね。
それで、なんてギルドから誘いを受けたんだい?」
「はい、明訪成功ってところからです」
「えっと、明訪成功ね。
…………んっ?」
そこで、ホワイトは指を顎に当て、考えるような素振りを見せる。『明訪成功』に聞き覚えがあるようだ。
「どうしたんですか?」
「あっ、あー、マゼンタたちが言ってたのも明訪成功ってギルドだったなって」
「えっ、私のと同じギルドですか?」
シアンは驚く。マインはマゼンタやグリンとも知り合いだったのかと。
「そうみたいだね。マゼンタたちは、確か、えーっと……ミト……だったかな。……そうそう、ミトって人から誘われたって言ってたけど」
しかし、違ったようだ。
「ミトさんですか。私はフレンドのマインさんから誘われました」
「……なるほど、それぞれが別の人から誘われたわけね。珍しいこともあるものね」
「はい、ホントに珍しいですね。でも同じギルドなら話は早いです」
「まあ、そうね」
「それで受けます? 断ります?」
シアンとしては受けたいところだ。何よりもう一度、マインと遊んでみたいのだ。
「勿論、受けようと思う。第2階層へ進出できるチャンスだからね。
それに、マゼンタたちにも受ける方向で考えるって言ってあるしね」
「そうですか。ありがとうございます」
シアンは(良かった)と思う。これでまた、マインと遊べると。
「ええ、それじゃあ、私はイエローにもそれで良いか確認するから。
確認が取れたら、その相手の人への返事お願いね」
「わかりました」
イエローはもう一人のギルドメンバーである。彼女に確認するとのことだが、彼女が反対することはまずないだろう。
(楽しみだなー)
よって、シアンはそう思い、ほほを緩めるのだった。
◇◇◇◇◇
日曜日。
「驚いたなー。ミトちゃんのフレンドと、私のフレンドが同じギルドメンバーだったなんて」
「私も驚いたよ」
マインもミトもとても驚いていた。それもそのはず、こんな偶然そうそうあるものではないのだから。
マインとミト、両方のフレンドが同じギルドのメンバーなど、そんな偶然は……。
ギルド『明訪成功』と『プライマリー』のメンバーは顔合わせを済ませ、現在、階層ボスエリアへとダンジョン内を進んでいる途中である。
明訪成功のメンバーは、プレイヤー9名に加え、テイムモンスターのタマコとガブリエル、プライマリーのメンバーは、ドワーフで武闘家のホワイト、エルフで剣士のマゼンタ、人間で神官のグリン、ハーフエルフで奇術師のイエロー、小人で魔法使いのシアンである。
このメンバーで何の問題もなく、ダンジョンを順調に進んでいた。順調すぎるくらいに……。
「…………これって、同盟結ぶ必要ないよね。……私たち何もしてないし……っていうか、明訪成功の人たちも何もしてないし……あの、テイムモンスターたち強すぎない」
そう口にしたのはマゼンタである。ここまでの道程、出てきたモンスターは全て、タマコとガブリエルが一撃で倒していたのだ。
ここまでを見る限り、プライマリーの力など借りずとも明訪成功だけで余裕にクリアできそうに思える。
いや、確実にクリアするだろう。
「タマコさんが強いのは知ってたけど、ここまでなんて……」
シアンは以前、タマコの戦う姿を見たことがあったのだが、それでもこれは予想できなかった。
プレイヤーたちはただただ、テイムモンスター2人の後を付いて行くだけなのだ。
そして、それが暫くの間続いていく。
『ドカッ』
『バキッ』
『グシャッ』
刀で両断し、スキルで吹っ飛ばす。
犬型モンスターが、ネズミ型モンスターが、猫型モンスターが一瞬で倒されていく。
タマコとガブリエルは立ちはだかるモンスターたちを歩きながらごく簡単に倒していった。
このダンジョンの敵は決して弱いわけでは無い。第1階層の中では最強の部類に入るモンスター達だ。
そんなモンスターがまるでの案山子の様に簡単に吹き飛んでいく。
そして、そんなモンスター達の向こうに、多くの人々の姿があった。それに気付いたマインは言う。
「あっ、もしかして、うん、あそこがボスエリア」
そう、それは正しく階層ボスと戦う人々だった。数十人もの人が一体のボスと戦っている。
「そうだね。とうとうここまで来たね。ここからが本番だよ」
そして、それを見たクリムがそう口にする。
すると、皆、その数十人もの人を見ながら、その言葉に頷くのだった。




