表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/434

マイン、白猫と出会う

 そこは30メートル四方の石畳の空間だった。ここに来るまでにもこのような空間は幾つかあったのだが、この場所はその中でも最大のものだ。

 その空間の真ん中には高さ1メートル、幅50センチほどの石の台座があり、その上には招き猫のような石像が乗っていた。

 そして、その台座には1匹の猫がもたれかかっている。


「あれです。あれが新しいモンスターです」


 野々乃はその猫を指差した。それは、見る限り何の変哲もないただの白猫だ。……たった一箇所を除いては。

 そして、その猫も戦闘の意志は皆無のようだ。


「可愛い猫ー。うん、あれがモンスターなの?」


「尻尾が2本あるし、モンスターなんだろうね」


「あっ、うん、ホントだ」


 マインはミトに言われその尻尾に気付く。


「えっと、なんてモンスターかな?」


 マインはタッチパネルを表示させ、そのモンスターの情報を見ようとする。……しかし、その内容を見た瞬間、マインの表情は困惑したような微妙なものに変わる。


「あれ、全項目『???』になってる」


 タッチパネルには、情報が全く載っていなかったのだ。

 マインは訳が分からず野々乃の方に振り向き、彼女に意見を求める。


「なんでかな?」


 それに対し、野々乃は僅かに考える素振りを見せた後、答える。


「はい、おそらくこれも準備中という事なんでしょうね」


 マインはその言葉に納得する。


「うん、なるほど」


 ……まあ、これで一応の目的を達成したことになる。しかし、達成感はあまりに小さい。

 モンスターを見ただけで、戦うこともしていないのだから……。


「うーん、どうしよう。他にも新モンスターがいないか探すかな。…………そういえば、モンスターっていつまで待機状態なのかな?」


 マインはふとそう思い、声に出す。


「さあ、私にもわかりませんね。……あれ、そういえば、皆さんに通知はきてなかったのですか?」


 野々乃は思い出したようにそう尋ねる。


「えっ、通知って何の?」


 マインには野々乃が何のことを言っているのかさっぱりわからない。


「いえ、立ち入り禁止エリアができる場合は、事前に禁止エリアと時間が通知されるはずなんですが」


 マインは野々乃のその言葉を聞き、考える。しかし、思い当たることは何もない。


「いや、うん、そんな通知知らないよ」


 マインはそう言い、その隣ではミトがその言葉に頷く。


「ああ、俺も知らない。ちょっと待って、見てみる」


 大吉はそう言い、タッチパネルで通知を確認する。


「…………いや、やっぱりそんな通知はないけど」


 大吉は最近の通知を確認するがそれらしきものは見当たらなかった。


「通知がきてないのですか。……それはおかしいですね。……いや、もしかして」


 野々乃がそこまで言った時だった。白猫の様子の変化に気付き、ミトが声を出す。


「こっち来るよ」


 今までじっとしていた白猫が急にこちらに向かい歩き出したのだ。


「えっ、何で?」


 マインはいきなりの状況の変化に思わずそう声を出す。


「……これは……待機状態が解かれてますね」


 野々乃はタブレットを確認し、そう口を開く。そして、その言葉に大吉がいち早く反応する。


「ミトと野々乃さんは後ろへ、とりあえずまずは俺が行く」


 大吉はそう言い、白猫に向け足を踏み出す。しかし、そこで白猫は歩みを止める。


「あれだけの罠をよく乗り越えることができたニャン。それは素直に褒めてやるニャン。しかし、あちきに勝つことは不可能だニャン。お前たちはここでおしまいニャン」


「喋った!」


 ミトは思わずそう声を上げる。一方の大吉はあっけにとられた顔をしている。そして、マインは少し混乱しているようだ。


「えっ、何、うん、どういうこと?罠って何のこと?」


 白猫が喋ったことも驚きなのだが、マインはそれ以上に、白猫の喋った内容の意味が分からず混乱していた。


「ちょっと、混乱しているようニャン。落ち着くまで待ってやるから準備するニャン」


 マインの心中を察したのか、それとも、それが決められたセリフなのかはわからないが、白猫はそう口を開く。敵にしては優しい心遣いだ。

 すると、大吉が、(折角待ってくれるのだから少しでもその時間を有効活用しないとな)と考え、野々乃の方に振り向き、声をかける。


「野々乃さん」


「はい」


「そういえば、さっき、何か言いかけてましたよね?何を言いかけてたんですか?」


 大吉は先程、野々乃が言いかけた言葉が気にかかり、そう質問する。


「あっ、はい、えぇと、立ち入り禁止の通知がきてないってことなので、もしかしたら、突発イベントなのかなと思いまして」


「と言いますと?」


 野々乃の言うことがはっきりとは理解できず、大吉はそう問いかける。


「はい、おそらくは隠しイベントなので通知していなかったのだと思います。……イベント準備の僅かな時間だけイベントエリアを立ち入り禁止にしていたのだと……もしかしたら、本当はこのエリアに入るのにも何かイベント条件があったのかも知れません。例えば、イベントアイテムを入手していないとこの林には入れないとか……」


 大吉はその言葉を聞き、僅かに考える素振りを見せる。


「なるほど、では、あのモンスターが動き始めたということは……」


「はい、イベント開放時間になったので、待機が解除されたのだと思います」


「そういうことか」


 大吉は野々乃の言葉にそう答える。そして、おもむろにタッチパネルを操作する。

 すると、そこに浮かび上がった文字を確認し、マインとミトに声をかける。


「マイン、ミト、これを見て」


 マインとミトは大吉のその言葉を受け、そのタッチパネルを覗き込む。



――――――――――――――――――――

【タマコ】♀

Lv :113


特徴:おっちょこちょい

――――――――――――――――――――



「えっ、Lv.113!」


 マインは驚きの声を上げる。それもそのはず、マインが今までに出会ったモンスターの最高レベルは17なのだから……。


「ああ、どうやらあの猫はボスのようだね」


 Lv.113なんて数値は第1階層の一般モンスターではあり得ない。大吉はそう考え、そう口に出す。


「ええっ、ボスって、勝てるんですか?」


 マインは大吉の言葉に対し、そう問いかける。マインには、Lv.113というものがどれほどの強さか全く見当がつかないのだ。

 しかし、見当がつかないのは大吉も同じである。


「いや、このレベルは高すぎるな……勝てる可能性はないと思う……たぶん」


 大吉はそう口を開く。マインと違って勝てない相手という事だけは充分に理解できているのだ。

 すると、しばらくこちらの様子を窺っているだけだった白猫が口を開く。


「もういいだろうニャン。……それじゃあ戦闘開始するニャン」


 …………こうしてボス戦は開始されるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ