野々乃、気付く
「あのモンスターも同じだね」
ミトは前方10メートル辺りでゆっくりと歩いている牛型のモンスターを見てそう言う。
そのモンスターは明らかにこちらに気付いているのに襲ってくる様子はない。
「出会うモンスター全ての戦う意思が無いなんてどういう事なんだろう。……うん、大人しいモンスターでもないのに……」
マインは訳がわからないといった表情だ。
……ビッグベアを素通りした後、何体かのモンスターに遭遇したのだが、そのどれもが戦闘する意思が無かったのだ。
「本当にどういう事だろう……」
大吉もマインと同様、訳がわからないようだ。顎に指を当て考える素振りを見せている。
そんな中、野々乃が突然声を上げる。
「あっ、そういう事」
その声に皆が野々乃に振り向く。
「えっと、どういうこと?」
マインが不思議そうな表情で、野々乃にどういうことかを尋ねる。
「あっ、はい、ちょっとモンスターの状態を見てみたんですが『待機』状態になってるんです」
「待機状態?」
「ええ、ここのモンスターたちは配置はされたものの、まだ仕事が与えられていない状態のようなんです」
「ええっと、何故そんな状態に?」
マインは野々乃の言葉の意味は何となく理解できる。しかし、自分たちが何故、そのような状態に遭遇しているのかはわからない。
「ちょっと待ってくださいね。もうちょっと調べてみます」
野々乃はそう言い、タッチパネルを操作する。そして、少しの間、操作した後にお目当ての情報を見つけることができたようだ。
「…………やっぱり」
野々乃が何を想像していたのかは不明だが、彼女の予想は的中したのだろう。
「何かわかったの?」
「はい、このエリアは立ち入り禁止になっています」
「えっ、立ち入り禁止?……うん、でも、私たち入っちゃてるけど」
野々乃の言葉は矛盾している。彼女の言葉が事実ならマインたちは入ることのできない場所に入っていることになるのだから……。
「……えっと、そうですね。このエリアは案内人の立ち入りは禁止されていないので、その案内人の権限がパーティー全体に適用されているようですね」
野々乃のその言葉を聞き、マインは僅かに考える。
「つまりは、本当ならこのエリアには入れないはずなんだけど、野々乃ちゃんの権限が皆にも適用されてたおかげで入れちゃったってことだね」
「はい、そうです」
マインは野々乃の言葉は理解できる。案内人の権限で立ち入り禁止エリアに入れたということは。……しかし、何故、禁止になっているのかがわからない。なのでそれについて野々乃に尋ねる。
「でも何で、このエリアは立ち入り禁止になってるのかな?」
「えーっと、そうですね。考えられるのが、新モンスター追加による、モンスターの配置変更ですかね」
「配置変更?」
「はい、このエリアが配置変更の対象になっていて、その準備が終わるまではモンスターは待機状態、エリアは立ち入り禁止というふうにしているのだと思います」
「うーん、なるほど。うん、何となくわかったよ」
マインはおおよそ納得する。しかし、大吉には気にかかることがあるようで、その疑問を口にする。
「ということは、ここに新モンスターがいるってこと?今までは知ってるモンスターしか見てないけど」
「絶対にいるとは言い切れませんが、おそらくいるのではないかと」
大吉の問いかけに野々乃はそう答える。すると、それを聞いたマインが嬉しそうな表情をする。
「だったら、新モンスター探してみようよ」
マインは僅かに興奮しているようだ。もしかすると、新モンスターを誰よりも早く見つけることになるかもしれないのだ。探したくなってもおかしくはないだろう。
しかし、大吉はそのマインの言葉に困ったような表情をする。
「それはいいけど、俺はモンスター見てもそれが新モンスターかどうかわからないよ。全てのモンスターを把握してるわけじゃないからさ」
どれが新モンスターかわからないのでは意味がない。なのでマインも僅かに困った顔をする。
「それは、私がわかるので大丈夫です。私にはモンスターの実装時期がわかるので」
すると、野々乃がそう答える。そして、それを聞いたマインは表情が困ったものから嬉しそうなものへと戻る。
「野々乃ちゃんがわかるんなら問題ないね。探しに行こうよ」
マインはそう言い、そして、ミトに視線を向ける。すると、ミトはそれに対し「私も構わないよ」と答える。
「そうか、それじゃあ、新モンスターを探すとしますか」
ミトの意志も確認できたことで、大吉はそう言う。
そして、パーティーは新モンスターを捜し始めるのだった。




