マイン、戦わない
「ここだね、目的地の林は」
ミトは眼前に立ち並ぶ木々を見てそう口を開く。
……まあ、立ち並ぶといっても木がびっしりと詰まっているといった感じではなく、その木々の間を走り回ったりできる程度の立ち並び方である。
「ああ……それじゃあ、入るとするか」
大吉は皆にそう声をかけ、林の中へと入っていく。すると、他のパーティーメンバーたちも大吉に続きその中へと進んでいく。
……林の中に入り1分ほど経った頃である。
「……あれは、ビッグベア」
大吉が静かにそう声を出す。……大吉の前方15メートル程の木々の隙間にその姿は見えた。それは体長3メートルもある熊型のモンスターだ。そのモンスターはまだこちらに気付いていない様子だ。
「うん、Lv.11のビッグベアですね」
マインはタッチパネルを確認し、そう口を開く。
「Lv.11か……よし、近づこう」
大吉からするとLv.11のモンスターは大した敵ではない。なので特に躊躇することもなくそのモンスターに近づいていく。そして、マインたちもそれに続いていく。
すると、ビッグベアが大吉たちの方に振り向き、大吉とビッグベアの目が合ってしまう。
「こっち向いた!来るぞ!」
大吉はそう声を上げ、剣を構える。するとマインとアルミラージ子もそれに倣い鞭と剣、それぞれを構える。リンゴリス子も身構えており、戦闘準備は整っている様子だ。そして、ミトと野々乃はその後ろでその様子を見守っている。
「「「…………」」」
大吉たちはビッグベアと睨みあう。
「……ん?」
ビッグベアと睨みあったまま10秒ほど経った頃、大吉は不思議そうにそう声を出す。
本来ならビッグベアはとっくに襲いかかってきているはずだ。だが、ビッグベアは動いていない。
……しかし、大吉にはこのビッグベアの行動に思い当たる節がある。
「これは、例のあれか」
これはマインと遭遇したモンスターがたまにとる行動だ。モンスターがマインの仲間になりたがっているのである。
ただ、アルミラージを仲間にしてからは、仲間にできるモンスターの数に限りがある為、仲間を増やしてはいなかったのだが……。
……大吉はそう思い、マインの方に視線を向ける。
マインはタッチパネルに目をやり、例の表示が出るのを待っているようだ。……そして、その数秒後、マインは顔を上げ、大吉に視線を合わせる。
「あの、大吉さん。『仲間になりたがっています』って出てこないんですが」
大吉はマインは『出てきた』と言うと思っていた為、僅かに驚く。
「えっ……もう少し待てば出てくるんじゃあ」
「……そうですかね?いつもなら、もうとっくに出てる頃だと思うんですが……うん、もうちょっと待ってみます」
マインは大吉の言葉に対し、そう答える。しかし、その後も『仲間になりたがっています』と表示されることもなく、ビッグベアはマイン達から視線を外す。どうやらこちらへの興味が無くなったようだ。
「あれ、おかしいな?」
攻撃的なモンスターのこの行動はマインにとって初めての経験だ。なので、マインは僅かに茫然とした表情をしてしまう。
すると、それを不思議に思ったミトが話しかけてくる。
「何がおかしいの?」
「えっと、うん、ビッグベアは攻撃的なモンスターだから、こちらに気付いたら襲ってくるのが普通で……襲ってこないとしても、それは仲間になりたがってるってことだから、あんなふうにそっぽ向くはずはないんだよ……」
「……そうなの?」
「うん」
ミトはマインのその返事を聞き、僅かに考える素振りを見せる。……とはいえ、それで何かを思いつくわけでもない。
「……じゃあ、どうするの?やっつける?」
「……うーん、襲いかかってこないモンスターとは戦いたくないんだよね」
ビッグベアは凶暴なモンスターなのだが、それでも敵対する意思のない相手とは戦いたくない。マインはそう思っているのだろう。
「じゃあ、無視して進む?」
ミトはマインにそう問いかける。
「うん、私はそれが良いな。勿論、皆がそれで良ければだけれど」
「俺もそれでいいよ」
このビッグベアをどうしても倒さなければならない理由はない。よって、大吉はそう答える。
そして、その他のパーティーメンバーも大吉と同じ思いなのか、マインのその言葉に頷く。
それにより、全員一致でビッグベアは無視することに決まり、そのまま進むことにする。
……一応、ビッグベアが急に襲ってくることも考え、注意深く進んでいたのだが、すぐ横を通った時も大人しく、ビッグベアが何かしてくることは無かった。




