マイン、一か八かの勝負に出ようと思う
「それじゃあ、私はあのオークの戦士で……」
「……私もオークが勝つと思う」
マインは林檎の逆を賭けるのを止め、自分の決めた選手を賭けるようにしたが、そうしたからといって、マインの勝ち数が林檎を上回るわけでは無かった。
……いや、先程までよりましになったとはいえ、以前不利な状態が続いたままだ。
「ということは、今回の賭けは不成立ね」
林檎は溜息を吐く。
林檎はマインと考えが被っても、負けると思っている選手には、決して賭けない。
そうなると、このまま賭け勝負を続けても、マインが勝てる可能性はかなり低い。
(……成程……。うん、林檎さんはこうなることが分かっていて、賭け勝負を提案してきたわけね……)
林檎はNPC選手に詳しい。
まあ、マイン達の中にも選手に詳しい人物がいる可能性もあるだろうが、これはそれでも自分には勝てないと考えての提案だったのだろう。
そして、その考えは的中したといえる。
(でも、まあ、負けても良いんだけどね)
しかし、負けたら負けたで、ギルドの他の仲間にクリアチャンスが移るだけなので、マインとしては気が楽だ。
もし、クリアチャンスが他のメンバーに移ったなら、そのメンバーがイベントをクリアして勝利報酬も手に入れてくれるはずなのだから……。
……だが、負けるにしても得をして負けたい。
つまりは、勝利報酬としてもらえるはずのものをできるだけ吐き出さずに負けたいのだ。
……そうすれば、残った報酬に後のメンバーが手に入れるはずの報酬も合わさり、本来より余計に報酬を手に入れることになるのだから……。
……しかし、最悪なのは、勝利報酬を全て吐き出した上に、更にそれ以外のアイテムも取られた時だ。
…………いや、本当に最悪なのは、後のメンバーも全員クリアできなかった場合だろう。……林檎がこの提案をして来たのは、この後も一切、負けるつもりがないからなのかも知れない。……或いは、マインには仲間がいないと思っているのかも知れないが……。
「ああ、オークが勝ちましたね」
マインが色々考えているうちにも試合は行われており、今回はマインの予想通りオークの勝利で終わっていた。
「そうだね」
マインは残念な顔をするゴブリン子にそう声を掛ける。
ディスプレイ内ではオークが両手を上げ、「うおおおお」と叫んでいる。
そして、それと同時に次の選手たちが闘技場に入ってくるのが見えた。
すると、それを見ていた林檎が言う。
「それでは、賭けるアイテムはそのままでいいとして、どちらの選手に賭けるか決めましょう」
「ええそうですね」
そして、マインは林檎の言葉にそう答えた。
◇◇◇◇◇
マインは考えていた。
できれば、勝ちたいが、これまでの勝利数とこの後の試合数を考えれば、それは難しく思える。
……そうなると、良い状態での敗北だが、正直それすらもこのままでは微妙なところだ。
(どうしよう……賭ける選手も自分で選ぶようにしたし……後は何をすれば……)
分の悪い戦いである。
しかし、大儲けできる可能性もあるにはある。
……今までアイテムは林檎の言う通りのものを賭けてきた。
しかし、賭けるアイテムをマイン自身が決め、しかも無茶苦茶価値の高いものを賭けたらどうなるか……。
……そうなれば、林檎も同等の価値のあるものを賭けなければならないだろう。
……まあ、林檎がその賭けに乗ってくるか分からないし、もし乗って来たとしてもマインがその賭けに勝てるかは分からない。
かなり危険な賭けなのは間違いない。
(……うん、やってみるかな……)
……そう、その賭けは危険だ。それなのに、マインは何故かそれをする気になっていた。




