大吉、納得する
「あれって、案内人の野々乃じゃないか。案内所以外の場所に現れる事ってあるのか?」
「いや、イベントの時はその説明に現れることもあるが、それ以外では無かったはず」
「そうだよな。それに、珍しいことに亜人もいるぞ」
「亜人?亜人は珍しくないだろう。……いや、第1階層では確かに珍しいか」
周りのプレイヤーたちはそんなことを言いながら、ある一方向を見つめている。
そこには、マインが、そしてその右側に角の生えたウサギ耳の小さな女の子とリス型のモンスター、左側には案内人の野々乃らしき人物が並んで歩いていた。
「いや、あれは、野々乃じゃないんじゃないか。プレイヤーだよ」
「ああ、そういう事か。野々乃そっくりにキャラメイクしたんだな。びっくりしたよ」
「今、確認したけど公開情報が非公開になってる。野々乃は公開だったはずだからプレイヤーに間違いないみたいだな」
周りのプレイヤーたちはどうやらそこに歩いているのが案内人の野々乃ではないと判断したようだ。あっという間に騒めきは収まり、野々乃らしき人物から視線も興味も離れる。
しかし、ミトにはまだ判断がつかない。
「大吉さん、マインの隣の案内人みたいな人って、知り合いですか?」
「いや、知らないけど」
大吉は訳がわからないといった表情でそう答える。
「大吉さんが知らないとなると、今知り合ったばかりの人物なんですかね?」
「ああ、そうかも知れない」
ミトと大吉がそんなことを話しているうちに、マインは大吉の目の前までやってくる。
「お待たせしました。大吉さん。それで、えっと、うん、もしかして隣は?」
「あっ、うん、マイン、私だよ」
「あっ、やっぱり」
大吉の隣にいるのが棗とわかりマインは嬉しそうにそう声を上げる。
「うん、ミトって名前にしたの。職業は召喚士」
「そっか、うん、ミトかー」
「そう、それで、そっちがリンちゃんにアルちゃんね」
ミトはマインの右隣に視線を移し、そう口を開く。
「キュッ」
「はい、ミト様、アルミラージ子です。よろしくお願いします」
(あっ、可愛い。それにアルちゃん礼儀正しい)
ミトは可愛らしい鳴き声で答えるリンゴリス子と礼儀正しくお辞儀をするアルミラージ子を見てそう思う。最高の第一印象だ。
「うん、よろしくね」
ミトは2匹?にそう挨拶を返し、今度はマインの左隣に視線を向ける。
「それで、そちらの方は?」
「えっ?なつ……ミトちゃん、知ってるでしょ?うん、さっき会ったばっかりなんじゃあ」
マインは意外といった表情でそう答える。そして、そんなマインの反応にミトは(もしかして)と思い、その考えを声に出す。
「えっ、もしかして案内人の……」
「はい、第1階層案内人の野々乃です」
野々乃は、ミトの言葉に直ぐにそう返事をする。
「えっ、案内人が何でこんな所に」
「あっ、うん、折角だから友達皆集まった方が良いかなと思って」
ミトの問いかけにマインはそう答えるが、ミトにはその言葉の意味が理解しきれない。
「えっ、どういうこと?」
「あっ、うん、言ってなかったかな。私、野々乃ちゃんと友達になったんだよ」
初耳である。ミトはそんなことを聞いた記憶はない。
「えっ?NPCと」
「うん、そうだよ」
「えっと、それで連れてきたの?」
「うん」
マインはミトの問いに一言そう答える。
すると、マインとミトの会話を聞いていた大吉が、そこで、野々乃に対し口を開く。
「あの、案内人さん、案内所から出てきても良かったんですか?確か、アドバイスはくれても、ついてくることなんてなかったはずなのでは?」
野々乃はその言葉に僅かに考える表情をする。
「はい、確かに私の仕事はアドバイスだけで、ついて行くことは仕事に含まれません」
「だったら何故?」
「これは仕事ではなく、友人としてのことですから。……友人に誘われたのですから、ついてきて当然だと思うのですが」
野々乃のその発言はとてもNPCとは思えない言葉だ。しかし、NPCという前提を取り除けばそれは至って当たり前のことだろう。
「……成程……それはそうですね」
大吉は完全に納得できたわけではないが、取りあえずはそう答える。
「はい、それよりも、ご挨拶がまだでしたね。大吉様、ミト様、私、マイン様の友人としてできる範囲でお力になりたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「あっ、どうも、よろしく」
「あっ、はい、こちらこそよろしく」
大吉とミトは野々乃の言葉にそう挨拶を返す。
するとその時、大吉は何故かふと、先程、周りにいるプレイヤーたちが話していたことを思い出し、そして呟く。
「しかし、そうか、公開情報を非公開にしてるのか。これだと確かにNPCってことはわからないな」
NPCの公開情報には『NPC』の記載がある。よって、公開情報さえ見ればそれがNPCであることがわかるのだ。
「はい、そうした方が厄介なことにならずに済むと思いまして」
大吉の呟きに野々乃はそう返答する。
「確かに、厄介なことにはならずに済むが、いいのかい?そんなことをして?」
確かに、プレイヤーと思われた方が厄介ごとにならずに済む。しかし、NPCがそんなことをして良いのか疑問に思い、大吉はそう質問する。
「まあ、確かにNPCは、自分がNPCであることを知らせる義務があるので、公開情報を非公開にすることはできませんね」
野々乃のその言葉は矛盾する言葉だ。大吉には意味がわからない。野々乃の公開情報は非公開になっているのだから。
「えっ、でも、今、非公開になってるけど」
「はい、義務といっても仕事上の義務なので。……今は、友人と遊んでいるわけですから完全なプライベートです。仕事上の義務は関係ありません」
その野々乃の言葉は苦しい言い訳のようにも聞こえる。しかし、それも一理あるのかも知れない。
「…………なるほど……」
大吉はNPCが仕事とプライベートを切り分けているという事実に驚きつつも、確かにプライベートならそうかもと納得するのだった。




