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村上、苛立つ

 マイン達のいる木々の迷路には数多くのディスプレイが様々な形で設置してあった。

 あるところでは鏡の様に、あるところでは水面の様に、またあるところではテレビ画面の様にと……。

 そして、そのディスプレイにはマイン達とバナンのやり取りが映し出されており、このイベントに参加していた大部分のプレイヤーがその様子を見ることになった。


「あいつ、プロポーズしやがった」


 そこは、木々に囲まれたただの通路のようだが、他の通路とは異なるところが一つあった。

 それは、窓の様なものが木の壁の所々についていることだ。

 しかし、それは窓の様に見えるだけで実際はディスプレイであり、あるディスプレイにはマインの姿が、そしてまた別のディスプレイにはバナンの姿が映っていた。


「そういうイベントなんだから仕方がないでしょ」


 そんなディスプレイの一つを見ながら呆れたような表情をしているのはキョーコだ。


「いや、この状況でプロポーズするのはおかしいんじゃないのか」


 村上はキョーコの呆れた様子には気付いていないのか、気付く余裕が無いのか、苛ついた口調のままそう口にする。


「いやいや、これはゲームなのよ。何興奮してるんだか……」


 キョーコはまたもや呆れたようにそう言うが、今度は口元が若干笑っていた。

 村上の様子を面白がっているのだろう。

 だが、村上はキョーコのその様子にも気づく様子はなく、まだ興奮状態から変わらない。

 しかし、マインの次の言葉で村上の様子は変わる。


「あっ、ごめんなさい……」


 ……なんと、マインはバナンのプロポーズを断ったのだ。


「よしっ!」


 マインが断った様子を見た村上はガッツポーズをとっている。

 村上は興奮状態のままではあるが、苛立ちは消え去ったようだ。


「そうそう、断って当然だ。あんなの!」


 ……あんなのとは酷い言いようだが、まあ、それも仕方がないだろう。何と言っても父親なのだから……。


「あらあら」


 一方のキョーコは若干残念そうである。

 しかし、それ以上に面白そうな様子で村上を見ているのだった。




◇◇◇◇◇




 マイン達はバナンと別れ、再び聖なる剣を見つける為にこの迷路を進んでいく。

 バナンと一緒に行動しようかという意見もあったのだが、バナンが『はぐれたクモン達を探してみる』と言ったことと、マインがプロポーズを断ったことで、バナンと若干話し辛くなり、別々に行動することになったのだ。


「さっきのって、罠ってわけではなかったんですかね」


「うーん、隙間から見えていた人物と、実際に隣にいた人物は違ったってことでしょ……まあ、罠と言えば罠よね……。

 どういう罠かはよくわからないけれど……。

 ……いや、うーん、どこからどこまでが罠だったんだろう……」


 ミイとクリムは先程のイベントについて、話しながら歩いている。

 それに対しミトは難しい顔をしながら歩いている。

 何かを考えているのだろう。

 そして、マインもミト程ではないにしろ難しい顔をしていた。


(はあ、さっきのどう説明しよう)


 何故あれ程に自信たっぷりに質問を出せたのか……説明しなければならないだろう。

 クリムも後で聞くと言っていたのだから……。

 しかし、先程のイベントがどういうものだったのかわからない為、どう説明するかの考えも定まらない。

 女性のアナウンスは全問正解と言っていたが、本当にバナンがマインと同じことを答えていたかは不明である。


(うーん、そこのところバナンさんに確認しなかったなー)


 そして、壁の隙間から見えていたユウキは何だったのか……。

 本物のユウキだったのか、それとも偽物なのか……。

 本物であろうと偽物であろうと、恐らくそれは罠だったのだろう。

 ……まあ、クリムが言う通り、どういう罠かはよくわからないのだが……。


(うーん、適当な質問しただけって言うしかないのかな……。

 それにしては、自信満々に質問しちゃった気がするけど……。

 でもそれも、本当はバナンさんと私の答えが実は一致してなかったってことじゃないと変だよね……。

 ……って、普通に考えると一致してるわけないよね。

 うん、そうだよね。本当は一致してないのにアナウンスが勝手に一致したって言っただけだよね。

 うん、そうだよ。

 結婚相手がいるのにプロポーズを受けさせようとする罠だったんだよ。

 ……うーん、つまり折角、正解したんだからプロポーズも受けないと勿体ないと思わせるみたいな……。

 そして、プロポーズを受けてしまったら村上さんを裏切ったってことで罰則を与えるつもりだったんだよ……。

 …………うーん、そうだとしても……だったらあのユウキさんは一体……。

 なんか混乱させる意図でもあったのかな?

 ……製作者はどういうつもりだったんだろ……?)


 マインは色々考えてみて、本当のこと――現実リアルの設楽がユウキだと思って質問したということ――は言わずに、クリム達を誤魔化せるのではと思うようになっていた。

 正直なところ、事実を言うのは恥ずかしい。誤魔化せるのならば誤魔化したいのである。


(誤魔化せるよね……。うん、誤魔化そう)


 そして、マインが誤魔化すことに決めたその時、ミトが急に前方を指差した。


「あっ、あそこにまた立て看板が……」


「あっ、ホントだ……」


 ミトの言う通り、前方に立て看板が立っている。

 マインは今度は何だろうと思いながら、クリムとミトの後ろに付いて、立て看板のもとへ進んでいく。

 そして、立て看板のすぐ近くに着き、そこに書かれている文字を読んでみる。


「この先に、聖なる剣が眠る」


(……あっ、いよいよ目的地みたい)


 このイベントの目的は聖なる剣を引き抜くというものだ。

 つまりはこの先に目的地があるという事だ。


「ようやく目的地みたいね」


 立て看板を見たクリムは『やっとか』というふうにそう言う。


「うん、いよいよですね」


 そして、マインも(ようやくか)と思いつつそう言うのだった。


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