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棗、初ログインする

「面倒くさいなー」


 自宅自室でASOへのログイン準備を進めながら棗はそうぼやく。


 ASOをやると決めたものの棗の腰は未だ重かった。だが、棗が人よりも面倒くさがりというわけでは無い。ただ、やりたくないので腰が重いだけだ。


 ならば何故、そんなにもやりたくないのか。

 まず1つには時間がとられるということがある。

 棗はゲームでも時間がとられない気軽に楽しめるものは息抜き程度に結構遊んだりする。それは、自分のペースで遊べるからだ。

 しかし、ASOは違う。

 遊び相手が舞衣だけならまだいいだろう。遊びたくない日があれば、気軽に断れば良いのだ。

 しかし、舞衣には既に大吉というフレンドができている。そうなれば話は変わってくる。

 もし、3人必須のイベントに参加したいとなれば、断り辛くなってしまうのだ。

 それに、フレンドと共に遊ぶとなると、ログインの頻度もフレンドに合わせる必要が出てくる。1人だけレベルが低いとなると一緒に冒険も、し辛くなるのだろうから。


 そもそも、棗はASOのようなVR MMORPGで時間を費やすことは無駄とは言わないまでもそれに近いものがあると考えている。

 その時間があればもっと有益なことができるだろうと。

 棗も別に時間を無駄に使うことを完全に否定したいわけでは無い。ただ、どうせ時間を無駄にするのならば自分の意志で無駄にしたいのだ。


 それにASOをやりたくない理由は時間以外にもある。

 棗はVR MMORPGに対し僅かな嫌悪感を持っているのだ。それは、VR MMORPGの匿名性によるものである。

 VR MMORPGは、その特性により人間関係を軽視するプレイヤーが多くなる傾向がある。だが、VRコンテンツの全てがこの傾向にあるわけでは無い。教育や一部の趣味などのコンテンツには例えVRであろうともプレイヤー同士、人間関係に配慮しながらプレイできているものもある。

 しかし、VR MMORPGには、ゲームというお遊びであることから、プレイヤーに人間関係に配慮する心構えが無いのだ。

 例えば、そう、誰かが誰かに「馬鹿」と言ったとしよう。これが棗が舞衣に言ったのなら、それはその親しさ故に許される言葉となるだろう。

 しかし、大吉がマインにそう言ったのならば、自分の真の顔が相手に見えないことを良いことに、現実では使えない酷い言葉を使ったということになる。

 そして、この様な酷い言葉がVR MMORPGにはあふれているのだ。

 正直なところ「馬鹿」ならまだましである。プレイヤーによっては簡単に「死ね」という言葉を使う者もいるのだから。……現実と同様に五感があるフルダイブ型VRの世界では、それらの言葉は充分な凶器になり得るにも拘らずにである。

 実際、棗も以前、VRゲームでその凶器に晒されたことがある。

 棗も匿名だからこそ行える良い点があることは理解しているのだが、過去の経験がそれ以上に負の側面を思い出させるのだ。


 では、何故、棗はそんなVR MMORPGであるASOをやろうと決めたのか。

 それにはまず、時間の無駄については軽減できることに気付いたということがある。

 棗は舞衣にASOを勧められてから、ASOのことを1度、調べたことがあったのだが、そこで、ASO内でも時間を有効に使えることを知ったのだ。

 例えば、ASO内でも読書はできる。また、自分のパソコンやスマホのデータをASOに転送または共有させることでASO内で学校の宿題など、勉強を行うこともできる。

 それに、ASO内には映画館や図書館といった施設も存在しており、それなりに楽しめることもあるようなのだ。


 また別の理由としては、自分が嫌悪感を持っているゲームを舞衣にだけやらせても良いのかという罪悪感によるところもある。

 棗は自分が嫌悪感を持っているからといって、他人にまでその価値観を押し付けようとは思わない。

 それは、棗にとってはマイナスでも他人にとってはプラスになることが往々にしてあることを理解しているからだ。

 なので舞衣がASOを始めることに対し、何も言わなかったのだが、逆にそれが棗に軽い罪悪感を持たせることになったのだ。

 その罪悪感による、自分もASOをすべきなのではという思いと、いつまでも過去のことを気にしてなどいられないという気持ちが相まってASOをやることに気持ちが傾いたのである。




(うーん、VRゲーム内では違う自分を演じる人が多いって聞くけど、私はそういうのは苦手かな……。

 確かに、現実リアルで人見知りの人が仮想現実バーチャルで明るい人間を演じるというのは悪いことではないと思うから否定はしないけど……。

 でも、やっぱり私は仮想現実バーチャルでも、できる限りありのままでいこう。……私の性格は仮想現実バーチャル空間では受け入れ難いものなのかも知れないけれど、舞衣もいることだしきっと大丈夫だよね)


 棗はそう考え、負の感情を一旦捨て去る。


「これで準備はOKっと」


 そうして、ログイン準備が終わった棗は、VRヘッドギアを装着し、ASOの世界へとダイブするのであった。


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