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リーダー、雑談をする

――都内、ASOのプロジェクトルームでのことである。


 仕事が一段落着いた長身の男は、一息つこうと休憩室の扉を開いた。

 休憩室には疲れた様子の人間が幾人も椅子で休憩しており、そこにはスマホを弄っている高木の姿もあった。

 高木と幾人かの人物は長身の男に気付き、軽く会釈する。長身の男もそれに応え、そして、高木の方へと進んでいった。


「この前のプレイヤー、また、おかしなことになってるんだって?」


 長身の男は高木の隣に座りながらそう切り出した。


「あっ、リーダー、マインの件ですね」


「そうそう、そのプレイヤーの件。それで、どんなことになってるんだ?」


「はい、それが、マインの仲間のモンスターが可愛い女の子に変身しちゃって」


「女の子?……ちょっと詳しく聞かせてくれ?」


 高木の今の返答では、殆ど意味が分からず、長身の男 (リーダー)は、更にそう問いかける。


「あっ、はい、荒井さんが組み込んだ『クンカワウイネ』というスキルがモンスターの見た目を可愛い姿に変えるといったものでして、そのスキルで仲間のアルミラージを女の子に変えちゃったみたいなんです」


「また、荒井か……で、どんなモンスターでも変えれるのか?」


 リーダーはまた荒井かと思うものの、とりあえずは、ことの詳細を聞くことにする。


「はい、モンスターを仲間にした時に使用できるスキルなので、仲間にできるモンスターなら何でも」


「……ということは、殆どのモンスターってことか……殆どのモンスターを女の子に変えるスキル……また、おかしなものを作ったもんだ」


「あの、正しくは女の子に変えるではなく、可愛い姿に変えるスキルです」


 高木はリーダーの言葉をそう訂正する。

 しかし、リーダーは、その高木の言葉には違和感を覚える。


「ん?アルミラージの可愛い姿が女の子なのか?」


「そうなりますね」


 リーダーは、そう肯定されるとは思っていなかった為、次の言葉が直ぐには出て来ない。

 よって、とりあえずは、他の疑問を投げかけることにする。


「うーん、それにしても、そのデザインはどうしたんだ?……まさか、殆どのモンスターの可愛いバージョンをデザイナーに作らせてたのか?」


 高木は、リーダーのその質問を聞き、あり得ないといった表情をする。


「いくら何でもそんなことはしませんよ。それは、ジョン氏のAIによるものです」


「ジョン氏の?」


 ジョン氏はこのプロジェクトにおける最重要キーマンの一人である。

 その名が出たことで、リーダーのこの件に対する興味は倍増していた。


「はい、えっと、ジョン氏のAIはプレイヤーの行動をサンプルとして各種データを取得しているんですが……」


「ああ、勿論それは知っているが」


 高木の言葉は知っていて当然のことである。ASOプロジェクトに関わる人間にそれを知らない人などいないのだから。


「それで、その中のプレイヤーの趣味嗜好、芸術的感覚といったデータから、対象に対する『可愛い』を導き出したものが、そのスキルのアウトプットなんです」


 リーダーはその言葉を聞き、僅かに考えるが、どうにも納得できない部分がある。


「ふむ、今回でいうとアルミラージに対し『可愛い』という条件でデフォルメした姿が可愛い女の子というわけか……。

 しかし、そのデフォルメは一般的な感覚からずれているような気がするんだが……

 一般的な感覚だと、可愛らしいウサギの姿になると思うんだが……違うかな?」


 その問いかけを聞き、高木は頷く。


「それについては、私も同意見です。しかし、ファンタジーゲームをする人物には、擬人化趣味と言いますか、モノを人間に具現化させるのを好む人種が比較的多いようでして……サンプル対象となったプレイヤーにもそのタイプの人間が多数含まれていたのではないかと考えられるんです」


 その高木の言葉には、リーダーも納得する。


「なるほど、一般的ではなく、偏ったデータから、『可愛い』でデフォルメしてしまったというわけか」


「はい、そういう趣味の人間にとっての可愛いとは、可愛い女の子を指すのでしょうから」


「しかし凄いものだな。AIで可愛いをビジュアル表現してしまうんだからな。ジョン氏の技術には毎度驚かされるよ」


 リーダーはそのAI技術に非常に感心したようだ。そして、勿論、高木もそのリーダーの言葉には同意である。


「可愛いを表現できるなんて、AIとは思えませんね。もう、ほぼ人間ですよね」


「ああ……にしても、荒井のやつ、また勝手な機能を入れたもんだな」


 AIは確かに凄いのだが、使い方には問題がある。リーダーはそこが若干気に入らない。

 しかし、それを高木は直ぐに擁護する。


「まあそうなんですが、これには一応、理由があるんです」


「というと?」


「ジョン氏の考案したシステムはできるだけ組み込み、活用していきたいって話が出たことがあったじゃないですか。

 それで、いろんなところに、場合によっては無理矢理にでも組み込んでいったんですよ」


「ああ、それでか……まあ、それは理解できなくもないな……仕方ない……」


 リーダーはそういう事ならと若干無理矢理納得する。そして、話題を次へと移行させる。


「それでそのスキルの取得条件は何なんだ?」


「はい、『クンカワウイネ』の取得条件ですね。……えっと、『エロ男爵』の称号を持った者が30分間女性に触れ続けることですね」


「…………えっと……マインってプレイヤーは本当にそんなことをしたのか?」


 リーダーには30分間女性に触れ続けるというシチュエーションが思いつかない。それが女性同士なのだとしても。

 ……まあ、その条件自体、意味不明なのだが、そこは敢えて考えていない。そして、高木も条件の意味については触れず、ただ、リーダーの質問についてだけ答える。


「はい、メスの小型モンスターをずっと抱いていましたので」


「……ふーん……まあ、一応は女性か……それって、荒井のやつが意図してそうしたのか、そうじゃないのか……まあ、どうでもいいか」


 確かにモンスターのメスを女性に含めるのなら条件は満たすのだが、それはかなり微妙であり、突っ込むところなのかも知れない。

 しかし、リーダーにとって荒井の意図は、正直どうでもよく、興味もない。そんな話をわざわざ休憩室でする気にもならない。

 すると、そんなリーダーの思いを察知したのか、高木は僅かに話題をずらす。


「あと、実は、かっこいい姿にするスキルと面白い姿にするスキルもあるんですよ」


「何っ?そんなのもあるのか?」


 リーダーは高木の言葉に呆れたといった表情で、ため息交じりにそう口を開く。

 すると、高木はその声に、半ば反射的に謝ってしまう。自分が悪いというわけでもないのに。


「あっ、はい、すみません」


「ああ、いや、別に謝らなくてもいいさ。それについてはまた後で聞かせてもらうよ」


 リーダーは謝る高木を見て、言い方が悪かったと感じ、優しい口調に変え、そう口を開く。

 すると、それに対し高木は直ぐに承諾の意を示す。


「はい、わかりました」


「ああ、頼む」


 リーダーがそう言った後、会話は僅かに途切れる。リーダーとしては会話はそこで一区切りついたのだろう。

 しかし、高木はそれに気まずさを感じ、更には聞いておきたいこともあった為、それを言葉に出してみる。


「しかし、この『クンカワウイネ』の件、部長にはどう説明すれば良いんでしょう?」


 高木のその質問にリーダーは僅かに考える。しかし、これについては簡単だったのか、直ぐに答えを出す。


「それについてはそんなに考えなくても平気だろう。ジョン氏の名前をうまいこと出せば、部長は何でもOKするさ」


「ああ、なるほど、それはそうですね」


 ASOプロジェクトにおいてジョン氏の名前は武器になる。ジョン氏の為とか、ジョン氏のシステムを使用する為とか、そういう言葉に逆らえる人物は基本、このプロジェクトにはいないのだ。


 高木は部長にどう言い訳すべきか悩んでいた。その為、リーダーの言葉を聞き、表情が少し明るくなっていた。

 そして、その表情の変化を確認したリーダーは、「コーヒー買いに来たんだった」と言い、自動販売機の方へ歩いていくのだった。


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