マイン、初めてスキルを使う
『シュバッ』
大吉の剣がモンスターウサギの身体を両断する。
すると、モンスターウサギの身体は消え去り、その代わりに小さく鮮やかなクリスタルが現れ、地面に落ちる。
『マインがLv.2になりました』
『リンゴリス子がLv.2になりました』
「おぉー、何もしてないのにレベルが上がった。うん、リンちゃんまで上がっちゃたよ」
「まあ、戦闘に参加するか、近くにいたパーティーメンバーには均等に経験値が割り振られますからね」
「はい、でも、リンちゃんまで経験値貰えるとは思わなかったです」
「リンちゃんもパーティーメンバーですから勿論ですよ。あと、このクリスタルは街に戻ってから換金して分けましょう」
大吉は地面からクリスタルを拾い上げる。
「いや、それは大吉さんが貰ってください。私、全然役に立ってませんし」
「いや、均等に分けましょう。パーティーなんですから。あと、アイテムがドロップした時もできるだけ均等になるようにしますね」
大吉はそう言いながら、拾い上げたクリスタルを腰の鞄に入れる。
「えっと、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。うん、ありがとうございます。それで、あの、レベルも上がったことだし私も今のモンスター倒せますかね」
見ているだけというのも案外楽しいものなのだが、それでも戦えるなら戦ってみたい。マインはそう思い、大吉にそう質問する。
「アルミラージですね。ここにいるアルミラージはLv.3と4ですから、それを倒すにはLv.5、いや、Lv.6あった方が良いですね」
「そうなんですか。まだ、駄目かー」
マインはそう言うものの、流石にたったレベルが1上がったくらいでそう強くなれるとは思っていない。
「ええ、そういえば、マインさん、取得したスキルを使いたいんでしたよね」
「はい、そうです。でもまず仲間にしないといけないから……ここのアルミラージを仲間にしようと思ったらレベルその位ないと駄目ですよね?」
「んー、いや、たぶん大丈夫ですよ。マインさん運がやたらと高いから少々強いモンスターでも仲間にできるんじゃないかな。テイムの成功率は運によるところが大きいから」
「えっ、そうなんですか?」
――マインはここに来る途中に、ASOについて大吉に幾つかの質問をしていた。その中に自分はどのような戦い方をすれば良いのかという質問があったのだが、そのアドバイスを受けるために、ステータスを見てもらっていたのだ。
そして、それにより、ステータスの初回振り分け分は、殆ど(もしかすると全てかも知れない)が運に振られていたことがわかっていた。
マインも自分のステータスを見た時、運がちょっと高いのではと感じてはいたのだが、そこまで極端な割り振りだとは思っていなかったのだ。
そして、その運がテイムというスキルに関係してくることも知らなかったのである。
因みに、テイムとは、ビーストテイマーが最初から持っているスキルで、モンスターを仲間にできるスキルだ。
まあ、とにかく大吉の言葉はマインには初耳だったのだ。
「ええ、俺もビーストテイマーについては詳しいわけではないんですが、これだけ運が高いと、このレベルのアルミラージは余裕なんじゃないかな」
「えっ、余裕なんですか。それは、うん、ちょっと、運に振り分けられててラッキーだったかも」
マインがそう言ったその瞬間だった。『ガサッ』と音がし、目の前の木の影からモンスターが現れる。
「アルミラージ!!」
現れたのは、額に角を生やし、目が鋭く光る、恐ろしい容貌のウサギ型モンスターだ。大きさはアップル・ラビットより一回り大きい。
(よし、仲間にできるかどうか試してみよう)
マインはアルミラージに向け、駆けていく。
「マインさん、ちょっと待って!」
マインの後ろから大吉の声が聞こえる。そして、マインは何故、大吉に呼び止められたのか瞬時に理解し、足を止める。
(しまった。仲間にするにしても弱らせてからじゃないと)
そう思うが、既にマインはアルミラージの目の前まで来てしまっていた。
(……もう、駄目だ)
この距離では、大吉が間に合うとは到底思えない。
マインは諦めかける。……しかし、アルミラージは襲ってこなかった。ただ、じーっとこちらを見つめているだけだ。
「マインさん……これは一体……何故襲ってこないんだ」
いつの間にかマインの隣まで走って来ていた大吉が不思議そうにそう口を開く
しかし、マインにそれがわかるはずもない。
「あのー、ああいったアルミラージもいるんですか?ただ見つめるだけの」
「あっ、いや、ああいうのは初めて見ます。今まで遭遇したアルミラージは問答無用で襲ってきたので」
大吉は少し困った様子でそう答える。
すると、『ピコン』とマインの頭の中で例の機械音が鳴り、タッチパネルが表示される。
(なに?……何だろう?)
マインはそう思い、タッチパネルに視線を向ける。
『アルミラージが仲間になりたがっています。アルミラージを仲間にしますか?』
すると、大吉はマインのタッチパネルを操作する様子に気付き、声をかけてくる。
「マインさん、どうかしましたか?」
「あっ、はい、『アルミラージを仲間にしますか?』って出てきました」
それを聞いた大吉は不思議そうな顔をし、考える。そして、次の瞬間、何かに思い至ったようだ。
「えっ、あっ、そういう事か」
「えっ、どういうことですか?」
「えっと、プレイヤーとモンスターのレベル差が大きい場合、戦うことなく、しかもテイムを使うことなくモンスターを仲間にできることがあるって聞いたことあったんですよ。
どうやら、運が高い場合も同じことになるみたいですね」
「ああ、なるほど」
マインは大吉の言葉に納得する。そして、(運は案外、大切な要素なのかも知れないな)と考える。
「ええ、俺はビーストテイマーみたいに、モンスターを仲間にできるプレイヤーとパーティー組んだのは初めてだったんで、全然そんなこと知らなかったんですが、そういう事みたいです。
しかし、運が関係するのは、あくまでテイムの成功率くらいだと思ってたんですが、テイムを使わない場合も関係してたんですね。ちょっと驚きました」
マインはその言葉を聞き、リンゴリス子が仲間になった時のことを思い浮かべる。
(ふーむ、リンちゃんの時と似たような感じなのかな?……うーん、リンちゃんは攻撃してくるモンスターじゃなかったからちょっと違うことは違うんだけど……)
そこまで考えた時、マインは今から使おうとしているスキルには注意事項があったことを思い出す。
「あっ、そうだ、このアルミラージ、メスなのかな?」
「ああ、確か、使おうとしているスキルはオスにはお勧めできないってなってたんですよね。ちょっと待ってください。調べてみます」
大吉はマインの質問の意図を瞬時に理解し、タッチパネルを表示させる。
「大丈夫です。メスです」
「ありがとうございます。それじゃあ、仲間にしますね」
メスならば問題ないと考え、マインはタッチパネルのYESの文字に触れる。
すると、タッチパネルの表記が新たなものへと切り替わる。
『[スキル:クンカワウイネ]を使用しますか?』
マインはこれも勿論、YESを選択する。
すると、アルミラージの身体が黄色く輝きだす。そして次の瞬間、その姿は消え去り、代わりに可愛い女の子が姿を現す。
「えっ、女の子?」
マインは驚き、思わず声を上げる。
大吉も非常に驚いたようで、口をぽかんと開け、信じられないといった表情をしていた。
……その女の子は、黄色いTシャツにハーフパンツ姿、そして、身長130センチメートルくらいの小さな娘だ。
しかし、ただの女の子というわけではなく、額には角が、頭からは長いウサギの耳が生えていた。




