ヨウコ、ビッグを倒す
「ファイアランス」
マインはビッグの攻撃を躱しながら、躱すついでとでもいうように流れる動作で魔法を放つ。
そして、放たれた魔法は吸い込まれるかの様に、ビッグに命中する。
「うおっ、あんなに飛び跳ねながら魔法を撃てるのか……」
マインの動きを見たビッグは驚きつつそう言う。
だが、驚きつつも、炎を纏い巨大になった剣でマインを攻撃していく。
しかし、その攻撃はことごとく避けられ、それでいてマインの魔法はその全てがビッグに命中する。
マインは飛び跳ねながらも魔法を連続で放ち、驚くことにその全てを命中させていた。
「何なんだ一体、本当に何者なんだ?」
ビッグは仕方なく魔法を避けることに意識を傾ける。
「よし、躱し……なっ!!」
しかし、マインの放った魔法『ファイアランス』はその軌道をビッグの身体へと変更する。
「くっ、避けれない?
……まさか、自動追尾とは……。
くっ、魔法レベルも相当高いのか……?」
マインの武器が鞭であることからも彼女は魔法が本職ではないはずだ。
それなのに、追尾型のファイアランスというハイレベルの魔法を使用していることに、ビッグは驚きを通り越して、感心すらしていた。
「こんなプレイヤーがいたとは……」
気が付けばビッグは攻撃する側から、される側へと変わっていた。
「おい、おい、攻撃が激しすぎるだろ……」
マインの魔法は次から次へと放たれている。
……すると、ビッグはある違和感に気付く。
「あれ? これって?
……連射? ……連射だよな?
ファイアランスの連射までもできるってのか?
凄すぎだろ!」
ファイアランスの連射は追尾以上の魔法レベルが必要である。
それを、マインは淡々とやっているのだ。
「いや、しかし、連射は相当なMPを消費するはず……。
あれ? いや、俺のHPが尽きる方が速いか?」
いくら一般的なものより威力が上のファイアランスでも、数発程度なら大したダメージにはならない。
しかし、ちりも積もれば山となる。
これだけ連射されると、ビッグのHPもそう長くはもたない。
「いや、いくら何でもそこまでのMPはないはず……。
大丈夫なはずだ」
ビッグはそう思うが、不安は消え去らない。
もし、このまま相手のMPが無くならずに攻撃を続けられれば自分は全く良いとこなしで負けてしまう。
そう、自分の攻撃はかわされ続け、自分は攻撃を受け続けて終わるのだ。
これはあまりにも一方的だ。
ビッグはトッププレイヤー、トッププレイヤーになる以前は一方的な敗北も何度かあったが、トッププレイヤーになってからは負けたとしても何らかの爪痕を残している。
しかし、今回は何の爪痕も残さずに終わるかもしれない。
ビッグは相手のMPは尽きるはずと思いつつも、その不安がどうしても消えなかった。
そう不安にさせる程にマインの魔法が次々と襲ってくるのだ。
今では、ビッグの攻撃の手は完全に止まり、その分を防御に当てている。
「マジックシールド」
ビッグの防御魔法は有効であるものの、数発攻撃を受けると壊れてしまう。
壊れるとまた防御魔法を発動するのだが、それもまた数発で壊れる。
最早、ビッグには防御魔法以外に手を回す余裕など全くなかった。
それなのに、その防御魔法もすぐ壊れ、相手の攻撃を完全には防げない。
「いや、まだMP尽きないのか? もう、やばいんだけど……」
ファイアランスが銃弾の嵐の様にビッグを襲う。
ビッグの瞳にはファイアランスしか映らず、マインの様子を見る余裕すらなくなっていた。
……ビッグの不安は大きくなっていく。
「あっ……駄目だ」
そして、自分のHPが残りわずかになるとビッグは諦めたようにそう呟いた。
しかし、ビッグには戦いを挑んだ後悔よりも、いい経験ができたという思いの方が強く、その表情は笑顔だった。
「はあ、完敗だ……」
そして、とうとうその時が訪れる。
ビッグの何度目かのマジックシールドが破られ、幾本もの炎の槍がビッグを突き刺す。
……その瞬間、ついにはビッグのHPが尽きてしまう。
ビッグの身体は光の粒子へと変わっていき、次の瞬間には完全に消え去る。
見事な……実に見事なマインの完全勝利である。
「ふぅ、終わったの……しかし、人間の姿も結構いいもんじゃな……。
敵の攻撃を避けやすいからの」
階層ボスだった頃の巨体と比べての感想だろう。
ヨウコはビッグがいたその場所を見つめながらそう言った。
ビッグの炎の剣により火の海となっていた一帯は彼が消えたことにより、その炎も消え去っている。
ヨウコはそんな辺りの景色を見回し、一息つく。
「ふむ、それじゃあ、身体は返すぞ」
そして、そう言った次の瞬間、その身体は本来の持ち主――マイン――のものに戻るのだった。




