閑話:高木、納得する
まだ閑話です。次回、本編に戻ります。
「それに比べると、俺たちは上に言われたこと以外も自分が良いと思ったものはどんどん取り入れていってるからな。
今回の荒井のこともそうだ。まあ、今回のあれが良いこととは言えないかも知れないが、自分で考え、それをシステムに取り入れていくことは悪くはないと思うよ。その為には多少の遊び心もあった方が良いと思うしな。
まあ、時間が無く、全てを精査しきれずにシステムに投入してしまった部分はあるけど、その分、自分の作った箇所については各々が責任感を持ってるだろうしな」
高木は長身の男のその話を聞き、大体は賛同できると考える。しかし、一方でその話の中に違和感を覚える部分もある。
「ええっ、荒井さん責任感持って『エロ男爵』をシステムに投入したんですか?」
「うっ、いや、あいつもあいつなりに責任感持ってやってるよ。だからこそ上と喧嘩したりするんだよ」
長身の男は若干、ばつが悪そうな表情をし、そう答える。
「えー、そうですか?責任感なんて持ってるようには見えないですけど」
「まあ、とにかく、上から言われたことをやるだけより、自分で考えた部分が少しでもある方が責任感は出てくるよ。勿論リスクはあるけどな。
それに、うちの会社がここまで成長できたのは、今の俺たちのやり方でゲーム内容を格段に面白くしたためだからな」
長身の男は高木の疑問にはそれ以上には触れず、そう答える。
すると、高木はその言葉に対し、新たな疑問を投げかける。
「でも、それじゃあ、経営陣は部長のやり方は駄目だったってわかってるんじゃないですか?」
「経営陣は部長の蒔いた種が後になって開花したと思ってるんだよ。つまり会社が成長できたのも部長によるところが大きいと思ってるんだよ」
「えっ、そうなんですか?まあ、私にはそこら辺はよくわかりませんが……。でも、私から見ると部長はできる方の様に思えるんですけど」
正直なところ、高木は部長と絡んだことは殆どない為、できるともできないとも判断はできない。
しかし、長身の男があまりにもマイナス評価をするため、バランスを取りたくなりそう言ってしまったのだ。
「いやいや、今の部長の仕事なんて誰でもできる仕事だよ。誰でもできる事をやってるだけだよ」
「いやいや、そんなことはないでしょう」
「うーん、でも実際、部長がやってることより、俺たちがやってることの方が大変だと思うけどな」
高木と長身の男のやり取りに、そう口を挟んだのは眼鏡の男だった。
高木としては、どうせ口を挟むなら自分のフォローをして貰いたかったのだが、逆であったため、少しがっかりしてしまう。
「えー。だって、管理するのは大変じゃないんですか?」
「うーん。管理ねえ……管理の何が楽しんだろうね?よくわからんな。
そもそも管理なんてAIに任せれば良いわけで、もうすぐ管理の仕事の価値なんて無くなる時代になりそうなのに」
眼鏡の男は不思議そうな顔でそう言う。すると、その疑問に対し、長身の男が口を開く。
「まあ、大抵の管理職の人間は、そういう時代の流れが見えてないんだろうな。
……そうだなあ、管理職になりたがるのって、管理の仕事がしたいっていうより、ただ、その地位が欲しいってだけなんだろうな。一応、今はまだ管理職は上級職とされてるからな。……あとは金か」
眼鏡の男はその言葉を聞き、納得したような表情をする。
「まあそうか。……何にしろ、部長より俺たちの方がよっぽど優れたスキルを持ってることはほぼ間違いないな。
部長を見ている限りは管理なんて誰でもできそうに見えるしな」
「いや、流石にそれは言い過ぎでしょう」
眼鏡の男の言葉は、高木にも同意できるところはある。しかし、流石に言い過ぎだ。
高木は部長の悪口のようなこの会話をそろそろ切り上げたいと思っていた。
すると、ちょうどその時、都合よく加藤が口を開く。
「また、脱線してる」
「ああ、ホントだ。えっと、何でしたっけ?……ああ、駄目な面も説明してるんだから。それでOKした部長が悪いことになるって話でしたね。
えっと、でも私たちは、それは駄目ってわかってるのに全部、部長のせいにするんですか?」
高木は加藤のおかげで話を元に戻すことに成功する。……だが、戻す場所を間違えたかも知れない。これだとまた部長への悪口が出てくるかもしれない。高木はそう考え、自分の発した言葉に若干の後悔をしてしまう。しかし、それは杞憂だったようだ。
「何言ってんだ。高木は駄目ってわかってるものを組み込んだりしたのか?悪い面はあるかもしれないが総合したら面白くなると思ったものしか組み込んでないんじゃないのか?」
「えっ?いえ、今考えれば爆弾になるかもとは思うけど、一応はこんなのあったら面白いかもなーって機能しか組み込んでないです」
高木は加藤の言葉に少し考え、そう答える。これについては加藤の言う通りである。
「そうだろう。僕たちは何一つ駄目と思ってる機能は組み込んでいないのさ。良いと思ってる機能の良い面を前面に出して説明することが悪いわけはないだろう」
「……確かにその通りですね」
物は言いようというやつなんだろう。だが、高木は加藤のその物言いには、妙に納得させられる。
しかし、納得させられたのが悔しかったのか、高木は加藤に対し攻撃的に出てしまう。……自分のことは棚に上げて。
「そういえば、加藤さんの案って捏造ですよね。加藤さん、この前ニュースでやってた捏造した役人のことはぼろくそ言ってたのに、自分は平気で捏造するんだもんなー」
「そりゃ、役人が捏造したらダメだろ。それによく考えてみろよ。確かに高木の考えた言い訳は捏造だ。だが、僕の考えは捏造ではないだろ」
高木の言葉に対し、加藤は冷静にそう答える。それに対し、高木は加藤の言っていた案について思い返す。
「えっ、でも加藤さんの考えって『エロ男爵』を隠し称号にするって……あれ、『エロ男爵』ってそもそも隠し称号だったの?んんん?あれ、これって捏造じゃないの」
確かに、加藤の案では、荒井が遊びで『エロ男爵』を組み込んだ。という事実は話さない。しかし、『エロ男爵』を隠し称号にするという話が嘘であるともいえない。
「うーん、加藤さんの言う通りなんですかね。……確かにその通りですね」
高木はそう言い、頷く。
そして、そこで高木が納得したと判断したのだろう。長身の男は会議を終了させようと口を開く。
「まあ、『エロ男爵』の件も一応決まったし、今回の議題は以上だな。……仲本、他に何かないか?」
「いや、ないよ」
「加藤と高木は?」
「特には何も」
「ないです」
「じゃあ、今回の会議は終了だ。では、解散ということで」
◇◇◇◇◇
高木が自席に戻ったことを確認した後、眼鏡の男(仲本)は、口を開く。
「なんか飲み会みたいになってしまったな。愚痴ばっかりだった」
「まあ、いいんじゃないかな。部長なんて、悪口を言われるための役職なんだし」
長身の男は相変わらずの口調でそう言う。なかなかの言い様だが仲間内での話なので誰も特には気にもしない。
「ははは、でも高木には部長へのフォロー入れといた方が良いんじゃないか」
先程の高木の反応を気にしたのだろう。加藤がそう口を開く。
「ん?部長の良いところでも吹き込むのか?しかし、良いところを見つけるのは大変だぞ」
「その良いところを見つけれるのが優れた人間だぞ。実際、良いところはあるさ。誰にでも」
仲本は長身の男の言葉にそう答える。
すると、長身の男は、それはそうだなと、納得した表情をする。
「そうだな、まあ、このままだと、上司の悪口を隠れて言う、できない部下って感じだしな」
「まあ、部長が部下を見下したり、悪く言ったりする人だから、こっちもそうなってしまうんだよな……せめて陰口ではなく、面と向かって文句言えたら良いんだが……いや、それは難しいか、荒井はそのタイプだがうまくいってないしな」
仲本は、部長と荒井のやり取りを思い起こしながらそう言う。
「理想はお互いに讃えあう事なんだよな」
加藤は仲本の言葉を聞き、ため息交じりにそう口を開く。
そして、それを聞いた長身の男も思わずため息をつく。
「ああ、まあ、その為にも皆それぞれ都合良いときに高木にフォロー入れるとするか」
「そうだな」
「了解」
しかし、3人共が思っていた。(こいつらフォローなんて入れないんだろうな)と。
そして、深いため息をつくのだった。




