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閑話:高木、雑談をする

まだ閑話です。面倒くさい方は適当に読み飛ばしちゃってください。

「うーん、そもそも荒井は『エロ男爵』の付与条件が満たされることが無いと思って組み込んだんだっけ?」


「ああ、そうらしいな。どうせ誰も取得できないんだからいいだろうって感じでな。ホントお遊びで組み込んだだけなんだよな」


 眼鏡の男の質問に対し、長身の男はそう答える。

 そして、その答えを聞き、眼鏡の男は『エロ男爵』の取得条件を思い起こす。


「何だっけ、初期設定空間内で複数回のセクハラ発言やらセクハラ行動したら駄目っていう条件だったっけ。まあ、それだと確かに男だとその称号に辿り着くことは無いな。その前にアカウント停止になるからな……ってことは単に荒井の考慮漏れってことだろ。女性がそれをすることの考慮が漏れてたんだな」


「いやー、あいつのことだからわかっててやったんじゃないか。絶対に取得できることのない称号なんて組み込まないだろう。あいつは。……僅かな可能性でもあり得るから組み込んだんだよ」


 加藤は荒井の性格を考え、今回、『エロ男爵』の称号を獲得したプレイヤーが現れたことも荒井の想定内のことではないかと考える。そして、その加藤の意見を聞いた長身の男も(確かにそうだな)と考えていた。


「まあ、あいつはそういうやつだよな。困ったもんだよ」



 ……男たちの会話を聞きながら高木は考えていた。自分の考えた言い訳が不採用なのはわかった。

 荒井の考えがどうにせよ、『エロ男爵』を隠し称号扱いにすることは一応は決定している。そして、そうするということは今後もその称号は継続させるという事なのだろう。しかし、本当にその認識が正しいかの自信はない。よって、自分の認識が正しいのか男たちに確認する。


「まあ、とにかく『エロ男爵』は隠し称号で決定ってことですね。ってことはこの称号はこのまま放置ですね」


「いや、今後はこの称号は出ないように修正する。それはもう部長から言われてることだからな。まあ、もう取得されてしまったものに関してはそのままにしとくけど」


 高木の言葉に長身の男はそう答える。もう既に最低限のことは部長と決めていたのだ。


「えっと、それじゃあ、これ以外の荒井さんや諏訪さんが組み込んでる爆弾はどうするんですか。あと、ついでに私のも」


 高木はそこが気になり質問する。自分が組み込んだものについては特に気になる。自分の組み込んだ箇所で問題が起きるという可能性もあるのだから。

 しかし、それに対し、眼鏡の男は、どうでも良いという風な口調で答える。


「うーん、まあそれはほっとけばいいんじゃないか。言われてないし」


「でも、他に同じようなものはないかって言われるんじゃないですか?」


 眼鏡の男の投げやりな言い方では到底安心などできない。よって、高木はそう質問する。


「うーん、今回は部長の顔を立てて承知したけど、今後は俺たちの考えでいかせてもらいますって強気で行くか。別に今回もユーザーから苦情が来たわけじゃないんだし。……今のところは」


「そうだな。できる限り修正はしたくないもんな面倒くさいし。実際まずいことになった時だけ修正すればいいだろ」


 長身の男も加藤も『エロ男爵』以外の爆弾については基本的に何も修正するつもりはないらしい。

 だが、男たち3人のその意見では高木にはまだ不安が残る。爆弾を組み込んでいるのは高木とここにはいない2人であり、この男たちでは無いのだから。

 よって、高木はその不安を口にしていく。


「ええー、まずいことになったらもう駄目なんじゃ」


「そこまでまずいことになるとは思っていませんでしたって言えばいいさ。まずいかどうかなんてユーザーの判断によるんだしさ。ユーザーの考えを全て把握することなんて無理なんだから。それに流石に100%アウトって機能は組み込んでないだろ。100%アウトじゃない限り何とかなるさ」


「あのー、でも、結構な爆弾があるんじゃないかなー。それこそ、部長に見せたらすぐに駄目って言われるような……」


「その爆弾もな、その人のセンスで作ったものですって言ってやったらいいのさ」


 長身の男の返答はおおよそ理解はできるのだが、センスがどう関係してくるのかは高木にはピンとこない。


「?……センスですか」


「ああ、センスはなかなか否定できないからな。センスの否定は人格の否定に、人格の否定はパワハラに繋がるからな」


 高木はその言葉に(なるほど)と思う。しかし、その考えを受け入れるには若干の抵抗がある。


「ええっ、でもそれはちょっと……。それにその爆弾でユーザーから苦情が来たらやっぱりこうなっただろって怒られますよ」


「ユーザーから苦情来たとしても、あんたもOK出しただろって言えばいいのさ」


「でも、センスって言うだけでホントにOK出してくれるんですかね?」


 長身の男の言うことも尤もなのかも知れないが、それでも、高木にはそれが上手くいくとは思えない。よって高木はそう質問する。

 すると、それに対し、長身の男は僅かに考えた後に口を開く。


「部長には良い面を強調して伝えれば良いんだよ。悪い面はあるがそれ以上の良い面があるってね。部長は資料を真面目に見るわけでもない。何かを調査するわけでもない。そこら辺の作業は全部俺らにやらせるんだから、何もわかっちゃいないよ。だから、俺らがそれっぽいこと言えばそれに乗っかってくれるさ」


「それは、そうなのかも知れないですけど」


「まあ、乗っかってくれさえすれば良いんだよ。一応、悪い面も説明してるんだから。それでOKしたんなら部長が悪いんだよ。部長が無知なのが悪いのさ」


 ヒートアップしてきたのか、長身の男の言葉に棘が出てきていた。しかし、高木としてはその流れには乗りたくはない。


「あの、いくら何でも無知は言い過ぎなのでは?」


「ああすまん。確かに言い過ぎかもしれんが、でもそうだぞ、そうだなー。

 例えば部長は、剣の切れ味のテストに赤い紙、青い紙、黄色い紙など100色の紙を斬ってテストさせようとするんだよ」


「えっ?剣の耐久テストですか?」


 高木は長身の男の言葉の意図が読み取れず、そう質問する。


「違う違う。1回の確認で済むところ99回無駄なことをさせるってことだよ」


「えっと、でも多くした方がいいのでは?」


「それで無駄な時間を費やすんだよ。おかげで本当に時間をかけるべき物事に時間をかけられなくなってしまう。

 問題が出た時の原因は大体が、上司のスケジュール感の無さと無知によってなんだよ。

 スケジュール的に不可能なのに急かしたりするんだよな」


 ……どうやら、ヒートアップを止めることはできなかったようだ。しかし、高木としては、そのペースに完全に乗るのは避けたいところである。


「ええー、上のせいにし過ぎですよ。それに皆、部長の言う事きちんと聞いてないですよね。急かされたところでその仕事断ったりするじゃないですか」


「上の言う事、全部は聞いてられないさ。1日に48時間は働けないだろう?上の言うこと聞いてたら本当にやらないといけないことができなくなるしな。言うこと聞いていい方に流れるのならいくらでも聞くが、マイナスになることを聞くわけにはいかないさ」


「うっ、確かに」


 今の長身の男の言葉は、高木も納得できる。実際、高木も無茶な工程を引かれたことがあるのだから。


「そうだろ。何に時間を掛ければいいかがわからないんだよな。無知ゆえに」


 だが、そこまで言うこともないのでは。という気持ちも高木にはある。仕事を効率よく行えば、或いはできる事かも知れないとも思うからだ。

 なので、少し位は部長を擁護しようと考える。


「あの、でも部長もそこまで無茶なこと言ったりしてるんですか?

 確かに部下からはうざがられている面はあるんでしょうが、経営陣からは気に入られているようですし。

 ちゃんと考えてる方だから気に入られてるのでは?」


「まあ、部長は上から言われたことは全てこなしてきたような人だからな」


「えっ、凄いじゃないですか」


 高木は、長身の男の言葉に少し驚く。予想に反して肯定的な言葉が飛び出したからだ。

 しかし、否定的な言葉が直ぐに付け足される。


「まあ、自分がやるんじゃなく人にやらせてきたんだが」


「あれ、やっぱり駄目ってことですか?」


「人にやらせること自体、駄目ってわけじゃないけどな。

 ……まあ、部長も昔は上から無茶な仕事を振られてたわけだ。それを、皆で分担して、こなしてきたんだよ」


 高木はその言葉を聞き僅かに混乱していた。話が見えない。長身の男は部長を肯定したいのか否定したいのかよくわからないのだ。


「うーん、それは良いことですよね?良いことに聞こえますが」


「まあ、こなしてきたのは良いが問題は質だな。部長は上から言われたことのみを分担してこなしてただけだからな。プラスアルファのことは生み出してなかったよ。

 それに、無茶な量を受けてたもんだから部長自身はただの調整役に回ってね。それ以外のことをやる隙などなかったんだな。まあ、俺たちならやらないような無駄なこともやってたんだから他のことに手が回らないのも当然だが……。それで、システムの知識を殆ど得ないまま今に至ってるんだよな。

 でも、こなしてきたという自負はあるし、上からはその面が一番よく見えていたんだよな」


「そういうことですか」


 そこまで聞き、高木は長身の男の言いたいことを理解する。だが、彼の話はまだ終わらなかった。


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