表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無法学校  作者: AuThor
8/16

プライド

修太はポケットの中にある小刀のことなど忘れていた。

・・・殺される。

そう思った修太は地面に横たわるおかっぱの男子を指差し、口を開く。

「俺をどうしようと構わない。でも、その人のことは見逃してやってくれ」

おかっぱのボコボコにされた顔の男子は修太のことを見る。

「大地さん、殺します?」

男たちの中の一人が言う。

殺すという言葉に修太は震える。

「ああ、死刑だ」

大地は興味なさそうに修太を見る。

修太はがくがくと震えた。

すると吉良が何か思いついたような顔をする。

「大地さん、こんなのどうです?」

吉良が大地に耳打ちする。

「おもしれぇかもな」

大地は少し笑う。

「?」

修太はごくりと唾を飲み込む。

「おい、変態クソ野郎。こいつを助けたいんだろ?」

吉良が床に横たわるおかっぱの男子を指差す。

「そうだ」

修太は震えながら答える。

「だったら、俺たちの言った通りのことをこの場でしろ。そしたら見逃してやる」

奴らの言うことに従いさえすれば、とりあえず2人とも殺されずに解放されるらしい。

「わかった」

どんな命令であったとしても殺されるよりマシだ。

「じゃあ、命令その一、10秒間土下座しろ」

修太はこれまで土下座なんてしたことないし、仮に土下座して謝れと言われても、しない程度にプライドはあるが、生死を決める場面なら話は別だ。

・・・そのくらいなんてことはない。

吉良に言われたとおりに修太は土下座するが、男たちが一斉に近づいて来て、修太を羽交い絞めにする。

「なにすんだよ!?」

修太は驚く。

「小刀を持ってないか確認するだけだ」

そうだ、俺は小刀を持ってたんだ。

修太はようやくそのことを思い出す。

「ポケットにあったぞ」

修太のポケットから男が小刀を取り出す。

「安心しろ。言うとおりにすれば見逃してやるよ」

吉良はそう言い、男たちは修太の制服をはぎ取り、パンツ一丁の姿にする。

「これで凶器は隠し持ってないことはわかった」

吉良はそう言い、笑う。

「命令その二、この場でうんこしろ」

「は?」

修太は吉良の言葉に耳を疑う。

「命令その三、全裸で女のパンツを頭からかぶって僕は変態ですって言って馬鹿みたいに踊れ」

その他にも吉良はプライドが少しでもあれば絶対にやらないような命令を並び立てる。

「以上、これらの命令に全て従えば2人とも生きて解放してやる」

強面の男たちは修太に向かって携帯電話のカメラを向けている。

一昨日と同じように動画をアップする気だろう。

そんな動画がアップされれば、プライドなんて微塵もない、命令されれば何でもやってしまう情けない最低な男のレッテルをはられてしまうだろう。

修太は葛藤する。

自分のプライドを完全に捨てることに抵抗を覚えるのだ。

こんなことするくらいなら死んだ方がマシだと以前の自分なら言うだろう。

でも・・・。

俺は打水の犠牲の上に生きてる。

特別な人間である打水は命を懸けて俺を救ってくれた。だったら、平凡な人間の俺は命を懸けるだけじゃ足りない。俺は全てを懸けて誰かを救おうと行動していかなければならない。

修太は固く目を閉じる。

そして、目を開き、おかっぱの男子を指差す。

「その人を蹴るっていう命令には従えない。人を傷つけるようなことはしたくない」

その他の命令に従いさえすれば、奴らも満足だろう。

「なら、そいつの体に足を置いて、踏んでるポーズだけでもいいぜ。拳を上げ、勝利したような笑った表情でな」

吉良は笑う。

「そんなこと・・・」

おかっぱの男子が口を開く。

「いいよ。僕はそれでいい。やってくれ」

修太はおかっぱの男子を見る。

「頼む。助けてくれ」

修太は歯を食いしばり、葛藤する。

「それを俺がやれば、俺とその人にこれ以上何もせず、無事に解放してくれるって約束してくれるんだな?」

修太は吉良に聞く。

「ああ、約束してやるよ」

修太はプライドを全て捨てる覚悟を決める。

「わかった。やってやる!」

修太は命令に従い始める。

そこから爆笑の嵐だった。

男たちは修太を見て大爆笑した。

結女の近くにいる女子がパンツを修太に投げる。

そして、修太は奇行を演じる。

一瞬、視界に入った結女もくすりと笑っていた。

「全部やったぞ。じゃあ、俺たちは帰る」

修太は命令されたことを全てやりきったあと、吉良に向かって言う。

「どうしてこの場所がわかった? それだけ答えろ」

大地が修太に言う。

「・・・どんな学校なのか校内を見て回ってたら偶然ここに来た」

「そうか」

吉良はあくびをする。

「大地さん、どうします? 殺しますか?」

吉良の言葉に修太は驚く。

「約束しただろ!?」

「おまえとの約束なんて守るわけねぇだろ」

「半殺しでいい。生かした方がおもしろそうだ」

がくがくと震える修太。

そのあと、殴られ、蹴られ、ボコボコにされたあと、修太はゴミ捨て場に放り投げられた。

ゴミ捨て場に1人で横たわる修太。

「ちくしょう・・・」

・・・痛い。体が動かねぇ。骨が折れてるかもな。

意識も朦朧としてて、今にも意識が途切れてしまいそうだ。

おっかぱ頭の男子がどうなったのかはわからない。

腫れた顔に水滴が落ち、雨が降り出した。

寒い。俺、このまま死ぬのかな・・・。

結局、友達はできずに終わるのかもしれない。

修太の目から涙がこぼれる。

「打水・・・俺はできる限りのことを全力でやったぞ」

救えなかったのかもしれないけれど。

パンツ一丁で横たわる修太に、傘を差した女の子が近づいてくる。

修太の前で女の子は立ち止まる。

修太はおぼろげな意識でその女の子を見る。

「生きてるの?」

結女の言葉に修太は答える。

「今のところは・・・」

「そう」

「何の用だ?」

「何があったの?」

「・・・え?」

「あんなことをするようなタイプの人間じゃないと思ってたから」

まあ、あの動画を観れば、そう思うよな・・・。

「絶望してる俺を命懸けで救ってくれた人がいた。だから、俺も全てを懸けて誰かを救おうって思った」

ボロボロの姿で倒れている修太のその言葉を聴き、結女は目を見開く。目の前が少しにじむ。

「・・・いろいろあったんだ」

「まあね」

結女は目を少し閉じ、開く。

「あの倉庫に来たのは偶然じゃないよね?」

「・・・偶然だ」

「誰かを救おうと決めた人がちょうどあの時間帯に広い校内の中にあるあの場所にたどり着いたこと、何より倉庫の扉を開けたときに中を見て全然驚いてなかったでしょ。偶然とは言わせない。誰に聞いたの?」

「・・・」

「本当のことを言わなければ、この場で私が殺す」

結女は小刀を取り出し、修太に近づく。

「殺されたって言わねぇ」

「そう」

結女は修太の横に立ち、しゃがむ。

修太は死を覚悟して目を瞑る。

結女は小刀をしまい、修太の顔に左手をかざす。

途端に、痛みがみるみる引いていく。

修太は驚き、目を開く。

「・・・何をした?」

修太は起き上がり、全身にできたあざや傷、腫れなどが消えて、痛みが完全になくなっていることに驚く。

結女は立ち上がり、修太に背を向けて歩き出す。

「アイテムで得た特殊能力か?」

結女は振り返って修太を見る。

「もし、このことを誰かに言ったら・・・。まあ、それは心配ないか」

「治癒させる能力なのか!? 頼む、治してほしい人がいる!」

「俺を命懸けで救って昏睡状態になってしまった人がいるんだ!」

「残念ながら、それは無理ね」

「なんで!?」

「・・・私の能力は意識不明の人を治すことができないから」

「そんな・・・」

「それと忠告。次に私たちのところに来たら、今度こそ命はないわ。今日アップされる動画で、あんたの利用価値はもうなくなったから」

「もし来たとしても、私は今回みたいに助けない。あんたが惨殺されるところを笑って見てるわ」

「なんで、あんなグループの中にいるんだよ?」

「生き残るために強者のそばにいるのは賢い選択でしょ?」

「・・・」

「じゃあね」

結女は再び歩き出し、思う。

変装もせずに治してあげたのはうかつだったかな・・・でも初めてだな、お金をもらわずに誰かを治したの。

結女は微笑を浮かべて傘傾ける。そして歩きながら曇天の空を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ