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無法学校  作者: AuThor
6/16

始動

修太は制服に身を包んで寮の部屋を出る。

昨日、打水の住んでいた寮に行くときには気づかなかった道の変化に気づく。

・・・赤い線が消えてる。

一昨日の朝まで道を区切っていた赤い線が消えており、無法地帯である通学路を歩くことになったのだ。

他の生徒たちも登校しており、ほとんどが集団を形成して歩いている。

中には修太のことに気づき、小声で何かを話しているのが聴こえた。

「よく、学校に来れるよなー」

「気持ち悪い」

聴こえるような声量で話す者もいた。

修太はそれらの声を無視して、一人で歩いていく。

そして、校門を通過して、1年1組の教室に入った。

グラウンド、廊下と、教室に近づくほど、修太に気づく者が増え、嘲笑や非難の声がだんだん大きく聴こえるようになったが、教室に入ると、それらに孤立感が加わった。

「クソ野郎だ」

「一昨日あんなことがあったのに、学校に来れるってどんな神経してんだよ?」

「昨日、学校休んだから死んだと思ったのに」

「きもっ」

絶え間なく聴こえる悪口。

・・・辛い。

修太はうつむいて机の上で組んだ両手を見つめている。

でも、俺は決めたんだ。生きるって。

今思えば、あの自伝の男は小説なんて作り物の主人公を心の支えにして、こういう状況に耐えたのだから凄いなと感心する。

打水が命懸けで救ってくれたからこそ、俺は何とかこんな状況でも耐えられる。

男は親友ができるまでに5年かかった。俺に残された命は3年。それまでに過去だけでなく、今からの俺をちゃんと見て、俺という人間を決めてくれる人が現れるとは限らない。

でも、打水が命を懸けて証明してくれたから、この世にはそういう人もいるって信じることにした。

だから、俺は最期まで希望を持って生き続ける。

そして、打水がそうであったように、俺も誰かを救おうと行動していく。

昨日、動画サイトを確認したら、いじめの動画も多数あった。

背景から校舎の中のどこかで撮ってるようだったから、今日はその場所を探そう。

すると、担任が教室に入ってくる。

修太に気づき、担任はひきつった顔をする。

「ああー・・・、山乃、あとで話があるから、ホームルーム終わったらついて来い」

「はい」

修太は返事をする。

なんの話だ? 生徒指導か?

ホームルームが終わって、1時間目の授業をクラスメイトが受けている中、修太は別室で担任と2人きりになって向かい合い座っていた。

「一昨日、道徳の授業を受けずに、早退しただろ。だから今から道徳の授業と一昨日の話の続きをする」

そして、担任から一昨日の話の続き聞き、道徳の授業を受ける。

本格的な授業は1ヵ月後の5月から始まるということ。

それまで学校では、クラスメイトや他のクラスの人たちと親睦を深めるような授業になり、授業の中で選者学校、宇宙シティで生き残るために不可欠な情報も教えることもあるから、欠席しない方がいいということ。

他にも様々な諸注意を述べた。

本格的な授業とはどういったものなのか聞いたが、担任は言葉を濁し、教えてくれなかった。

そして、道徳の授業で人間の良心がどうとか、長々と説明されたあと、小刀を渡される。

道徳の授業を受けたあとに、生徒に渡すという決まりらしい。

自分の防衛手段として携帯するように言われた。宇宙シティには銃という武器がなく、争いでは、素手や刃物などを使ってということになるらしい。

といっても、戦闘技術なんて身につけてもない一般人が争う姿なんて間違いなくバトル漫画のような戦いにはならないだろう。

小刀は特殊な機能など一切なく、金属でできた、ただ切れ味の良いものである。

理不尽な暴力を目の当たりにした時や命に関わる危険を感じたときは、小刀を使って相手に対抗するように教えられる。

それをみんなが心得ていれば、数の力もあり、表立って暴力で支配しようとする者の出現を阻止することができるし、刃物で抵抗されるリスクがあることから、暴力をふるう者を抑制することができると説明された。

間違っても、小刀を使って身勝手な理由で人を傷つけないようにとも念を押して言われた。

そして毎月の出席日数が1/2を下回って学校の生徒として認められなくなるとどうなるかについて担任は説明した。

「学校の生徒として認められなくなった場合、あらゆる行為が罪に問われる」

「あらゆる行為・・・」

「たとえば、息をすることも罪に問われる」

「は?」

「1呼吸、1円」

「・・・馬鹿げてる」

「罰金を払えなければ、強制的に移動させられてお金を稼ぐためのゲームに参加させられる」

「ゲーム・・・」

「たとえば人を食べる空腹の猛獣が10頭いる場所に武器を持たされずに放り込まれて、生き残ればお金をもらえる」

「めちゃくちゃだ」

「残念ながら事実だ」

「そもそもどうやって1人の人間の呼吸数を把握するん・・・」

「機械が埋め込まれてる」

「!?」

「宇宙シティに初めて入ったとき、専用のトンネルの中で意識がなくなっただろ? そのあと体の中に何らかの機械を埋め込まれたという話だ」

・・・傷跡も痛みもなかったぞ。

「その機械で呼吸数や位置まで把握されてるらしい」

「プライバシーも何もないですね」

「昨日、これらの話を伝えに寮まで行ったんだが、おまえいなかったからな」

「・・・」

「以上が、一昨日みんなに話したことだ」

担任の話が終わり、小刀をポケットに入れて修太は席を立つ。

「なあ、山乃」

別室から出ようとすると、背後から担任が声をかける。

「はい」

修太は振り返って担任を見る。

「どうして、お前、学校に来る気になったんだ?」

その言葉には、今から小刀を使って恨みを晴らそうとするのではないかと懸念する意味が込められているように修太には聞こえた。

「・・・」

修太は少し考えて口を開く。

「ある人が命を懸けて俺を救ってくれたんです。だから、俺も彼女と同じように命を懸けて苦しんでる人を救いたい」

担任が苦笑いを浮かべるのを修太は見る。

たぶん危ない妄想野郎だと思われているんだろう。

まあ、当然だ。あんな動画が広まって、俺を命懸けで救おうとする者がいるなんて信じられないよな。

「失礼します」

修太はそう言って、別室から出て、扉を閉める。

担任は額に汗を浮かべ唾を飲み込む。

「あいつ、昨日クスリでもやったのか・・・」

修太は決意の表情で廊下を歩いていく。


別室での担任との話が終わり、修太が廊下を歩いていると休憩時間を知らせるチャイムが鳴った。

教室の前まで着いた時には、何人かの生徒たちが仲良く話しながら教室から出てきた。

「うわっ・・・」

修太に気づいた男が、わかりやすく見下すような目で見る。

「きもいって」

女子の1人は修太をあからさまに避けるように距離をあけてすれ違う。

わかってはいたけど、実際にここまで嫌悪的な行為をやられると本当に傷つくな。

修太は教室に入っていく。

席に座ると、クラスの生徒たちが修太の存在に気づいていき、口々に悪口を言い始める。

修太の席の周りには誰もいなく、生徒たちはいくつかのグループにわかれて端の方に固まっていた。

修太は変わらず、机の上で組んだ両手を見つめ、うつむいている。

教科書もなければ、本もない、携帯電話もない。何もすることがない、この時間は本当に苦痛だ。寝たふりもできるだろうけど、それでは人との関わりを完全に避ける意思表示になってしまう。

「あいつ、もしかしたらさっき小刀もらったんじゃねぇの?」

そんな声が修太の耳に入る。

クラスに緊張感が走ったのがわかる。小刀を使って暴れられたら、復讐されたらという危惧が伝わってくる。

修太は少し考えて、ポケットに手を入れて、机の上に小刀を置く。

クラスが静寂に包まれ、生徒たちの視線が修太に集中する。

修太は口を開く。

「安心してほしい。悪口や無視なんかで人を刺したりとかしないから」

「肉体に対しての攻撃じゃなければ、この刃物を使うつもりなんてない」

「他にこの刃物を使う時があるとすれば、誰かを守るときだ」

クラスの生徒たちは、声を出さずに修太を見ている。

修太は小刀をポケットにしまう。

少ししてチャイムが鳴り、教師が入ってくる。

そこから先は地獄だった。交流を深めるためにクラスで様々な親睦を深めるゲームや話し合いをする授業が続き、その中でも修太はずっと一人であった。

修太から勇気を出して声をかけにいっても、あからさまに嫌な空気が流れ、すぐに、他の仲間たち同士で話し始め、修太は会話に入れず、席にもどって座る。

修太は涙が込み上げてきて、必死にこらえる。

やっぱりあんなことがあった以上、変態とか、頭がおかしい奴って避けられるのも当たり前だよな。

まずは、俺という人間をわかってもらうために行動していかなければいけない。

修太は道徳の授業で、担任の問いかけに対して手を挙げて、的外れの珍解答でも、積極的に言った。とにかく危険な人間ではないということをまず示していかなければいけない。

休憩時間は物珍しさで1年だけでなく、2年や3年も修太を見に教室まで来てはひそひそと話していた。

下校の時間になり、修太は職員室に寄って、5組の担任が座っている場所に向かう。

打水が学校に来れない状態にあり、そのまま出席日数が1/2を下回った場合、学校の生徒として認められなくなるかについて聞きたかった。

「あの、打水愛花さんなんですけど」

教師はその名前を聞き、興味なさそうに答える。

「ああ、彼女、昨日から学校に来てないんだよ。保留の通知が来てるから、何か事件や事故に巻き込まれて、意識不明になったってことだ。まあ、この学校じゃ珍しくないよ。特にあの子美人だし、何かに巻き込まれたとしてもおかしくない」

「保留って・・・出席日数については?」

「生徒が意識不明の状態になったときに学校に保留っていう通知が来る。意識不明じゃ、さすがに学校に来れないから、出席日数の校則は適用されない」 

それを聞き、ひとまず安心する修太。

修太は職員室を出て、廊下を歩く。

次は校内でおこなわれてると思われるいじめを見つけることだ。

いじめを見つけようにも、どうやっていじめがおこなわれている場所を見つけ出すかだな。

修太は広い校舎の中を歩き回った。とても1日ではすべてを見て回ることができないほどの広さだ。

校内にいる人の数がまばらになり、校舎の中であっても無法地帯であることは変わらないので、そろそろ帰らなければと思い、グラウンドに出ると、端にある花壇が目に入る。

修太は花壇まで歩いていき、ジョウロを手に取る。

ジョウロに水を入れ、花壇まで歩いていると、下校しているいくつかの集団が目に入る。

修太のことを指差して笑っている。

ため息をつき、修太は花壇の前に行きしゃがむ。

『誰もが幸せになりますように』と書かれた看板が目に入る。

今日からは俺が水をやらなきゃな・・・。

そう思い、修太は水を撒いていく。

「どうして学校に来たの?」

背後からいきなり声をかけられ、修太はぎくっと驚き、振り返る。

そこにはピンク色のショートカットヘアーの綺麗な女の子が立っていた。


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