8.火魔法のメリット、デメリット
そんなこんなで風魔法について考えながらまったりとレイと歩いて駅に向かい、そのまま何駅か電車に乗って着いた先はー海であった。
もちろんここで泳ぎに来たわけではない。何なら今、季節は前世で言う秋だしそもそも学校帰りによっているためもう夕方だ。
まだ試していない魔法を試すため近くの空き地でもと思いふらふらといい場所を探していたが、レイに今日は火の魔法を伝えたいとの趣旨を伝えると
「・・・馬鹿なんですか? どうせの兄さんの事だから火事になるに決まっています」
と一蹴されやむを得ずこうやって隣町の海までやってきたということだ。
あぁ、懐かしい。俺はこの場所に来たことがある。ゲーム内でだが。
あの時のヒロインたちの水着姿と言ったらそれはもうすごかった。
製作者側も本気を出してきたのか、あの時のカットインアニメーションは最後の戦いのときのムービーとクオリティ的にはほぼ一緒だと思う。もうできる限りのエロをあそこにすべて突っ込んだんじゃないかといえるレベルだ。
もし俺があの高校にちゃんと入学できたら、あのイベントの中に入れるのかな・・・
まぁどうせ本来の主人公に全部いいとこ取りされるんだろうけど。おこぼれくらいはもらえるかなぁ。
「・・・さん、兄さん! 聞いてますか?」
「あぁ悪い。ちゃんと聞いてたぞ」
「はぁ、どうせ兄さんの事だからまた破廉恥なことを想像していたんでしょう?」
・・・やばい。今回に関しては言い返せない。
「全く、図星ですか。この前の事全然こりてないみたいですね」
「いや! ほんのちょろっとだけ思っただけっ!! むしろ考えないほうが思春期の少年としては異常というか!!」
「もういいです。兄さんはそういうエッチな人だって最近わかってきましたから。そんなことよりさっさと試して帰りましょう。母さんが家で待っています」
さらっと幻滅されてるな。俺のメンタルに瀕死級のダメージが入ったぞ今。
「そ、そんなことないだろうっ! わかった、わかったよ!! さっさとやって帰ろう!!!」
もはや若干投げやりな態度になりながらもとりあえずいったんは置いといて集中する。
海風が吹いてて普通に寒いしおなかも減ったしさっさと帰りたくなってきたしなによりレイの視線が一番冷たい。
ふぅっと一息つくと先までの甘い妄想はどこかへ消え去っていく。
最近わかってきたが、この成瀬夕貴という男、普段はかなりちゃらんぽらんだが集中するという一転においては目を見張るものがある。集中するぞっとい意気込むと周りの音が聞こえなくなり自分だけの世界にはいあることができる。
・・・この能力、前世の時にあればもうちょい勉強できたのになぁ
そんなことを考えながらゲームの火の魔法を思い出す。
「これには随分とお世話になったしな。ふぅ。行くぞ!!」
周りから音が消えていく。視界も目を閉じたから真っ暗になる。そう、この感じだ。
イメージは十分。体の内側から熱がこみあげてくる。
「神話の拒絶」
発動と同時にすさまじい熱風があたりを包む。
そして俺の手には、赤く燃え盛る一太刀の剣がしっかりと握られていた。
「それが火の最上級魔法なのですか?」
「あぁ。これは神話の拒絶ってやつで見ての通り発動したら今手に持ってる燃え盛る刀が召喚されるんだ」
「・・・ずいぶんと周りに熱を出すのですね」
まさにその通りだ。実際持ってる俺が一番熱い。そしてこれがこの魔法の欠陥だろう。
めちゃめちゃ熱い。
多分この炎に俺が触れたらやけどすると思う。てか絶対そう。
ゲームでは別に暑がる描写なかったから多分所有者は熱を感じないんだろうけど、俺の場合はまじで熱い。
レイはというと涼しい顔をしてだらだら汗を流している。相当熱いんだろう。
そういえばゲームではこの炎を鎧みたいに纏えたよな・・・
もしかしたら大惨事になるかもだけど幸い前方には海がある。
最悪海に飛び込めばいいか。
「やってみるか・・・神話の拒絶 憑依」
その声を合図に今まで周りに放出されるだけだった炎が俺の周りに集まってくる。
燃え盛る炎が意志を持っているかのように俺の体の周りを渦巻く。
・・・もはや言わなくても分かると思うがめちゃめちゃ熱い。即死ってわけじゃないが多分5分くらいで熱中症になるレベルだ。発動と同時に汗が噴き出してくる。
「思ったよりも変な感じにはなりませんでしたね。兄さんが耐えればそれで済むみたいですし」
「いや、これ相当熱いぞ。あつっ! もう無理解除!!!」
解除と発すると俺の周りにあった炎はまた今握っている刀のほうに集まっていく。
ただこれ今までの魔法と違って結構小回りが利きそうだから一番ましかもしれない。
「試しに海に向かって何かしてみればいいのでは?私もそれの威力に興味がありますし」
「そうだな、ちょっと試してみるか」
こいつはゲームでもかなりお世話になったし何ならすべての技名を覚えている。
そういえばこの世界に来て技名を叫んで攻撃するってまだやってないよな。
「いっちょやってみるか! 炎舞一ノ太刀 閃火」
そういって刀を海に向かって縦に振る。
技名を呼んだ瞬間白く光った刀は降り終わると同時に目の前の海を両断する。
それはまさにかのモーセが海を割ったような、そんな景色であった。
それはまさに幻想的で・・・恐怖の景色であった。
「・・・兄さんは絶対それを人に向かって放たないでください。ぜったいに」
このあとほかにもいろいろ技を試してみたが、どれも大味すぎてこれ!というものがなかった。
さらに言えばもうすでに手のひら2か所、腕に3か所、足に数か所やけどをしているためこれも最強とは程遠いものだった。もし、相手とつばぜり合いになったら多分俺黒焦げになるし、刀身を触った日にはもう一巻の終わりだ。
ただ、これを発動している限り、ある程度の火魔法を操れるようなものなのでそこは便利だが。
「まぁ、ほかのものに比べてみればマシなほうなのかもしれませんね」
大体俺とレイの評価が一致したところで今日はここまでにすることにした。