60.家族の温かさ
ブクマ、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
前回のまとめに『30秒でわかるカイムの計画』たるものを追加しました。
人によっては蛇足になるかもしれませんので見なくても何ら支障はないです。
一旦今の状況を整理しよう。
今の俺はワイルドブレイブとかいう組織の一人から襲撃を受けて右腕に深刻なやけど、そして全身には軽い火傷を追っている。アリアさんに治癒魔法を施してもらったから一応まだ戦えるが。
そして今俺の後ろからは爆音が響きその後とんでもない強さの熱風が上から吹きおりてきた。
正直後ろを向くのが怖い。
それでも行くしかない。そうしなくてはカイムさんかエルサのどちらかが死んでしまうから。
だから俺は屋敷に向かって走り出す。
いろんな可能性を考えながら、最善の一手を探すために。
皆が生き残るすべを探すために。
そもそも俺が知っているゲーム内のエルサの覚醒イベントもといフェニクス家の過去編はもう少し後だ。
確かほかの国の聖獣が暴れてそれを止めにフェニクス一家と主人公が向かった先でカイムさんが瀕死になりそのままエルサが不死鳥の加護と当主の座を引き継ぐみたいな流れだったはずだ。
このイベントでノーマルルートではカイムさんが死に、エルサの覚醒イベントで主人公が選択肢を間違えるとエルサが闇落ちしてバッドエンドみたいな感じだったからどっちにしろどっちかは死ぬかもしれないがおそらくこの世界、言い換えれば俺がいるゲーム世界ではおそらく今エルサの覚醒イベントが起きてしまっている。
だから俺はシナリオにはないイベントであるパーティーの存在、そしてカイムさんの計画を聞いた時に、ゲームにないシナリオだけどなんか似てるものがあるなって気がしていた。
だが今となっては話が違う。
だって魔人が解放されるなんて聞いてない。
もしかしたらどっちかどころか両方死ぬかもしれない。
いや、そもそもこの国が終わるかもしれない。
だけど、俺にはこの騒動を終わらせる義務がある。
だって俺がこの世界に来なければおそらくこんなことにはなっていないから。
俺が来たことによりシナリオが変わってしまったから。
フェニクス家の門に到着し、カイムさんの部屋である2階を目指す。
もう廊下のいたるところから火の手が上がっており、窓はことごとく割れておりその戦いの激しさを物語っている。
一歩踏み出すごとに爆心地へと向かっていく感覚がぬぐえずに気を抜けば足が止まってしまいそうだ。
比喩的な表現ではなく事実爆発音が先ほどからどんどん大きくなっている。
「創造神の欲望」
先ほどの戦いで負った怪我がトリガーとなって多くの鉄が集まってきてくれる。
ここから先、弱気になったらこの魔法は解ける。
その戒めの意味も込めて顔以外の全身を銀色の鎧で覆っていく。
うん、オルカの魔法よりもこっちのほうが百倍かっこいい。
集まった鉄で作った剣を左腕に持ち走り続けるとついにカイムさんの部屋のドアが見えた。
威勢よくそのドアを開けようとドアに手をかけたまさにその時であった。
「--だ。灰になれ!!!!」
ドッカン!!!
その声と爆音が聞こえたと同時に爆風がまだ開けていない扉の向こうから押し寄せて扉どころか壁を突き破り俺の方へ押し寄せ、屋敷はその熱風によりいとも簡単に砕けていきせっかく上ってきたかいもなく2階、いや3階以上もその意味をなさないほどに壊れ、瓦礫の山と化していく。
俺はというと、やばいと感知してすぐに全身を高純度の鉄で覆って体を丸くして一番外傷を防げる体制を取ったため何とか生き残れた。
それからも爆発音は途切れることなく聞こえ続け、収まったころに瓦礫を押しのけ這い上がるとそこはもう地獄絵図のようになってしまっていた。
こういう例えをするのはどうかと思うが、見る限りは空からの空襲を受けた後みたいな更地になっている。
さっきまでの屋敷はどこに行ったのかわからないほどだ。
「っぶねぇ・・・。創造神の欲望発動させてなかったら死んでた・・・。今のはカイムさんの魔法? 魔人の魔法?」
「っ! その声は成瀬君!? 無事だったか!」
「ええなんとか戻りました。ここに来るまで何回か死にかけましたけど」
こうして俺は再びこの戦いの場に戻ってきた。
*****
夕貴がフェニクス家に戻る少し前。
「お前を守るためだったんだエルサ!」
「お前の人生狂わせたのは父親なんだよ!!!」
わからない。何が本当なのか。
「エルサ、お前もカイムの事が憎いだろう? 一緒に奴を殺そうじゃないか。なぁに安心しろ、私はもうフェニクス家のようなお山の大将で満足する気なぞ毛頭ない。だからお前を殺す理由もなくなった」
「エルサ! 信じてくれ・・・。私とヴェルは心からお前を愛していたんだ!!!」
「カイムよ話はもう終わりか? ならばもうその口はもういらんな。エルサよ、お前の人生を狂わせた男が目の前にいるのだ。さあ一緒に殺そうではないか。カイム、貴様は愛しの娘に殺される絶望を味わうがいい!!」
これ以上はもう待たないといわんばかりにグルフの周りを黒い霧が包む。
まだなんとかグルフの面影はあるものの背中には不死鳥とは程遠い4枚の翼、手には獅子のような爪を携え、胴体は蛇のような鱗で覆われ背中からはサソリの尾を生やす姿はもはや人間とは言えないものになっていた。
「グルフ兄さん・・・。今のあなたは不死鳥とは程遠い姿をしていますね。よっぽどあなたのほうがフェニクス家の名を汚している」
「何を言う。私は変えられるものを変える勇気を持っただけだ。すべてを諦めたお前とは違ってな」
「だからと言って魔人の手を借りてもいいと!?」
「ああ、力こそすべてだ。お前だって力があれば妻を殺されずに済んだだろうに。まぁあの女にそんな価値があるとは思えないがな」
「・・・私はいままで数々の過ちを犯してきたし、それによって多くの犠牲を生んできた。正直死んでもヴェルに合わせる顔はないし批判されても仕方がない。だが・・・妻を、ヴェルを侮辱することだけは許せない!」
「お前は知っているだろう?力がないものがいくら叫んでも無意味だと! 過去の私がいい例だ。だが今は違う! お前を叩き潰して私が正義になるのだ!!!」
「っ! エマ!! エルサを連れて避難しろ!!」
「かしこまりました」
そういってエマが突然私の前に現れて私を抱えその場から去ろうとする。
「待ってエマ! 私は・・・」
なんとかエマの手から逃れようとするがぜんしんに力が入らず抜け出せない。
「今のお嬢様では足手まといになるだけです」
「そ、そんなことない!」
「じゃあなんで泣いているのですか?」
「・・・・」
背後から爆発音が聞こえる。
どうやら命を懸けた戦いがついに始まったようだ。
「今カイム様は覚悟を決めてグルフ様と戦っておられます。ですがお嬢様はまだ迷っていますよね? すべての元凶がカイム様と知って」
「だって・・・、だってもしお父様が当主を目指さなかったらお母さまは死ななかったしお父様は私を無視することなんてなかったのでしょう? そのせいで私はずっと孤独に生きてきた・・・。お父様がフェニクス家を変えようとしなければこんなことにはならなかった!! そうすれば今頃お母さまも・・・」
「確かに、カイム様がなさったことは結果としてヴェル様の命を奪いました。ですがそれはヴェル様も覚悟の上だたっと思いますよ。平民が貴族に嫁ぐとはそういう事ですし。それにもしカイム様が当主を諦めていたら今頃学園には通っていないでしょうしおそらく成瀬様と会うこともなかったでしょうね」
「それはそうだけど・・・、それでも私は孤独が嫌だった!! みんなから訳もなく攻撃されるのが嫌だった!! お父様に無視されるのが嫌だった!! それにエマが軽々しくお母さまのことを言わないで部外者でしょ!!!」
そして私は言った後になんてことを言ってしまったんだと後悔した。
だってエマは私が幼いころから私を見守っていてくれたのに。
ただお母さまの事をわかったような口ぶりで言われたのについかっとなってしまった。
だめだ、このままなら私はエマも失ってしまう。
そんなの、そんなの・・・!
「あっ、エマ、その今のは・・・」
「・・・・・確かにわかったような口ぶりで話したのはよくありませんよね。ですが私は知っていました。ヴェル様がどんな覚悟でカイム様に嫁いだか。それにお嬢様はずっと孤独だと言っていましたそばには私がずっといたじゃないですか」
「どういうこと? なんで知っているって言えるの? それにエマはずっと私のそばにいてくれたけど私が本当に欲しかったのは本当の家族の温かさで・・・」
「知っているんです。だって私は・・・」
そういってエマ徐に右手を頭にやり髪をつかんで何かをつかんで捨て去った。
言うまでもない、彼女が捨て去ったのは赤色の髪だ。
「私はヴェル・フェニクスの妹、そしてあなたと血のつながりのある平民にしてエルサ様の付き人であるノルンです、平民出身ですので苗字はありません。カイム様の命によりあなたをずっと見守っておりました。・・・ですからあなたはずっと一人でいたわけではありません。誰よりも身近に、姉の代わりにあなたをずっと支えておりました」
その髪は水色に輝いており、フェニクス家ではまずみられない髪色であった。
そのままカラーコンタクトも外し本来の彼女の目の色が露になる。
綺麗な蒼色だ。
その青色の目と視線が合い心臓がドクンとなる。
「見たことありませんか? この髪の色、そして眼の色」
私の記憶に僅かに残るお母さまの面影と完全に一致するー。
『エルサ、お前は本当にかわいいね。目の形なんてヴェルそっくりじゃないか』
『そうですね。ですがそれ以外はカイム様似のようですね。将来有望です』
『パパににてるの? うれしい!』
『ははっ、お世辞がうまいなエルサは。ほーらたかいたかい』
忘れかけていた記憶が徐々に蘇っていく。
塗りつぶされていた写真の汚れがどんどん落ちていくように。
なくしちゃいけなかった大切な思い出。
大好きだったお母様、お父様、いや、あのころはママ、パパと言っていたな。
さっき枯れた涙がまたもやあふれてくる。
だがそれはさっきとは違い、なぜか暖かく感じた。
「思い出せましたか? あなたがどれほど姉さまに、カイム様に愛されていたか、周りの者に嫌われていなかったことが」
「思い・・・出せたよエマ。でも、でもそれはもう帰ってこない。それにお母さまが死んでからの12年間が辛かったのも変わらない。いくらあなたがお母さまの妹だとしても、お母さまにはなれない」
「確かにそうです。ですがカイム様はその失われた12年間を取り戻すためにこうしてフェニクス家を解体してあなたを守ろうとしているのです。それにお嬢様は一つご自身でも隠していることがありますよね?」
「っ! どうしてそれを・・・」
「だって考えても見てください。『消えない炎』なんて魔法存在すると思いますか? しかもその炎の源は不死鳥の炎であるのに」




