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6.土魔法のメリットとデメリット② そして決断

正直なところ目の前の少年ー成瀬夕貴に私は非常に落胆していた。

あの体中の熱が沸き立つような落雷や、戦意を喪失するほどの氷魔法を一人の少年が使っていると知ったときの驚きや興奮が凄かっただけに、私の前にぼろ雑巾のように転がる少年への興味はどんどん薄れていった。

実は私は人を見る目がないのかもしれないと自分自身にも失望した。

早く戻りあの妹のほうでもに私の推薦枠の話をしに行こうと思っていた時である。



・・・なんだこれは。いったい何が起こっているのだ?

鍛錬場が徐々に細かい粒子のようになったと思うと少年のもとへと集まっていく。

それは鍛錬場のみならず外からもどんどん集まってきている。


一方の少年はというと、先ほどまで全くの戦意を感じられなかったのに今では目はギラギラ輝いており、肌がひりつくほどのプレッシャーを感じる。

目に至ってはもともと黒色だったはずだが赤色に染まっている。


「ルーンさん。構えてください。第二ラウンドと行きましょう」



その声を聞いてなぜか身震いがした。

この私が怖気づいている・・・だと?

先ほどと目が違う。声色も雰囲気も違う。本当に同じ男かどうかわからなくなるほどの変わりようである。

そして彼の後ろには銀色に輝く謎の羽。


反射的に私も電光石火(シャイニング)を発動し戦闘状態に入る。

得体のしれない何かに恐怖を覚えたが後手に回るものかと足に身体強化をかけ地を蹴る。


彼はその羽で自身を包み込み防御の姿勢を取ろうとしているが構わず蹴りを入れる。

だが私の渾身の蹴りを受けた羽はびくともせずそのまま羽に足をつかまれ遠くにぶん投げられる。


そこからは、少年は私の攻撃を全てはじき、体勢の崩れた私にカウンターを仕掛け、私がそれを間一髪よけるということを繰り返した。金の剣とと銀色の盾がぶつかり合い、火花を散らす。

こうしている間も彼の羽は徐々に大きくなっていることは目に見えて明らかであった。


そんな風に私が彼の羽に目をとられていた一瞬の隙に足をつかまれ地面にたたきつけられる。

幸いダメージはそんなにない。起き上がろうとした腕と足に力を入れた時である。異変を感じた。


・・・・・凍っている。


その時、私は途中から彼がその場から移動しなくなったことに気づいたがもうすでに遅かった。

彼を中心として私が今倒れているところまで円状に氷のフィールドが広がっていた。


今私の周りにあるのは、前にあの病院の屋上で見た氷の竜が私の目の前で口を開け、銀色に輝く剣が数本宙を舞っているという奇怪なものだった。


「この羽、遠距離攻撃もできるんです。勝負あったのではないでしょうか」



こうして私と少年との勝負は静かに幕を閉じた。



*****



下半身氷漬けの男と手足が氷漬けにされて身動きが取れない女性が無言で向かい合う図は多分ほかの人が見たらかなりシュールなものであっただろう。当の本人たちもかなり気まずかったのだから。

勝負がついてから結局一言もしゃべることはなく、僕とルーンさんは無言でさっきまでいた会議室まで戻ってきた。



「・・・改めて言おう。私の負けだ。先ほど罵倒したことは謝る。申し訳なかった。ただ、やはり私の目に狂いはなかったのだと痛感させられたし、うれしくも思っている私がいる。」

「あ、ありがとうございます」


さっきので体が冷えたのか、あったかい紅茶をすすりながらルーンさんが語りかけてくる。

こうやって面と向かってほめれれるとやっぱり嬉しい。


「で、高校の件だがどうする?私としては私の推薦枠を使う価値があると思ってるのだが?」


どうやら俺の推薦の話は結局残っているらしい。

なんか取り消されたり戻ったりとややこしいな・・・

ただ、俺のことは一応認めてくれたみたいだ。


「それなんですけど、一度考えさせてくれませんか?親とか妹と相談したいですし」

「わかった。日を改めてまた答えを聞きに行く。それまでに決めておいてくれ。今回はいろいろとゴダゴダして済まなかった。もう夜も遅いし送っていこう」


そういって会議室を出て、二人で行きに降ろされたところまで向かう。


「そういえばここって何の屋敷なんですか? 国家部隊の待機場とかですか?」

「ここか? ここは私の家だが?」

「えっ」


・・・どうやらルーンさんは相当な金持ちらしい。覚えておこう。



*****



家に帰って玄関を開けるとそこにはレイが座って待っていた。


「おかえりなさいませ兄さん。車の音がしましたのでそろそろかと思いまして」


いやどんな聴覚してんの! 怖っ!

まぁ高級車っぽいしわかる人にはわかるのかもな。

レイはあの魔物(ムカデ)事件以降、こうして甲斐甲斐しく世話をしてくれることが多くなった。

もうあのゲームプレイしてた時レイに惹かれていた俺にとってはご褒美以外の何物でもない。


「ただいま。ちょっといろいろあって考えたいから一人にさせてくれないか」

「あら、そうですかわかりました。さしずめ高校の事でしょうが」

「えっ!? なんで知ってるの!?」

「・・・まぁ確かに兄さんは今まで魔法とは疎遠の生活をしてきたから知らないのでしょうけど、魔物討伐部隊の隊長さんたちは毎年一人ずつ王立高等学校に推薦することができるんです。する、しないは自由らしいですけど」


いや、ゲームをプレイしたときはそんな制度知らなかったけど・・・

もしかしたらその枠でレイが入ってきたのかもしれないな。

そもそも俺ゲーム中にルーンさんを見かけたことない気がするんだけど。


「あのひとそんなに偉い人だったのか・・・」

「なにか変なことでもしでかしてしまいましたか?」

「いやまぁ、ちょっといろいろはあったけど。・・・レイの言う通り、推薦についての話はされたよ」

「そうですか。まあまた落ち着いたら私や母さんにお伝えください。いつまでも玄関で立ち話というのもなんですし」

「それもそうだな」


そのまま二人でリビングに向かい、三人で食事をとったあとすぐに俺は自分の部屋に向かった。

ルーンさんとの戦闘で口の中に傷がいっぱいできてしまったのか、ご飯を食べるのは割と大変だった。



*****



今日一日でもいろいろなことがありすぎて頭がぐちゃぐちゃになっているが、一つずつ考えることにした。とりあえずは高校の事だろう。


前提として、当たり前だが一般試験で俺が王国立高等学校に受かるわけがない。

教科書レベルの魔法が使えない男が筆記試験に受かるわけがない。だから俺は近所の商業科を目指していたのだから。


ただここ最近病院通いになってしまったせいで、高校受験勉強がまともにできていない。

そのせいでそもそも近所の商業科に受かるかどうかわからないところまで来てしまっている。

流石に高校にはいきたいし、母さんにも迷惑をかけたくはない。

もはや選択肢は一つしかないようにも思えるが、もしも王国立高校に入れたとしてもどうせついていけないだろうしそんな落ちこぼれを入学させてしまったことが広まればレイやルーンさんにも悪い噂が立ちかねない。二人の事だから気にしないだろうが・・・。


ーだが、かつてゲームをプレイしていた時に「俺もこんな高校に通えたらなぁ」と思ったことがないわけではない。魅力的なキャラクターや様々なイベント、どれをとっても素晴らしかった記憶しかない。

そこにゲームには一切登場しなかった俺が入学したら、シナリオはどう変わるのだろうかと何回思ったことか。


・・・実はもうすでに答えは出ていたのかもしれない。

行きたくない理由なんて覆い隠すくらいにわくわくが生まれてきてしまっている。

俺はあの高校に行きたい。行っていろいろなことを学んで楽しみたい。

画面越しでしか広がっていなかった世界の扉を開くチャンスを棒に振るほど俺は馬鹿じゃない。

いつまでもこの世界に居られるとは限らないしやれることはやりきるしかない。


「よしっ! もう腹はくくったぞ!」


俺の中で答えはもう出た。



*****



あともう一つ、考えなくてはならないことがある。

あの土魔法についてだ。


結論から言うと、この土魔法は俺が予想していたデメリットとは全く違った。

今でもなお、なぜあのタイミングでちゃんと発動したのかは理解できていない。

ただ、多分こいつは俺の意志-勝ちたいっていう欲望-に反応したんだと思う。

とすると興奮したり、ただひたすらに勝ちたいと願えばこいつは集まってきてくれるのか?


「試しにやってみるか。創造神の欲望アリグナク


またさっきのように発動はするが全く集まらない。


「とりあえず興奮するようなことを考えてみるか」


と思って脳内で『興奮すること』と検索をかけたらレイのあられもない姿がヒットした。

まぁゲームで何回かサービスショットがあったからそれがヒットしたのかもしれないがこっちの世界に来てからは見たこともないし、あくまで妄想だ。


「いやいや、さすがに義理とはいえ妹で欲情するのは無しだろ!!」


つい、大声が出てしまった。


「何か言いましたか?に い さ ん」


嫌な予感がする。

冷汗が背筋を伝い、手が震えているのが分かる。

声のした方をおそるおそる見るとニコニコ顔のレイが俺の部屋のドアの前にいた。


「あ、あのーレイさん、い、いつからそこに?」

「兄さんが『とりあえず興奮』と言い始めたあたりですかね。そろそろ答えが出たかと思って部屋に来てみれば、まさかそんなことを考えていそしんでいるとは思いもしませんでしたよ」

「誤解!誤解だー!!」

ゆっくりとこちらに近づいてくるレイ。

「ま、待て話せば分かる!」


そんな俺の反論むなしく闇魔法の気を帯びた拳がおれの腹に打ち込まれる。

腹部に激痛が走り、壁に叩きつけられる。そのときだった。朦朧とした意識の中たまたま視界に入った部屋のテレビがあの時と同じようにぼろぼろと崩れ俺のもとへ向かってきているのが見えた。


「こいつ・・・もしかしたら俺の肉体的ダメージにも関係してるのか・・・?」


だがそんなこと今となってはどうでもいい。

まず今は、この鬼妹の対処法を探さねばならない。

必死に対処法を脳内で検索するが、全く出てこない。ずっと処理中で止まってやがる。


「にいさん? では教えていただきましょうか。詳しく、わかるように説明してください。妹で興奮しようとしたそのいきさつを。まぁ思春期の男性ならやることといえば一つでしょうけど」



・・・俺の最大限の語彙力を駆使してこの誤解を解かねば。






*****

最上級魔法紹介:創造神の欲望アリグナク


CORにおいて土の最上級魔法。

ゲームにおいての効能は5話参照。

CORの最上級魔法でほかの属性の魔法と併用して使えるのはこれだけなので非常に有能。

複数人でチームを組むマルチプレイにおいて、誰か一人は必ずこの魔法を持っておくべきとされている。


この世界でユーキが使うと、基本的に原子は集まってきてくれない。

肉体的ダメージが増えるほど、そして情熱、決意、渇望などの熱い感情であればあるほどたくさん集まってきてくれる仕様となっておりユーキはまだ完全には理解していない。

結論から言えばユーキが肉体的ダメージで死にかけ、なおかつ強い意志を持っていればそのときようやく最大火力を発揮する。


ただもう一つ欠陥があることを彼はまだ気づいていない。

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