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59.最強の矛

『我、ここに汝の命に背かないことを誓う』


「我、屍となった暁にはこの身を汝に捧げることを誓う」


『主君より与えられし我が名は、オルカ』


その瞬間、時が動き出す。

モノクロだった世界が色を取り戻し、熱風があたりを立ち込める。

そういや魔法の途中だったな



『で? 私は何をすればいい?』


気付いた時には目の前にもう球体の姿はなく、俺の肩の上で半透明のオルカがぷかぷか浮いていた。

どうやら球体からは出たようでシャチのような本体だけだ。

ていうか色と目以外は本当にシャチみたいだな。このずんぐりした感じ。

なでなでしてぇ・・・。


「ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ! オルカ、あいつをどうにかしてくれ!!」


『どうにかってなんて曖昧な命令を出すんですか・・・。まあいいでしょう。左腕を借りますね』


肩の上のオルカが白く発光し始め一回目のやつの魔法で大量に発生した瓦礫が同じように発光したと思いきやそれがどんどん俺の左腕に集まってくる。

集まってくるといっても俺に近づくと圧縮されるのか小さくなりそれがどんどん張り付いていく感じだ。


奴はどうしてるのかと上空を見ると、こちらが何をしてくるのか気になるようで先ほどの魔法の詠唱をしながら様子を見ているのが見て取れた。奴からしたら奪う魔法をある程度見ておきたいのだろう。

上空でふわふわといいご身分だ。


やがてその瓦礫たちは俺の左手を覆いつくすほどに集まり岩でできたような腕が完成した。

アリグナクと同じような感覚ではあったがあちらは綺麗に俺の腕をコーティングするように集まってくれたし、何より銀色で本物の鎧のように輝いていたからかっこよかったけど、今の俺の左手はごつごつとした歪で大きなものに覆われてしまっている。

なんか、こう、嫌な感じである。


しかも掌の中央にはあのガラス玉がついているためぱっと見バグハンドにしか見えない。

重さを感じることはないがなんか単純に嫌な記憶がよみがえってくる。

何回も言うけどアリグナクのほうがかっこいい。間違いなく。


『なにか失礼なこと考えてませんか? まあいいでしょう、いきますよ。しっかり踏ん張ってくださいね』


その声を合図にしてガラス玉がオルカと同じように発光し、震える。感覚はガラス玉の中を渦を巻いているみたいだ。

その振動はどんどん強くなっていき、魔力がどんどん増幅して言っているのが分かる。

俺の周りに空気に流れができ俺を中心とした竜巻が発生し、踏ん張っていた足元に亀裂が入りやがて立っていられないほどになる。


この魔法はオルカも使っていたな。

なら、俺がやるべきは一つだ。

右ひざを地面につき、右手で左腕を支え照準を巨大なエイに合わせる。

的がでかい分照準は合わせやすい


「ふはははははは! 何をしているのかと思えば随分と派手な魔法じゃないか! だが残念だったな、今俺の周りには結界魔法を魔物の魔力で組んで大量に張ってあるからお前がいくら頑張っても人間ごときでは俺には届かんよ。皮肉だな! お前が守ろうとしていた者の母親の魔法のせいで最期を迎えることになるとは!!!」


「まだか・・・まだなのか・・・!」


もうそろそろ踏ん張るのも限界だって時、カッと中央のガラス玉が光った。

準備が出来たみたいだ。


「いっけええええええええ!」


その掌の中央から極太のレーザーが奴めがけて放たれる。

足にアリグナクで集めた鉄で地面と同化させて固定するがそれでもぎりぎりだ。

そして奴向かって伸びるレーザーは見えない何かにぶつかる。


「無駄だよ無駄! もういい、俺が終わらせて・・・」


『お前ごときが魔物を語るな半端者が。本物の()()の力思い知らせてやろう!!!』


が、それはいとも簡単に結界を打ち破りそのまま巨大な胴体をつらぬき天井をも打ち破る。


「ぐおあああああああああああああああ!!!!」


やがて奴は空中で爆散し、暴風が頭上から押し寄せる。

魔物の胴体部分はキラキラと塵のように散っていき人影のようなものだけが残る。


1か月前俺らを絶望に叩き落とした光線は、今目の前の強大な敵を打ち滅ぼす矛となったのであった。



*****

エイを構成していた部分がすべて霧散したところで奴と刀が空から降ってきた。

地面に落ちる直前に一瞬止まったからおそらく転落死ってことはないだろう。

男は気絶しているだけのようだ。そして今俺の近くにいるルーンさんとアリアさんも気絶している。


「おわった・・・のか? す、すげえ」

『お気に召しましたか? これが私の力です』

「よ、よしじゃあこのままフェニクス家に・・・」

『申し訳ありません主さま。今ので力を使い果たしました』


「え!? ちょ、ちょっと待て! もう戦えないのか!?」

『力を使い果たしたので一度眠りについてためなおさなくてはなりません。正直今こう話しているのもギリギリです』

「待ってくれよ! 話が・・・」

『話が違う、ですか? 私はあなたと契約する際に今のあなたを守るとしか言っていませんよ。それに言ったでしょう「本来の力を取り戻すのに100年かかる」と。まだあれから1か月ほどしかたっていませんので今の私にはこれが限界です』


「そ、そうだけど・・・、どれくらい時間がかかるんだ?」

『3時間は少なくともかかるかと』

「確実に間に合わねえな。まあいい、今助かったのもお前のおかげだありがとう。ゆっくり休んでくれ」

『命に従えなくて申し訳ありません。じゃあ、最後にですがあのグルフというものが解放した魔人パズズですが、あれは風と熱風、そして毒を操る魔王です。立ち向かうには奴の熱風を退けるほどの風、そして鱗を打ち砕く矛が必要になります。フェニクス家の者と同化しているのであればどうなっているかはわかりませんが・・・』


「わかった、ありがとう。また起きたら魔人と魔王の違いを教えてくれ。ついでに助けてくれ」

『承知しました。では失礼します』


そういってオルカの気配がなくなる。どうやら本当にいなくなったみたいだ。


「もともとオルカの存在は頭になかったんだ、俺で何とかするしかないよな。にしてもどうやってフェニクス家まで戻るか・・・」


学園からフェニクス家には車で行ったから場所なんて覚えてないし、屋敷からここまでは転移魔法できたから無理だ。軍の人を頼ろうにもこんなボロボロの一般人を信用してくれるか怪しい。


「待て、転移魔法・・・? そうだ!」


先ほど空から降ってきた男のもとに駆け寄る。

奴は言った。この剣で殺せばその魔法を奪えると。ならこの剣が魔法を記憶しているに違いない。


「俺もあれを使えば・・・」


そう思い奴の上に載っている剣の柄を握った瞬間、俺の腕も男によってつかまれる。


「はっ、はぁ、まだだ・・・・・まだ、おわってねえ・・・」

「お、お前!! くそっしつこいな!!!」

「なんだ・・あの魔法は・・・・」

「あぁもううるせえ!!」


そのまま俺の腕をつかむ男を容赦なくぶん殴る。俺には時間がないんだ仕方がない。

男は地面を転がていくが、俺はそれを追いかけ男の胸ぐらをつかみ宙に浮かす。


それと同時に摸擬戦場の出入り口付近が騒がしくなってきたからおそらくルーンさんが呼んだという軍の人たちが到着したのであろう。


「おい、今すぐ俺をフェニクス家に戻せ!! じゃねえとお前を軍の人たちに引き渡すぞ!! もう動く体力も魔力も残って無いだろ!?」


「戻す・・・? ああ、あそこか。まあいいだろう・・・俺もそこに行く予定だったしな・・・。そこでもう一度・・・。あの魔法は往復で設定しないと・・・つかえねえしな。それにこの剣は俺にしか・・・」


「ああもういい早く!!!!」


「お前たち!! そこで何をしている!!」


軍の人が俺らに向かって大声で叫ぶ。もう本当に時間がない。

こいつが軍の人に持ってかれたら移動手段がなくなる。


「軍の人たちが来たぞ早くしろ!!!」

「ワープゲート・・・」


こうしてまたも俺と男を真っ暗な闇が包む。

気付いた時には先ほどまでいた、フェニクス家の庭に二人そろって倒れていた。


*****


「はぁ、はぁ、お前ごときに俺が・・・」

「やっぱ動けないようにもう一発殴っとくべきだよな?」


せっかくつかんだならず者の尻尾を逃がすわけにはいかないと思い。奴に向き直る。

その瞬間後ろ、すなわち館の方からとんでもない爆発音と熱風が俺らを包み込んだ。


「うわっ! ・・・間違いねえ! カイムさんたちが戦ってる! 」


「俺は、・・・おれは・・・・」

「てめえは黙ってろ!」


案だけの爆風を受けてもただぶつぶつつぶやくだけになった男に向かって一発顔面に入れようとしたとき、男の後ろにまたワープゲートのようなものが開いた。


『お前は何をやっているのですか? そんな醜態をさらして恥を知りなさい』

「ま、まて、おれはまだ・・・」


そこまで言いかけた男は後ろから生えてきた真っ黒な手に握られゲートに吸い込まれて行ってしまった。

そしてすぐにワープゲートも消える。


『成瀬夕貴・・・また会いましょう』

という言葉を残して。


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