58.宿敵
長めです
何なんだよもう何でもありかよ。
こんなんまじで知らねえよ。何だよ魔物と融合って!!!
ワイルドハント? 初めて聞いたわボケッ!
「はははっ、おびえているな? それじゃあお前たちを蹂躙するとしよう。わかってると思うが今の俺はこの魔剣『イペタム』と融合してるんだ。すなわち俺がどんな方法でお前たちを殺しても魔法が手に入るというわけだ」
そういい放った男の姿はもはや人間ではなく、例えるならエイのような姿になってしまっていた。
しかも紫色で気味悪さも抜群だ。
「どうやらあれが刀の材料になった魔物の姿みたいだな。非常に面倒なことになったぞ」
「そうですね・・・。どうします?」
「どうもこうもやるしかないだろう。成瀬は動けるか?」
「は、はい、なんとか。神話の拒絶の発動は厳しいですけど、適度に傷もあるので創造新の欲望は使えます」
「わかった。一応増援も頼んだが正直あてになるかわからん。三人で何とかするぞ」
そう意気込んで俺らは巨大なエイへと向かっていった。
******
正直にいうと、俺らはもうギリギリだ。
そもそも俺は最初からボロボロだったっていうのと、単純に創造新の欲望がでかい相手との戦闘に向いていなかったというのが分かった。
加えてあいつが持っている、いや今までに奪ってきた魔法のレパートリーがあまりにも多く対策法が見つからないこと、そしてこの摸擬戦場が奴にとって適度な大きさで機会も起動してないから何もない空間が広がっているだけだから俺らは隠れることもできず、奴はただ適当に魔法を上空から放っているだけで何とかなるという状況ゆえにここ何分か押され続けるばかりだ。
共に戦っている会長もルーンさんも何発かはもらってしまっているみたいで手に血が滴っているのが見えた。
「ちっ、この戦場は奴に有利に働いているみたいだな」
「はっ、え、ええそうですね。私たちはまずあのエイを撃ち落とすところから始めなきゃいけないのに寄せ付けてくれませんもんね。ただいつかは魔物との融合は解除されるんじゃないですか?」
「いや、多分ないと思います。あいつが自分たちの組織について語っている時に『永遠に魔力があふれ出てくるネックレス』を開発したって言ってたんでその恩恵をフルに受けてるんだと思います」
「なんとも面倒な・・・。正直今のあいつは私たち三人で何とかなるものではない。援軍を待つために時間を稼ぐのが英断だ」
「そんなことさせると思うかー?」
「なっ! 聞こえているのか!?」
「当たり前だろう? 魔物をなめるな。そんなお前たちにプレゼントだ、受け取るがいい」
ー聖獣を喰った魔王の裁きー
「こ、これは・・・」
「なっ! ちょ、それはまずい!! ルーンさん! 会長!!!」
上空からとんでもない熱量を持った隕石が大量に降ってくる。
それは一つ一つが先ほど俺を焼いた炎と同じ熱量を持つ魔法だ。しかもそれが数えきれないほど降ってくる。
「なんとかよけてもその隕石は地上に当たったら爆発するー。裁きにふさわしいな」
「くっそぉ!! 創造新の欲望みんなを守ってくれ!!!!」
無我夢中で降ってくる隕石目掛けて巨大な銀色の弾丸を飛ばして空中分解を試みたり、みんなのまわりに鉄のシールドを張ったりして何とか乗りきろうとしたが甘くはなかった。
もちろんルーンさんたちも俺が見たことの無い光魔法で対応していたがそれも奴にとっては小手先の魔法に過ぎないのだろう。
爆炎の雨が終わるころには周りは全て焼け焦げ、三人全員戦闘不能になってしまった。
*****
手は? 動く。ちゃんと両方。
足は? 動く。これも両方。
目も耳も、一応仕事はできるみたいだ。
それでも『動く』と『痛い』は別だ。
「成瀬・・・・くん、ぶ、無事ですか?」
「か、会長!」
ちょうど目が覚めた視界の反対側にルーンさんと会長の姿があった。
「よかった・・・何とか間に合ったみたいですね・・」
「もしかして会長が俺に何かを・・・?」
「まあ加護みたいなものです・・・。わたしも、姉さんも命に別状はなさそうなので・・・」
「ほう? まだ生きているのか。 ならもう一発」
上空からエイが言い放つ。いやもう無理ゲーだろこれ。
「会長、まだ動けます? 会長?」
会長の方を振り向くともう目は閉じてしまっている。
今生きているかどうかはわからないがとりあえず次はない。
ルーンさんも同じだ。気を失ってしまっている。
「バグハンドの時と同じじゃねえか・・・。いや、もう無理だわこれ」
バグハンドの時とは違う、謎の落ち着きが今の俺にはあった。
それは経験してないからこそ生まれない不安、そして敵が強大すぎることに対する諦め、そして、自分の非力さに対する悲しみを通り越した呆れ。
バグハンドの時は一応勝ったっていう事実(ゲーム内)があったから踏ん張れたのかもしれない。
だが今はどうだ?
もはやゲームのワンシーンとも思っている自分がいる。
死んだら次はないのに。
誰も守ることは出来ないのに。
「転生するならもう少し強くなりたかったな。いくら最上級魔法が使えても欠陥だらけじゃどうしようもねえや。現にもう俺の右手は死んじまってるし。神様・・・、ちょっとひどすぎやしませんか?」
完全に無意識にぽろっと出たその言葉は脳内に残る。
そうだよ、普通はもうちょいなんかくれたっていいじゃないか。
なんて、敵がとどめを刺しに来ているのに考えている自分がいた。
「神様、助けてください。・・・・なんて無理か」
そうぼやいた時だった。
『随分と弱気ですね。あのときの威勢はどこに行ったのですか?』
「なっ! だ、誰だ!! か、神様!? 俺を転生させた神様か!?」
また何か声が聞こえた。
神様かもしれないと一瞬思ったがただこの声は確実に聞き覚えがある。
レイの声だ。
「レイ! レイだろ!? どこにいるんだ?」
『レイ? 誰ですかそれは。ほら私はいますよ、目の前に』
きょろきょろするのをやめ、目の前を向くとそこには見覚えのある何かがふわふわと浮いていた。
球体の中は液体で満たされ、そのなかに魚のような赤い目でこちらを覗く何かが。
「お前は・・・バグハンド!?」
『いつも思うんですがあなたは私を訳の分からないあだ名で呼びますよね、別にいいですが。まぁそんな話は置いといて。私を倒したものよ、手を貸してあげましょう』
そこには1か月前死闘を繰り広げた宿敵がいた。
「はぁ!? おま、まず何でここにいるんだ!?」
『私を倒したとき赤いガラス球を拾ったでしょう? あれが私の本体です』
いや、こんな会話してる余裕ねえと思い上空を見上げるが、完全に時が止まっている。
今動いているのは俺と、目の前の化け物だけだ。
それ以外のものはすべて色を失ってしまっている。いわゆるモノクロ世界ってやつである。
その後ポケットをまさぐると携帯電話とともに赤色のガラス玉がコロンと出てきた。
「これが・・・。って待て待て待て! 俺はこれを家において来たぞ!!?」
『わたしからは逃げられませんよ。どこに行くのも一緒です』
「ちょっとまて、頭が混乱してきた。え? なに、ストーカー?」
『まぁそんな感じですかね』
「そ、それはなんで・・・?」
『あの圧倒的不利の状況から見たこともない聞いたこともない魔法を全属性で使い、みごと魔界でも指折りだった私を打倒したあなたを認めたのです。私自身負けるのは人生、いや魔物生で初めてだったので』
「そ、そりゃどうも・・・」
『それからあなたをずっと見てたんですよ? この人間語もあなたの一番親しいものを真似たものです』
「だからレイなのか・・・。って俺を認めた!?」
『はい。なのであなたの短い人生くらいは見届けようと思った次第です。あなたの寿命よりもはるかに長いですからねこっちは』
「え? あのとき死んでないの・・・?」
『はい。魔物は人間界で倒されても死ぬことはありません。』
驚きの新事実。
え? どゆこと? 俺らのあの頑張りは?
確かに魔物は死ぬと霧みたいになるからおかしいとは思ってたけどあまりにそれはひどくないか?
『ですがもちろん無傷で帰れるわけではありません。それに受けたダメージ量でちゃんと死ぬこともありますがそれは魔界に帰ってきてから死にます。死にはしなくても完全復活するのに何百年もかかることもありますしね。私も今回の戦いで深い傷を負ってあと百年は本来の力を出せません』
「で、お前はその傷が治る間俺についていようって魂胆か?」
『話が早くて助かります。あなたは生きてもあと80年ほど。私の寿命からしたら一瞬です。それならあなたのもとについてあなたの魔法を生き方を見届けるのも悪くないかなって思った次第です』
「じゃあなんで今このタイミングで出てきたんだ?」
『もともとこんな早くに出るつもりはなかったのですがね。それに助ける気も。この程度で死ぬのならそれまで、私の見る目がなかったってことですし。それでも出てきたのはあなたが死にそうでも足掻いたから、そしてあの男に腹が立ったからでしょうか』
「まあ魔物からしたらあいつに腹が立つのはわからなくもないが・・・。本当にそれだけか? 今出てきた理由になんかどうにも納得しきれない」
『ふふ、意外と思慮深いようですね。そうですこれは取引です。私と主従契約を結びましょう』
「主従契約?」
『あなたが私とこの契約を結べばあなたが生きてる間は私を好きに使える。ただ・・・あなたが死ねばあなたの魔力や魔法は私のものになる。そういうものです』
「は?」
『いいでしょう別に。あなたの死後この世界がどうなっても』
「いや、そんなのだめに決まってる!! そ、それに魔物と契約なんてカイムさんの兄貴や、目の前の男と一緒じゃねえか!!!」
『一つ勘違いしていませんか? 私がこのタイミングでこうして現れた段階で今のあなたに拒否権はありません。今この規約を私と結ばないというなら私は一切の力を貸せませんから死にますよ。時間が止まっているのは誰のおかげだと思ってるのですか? あとこれは一般的に魔物と人間の間で結ばれる契約とは異なるものですよ。私だからこそできる魔法です。あんなものたちの契約と一緒にしないでください』
「くっ、だからこのタイミングで出てきやがったのか! そんなもんどれも同じだ!」
『そんな目で見られても本当に今の私にはあなたを助けることは出来ませんよ。だって今の私にじゃ拠り所、すなわち人間界にいるための器がありませんから。出来るとしたらあなたを眺めることと契約を結ぶことくらいです』
「でも俺が死んだらお前は俺の魔法を使って人間界を攻めるんだろ!? そんなの、そんなの・・・」
『そうですよね、今あなたは二律背反の状態に陥っています。でもこのままこの人を放っておいたらあなたが守りたかった人は守れませんよ。というか全員失うかもしれませんね。ただ・・・まだあなたには可能性があります』
「どういうことだ?」
『簡単な話です。私が貴方に従っている期間に私が人間界を滅ぼしたくないと思えるような感情を抱かせればよいだけです。そうすれば私もあなたの死後おとなしく魔界に帰りますし』
「でも、魔物との契約は・・・。まて、もし仮に契約したとしてお前の姿は他の人に見えるのか? 普通の契約じゃないんだろ?」
『時と場合によりますね。まぁ普段はみえない、とでも言っておきましょうか。魔物センサーみたいなのにも引っかからないはずです。あくまで私の精神だけ契約するようなものなので』
「そうか。・・・とりあえず今契約してもお前は人間に危害を加える気のは確かだな?」
『そうですね、というかできません。あなたが私に命じない限りは』
「わかった。契約しよう」
『・・・急に前向きになりましたね。よかったんですか? 魔物と契約するのは嫌だったのでは?』
「いやっていうか法律違反だからな。でもお前が言ったじゃないか、契約しないとみんな死ぬって。それにルーンさんはこのガラス球を自由に使っていいって俺に言ったし周りにはバレないんだろ? 将来の事は後々考えるとして今この状況を打開できるんならそれにすがるしかねえよ。あいにく俺は魔物に親を殺されたりとかないから嫌悪感は人よりもないしな。そもそも来てから一年しか経ってないし」
『答えになっているのかよくわかりませんが詳しいことはまた後で話しましょう。さぁ私に名を』
「名前?」
『主君であるあなたが私に名前を与えて契約完了です。さあ早く』
「じゃあバグ・・・」
『バグハンドは嫌ですよ。なんか嫌いですその呼ばれ方』
「そ、そっか・・・じゃあ」
改めてその姿をまじまじと見る。
液体の中の本体は水色のシャチのような風貌にに使わないその真っ赤な瞳。
シャチ、は安直すぎるしけど確か英語では・・・
「オルカ」
『・・・まあいいでしょう。その名をいただきます』
『これで私とあなたは運命共同体です』




