57. 助太刀
やばい。かなりやばい。
後ろでひそかに作っていた土魔法も防がれ、またも全身を拘束魔法で縛られてしまった。
しかも今回は魔法の実在しない何かで縛られているので切るという概念が存在しないうえに全身のやけどに染みるのも相まって正直もう限界だ。
「はぁ、もう終わりかよつまんねえ。そんじゃあサクッとお前の魔法をもらってフェニクス家に戻るとするか。どうにも憑りつかれているいまのグルフっておっさんとワイルドブレイブは相性よさそうだからな。思わぬ儲けものだぜ」
「・・・そのままエルサやカイムさんも殺す気か・・・」
「まだしゃべれんのかよ頑丈な奴だな。まぁまだ生きてたら魔法を奪ってとんずらするし、死んでてももういいや。お前の魔法で正直今はお腹いっぱいだしな。謎が多すぎるんだよお前の魔法」
「そうだな・・・。結局俺も分からずじまいだったよ・・・。どうして・・・俺がこんな力をもってるのか・・・どうしてこの世界に来たのか・・・」
「意味わかんねえな、ついに頭がイかれたか? もういい、おれが早く葬ってやる」
そういい剣の切っ先を俺の心臓に向ける。
「こんなところで終わりとはな・・・。ゲームにないもんだし仕方ねえよな・・・」
覚悟を決めたその時、俺の耳に風に乗って誰かの声が聞こえたような気がした。
「なんだよ・・・走馬灯の声バージョンか・・・?」
最後の気まぐれで俺はその風に耳を傾けてみることにした。
「・・・キ、ユーキ、助けて・・・」
・・・エルサ? エルサの声だ。
遥かに遠くにいるはずだから多分これは本当のエルサの声ではないだろう。
おそらく限界を迎えた俺の幻聴に過ぎないのはわかっている。
でも、それでもあきらめていた俺の心に僅かな原動力を与えるには十分だった。
「エ、エルサ・・・? ・・・っがぁああああああ! 死んで、たまるか!!!!」
「おわっ! び、びっくりしたなおい。でももう叫んでも無駄だぜ。もうその腕じゃあ神話の拒絶ってのも発動できねえだろ!! あばよ!」
最後の力を振り絞って反抗しようとはしたがやつの容赦ない切っ先は俺めがけて一直線に振り下ろされる。
・・・・ここまでか
「その心意気見事だ、成瀬! 」
また最後に誰かの声と魔法が爆発する音が聞こえた気がした。
その声は走馬灯のように聞こえた何かよりは大きかったものの、もう無理だと確信して目を閉じ剣を受け入れる準備はしたのだが一向に刺さらない。
恐る恐る目を開けてみると目の前にはもうあの男はいなかった。しかも拘束魔法も解けている。
自由になった俺はあたりを見渡してみると摸擬戦場の入り口付近には見たことのある二人が、ゆっくりと俺のもとへ近づいてきているのが見える。あの身長、あの髪の色は間違いない。
ルーンさんと、アリアさんだ。
「よく耐えた成瀬。あとは私に任せろ」
「ふふっ、よかったですね、生徒会に入っていて。ああいいですよ無理に体を起こさなくて。今治してあげますね」
「ルーンさん? アリア会長・・? ど、どうしてここに・・・?」
今の俺には頼もしすぎて女神に見える二人が俺に向かって笑顔で返してくれた。
*****
「なんだお前ら? っておまえは国軍の3番隊隊長 フォルゴレ・ルーンじゃねえか。・・・何でここが分かった? 一応結界は張っておいたんだが?」
「私はカイム・フェニクスから『成瀬夕貴という少年がなにものかに襲われ抗争中なので応援に入ってくれ』と連絡が入ったから来たまでだ。じゃあ次はこっちに答えてもらう。お前は何者だ?」
「おれか? おれは・・・」
「ルーンさん!! そいつはワイルドブレイブの一人です!! 俺を殺すのが目標らしい!」
ワイルドブレイブについてルーンさんが知っているかどうか知らないがとりあえず伝えてみることにした。
アリア会長のおかげで大声出せるくらいには回復してきたし。
「ワイルドブレイブ? ・・・あぁあのならず者集団の事か。まさかただの一般人を殺そうとするとはお前らも堕ちたものだな」
「はぁっ!? 何言ってんだ! そいつはただの一般人なんかじゃねえよ!!」
「この国にいるすべての善良な市民は一般人だ。お前のようなものとは違ってな。まぁいい、さっさとおまえを倒して組織の事を洗いざらい吐いてもらうとしよう」
「・・・まぁいいぜ、お前になんか負けるわけねえからな。・・・もう一つ聞きたいんだがどうしてここが分かった? 魔力探知阻害の結界に引っかからなかったのか?」
「それは簡単なことですよ。ここにいる私の奴隷・・・じゃなかった、私の後輩には逃げないように携帯電話に発信機能を付けているんです。だから魔法でも何でもありません、ただの機械です」
・・・今会長俺の事奴隷って言ったか?
ていうか携帯に発信機能!? いつの間にそんなことを!?
おれのプライバシーは!?
「いつの間にっていう顔してますね。当たり前じゃないですか。それにあなた基本無防備ですからチャンスはいくらでもありましたよ。ほら、生徒会室でイチャイチャしてるときに・・・」
「いちゃいちゃって・・・、他に言い方があるでしょうが!!!」
「・・・お前たち、学校で不順異性交遊は控えるようにな」
「そ、そんなことやってません!!!!!」
「成瀬君、顔真っ赤ですよ」
「会長は黙っててください!!!」
もう何なんだこの人は・・・。
ただ張りつめていた空気が柔らかくなっているのも確かだ。
「ふっ、まぁいい。ちょうど私たちもこの連休に親戚で集まっていたからすぐに成瀬の位置を知ることができたよ。聞きたいことはそれだけか?」
「あぁ、もういいや。雑魚が何人増えても変わんねえしな!! ダークブラスター!!」
「ほう? なら期待しようか。私の攻撃に耐えれるか? 電光石火」
光と闇の魔法が正面からぶつかり空気が震える。
「成瀬君はまだ動かないでください。かなりひどいやけどですからこれ」
「あ、はい・・・」
「全く、無理をしますねあなた。・・・・にしてもどんな炎魔法で焼かれたらこんな風にになるんですか」
「あ、えーと、自分の魔法です」
「・・・は? え、ば、馬鹿なのですか? なんで自分の魔法でケガするんですか?」
「俺も分かんないです・・・」
やっぱり普通の魔法は発動者に当たっても害はないみたいだ。
「俺の魔法固有のデメリットってことか・・・」
「なんか言いましたか?」
「いえ」
こうして意図せずして三対一の勝負が始まった。
と思ったのだが、それはすぐに決着がついた。
それは俺の怪我がアリアさんが治せる限界まで来た時だった。
「こんなものか。たくさんの属性の魔法を使えるみたいだがどれも中途半端だ。成瀬のほうが数倍厄介だ」
「がはっ、やっぱり国軍のお偉いさんは伊達じゃねえな・・・。半端じゃねえわ」
「口の割に大したことない男だ。そんなもので国に歯向かおうとは愚かな考えだな」
「・・・・・そうだよ、俺らは愚かだ。・・・だがな、自覚してる愚か者よりも怖いものはないと思うぜ。だって失うものがないんだからな」
「お前にだって失ったら困るものならあるのではないか? 家族、友人、金、そして仲間」
「はっ! 仲間がい失ったら困るものなら今頃おれの仲間が助けに来てくれてると思わないか? そういう事だ。俺らは何も恐れない」
「そうか、じゃあこれから耐え難い拷問が待ってると思うからそれを恐れるんだな」
「恐れないって言っただろ? それは魔物相手でも変わらねえよ」
男がフラッと立ち上がる。その目はもうどこを見てるのか俺にはわからない。
「そこのガキにはいったがこれは魔物を素材にして作ってんだ。それでも魔物のスキルがまだ継続してるのっておかしいって思わないか?」
「そういう事もあるのではないか? ただ今ここでそう私たちに伝えたということは・・・」
「その通りだ。はっ、こんなのここで使うつもりはなかったんだがな。まぁいいだろう。国への牽制も込めて使わせてもらうとするか」
「させるかっ!!!」
男が剣の切っ先を自分に向ける、と同時にルーンさんも男目掛けて駆け出したが、それを防ぐように青色の突風が吹き抜けて小さな竜巻がいくつもできる。
それは男の周りをぐるぐると廻り、何人も寄せ付けない壁と化した。
「きゃぁああああ! な、何なのこの風!!! 成瀬さん知ってます!? というかスカートが捲れちゃいます!! 見ないでくださいね成瀬さん!!」
「知らないです!!! てかそんなことどうでもいいでしょう!! ルーンさん大丈夫ですか!」
「ど、どうでもいいですって!!!」
「ああ、もうめんどくさい!!!」
「な、んだこれは!!!」
「はははははは! 都会暮らしの嬢ちゃんどもは知らねえだろうなぁ! 何でも昔の魔法らしいぜ!」
「おのれ、逃げる気か!!!」
「逃げる? 俺がそんなことするかよ。さっきの話聞いてなかったのか? 俺は魔物をも恐れないってな」
男が自分に向けていた切っ先をそのまま一直線に心臓に突き刺す。
「ぐおああああああああああああ!!!!」
男が突き刺した刀は持ち主の血を吸い、その魔力を増長させていく。
やがてその全体を黒い霧のようなものが覆いついにはこちらからは見えなくなってしまった。
ドクン
「あ、あの時と同じ感覚だ・・・」
「あの時・・・ですか? っ! それってもしかして!!!」
「はい、新人戦の時と同じ・・・!!! ルーンさんそこから離れてください!! あの野郎やりやがった!!!!」
「くっ、くっ、くっ、やりやがったとはひどい言い草だね。ただ無事憑依は完了したよ。さぁ、俺の力におびえろ」
いやらしい男の声が会場内に響いた。




