56.助けて
「次の当主だが・・・カイムにすることにした」
雷雨と暴風が吹き荒れるとある日、私(俺)たちお父様の部屋に呼び出されこう告げられた。
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雷が落ちた同時に頭が真っ白になる。
私ではなく、カイムが選ばれた・・・?
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嬉しい。
他属性のものと結婚するという事。そしてそれは大きなハンデになることはわかっていた。
だがこうしてお父様に認められたということはすなわちフェニクス家に認められたという事。
ヴェルの存在がフェニクス家に認められたということだ。
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意味が分からない。
なぜカイムが選ばれた? 私はこれまでフェニクス家のしきたりに、考えに基づき行動してきた。
カイムが他属性のものと結婚するなぞ私は全く歓迎はしていなかった。
ただ私が当主になる確率が非常に高くなったから喜んでいただけだ。あんなものフェニクス家の恥だ。
そしてそんなやつを選んだカイムも。
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何故このタイミングでお父様がこう告げたかはわからないが、俺の野望が実現したのは間違いない。
これからは新しいフェニクス家にしていこう。薪から蘇る不死鳥がごとく、ヴェルと一緒に。
古かった伝統も 今の時代にあったものにしていくべきだ。
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実力で劣っていたのは認めよう。
それでも、それでも変えてはいけない誇りではなかったのか?
不死鳥の炎は純真な穢れなきものではなかったのか!?
フェニクス家の誇りとはそんなものだったのか!?
「なにか、反論はあるかグルフよ?」
無言でカイムをにらみつけていた私にお父様が話しかける。
「反論しか、ありません。何故私ではなくカイムなのですか?」
「その言い方は自分が選ばれると思っていた口ぶりだな」
「と、当然です!! だってカイムは他属性の女に絆され、しまいには婚姻の儀すら結んだのですよ!? こんなやつ当主どころかフェニクス家からも勘当されるべきです!!!」
「そうか・・・。グルフもそういう考えであったか・・・。私はな、伝統は変えていくべきだと思っている」
この時まで私は知らなかった。お父様もそっち側だということを。
「私も若いころ、他の属性の娘と恋に落ちてな、その時は薪密院のやつらにひどいことをされたものだ。だから私は結局今の妻と結婚し、伝統通りのフェニクス家当主の道を歩んできた。だが、カイムとヴェルを見ていると、ふつふつと昔の負の感情が湧き出てしまった。私は・・・逃げたんだカイム。しきたりから、薪密院の圧力から。だがお前なら変えれる。変えてみせよ」
「はい!!! このカイム、必ずやお父様の未練を晴らします」
「ちょ、ちょっと待ってくださいお父様!!! ならば私はカイムの改革の礎になれというのですか!?」
「そうではない。私はこの世の中には変えられるものと、変えられないものの二つがあると思う。カイム、お前には変えられるものを変える勇気を、そしてグルフ、お前には変えられないものを受け入れる冷静さを、そしてお前たち兄弟3人でその二つを見極める知識を考えを、育てていってほしい。なにも当主だからだとか当主じゃないからだとかは関係ない。たとえ当主しか加護を得られないとしてもその知識は誰でも育てていける。だから私はお前たち三人でフェニクス家を変えていってほしい。だからこそ私はカイムを当主に選んだ。すべてを変える一歩を知らしめるために」
「グルフ兄さんも今までのフェニクス家に疑問を持つことは多かったんじゃないのですか? 結局領地を治めたり、王国の意見を聞いたりして改革するのは薪密院の人たちだ。俺らはただその力を求められているだけだった。でもそんなのおかしいだろ。フェニクス家は俺たちなんだ、あんな老害どもに好きなようにされていていいのですか!!」
「グルフにいさま、僕はまだ15才だからよくわからないけど、兄弟の仲が悪いのはかなしいことだと思います。みんなで足りないところは補っていけばいいんじゃないのですか? 兄弟なんですから」
「ロット・・・そうか。・・・・お父様、私たちにそんな変えていく力はあるのでしょうか・・・?」
「お前ら一人一人じゃ無理であろう。でも三人ならできるはずだ。私がかなえられなかった、変えれなかったものをお前たちに、任せたい・・・、ゴフッ」
「お父様・・・もしかしてこのタイミングで告げたということはもうお体に限界が来ているのですか?」
「ああ、もう長くはもたない。だからこそお前たちに託す。だがカイム、薪密院は思っている以上に凶悪で強い。そしてお前もただでは済まないはずだ」
「覚悟はできてます。というか、ヴェルを選んだ時点でもう恐怖なんて捨て置いてきました」
「そうか・・・。私も何が正解かわからない。だからお前たちの信じるがままに生きろ。話は以上だ、カイムはここに残れ」
こうして私はこの日、三人以外の誰かに明かすでもなくお父様の座を引き継ぎ次期当主となった。
そしてこの数か月後にエルサが誕生した。
それと同時にほかの者たち、そして王国にも報告して私は晴れて次期当主となった。
この時まだ父上は生きていたがね。
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「エルサ、君は昔『生まれた時から出来損ないのレッテルを張られてきた』と私に言ったことがあるね。でもそれは違う。少なくとも君が誕生したときは一部のものを除いて喜んでくれていた。それは私のお父様も例外ではなかったよ。君は革命の象徴だったから」
「私が・・・革命の象徴・・・?」
「ああ。だからヴェルも私も心から君を愛していたし、周りの目も温かいものだったはずだ。それでも、それでも今こうなってしまったのは、お父様がなくなってから半年が過ぎた時、私が28歳、そしてエルサが3歳だった時だ」
「・・・エルサ、お前の母親は薪密院のやつらに殺されたんだ」
「・・・・・え?」
「あっはっはっはは、そうだ、そうだカイム!! お前は何かを変えるどころかいろんなものを失ったなぁ! エルサ、お前がなんで自分の過去を間違えて記憶していたと思う? それはだなぁ!」
「グルフ兄さんは黙ってろ」
右手に爆炎を集めていやらしい顔を浮かべる兄に向かて放つ。
奴は避けることも防御することもしなかったが傷一つ負っていないようだった。
それでも口は閉じた。
「エルサ、君は記憶を自分で改ざんしている。何故なら君は母親の、ヴェルの死を一番近くで見ていたからだ。ヴェルは君を抱きしめて守るようにして・・・死んだ。その時のショックで君は記憶を改ざんしたんだ。現に君の記憶の中で君の母親は死んだことになっていないだろう? ・・・それから私は薪密院のものとある約束をした。娘を殺さない代わりにいないものとして扱え、と。だからと言って許されることではないのはわかっているが信じてくれ・・・・、私は、ヴェルはお前を愛している・・・不甲斐ない父親を許してくれ・・・」
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ズキン
頭が痛い。思考がまとまらない。
それでも涙は容赦なく溢れてくる。
あまりの痛さに足が震えて立てなくなり呼吸が苦しくなり座り込む。
今までのお父様の行動は嘘? 信じていいの?
「エルサ、カイムが言ったことはおおむね本当だ。だとしたらお前の憎むべき本当の相手は誰かわかるよな? 私? いや違う、だとしたら薪密院? いやそれも違うよなぁ! だってここのカイムがいらないことをしなければこんなことになっていないもんな!! あの女を取ったんならおとなしく隠居でもしていればよかったのに強欲にも当主になんかなろうとしたからだ!!! 苦しかったよなぁ、悲しかったよなぁ、だっていないものとして扱われてたもんなぁ!! あっはっははは!!! お前の人生狂わせたのも、母親を奪ったのもぜーんぶお前の父親なんだよ!!!」
もうわからない、何が真実で何が嘘なのか。
自分の記憶のどこまでが正しいのか。
痛い、痛い、痛い。
確かにずっと疑問だった。
私の記憶の片隅にはいつだってお父様、お母さま、そして私が笑いあう風景があったから。
だからこそお父様の私に対する態度がつらかった。
「お前を守るためだったんだエルサ!」
「お前の人生狂わせたのは父親なんだよ!!!」
わからない、わからない。
助けて・・・ユーキ・・・。
今回のセリフではニーバーの祈りを引用しています。自分の好きな言葉です。




