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55.すべての原点②

周りに残っていた魔物数体を倒したところでようやく俺はしっかりとその少女に向き合った。

髪は美しい水色の長髪で何より特徴的だったのは蒼色に輝くその瞳だった。

普段フェニクス家で過ごしていた俺はその綺麗な輝きに強烈に惹かれてしまった。


「本当にありがとうございます。私一人では厳しかったかもしれません」

「いや、礼には及ばないよ。君の名前は?」

「私はヴェルです。こっちの妹はノルンっていいます。あなたは?」

「俺はカイム・フェニクスだ。まぁ聞いてわかるだろうがフェニクス家の一人だ。国からの要請が来て駆け付けたところだ。間に合ってよかった」

「フェニクス家? なら貴族様じゃないですか。申し訳ございません、言葉がちょっと砕けていたかもしれません」

「いやいい、というか貴族だからていうのは嫌いだからむしろ崩して話してほしい。ところでヴェル、ここは君の故郷なのか?」

「はい。なので急に魔物の襲撃を受けてもう何事かわかっていない状況です。そもそもここは商人の町なのでそんなに腕が立つ人とかがいるわけでもありませんでしたし」

「でも君のあの防御魔法は中々だったよ。そんなただの村人ができるものじゃあない気がするけど。というか口調を崩さないんだね」

「ごめんなさい、これが普通なので。あと結界魔法の事ですが、腕が立つ人はいない中で私たちの家系が唯一この街で風魔法を使えたので今まで防御の方は私たちが頑張っていたのですが・・・、力及ばなかったみたいです」

「そんなことない! 君がいなかったら・・・」


グギャバァアアアアア!!!


突然空中から得体のしれないもののうめき声が聞こえた。

魔物だ。しかも今そいつが戦っている相手が出しているのは何度も見たことのある炎。


間違いない。あの魔物がこの襲撃の親玉だ。

「っ! すまないヴェル!! 応援に行ってくる!!!」

「でしたら私も行きます!」


そういって俺が背中から羽をはやして魔物に向かうとヴェルも全身に風魔法を張り巡らせて後ろについてきた。

どうやら彼女も魔法を発動したようで背後から突風が押し寄せてくる。

その風は魔法独特の色を持っており、目で見えるものだった。


背後を振り返りついてくるなと言おうとしたが、彼女が纏っているのは俺が見たことのある緑色の風魔法ではなく、例えるなら空の青さと同じ色の風を身にまとっていたため無意識に口が閉じてしまった。


綺麗だ。


そんな言葉が不意に口から洩れそうだったから。


「どうしたのですかカイム様? 私の魔法のどこかおかしいですか?」

「い、いや、その青色の風魔法を初めて見たから」

「確かにこの色は一昔前らしいですけど・・・、こちらのほうが良い利点もあるんですよ」

「そうなのか・・・」


後から聞いた話によると、俺が見たことがあった風魔法は他国魔法である緑色ないし無色の風魔法が俺たちの国で発展したものであることが判明した。

昔は青色が主流だったらしいが王都ではこっちのほうが手軽で強力という理由で鞍替えされており、そもそも俺は風魔法が苦手だったのも相まって学園でも青色の風魔法なんて学んだことがなかったから知らなかった。


要約すると青色の風魔法は田舎で使われている発展前の魔法だということだ。

それでも、青色の風に、まるでそよ風のような風に包まれている彼女は本当にきれいだった。

第三者が見れば、初めて見たものに興味を持ったから、とか侯爵家であるフェニクス家に近づく女性が少なく経験が少なかったから、というかもしれない。

もしそうだとしても、俺はあの時の風を絶対忘れることはない。


魔物が発動した魔法を防御したときに靡く美しい水色の髪、俺よりも大人びているその立ち振る舞い。

そして俺と話している時に輝くその綺麗な蒼い瞳。

今まで俺は猪突猛進を掲げて戦ってきたから、誰かに魔法で守ってもらいながら、援護されながら戦うという感覚はむずがゆかったけど、心地よかった。

まるで、優しい風に包まれているような、そんな感覚だった。



これが18歳のカイムが初めて経験した、一目ぼれだった。




******


「この度は本当にありがとうございました!」


この街で一番のお偉いさんであろう人が俺ら三人と軍の人たちに向かって頭を下げる。

それもそうだろう。今回の襲撃による死者はなんとゼロ人であったからだ。

もちろんけが人は少なからずいたが、それでも死者がいないというのは大快挙と言えよう。


「いえ、私たちは私たちの責務を全うしたまで。それにしても、私たちは到着が少し遅れたと思ったのだが、それまでは誰かが戦っていたのか?」


父上がそのお偉いさんに向かって話しかける。が、俺は多分その答えを知っている。


「それはですね・・・」

「あのヴェルって女性の家族が結界魔法を張っていたからじゃないですか?」

「! し、知っているのですか!?」

「先ほど会いまして。現に俺も助けられましたし」

「カイムが言っていることは本当なのか?」

「え、ええ。この街は数年前に彼女たち一家がフラッと訪れるや否や結界魔法を張ってくれてそれからはこの街が魔物の襲来におびえることはなくなりました。どうやら今回はそれを壊すほどの魔物が襲ってみたいですが時間は十分に稼いでくれたようで、フェニクス様の協力も相まって事態はこんなに軽く収まりました」

「そ、そうなんですか・・・。すごいなぁ」


「ヴェル? あぁあの助太刀に入ってくれたあの女性か。で? カイムはその女性に惚れたりしたのか?」

「ぶっ!?」


あまりにも藪から棒にお父様が変なことを言うもんだから口からいろいろなものが出る。

色々なものといっても唾と息しか出なかったけど。


「お、お父様!? な、何を言い出すのですか急に!!?」

「お、カイムそれはいいな。兄さんとしてそれは応援するぞ」

「グルフ兄様まで!? そそそそんなことありません!!!」

「前からお前は女性に興味があるのか不安になる節が多々あったからな・・・、いや別にそういうのを否定しているわけではないが男同士では世継ぎが生まれないではないか」

「お父様!!! そ、そっちの節は大丈夫です・・・」

「そっちの? じゃあこっちはどうなんだ? お前はすぐに顔に出るからな。その女性について聞いている時のお前の顔は何とも嬉しそうであったぞ。戦っている時も息ぴったりで見ていてほほえましかったし」


「いや、その・・・」

「ふっ、まぁいい。では私たちは王都に戻って報告してくる。これからもこの街のことを頼んだぞ」

「は、はい! ありがとうございました!!」


そういうお偉いさんに背を向け俺らは空を舞った。

お偉いさんの名前は覚えれなかったけど、あの人の名前はもう頭から離れない。


「ヴェル・・・、ヴェルか・・・」


こうして俺らは夕焼けの中空を飛び、王都へと向かった。




*****


あれから一年間の俺の猛アタックの末、ついにヴェルとお付き合いできることになった。

何故一年かかったかというと、単純に俺は学生だったしそう毎度毎度彼女のいる街まで行くわけにはいかなかったからというのもあるが単純に


「私なんかが侯爵家の方とお付き合いするわけにはいきません」


と振られ続けたからだ。

まぁそうだろう。誰が何と言おうと身分の差は明らかだし、加えて私は次期当主候補だからもうお父様とグルフ兄さんを除いた親族からは非難の嵐だった。

もともとフェニクス家は火魔法の適合者としか結婚しないという暗黙の了解があったのもあり、それはもうひどいものだった。


だが私は若く、そして浅はかだった。

このころの私は私が当主になればそんなもの変えられると思っていたから深く考えてはおらず、当主もヴェルのどっちもあきらめるつもりはなかった。

周りからは冷たい目で見られ、想い人には振り向いてもらえない。

そんな日々が長いこと続いたのだがそれはある日突然終わることとなった。


この一年の私の猛アタックに遂にヴェルが折れて私とお付き合いしてくれることになったのだ。


そして私は愚直ゆえにすぐに周りに報告した。

もともと顔見知りだった父上は歓迎してくれたし、兄さんも「これで当主は私のものだ・・・!」と喜んでくれた。もちろん「当主を譲る気はありません」と言っておいたが。

周りからの評価はもはや言うまでもないだろう。


それでも私は逆らい続けた。

しきたりに、身分差に、歴史に。


こうした中で意外だったのが、割と若い人たちには認められたということだ。

まぁ中には当主になるわけないからいいだろうと言う人もいたであろうが、それでも徐々にだが「そういうのもあっていいんじゃないか?」という雰囲気がフェニクス家内で広がってきたのだった。

ここにきて、フェニクス家のしきたりを疑うものが増えてきたのだ。

また、ヴェルの人柄がそうさせたともいえよう。


薪密院のものたちは断固反対し続けていたが。



こうして付き合い始めて結婚を視野に入れ始めたころにヴェルには王都にある私たちの本殿、まぁ今のこの家だ。に移ってもらうことになった私には、いろいろな不安があった。


他のものからの嫌がらせや僻み、などなど数えきれないほどの要素はあったけど、それでも私は当主と彼女を諦めることは出来なかった。


もちろん他属性のしかも平民と付き合っていると公表した後からは馬車馬のごとく働いたし、ヴェルも応援してくれた。

そのかいもあってか知らないが、二人で住むようになっても特にこれといった変化はなかったといえよう。


そして私が22歳、ヴェルが23歳の時に私たちはつつましくも挙式した。

やはり反対するものが多く、ひそかに行ったほうが良いという判断のもとだった。

これに関しても、賛成してくれたのは父上とグルフ兄さんだけだった。だが、半ば強引に押し切ったが何の後悔もなかった。


それからの日々は本当に充実しておりすべての景色が華やいで見えていた。

だんだんとだが異属性婚に賛同してくれるものも増えてきてすべてが追い風になっているようにさえ感じていた。


あの日までは。


あれはーー、確か私が25歳のときであった。

突然私とグルフ兄さん、そしてロットがお父様の部屋に呼ばれた時の事だ。

風が強く庭の木々が靡く音が部屋に向かう中に聞こえ、部屋の窓から見えた雨空を私は今でも覚えている。



「次の当主だが・・・カイムにすることにした」


そう父上が言った直後、家の近くに雷が落ち、俺らを白く照らした。

その雷は、俺とグルフ兄さまの大切な何かを切り裂いた。



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