52.油断
右手がいつもより熱い。
多分いつもより強く刀を握り締めているからだろう、集中を切らせば激痛が走るに違いない。
それでも、その力を弱めることができなかった。
その真っ赤に燃え盛る刀をやつ目掛けて振りかざすが、やつは全身に風魔法を纏っているらしくひょいひょいと躱されてしまう。
日も沈み夜になったこの場所で俺の炎だけがまばゆい光を放ちながら躍動する。
「本当にすごい熱量ですネ・・・。当たったら一溜りもないでしょウ」
「じゃあ、これでどうだっ! 炎舞一ノ太刀 閃火」
宙に浮く奴めがけて白く輝く刀を振るう。
本来、人には打たないと決めていたこの魔法だが目の前のこいつには打っていいと何となく本能的に感じたため容赦なく放つ。
「これは流石にヤバイですネ・・・。 暗黒物質」
が、その刀身から出た炎は奴のもとへと届く前に消え去ってしまった。
「どうです僕のコレクションはハ? なかなか個性的でしょウ」
「なら接近戦ならどうだ!!!」
そう言って真っ赤に燃え盛る炎の渦を纏いながら刀を振るうがやつが作り出す風に乗り炎は靡いてしまう。
「ほらほら、もっと楽しませてくださイ! 電光石火」
「なっ! ぐはぁ!!!」
接近戦を持ちかけた俺に対し、もう何回か見たことのある魔法をまとったやつが目にもとまらぬ速さで俺の懐に入り腹へと重い蹴りを入れてくる。
間違いなくこの魔法は電光石火だ。
その証拠に未だなお奴の周りにパチパチと電流が走っている。
「もっと、もっとでス! 早く立ってください!」
「こんの野郎・・・!」
と刀をさらに強く握りしめた時だった。
ジュゥウウウウ・・・。
と焼ける音がした。
なんだ? 何が焼けている?
と音のする方を探している時だった。
「おや? あなたの右腕、大変なことになっていますヨ???」
奴の声のままに俺の右腕に目をやると今まで大して気にならなかったはずのやけどが目に入る。
刀から出る炎は容赦なく俺の腕を焦がし、燃えるための燃料としていた。
怒りに若干我を忘れ、自分の炎の動きに細心の注意を払わなかった代償が今目の前で払われていた。
「がぁああああああああああ!!」
反射的に刀を投げ捨てカグツチを解き右手を抑えるが激痛が走る。
普通に炎に腕を突っ込んだ時のような生々しいやけど跡が腕に刻まれていた。
熱い、熱い、熱い、痛い・・・。
「はぁーっ、はっ! はっ!」
そうだ、俺の魔法は完璧なんかじゃない。完全に忘れていた。
デメリットがあまりに多い、いわくつきの魔法ということを。
「おや・・・? あなたの魔法はただただ最強というわけではなさそうですネ。それ相応のデメリットがあるといえましょうか、それもまた面白いですガ。・・・む? どうやらパーティーの参加者たちが一斉に逃げているようですネ。邪魔されてもしゃくなので場所を移すとしましょウ。なに、あなたがよく知っている場所ですヨ。それに『魔法を奪う』際には誰かに見られるわけにはいかないのデ」
「どういうことだ・・・? ちょっ!」
そういったやつの背後には大きなブラックホールのようなものが出現していた。
それは少し離れた俺をも吸い込んでいき俺は抵抗出来ることなく吸収されてしまった。
「転移魔法 ワープゲートでス」
「なっ! く、くそ・・・」
次に目を開いた時、俺はあの新人戦の会場であったアドミラ学園の摸擬戦場の中にいた。
*****
ワープゲートから無造作にはじき出された俺は新人戦の時とは違いただただこおり広大な何もない空間が広がっているだけの摸擬戦場の床を転がった。
立ち上がろうとするが右腕の激痛により体勢を崩し何とか膝立ちするのが精いっぱいだ。
「な、なんでここに?」
「ここはわたしが貴方に初めて会ったところでス。この時間でしたら誰もいないと判断したのでここにしましタ。それでは続きをしましょうか・・・って言ってももうあなたは満身創痍ですガ」
「・・・・・」
右手の激痛のせいで思考がまとまらない。
「どうやら移動するまでもなかったみたいですネ。それではあなたの魔法をもらうとしましょうカ」
「まだだ・・・、まだ終わってない! 氷帝の憂い」
俺の言葉とともに腰辺りから氷が広がっていきあっという間に辺りの床を氷で埋め尽くした。
立膝になっている俺はわざと氷を首下まで伸ばし、焼け焦げて使い物にならない右手を無理やり冷やすことにしたがこれで完全に動けなくなったのも確かだ。
「な、なんだこレ! くっ!」
足元が急に氷で覆われ、やつは反射的に全身を風魔法で覆い、宙に浮いた。
判断はやはりいいらしい。
だがそれによって隙が生まれたのも確かだ。
「広がれ・・・・、もっと広がれ・・・!」
何もないこの空間を覆うように可能な限り氷のフィールドを張り巡らせていく。
あっという間に俺を中心として巨大な円を描くように氷の大地ができていき、それはやがて壁まで達する。
「これはやばそうですネ・・・。早めに殺させてもらいまス!」
「もう遅い。突き上げろ!!!」
俺の叫び声に呼応し、頭に思い描いたところの地面から氷の刃が次々と突き出していく。
さらに後方からは氷の竜を、左右からは氷の両腕を創り出して奴めがけて振り下ろす。
「おもしろい、面白いですよ貴方!! 炎刃!」
「そんなもんで砕けると思うな!!!!」
全身い風をまといひらひらと俺の氷の刃をよけ、圧縮した熱風で氷の腕を、竜を切り裂きながらこちらに近づこうとするやつであったが、こっちはあの魔物討伐部隊の炎魔法でも溶けない氷だ。
付け焼刃のやつの魔法に負けるほどやわじゃあない。
「なっ・・・! 僕の魔法がはじかれタ!?」
奴が処理しきれなかった氷の刃に直撃して体勢を崩したのを俺は見逃さなかった。
「そのまま一緒に砕け散れ!!!!!」
奴めがけて巨大な氷の拳を叩きつけた。
「がはっ・・・! こんの野郎・・・・・」
氷飛沫があがったその場から飛び出すように宙を舞い距離をとろうとしたようだったが、この摸擬戦場はもう俺のものだ。
壁も含めてな。
「突き出ろ!!!」
今度は左右横の壁から氷の刃が奴めがけて降り注ぐ。
なんてことはない。氷のフィールドが壁際まで言ったからそのまま壁まで伸ばしただけだ。
その数本は奴の体を削り、血が滴る。
「あぁああああ! もうこざかしい!!!!」
なんとか急所は紙一重で避けたようではあったがもちろんこっちもその間何もしていなかったわけではない。
「いけ氷竜。やつをかみ砕け」
奴めがけて一対の双竜が我先にと首を伸ばして食いついていく。
「もう許さん・・・。真・闇の火柱」
が、やつを中心として闇魔法の最高峰ともいえる火柱が立ち上り氷の竜は奇しくも砕かれていく。
それでもこっちはすぐ元に戻るから問題はないし、やつは多少なりとも反動ダメージを負ったみたいだ。
そしてさっきの拍子で奴の仮面がぼろぼろと砕ける。
あらわになったその顔は見たこともない、普通の青年の顔だった。
「くそっ、仮面が・・・」
「あなたは本当に何者なんだ? 顔があらわになったけど見たことない」
「そりゃあ見たことがあったら大問題ですしね・・・。でも僕の顔を見たことは重罪ですよ。あぁ、上になんて言われるかわかったもんじゃない」
「大問題? ってことはあなたは盗賊団かなんかってこと?」
「もうここまで来たら言いますけど、大方其れであってますよ。僕は“ワイルドブレイブ”っていう組織の一人です」
聞いたことがない。
どうやら本当に俺の知らない物語が着々と進んでいるようだ。
「ふぅーーーー。しょうがねえ、お前に俺が何者なのか教えてやるよ。時間稼ぎも含めてな」




