51.向かう理由
「グルフさん、僕も協力いたします」
そういって私たちの攻撃を受けてもなお立っていた青年が口を開く。
『解放されて腕が鈍っていたとはいえ我の攻撃をかわすとは・・・。何者だこいつ?』
「おい、お前は何者だ? 薪密院のものではないのか?」
「ええ、ちょっと事情があって潜り込んでいたいわばスパイみたいなもんです」
「お前の目的はなんだ? なぜフェニクス家に潜り込んでいた?」
「僕にはほしいものがあったので潜入して奪おうとしていただけです。長い年月かかりましたけど、どうやらチャンスが巡ってきたようなのでここで一勝負かけようかと思いまして」
「お前の欲しいものはなんだ? 返答によっては殺すが?」
「本当はカイム様の『生まれた時の炎』を奪うために潜入してたのですが・・・、思わぬ収穫があったので路線変更しようかなと思いまして」
「ぐだぐだ長い。早く言え。炎が目的ではないのなら何が目的なのだ?」
「パズズ様・・・でしたっけ? あなた言ってましたよね『規格外のやばいのがいる』って。僕はそいつに用があるんです。そいつを俺に任せてくれませんか? 悪い話じゃないと思うのですが」
『こいつ・・・。我の声が聞こえているのか?』
「もしかしてお前は人の心が読めるのか? 私は口に出していないはずだが。・・・お前は何者だ? なぜその規格外を狙う? お前は人間か?」
「もちろん人間ですとも。それに心が読めているわけではありません。ただ、魔物の声が聴くことができるのです。もっと言えば私は魔法の盗賊でして、殺した相手の魔法を使えるようになるのです。 だからその規格外の少年を殺して・・・はぁあああ! そうすればあの魔法が僕に・・・!!」
『どうやらこいつは我らには無害らしいな。好きにやらせておけ』
「・・・・・私の狙いはカイムと、その娘だけだ。勝手にしろ。ただ邪魔するなら問答無用で殺す」
「ふふっ、わかりました。ありがとうございます」
そう言ってその青年は丁寧に頭を下げる。
次に振り返るともうその青年はいなかった。
「おい、その規格外とやらはそんなにすごいのか?」
『あぁ。だがあの男もなかなかのやり手だぞ。どうなるか楽しみだ。じゃあ我らも行こうとするか』
「力が、力があふれてくる・・・。待っていろカイム・・・。お前を殺して私が・・・」
「この国のルールになってやる」
******
・・・今俺の目の前にいるのは誰だ?
仮面をかぶっていて素顔はわからないけど髪は赤色じゃないからおそらくフェニクス家のヒトではないだろう。服も奇抜で足には下駄をはき、着物のようなものを羽織っている。洋式風のフェニクス家には似合わない服装だ。
それにこの人俺の魔法を奪うとか言っていたしな。
「というか、俺が何者か知っているの?」
「もちろんでス。あの新人戦で見るにも奇怪な魔法を使っていた・・・確か成瀬という少年ですよネ。お初にお目に書かれて光栄でス」
「なんで俺だってわかったんだ? 一応髪と目は赤くしてるんだけど」
「あぁ、そういうことでしたら簡単な話でス。この前の新人戦の会場ですれ違いざまちょっとあなたに魔法をかけさせてもらってたので近くに居ればわかるようになってたのでス。まさかこんな早くに遭遇できるとは思ってませんでしたけど。運がいいようですね僕ハ!」
「そんな魔法初めて聞いたんだけど・・・。そんなのあったんだね」
「ええ、昔にちょっとその手に強い人から奪わせてもらったのデ」
「そう、あなたがさっきから言ってるその奪うってどういう事?」
「ふふ、もう隠す必要もないので言いますけど、今僕が持ってるこの刀ありますよね? 僕はこの刀を使って殺した相手の魔法を奪えるんでス。まぁこのこの刀を使えるのは組織の中でも僕だけですけどネ」
「なっ!」
いや、そんなの知らない。ゲームにもそんなものなかったしこんなやつも見たことがない。
どうやら俺がシナリオに関わったことで通常ならエンカウントしないやつと遭遇してしまったみたいだ。
奴が今言った組織というのにも聞き覚えがないし、恐らく関わってはいけない何かなのかもしれない。
今は日もくれ夕暮れ時、春の寒さをまとった風が俺ら二人の間をすり抜ける。
その風は俺らしかいない庭の草をかすかに揺らす。
空にまだ残っている沈みかけの太陽は男が掲げた中央が紫色に光る刃の残りの部分を赤色に染め上げている。
やばい。
さっきまで感じていた悪寒とはまた違う、得体の知れなさによる恐怖がじわじわとしみてくる。
いままでは何かしらで経験したことがある敵ばっかりだったけどこいつは本当に初見だ。
しかも負けたら即ゲームオーバーの。
話している最中も容赦なく俺の身を焦がす『カグツチ』をいったん解除し男に向き直る。
普通に気づかなかったがカグツチによって俺の周りの草は燃え、服も一部分焦げていた。右手は言うまでもない。
「ふふ、いい顔してますネ。恐怖と覚悟が入り混じったような、そんな顔でス。でも安心してください、あなたが死んでもあなたの魔法は僕の中で生き続けますかラ。それに今頃、当主様たちのところにはあの魔人さんたちがいっているところでしょうから僕とあなたの戦いは誰にも邪魔されなイ」
「やっぱり・・・、魔人を普通に召喚したんだね。服従という形ではなく」
「なんだかそうみたいですネ。多分あれにはいくらフェニクス家現当主でも勝てないと思いますヨ」
「ならあなたを無視して援護に向かえばいいだけだ。失礼するよ」
「おやおや、僕とは戦う気はないのですカ?」
「あぁ、君と戦っている間もエルサたちは魔人と戦っているんだろう? ならそっちに向かうのが当然だろう」
「つまり、僕とは戦う理由がないト」
「だってあなたに殺されたら魔法を奪われるんだろう? それにたぶんあなたと魔人は協力していないみたいだし、向こうと戦いながらならあなたも巻き沿いになるかもしれないからそっちのほうが好都合だしね」
「エルサ様の母親を手にかけたのが私だと知ってもですカ?」
「・・・・・は?」
確かに、ずっと疑問だった。
エルサの母親を殺したのが薪密院のトップのヒトなら殺人罪あたりで訴えればよかった。
でも今までそれをできなかったということは・・・。
その証拠すら残さない、暗殺者あたりに頼めばよかっただけだ。
「今でもはっきりと覚えていますヨ。まだ幼いエルサ様を必死に守って、死んでいったあの女性ヲ。あの人の散りざまは本当に美しかっタ・・・」
「神話の拒絶」
先ほど戻した刀をもう一度召喚する。
爆炎があたりを包みその温度を急上昇させる。
波打つ炎は生き物のようにうねり、照準をただ一つに絞る。目の前の、たったいま憎むべき敵に昇格したこの男に。
「お前が全ての元凶か・・・!」
「ふふ、やっと本気になったようですネ。ただ一つ語弊があるようですけど、すべての元凶は僕ではなくてエルサ様の母親にあると思いますヨ」
「どういうことだ?」
「それは僕に勝てたら教えてあげましょウ。いいじゃないですか交換条件でス、僕が勝ったらあなたの魔法をもらえるしあなたが勝てば真相に迫る情報をもらえル。いいじゃないですカ」
「この短時間であなたに聞きたいことがたくさん増えた。 あんたをぶっ倒す!!」
左手で今までつけていたウィッグとカラーコンタクトを外して目の前の男に刀を向ける。
「ふふ。さぁ、見せてくださイ!!! あなたの奇術ヲ!! そして見て驚きなさい、僕のコレクションを!!! あなたもその一部にして差し上げましょウ!!」
エルサの母親を殺したこいつを俺は許さない。
たとえどんな理由があったとしても。
******
一歩、また一歩と踏み出す。
行先はもちろんあいつがいるところ。
私よりも遅く生まれたはずなのに私より優れていたあいつ。
お前を追い抜くために今まで私は血のにじむような努力をしてきた。
それでも一度たりともお前に勝つことはできなかった。剣術でも魔法でも。
当時のお前は今とは違い情熱的でその目は活気に満ちていて、野望を持ち、短絡的だった。
それでもお前は家のしきたりに、ルールに反した行動をするような奴ではなかったはずだ。
あの日までは、あの女と会うまでは。
あの日を境にしてお前はことあるごとに「俺がこの家を、この国を変えてやる」というようになったな。
確かにあの後からだんだんと古くからのしきたりを疑問に思うものも増えていった。
そしてそばにはいつもあの女がいたな。
それでも内心私はほくそ笑んでいたよ。
いままでの当主でほかの属性のものと結ばれた者はいなかったから、お前じゃなく私がなれるもんだと思っていたよ。
父上が次期当主にお前を選ぶまでは。
お前の好きなように、信じるがままに生きよと父上は言っていたな。
お前もお前でこれからすべてを変えていくと意気込んでいたな。
私は何度も何度も父上に直訴しにいたよ。
だが父上はただの一度として私の考えに首を縦に振らなかった。
どうしてだか私には全く理解できなかった。
お前に対しても何度も強く当たったな。
それでもお前は私の思いを真摯に受け止め、真っ向からぶつかってくれたな。
いつからか意地の張り合いになって言葉も少なくなっていってしまったが。
・・・そんな中で私も少しずつであるがお前の考えに賛同できそうではあったよ。
言葉にしてお前に伝えることはできなかったが。
だが実際はどうだった?
父上が死んで残ったのはカイムの妻の亡骸とその娘を消さんともくろむ老害どもだけだったよな。
強いものが正義?
お前は何も守れなかったんだ。妻も娘も。
私もその時悟ったよ。歴史を変えるのは無理だって、流れに逆らわず生きていくのが賢明だって。
そうすれば諦めていた夢へのチャンスが舞い戻ってくるって。
現に薪密院の計らいによって私に、私の息子にチャンスが巡ってきたな。
やっと私の時代が来たと思ったよ。
そして私とゲイルは今までと何ら変わらない当主になろうとしていたよ。
薪密院に従って、国に従って生きてく。
そうすれば当主になるとはいかなくても、息子に当主を継がせるという私の野望はかなったから。
だがお前はフェニクス家を終わらせるといった。
ただ一人の娘を守るために。
たしかにあのまま私の息子に譲ったとしても薪密院のやつらに娘は殺されていただろう。
お前の娘は歴史の流れに逆らった象徴だからな。
だが、お前のその決断は私たちの犠牲の上に成り立っているのだ。
この決断は私たちに対する復讐のつもりか?
これは当時のお前の望んだ改革なのか?
フェニクス家を変えると意気込んでいたあの熱い炎のような情熱を持った青年はどこに言った?
もういなくなったんだろう? 燃え尽きたんだろう?
結局娘を人質に取られて何もできなかったじゃないか。
だから無に戻す? ふざけるな。
ならば私が立ち上がろう。
力がなくて何もできず従うだけだった今までとは違い、不死鳥の加護なんかに頼らなくても強大な力がある今は。
お前らの礎となる前に、強大な力をもってして私が歴史を変えてやろう。
こんなフェニクス家という小さな領域のみならず、直接国を変えてやろう。
魔人との契約が悪? そんなもの私が王になれば正義になる。
そして今の私にはそれができる力がある。
『そうだ、お前と我で世界を変えてやろうではないか』
その手始めにまずカイム、お前の屍を踏み台にさせてもらう。
お前を倒してようやく私はスタートラインに立てる。
お前ができなかったことを私がやってやる。
『行くぞグルフ。我の力存分に使うがいい!!!』
其れこそがお前に対する生まれて初めての完全勝利になる。




