50.ひずみ
時は少しさかのぼり、カイム・フェニクスがあの宣言をした少しあとの話。
足早に去っていたカイムさんを追いかけ、俺は今カイムさんの部屋にいた。
今ここにはカイムさん、エルサ、エマさんそして俺がいる。
「お父様・・・、もう何が何だかわかりません。全部説明していただいてもよろしいですか?」
「すまない、全部終わってから説明するからもうしばらくは待っていてほしい」
「ユーキは知っているの?」
やっべ、急にこっちに振られた。
取りあえずは答えてよさそうなところだけかいつまんで喋るか。
「ま、まぁある程度までは。結論から言うといま薪密院の人たちやグルフさんたちと対立してるってところかな。俺らが勝ったらフェニクス家はすべての権利と領土を返納したうえで隠居生活が送れるようになるし、俺らが負けたら次期当主は多分グルフさんあたりになって薪密院はそのまま残って俺らは殺されるんじゃないか」
「・・・・私たちの勝つ条件はなんなの? 向こうの皆殺し?」
「ちょっと違うな。私たちの勝つ条件は3日後まで生き残る+おそらく向こうが使ってくるであろう魔人との契約を反逆罪として国王に届けることだ。そうすれば薪密院のやつらを根こそぎ牢屋にぶち込むことができる。逆に敗北条件は私たちが殺される+私の炎の瓶を奪われること。炎の瓶はしきたりでこの館からは出すことはできないから事実上戦場はここに限られるね」
「ま、魔人!? なんでそんなものが薪密院の人たちに!?」
「昔、フェニクス家がとある魔人を討伐したときに魔人との契約印、いや封印というべきか。まあそんなものが残されてね。それを薪密院のやつらに奪われてそのままだったんだ。おそらく奴らは使ってくる」
「そ、それは大丈夫なんですか? その、決着がついた後に暴れたりはしないのですか?」
「ああ、それは大丈夫なはずだ。その契約印はたしか服従契約のはずだし、向こうがちゃんと手順を踏めば懐柔できるだろう。それでも強力であることには変わりないし、魔人と契約を結んだって事実は覆らない」
「つまりは俺らに向かってくる奴らを全員ぶったおせばいいんだ。好きだろうこういうの」
「そういうことだね」
「にいさま!!!!! これはいったいどういうことですか!?」
おれらが話していると勢いよくドアが開く。扉の向こうにはフェニクス家特有の髪と目を持つ青年が息を切らせながらドアに手をかけていた。
「ロット!! ・・・よくここが分かったね。魔力遮断結界を何重にも欠けていたんだけど」
ロット・フェニクス
カイムさんとグルフさんの弟にして国でもかなり有名な剣豪だ。
当主引継ぎの際はまだロットさんは子供だったため候補に挙がらなかったらしいがかなりの実力者だ。
ただ本人はその実力ゆえ国軍に所属しており、家に居ないことのほうが多いらしいからこの先も当主の候補には上がらないらしいけど。
そしてルーンさんと同様精鋭部隊の2番隊隊長であり、エルサをアドミラ学園に推薦したのはこの人である。
「ここからにいさまの匂いがしたんです。ってそんなことより、フェニクス家を終わらせるってあまりに急すぎませんか!!!」
「急だったのは済まない。ただこうするしかなかったんだ」
「急とかそんな問題じゃないですよ!! もっと相談してくれたらいい案が出たかもしれないのに・・・。たぶんエルサちゃん繋がりですよね?」
「まぁ、そうだね。ロットは反対かな?」
「反対といいますか・・・。ちゃんとした理由がこちらはわかっていないから訳が分からないという感じですね。多分ほかの人もそうだと思います」
「ですから、多分ことが大きく動くのは向こうがあれを使った後かと」
「あれ? 初めて嗅ぐ匂いの使用人さんだね。それにこの場にいるなんてよっぽど信用されてるんだね」
「すみません出過ぎた真似を・・・」
「あぁ、そんな意味じゃないよ!! それにしてもあれってなんのことだい?」
カイムさんの方に目配せをすると首を縦に振っていたため話すことにする。
「魔人の契約印です」
「・・・・・・そんなものがあるのか。それで? 向こうがそれを使ってくると」
「多分そうです」
「それの安全性は? ほかの一般人に被害が出たりはしないんですか?」
「多分大丈夫だと思う。それにエマにはかなり強力な結界を張らせておく」
「まかせてください」
カイムさんとエマさんがそういうとロットさんは黙り込んでしまった。
「ロット、君はどっちにつくんだい? 目的が分かってないこちらか、危ない橋を渡ろうとしている向こうか」
「いえ、どちらにしろ先ほど軍から緊急要請が入りましてもう戻らないといけないのでどちらかにつくことはできません。ただ、もし用事が早く終わって帰ってこれたときは・・・・・、いえ、帰ってくるまでに考えておきます」
「そうか、わかった」
「それでは失礼します」
そう言って嵐のように過ぎ去っていってしまった。
「お父様、やはり今聞くことはできないでしょうか? どうしても、どうしても気になるのです。お父様がなぜ急に解体すると言い出したのかも、どれが本当のお父様の行動なのかも」
「俺もそう思います。もう話してもいいんじゃないですか? 薪密院のヒトたちとは完全に決別しちゃってますし」
「私もそう思います」
ここにいるカイムさん以外の3人に結託され、覚悟を決めたように天を仰ぐ。
ようやく、この二人のわだかまりが解けるのかもしれない。
こんな形にはなってしまったが、カイムさんはカイムさんでエルサを守るために自分を抑え込んできたしエルサもそれに耐えてきたはずだ。
おそらく敵はグルフさん、その息子のゲイルさん、あとは薪密院の人たちは戦うか知らないけど、彼らが呼んだ魔人。そもそも魔人がいる時点でそんな簡単な戦いではない。
今こそ団結してグルフさんたちに立ち向かうチャンスだ。
意を決したように顔をこちらに向け、静かに口を開く。
「エルサ、実は君の母親は・・・」
カイムさんがそこまで言った時だった。
ただならぬ邪悪な気配が全身を駆け巡り、背筋、足、首全てを硬直させるほどの悪寒が俺を支配したのは。
あまりの気味の悪さにそれの発生源である方向を反射的に向く。
それはエルサやカイムさんも同じようでさっきまでの和解ムードはどこかに消え去りただならぬ緊張が場を包む。
いや、それだけではない。
実際に目の前の空間が少しひずみ、立っているのもやっとになっていく。
俺は、いや俺たちはこの感覚を最近味わったことがある。
「ユ、ユーキ・・・これって・・・」
「うん、バグハンドの時と同じだ」
どうやら向こうはちゃんとした手順を踏まずに、
・・・魔人を蘇らせてしまったらしい。
「な、なんてことだ・・・。いったい何を考えているんだあいつらは!!!!」
カイムさんの悲しき叫びが部屋の中に響き渡った。
*****
冷汗が流れる。もうこの世界に来て幾度となく経験してきたことだがそれでもやはりなれないものだ。
一歩、また一歩とその悪寒の発生源がこちらに近づいてきているのが分かる。
俺はいつでも魔法を発動できるように構えて集中力を切らさないようにする。
「とりあえず話はあとみたいですね」
「成瀬君・・・。本当に無関係な君をこんなことに巻き込んでしまって済まない」
「いえ、俺は誰にも言えない秘密があります。ただ、その秘密が今俺がこうやって戦う理由になっているのでそこは遠慮しないでください」
秘密・・・。
もともと俺はこの世界にいない人だ。そもそも一回死んでいる。
こんな強力な魔法たちを持ていること自体がおかしい。
ならばその魔法を俺の好きなように使ってもいいじゃないか。たとえそれが俺の身を焼き尽くすようなものであっても。それでも俺はエルサを守りたい。主人公になりたい。
主人公になりたい。
「っ!! 窓側から誰かが来ます!! こ、これはグルフ様ではありません!!」
エマさんが大声でそう叫んだと同時に結界の割れる音がしてその何者かは俺めがけて飛んでくる。
「くっ、な、何だお前は!!!」
そのまま俺は突き飛ばされるように窓側に押し出されて宙を舞う。何者かも一緒に空を舞っている。
「くそ、なんだってんだ!!! 神話の拒絶!」
燃え盛る炎の刀を召喚しその出現時の爆風で何とか体制を持ち直してフェニクス家の庭に下り立つ。
そもそもカイムさんの部屋は二階だったからそのまま落ちても致命傷にはならなかったが。
「いやいや、やはりすごい魔法ですねそレ」
「・・・あなたは誰ですか? 見たところフェニクス家のひとじゃなさそうですけど」
「僕? 僕は、そうだな・・・・。君の魔法を奪うものサ」




