41.新たなフラグ
病室内の空気がぴりついている。
この空気を醸し出しているのは目の前の金髪の女性に他ならない。
「お待たせしましたー! ってなんか今ものすごい空気ですね」
そんな空気の中この場にはふさわしくないお気楽な声とともにまたもや病室のドアが開き駆け足で女性がってくる。学園長だ。
「学園長も来たから報告もかねていろいろ話をしようか。まずは学園長からどうぞ」
「わかりました。じゃあまずは私から」
そう言ってカバンからメガネと書類を取り出し眺めながら口を開く。
「今回の事件、そうですね『新人戦魔物襲撃事件』とでも名付けましょうか。まあその事件における報告から始めます。結論から言いますと今回の事件で死者はゼロ、摸擬戦場の一部システムは破壊されてしまいましたがそこまで深刻ではありませんし結果だけ見ると最高の結果になりました」
「え、本当ですか!? みんなやったよ!!」
「ただ、・・・」
結果を聞き感嘆の声を上げた俺の声はすぐに学園長にかき消されてしまった。
「・・・あなたたちが今回とった行動は決して褒められるものではない、と私は思っています。成瀬くん、何のことを言っているのかわかりますよね?」
「・・・・・腕輪を壊して脱出できる可能性をつぶしたこと・・・」
「そうです。魔物が現れたタイミングで摸擬戦場の外部にいた私たちは中に入れなくなってあなたたちも強制送還できなくなりましたがダメージによる転移は腕輪が正常に動く限り機能し続けることはフロイド学園の生徒で見てわかってましたよね? あの時外には国軍の人たちがたくさんいましたし、進んで自分の命を危険にさらすことは指導者である私としては許容できません」
「でもあの魔物は時間とともにどんどん成長していって・・・」
「だとしてもです。こっちとしてはもう少し大人を信じてほしかったです。もし腕輪を付けていて、あなたたち全員が転移したらあの魔物はおそらく会場をぶち破って外に出ていたでしょう。そうしたら恐らく被害は今よりももっと出でいましたし、こんな結果にはなっていなかったと思います。ただあの魔物の相手は軍の人達になっていたでしょうしあなたたちはおそらくこんなボロボロにはなっていないでしょう。・・・本当は言いたくなかったのですが若干の戒めも込めて皆さんの状況を共有させていただきます」
「ちょっとまって下さい! 学園長の言い方ですと私たちがしたことは無駄だったようにしか聞こえないのですが」
「無駄とは言っていません。ただあなたたちの判断はあまりにも若く、危うすぎました。もちろん一個人としてはもう感謝の念しかありません。これは本当です。ただ指導者として、教師としては許すわけにはいかないんです。わかってください」
そう言って頭を下げる学園長を見て俺らは何も言い返すことができなかった。
「リラ・ククルカンさん、頭部の打撲と肋骨の骨折。エルサ・フェニクスさん、腹部の刺し傷による内蔵損傷。柊さん、一部内臓破裂と鎖骨の骨折。東雲弘人さん、右足の骨折。成瀬夕貴君、右腕の複雑骨折、肋骨骨折、頭部の打撲。成瀬レイさん、全身の打ち身と右腕に大きな刺し傷。どうやらその傷は消えないみたいです」
「なっ! どういうことだ!? っ!痛っ!」
思わず叫んでしまいどうやら折れていたらしい肋骨のあたりに鈍い痛みがはしる。だが今はそんなことどうでもよい。
「レイ? い、いつの間にそんな傷を・・・」
「お前が魔物に叩きつけられてから氷魔法を出すまでの間にお前を守って負った傷だ」
「東雲さん!? ・・・・・別に気にしないでください。こんなのただの傷です」
「そんな・・・・」
弘人の口から衝撃の事実が告げられる。どうあがいたってレイは右手に傷を負うみたいだがその原因が俺であったことに絶望する。ああ、右腕の怪我の位置までゲームと一緒じゃないか。そして俺のせいなのか。
「以上が今回あなたたちが魔物討伐と引き換えに負ったものです。これを踏まえてもう少し、今回の事を考えていただける幸いです。それとですが、今回の事件、特にあの巨大な魔物については一般報道されません。世間体としては新人戦中に魔物が現れ、生徒たちは全員転移して国軍がすべてを討伐したとして報道されています。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいですがどうか理解のほど宜しくお願い致します。私からは以上です」
「私からは特にいう事はない。まあもう少し私たちを信じてほしかった。といったところだ。ただ指導者でもない私はお前たちの行動は勇気ある、素晴らしいものだと思うし言葉にできる。本当にありがとう。お前たちによってこの国は救われた」
そう言って深く頭を下げるルーンさん。
俺らもつられて軽く会釈をする。
「ただどうやらルールはルールらしい。ですよね学園長?」
「え、ええ。まあ上からの指示もありまして皆さんは全員1週間の停学になりました。どのみち入院し続けるでしょうからほとんど意味がありませんがね。あといまはこうしてまとまった部屋にいますが成瀬君が
目覚めたので皆さん個室に移動させてもらいます。回復した人から学校に戻るという形になりますね。あともちろん親御さんには報告させていただいてますし、病院でも面談のみ許可させていただいてるので把握よろしくお願いします。何か質問はありますか?・・・無いようなのでこれで終わりにします」
いつものようにマシンガンのようにしゃべる学園長だがさっきまでのようなエネルギッシュ感はない。
「では私たちはこれで失礼します。あとはここの職員の人の指示に従ってください」
そういって二人の女性は出て行ってしまった。
*****
病室から出て長い廊下をルーンと一緒に歩いていく。
病室を出た瞬間どっと疲れが来て歩くのも億劫になってしまう
「はあ、・・・ルーンありがとう」
「何のことですか?」
「あの子たちを認めてあげたことよ。あの子たちがもしかしたら・・・なんて願ってたのは私もなのに言葉してはいけないから・・・。こういう時本当役職っていやになるわ。だってあの子たちは世間からも特に認められたりしないのよ? 周りではあの子たちがやってないことになっているから」
「あの子たちも分かってくれるんじゃないですか?」
「そうだといいわね・・・」
大切な生徒が活躍するのはうれしいけど傷つく姿を見るのはそれ以上につらい。
さらにその努力が世間に公表されないと来た。
私もある程度は反抗したが今のこの現状で限界であったのも確かだ。
「今度は必ず・・・」
私もこの失敗を胸に強く生きていくことを誓った。
*****
「まあ世間的に公表されないのはわかっていましたし、というか考えれば当たり前のことなので仕方はないですね」
ルーンさんたちが出て行った後、一番最初に口を開いたのはレイだった。
「レイ・・・」
「兄さんは傷の事を気にしないでください。これは私が自分の判断で負ったものですし、私にもう少し技術があれば防げたものです。だから私のせいみたいなものです」
「それでも俺を守って傷ついたんだろう? 俺のせいだ」
「はぁ、じゃあ兄さんが責任を取ってくれるんですか? キズモノになった私を」
「当たり前だ俺が責任を取る」
「っ! い、いえ結構です! その、これは、私としては傷とか関わらず・・・」
「どうしたレイ?俺がお前をずっと守ってやる。どんな奴が敵でもだ」
「・・・ああ、そういう事ですか。いえ、そっちも大丈夫です」
赤らめていた顔が突然真顔になり冷たい目に変わる。あれ俺今なんかやったか?
「今のは夕貴が悪いと思うぞ」
「えっ? 俺?」
「まあどのみちこんな傷をダシにするのは嫌ですからね」
「なんかよくわからないけど、俺がレイを守るから。絶対に」
「そうですね。期待しておきます」
あの日、雷魔法を初めて使った後に心に誓ったことを思い出す。
俺はこの命を引き換えにしてでも彼女を守る。
「そういえばなんかエルサがえらい静かだな。エルサ?」
レイとの会話を終え、先ほどから会話に一切入ってこなかったエルサを不審に思いエルサのベッドのほうに近づいていく。彼女はベッドで上体だけ起こしずっとぶつぶつ言いながら布団を眺めていた。
「私は強い、必要とされる、必要とされなきゃ、必要とされてる? 私は強い・・・」
「エルサ? どうしたエルサ?」
「っ!」
俺の声にハッとしたのかうつむいていたい顔を一瞬だけこっちに向けてから顔を背けまたこちらに振り替える。そのかをはいつものような顔だった。
「ああ、ごめんねちょっとボーとしてて! でも大丈夫だよ! お腹も大分痛みが取れてきたし退院間近ってやつ?」
「たぶんエルサは1,2を争う遅さだと思うぞ。怪我的に。まあ大丈夫そうならよかった」
「うん! 心配してくれてありがとう!!」
エルサとの会話を終え、背を向けて自分のベッドに歩いていく。
・・・最初に話しかけた時のあの目、うつろでどこを見てるのかわからない目を俺は見逃さなかった。
左右で違う色をしていた目を。
「もうそのイベントが来ようとしてるのかよ・・・」
だれにも聞こえないような小さな声で俺はそう呟いた。




