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40. 最後の選択

・・・

・・・・・・


「おい聞いてくれよサトル! 俺遂ににあのバグハンド倒したんだぜ!」

「ああそうかよ。ってぇえええお前すげえなまじかよ! おま、それすんげえことだぞ! だってまだあの有名な実況者だって倒せてないって噂が広がってるし相当だぞ」

「へへーんすげえだろ! まあ失ってはいけないものを失った代償ってところだな!!」

「何失ったんだよ?」

「睡眠時間とテストの点数と親の評価」

「そんなこったろうと思ったけどな。でも〇✕△◇はゲームやってなくてもテストの点数低いだろ」

「うっせえな! そういうサトルも俺と大差ないだろ。この前のテスト合計点10点しか違わねえぞ」

「たかが10点、されど10点ってところだな。まあ俺の高みには貴様では到達できないということだ、ふはははは!」



いま頭の中で流れるこの記憶はなんだ?

俺は確かバグハンドと戦って・・・。

戦った? ゲームで? 

いや実際にあいつはいた。あいつをぶん殴ったときに右腕に走った激痛はまだ覚えている。

ということはいま頭で流れるこの記憶は前世の記憶?

・・・〇✕△◇。

思い出せないのは俺の名前?


体がふわふわして無重力みたいな感じだ。ただ眼は開かない。

意識を深く沈めればまた違う前世の記憶が頭をめぐる。

親しかった級友と話している場面、ゲームを無心でしている場面、親とケンカしている場面・・・。


あぁそうか。俺、母さんよりも先に死んじゃったのか。

申し訳ないことしたな・・・。親より先に死ぬのは一番の親不孝だっていうしケンカばっかりの毎日だたけど毎日温かいご飯を作ってくれてたまに一緒に笑いあって・・・。


こっちの世界でももちろんレイや義母さんが温かく接してくれたし友達もたくさん増えたけど失っちゃいけないものも失って今ここにいるんだな。


・・・・・死にたくなかったな。

ゲームの世界に来れたのはもちろんうれしかったし心も躍ったけど、大切なものを失うくらいなら元の日常が良かったかもしれない。俺はいつでも傍観者で脇役で主人公にはなれなくて物語の、でも脇役なりに充実した生活を送って・・・。

そんな感じが俺には一番だったのかもな。



目を閉じているからわからないけど頬を何かが伝う。

はは、俺この世界に来て泣いてばかりだな。

力が使いこなせなくて心が折れて、勉強が分からなくてめそめそ泣いて。


やっぱり俺は主人公になんかなれなかったんだ。




・・・それでも今の俺、成瀬夕貴には守らないきゃいけないものがたくさんあるじゃないか。

俺に向いている向いていない、主人公も脇役も関係ない守らなきゃいけない笑顔が。そして守れるだけの強さが。



「兄さん!! 兄さん!! 起きてください兄さん!!」


「〇✕△◇! 今日帰ったら一緒にマルチプレイしようぜ。今回はシュンスケも一緒にやるってよ」

「おかえり〇✕△◇。晩御飯もうで来てるわよ」


左右から声がする。さっきまで開かなかった目が嘘のように開き、ふわふわしていた足もいつの間にか地に足を付けている。


その左右には一つずつ光がある。左からは女子の泣き叫ぶ声、右からは男子とちょっと年が言った女の人の声。


ここが最後の分岐点、まだやり直せる最後のセーブ&ロードなのかもしれない。

もし今目の前にゲームのコマンドのようなものが見えるとしたらこんな感じであろう。



―― 最後の選択です。あなたはどちらを選びますか?


→事故で死ぬ前の世界に戻る。

  転生したゲーム世界に戻る。



どうしてこのタイミングでなぜこのような形で今のような状況になったのかはわからないが、転生した俺に全部の最上級魔法を使えるようにしてくれるような世界だ。何があっても不思議ではない。



ただ俺はもうどっちに行くのか決まっている。

俺が目指す方向の光に体を向け眺める。



「ごめんサトル、母さん・・・。俺には守らなくちゃいけない人があまりにも増えすぎちゃったんだ。もう俺はそっちの世界には戻れない・・・。今までありがとう、さようなら」


頬を流れる涙をぬぐいながら右の光に背を向けて左の光へと向かって歩く。


「・・・いいってことよ。お前のような奴と友達になれたことが俺の人生で今のところ唯一誇れるところだ! 前向いて歩いていけ!! またいつか一緒にゲームしようぜ!」


「いいのよ〇✕△キ、・・・和樹。あなたの信じるままに、あなたが生きたいように生きて。あなたが私の子だってことは変わらないのだから。生まれてきてくれてありがとう。・・・最後に会えてよかったわ」


もう後ろは振り向かない。

パリンッという音とともに後ろの空間が割れ、今いる世界が崩壊していく。


「あ・・・ありがとう。大好きなみんな・・・・」

震える声で紡いだその言葉は崩れていく世界に虚しく響いた。



*****



「兄さん!? 兄さん!! よかった眼を覚まして・・・。ぐすっ、一時は心肺停止までいって・・・、どれだけ私を心配させるのですか・・・」


ゆっくりと目を開けるとそこにはあの激戦を戦い抜いた6人の仲間たちが心配そうにこちらを覗いていた。レイと柊さんに関しては涙まで流している。


「ああ、戻ってこれたのか・・・。ごめんみんな心配かけて」

「本当にねユーキ!! 心配しすぎて心臓が飛び出そうだったよー!」

「ユーキが私より先に死ぬのは・・・許さない」

「まったく、お前が一番死にかけてどうするんだ」


どうやら6人まとめてこの病室にぶち込まれているみたいだ。

ベッドは6つあり、みんな病院着を着ている。

けがの程度は様々だが多分一番ひどいのは俺なんだろう。右手は包帯でぐるぐる巻きだし頭は包帯だらけだ。

柊さんは輸血パックみたいなのを可動式点滴みたいなやつで括り付けてるしリラは頭に包帯がぐるぐる巻きだ。レイは腕と足に包帯を巻いてるしエルサは動けないみたいでベッドから立つそぶりもない。

弘人はというとなんでか知らないが足を包帯で固定してり松葉づえを使って歩いている。お前足負傷してたっけ。



「まあでもこうしてみんなでまた笑えたってことは大勝利で終わったってことかな!!!」

「そんなわけあるか馬鹿者」


俺が声高らかと勝利宣言をしたと同時に病室のドアが勢いよく開く。


「え!? ル、ルーンさん!?」

「成瀬の状態が危ないと聞いたからすぐさまきてやったが元気そうで何よりだ、成瀬。ただまぁ言いたいことは山ほどあるがな」


目が。目がめっちゃ怒ってるんですけど。青筋までたってるし。せっかくの美人が台無しですよルーンさん。


どうやらいまからは長い長い説教タイムになりそうだ。







*******


時間と空間を超えて別の世界。


「行ってきまーす!! っとそうだ忘れてた!! お兄ちゃん行ってくるね!!」

そう言って仏壇の前で両手を合わせる制服姿の娘の由紀。

かれこれ1年前に息子の和樹をなくして冷え込んでいた家族もようやく温かみを戻してきた。


「あれ? お母さんどうしたの? 今日なんか嬉しそうな顔してるじゃん」

「ふふ、なんか今日はものすごくいい夢が見れたの。和樹と最後の別れをしてきたわ」

「お兄ちゃんと? んーまぁ小さい子守るために道路に飛び出すような正義感満載だったからひと声くらいはかけに来るかもしれないね。あ、もうこんな時間!!もう行くね!!」


そういい元気よく扉を開けて出て行ってしまい部屋がまた平穏を取り戻す。


「・・・姿は見えなかったけど確かにあの声は和樹の声だったわ。あなたはやっぱりどこにいってもかわらないのね。頑張りなさいよ」


『あ・・・ありがとう。大好きなみんな・・・・』

意識が覚醒する前に最後に響いた声がまだ耳にへばりついて離れない。


ありがとう、最愛の息子。私も大好きよ。



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