39.最後の一ピース
何も見えていない。何が起こっているのかもわからない。
ただこの体を覆うひんやりとした感覚は間違いなく俺の氷魔法だ。
流石にここまで大げさに魔法を出したら向こうも反応するだろうと思っていると案の定バグハンドがこちらへ向かってきているようだ。
「兄さん!正面から敵が行きます!!」
その声を信じ前方に氷の竜を出す。俺には見えていない。
「避けられました!そのまま曲がって左手の方です!!あと逆からは瓦礫の塊が飛んできてます防御壁を!!」
先ほど出した氷の竜を左に曲げるイメージをする。そして地面からまた氷壁を出す
一応頭は動くみたいだ。
先ほどまで全身に砕けるような痛みが走り意識もぼんやりとしていたが氷の冷たさのおかげである程度に気ならない程度にはなっている。一切体を動かすことはできないが。
その後もレイの指示通りに氷を発動させ動かす。
頭が落ち着いてきて氷のフィールドも広がってきたためもう一体氷の竜を出し操っていく。
だがレイやエルサたちがどこにいるかわからない以上下手に広げすぎるわけにはいかない。
その間も今この状態の俺があいつに唯一勝てる策の準備をしていく。
・・・今まで俺の魔法を一番見てきたお前なら俺がやろうとしてることが分かるはずだ。
指示は頼んだぞ、レイ。
*****
「東雲さんはフェニクスさんとリラさんを安全なところに避難させてあげてください。兄さんの魔法に巻き込まれます」
「あ、ああ・・・わかった。それにしてもさっきまであの怪物俺らにしか意識がなかったのに急に成瀬を集中攻撃し始めたな」
「おそらく兄さんにやられた一発を相当根に持ってるんでしょう。先ほどよりも攻撃が雑になっていますしこう、理性がないように見えます。瓦礫を回収するのもやめましたし」
「よいしょっと。ふう、確かあっちのほうにあの結界の女の子もいるんだろう?あっちのほうに持っていくな」
「お願いします。・・・兄さん次は足のほうから地面を抉るように来てます!!周りの地面をさらに凍らせてください!!」
そのあと二人をビルの中に運んでいき元の位置に戻ってくるとまださっきと同じようなことをやっていた。
変わったところと言ったら先ほどまで成瀬(兄)の周りの地面が円状に凍っていてそこから2体の氷の竜が出ているだけだったがいまは氷が成瀬を中心としてお椀のような、花弁のようなに高さをもって広がっていた。
魔物のほうも何かに警戒して遠くのほうから遠距離で攻撃する方針に変えたみたいだがもうぼろぼろになっている魔物の遠距離攻撃は成瀬の氷の壁を中々砕けないようだ。
そして下手に近づこうとすれば下の氷のフィールドから氷が出現して動きを制限する。
地面が氷で固まってしまえばあいつもうまいこと魔法を使えないし中々有利に進んでいるんじゃないか?
「いまどういう状況だ?なんか魔物のほうがいら立ってきてないか?」
「ええ、もうあそこまで行けば時間の問題です。多分そろそろ我慢できなくなって・・・ほら行きました!!兄さん真上に向かっています!!!」
先ほどから兄さんにちまちまと戦われ、気付いた時には大きな氷の壁が作られていて上だけが開いている。
魔物自身もかなり消耗させられてもうあまり派手なことはできない。そもそもあれだけ大量の一般魔物を召喚しておいてさらにあの後あれだけ動けるなんて本当どうかしてます。
それに先ほどあの魔物が致命傷を負わされたのは兄さんの上からの強力な一撃。
あの魔物が兄さんを殺すためにとる手段として選ぶのは一つしかありませんよね。
「真上、来ます!!!」
*****
「真上、来ます!!!」
やっとか。やっと来やがったな化け物め。
本当はもっと早くこの魔法で仕留められたらよかったんだが、こいつは発動までの予備動作が若干長いし逃げられる可能性も、そもそも発動前に吹き飛ばされて俺にだけ当たるっていう可能性があったから使うに使えなかった。
だが今のやつは苛立ちと怒りで若干我を忘れてるみたいだし、氷の壁で逃げにくいようにしたから多分大丈夫だろう。
頭上に巨大な何かが迫ってくるような風の音がする。
恐らく俺がさっきあいつにやったように、あいつも握りこぶし作って俺に叩き込もうとしてるんじゃないか?多分そうだよな。
もはや言葉が発せれているかわからないがこの時だけ口が動いた気がした。
「これで終わりだ・・・。一緒に地獄に落ちろ!!!雷神の怒り」
戦場に咲き誇る花のような氷目掛けて空から巨大な雷が落ちる。
その雷は可憐な花を軽々しく砕き地面を割る。俺を覆っていた氷ごとだ。
光に遅れて爆音が戦場を木霊する。
俺の上空に位置していたバグハンドもその例外ではなく上空で何かがはじける音がした。
そしていつもと似たような感覚が俺の全身を駆け抜けた。
・・・が、いつもと違い意識は手放さなかった。
バグハンドにある程度相殺されたからなのか、魔法自体にもう威力がなかったのかはわからない。
ただもう俺は本当に一歩も動けないが。
トラロークの衝撃で俺の氷魔法はすべて弾け俺を縛るものは何もなくなったもののもはや動く気力も体力もなかった。
ただアドレナリンのおかげか先ほどまで機能してなかった視力と喉だけは回復してきた気がする。
「レイ・・・?無事か・・・?」
俺の口から出たのは消え入りそうな声だったがそれでもある程度の距離までは届いたはずだ。だが返事はない。
「弘人は・・・?どこにいる?」
なにも反応がない。ただ少しづつ爆音にやられてキーンとなっていた耳に、炎が燃える音が入ってきた。
まさかさっきバグハンドが爆発して吹き飛ばされたのか・・?
そう思ったとたん腕が反射的に動き左手だけで上半身だけ起き上がることができた。
そこに見えたのは燃える大地と更地になった街だったはずの何かだ。
多分ここが爆心地だったから俺にはあまり被害がなかったけどあいつらは巻き込まれたのかもしれない。
必死に体を起こそうとしたがもう左手が限界を迎えたようでまた崩れ落ち地面に伏してしまった。
・・・そうだ、バグハンドはどうなった・・・?
地に伏したまま目だけ開けるとそこにはいた。
真っ赤に光る球体が。
「なっ・・・・!」
その球体と目が合う。もうお互い動く力すらないのはわかりきっている。
もうそもそも動けないため闇魔法と炎魔法は使えないし、精神状態的に土魔法は使えない。
氷魔法は先ほどまでの分がもう切れてしまっておりもう一度使うにはインターバルが必要だから使えない。
そして光魔法多分次打ったら俺が死ぬ。というかこの距離でさえ雷が当たるかどうか怪しく思えてくる。
つまり今俺にはもう打つ手がない。
向こうも向こうでもう魔力が尽きたみたいで一切周りから無機物を集めようとしない。
恐らく魔力が回復するのを待っているんだろう。
・・・・ここまでなのか。目の前にもう勝利があるのに・・・。
悔しい。あと少し手を伸ばせば届きそうなのに、もう腕も足も動かない。
バグハンドのほうはもう少しずつ魔力がたまってきてるようで周りの空気がピリピリ言い始めている。
「く・・・・そっ。ここで終わりなのか・・・?」
諦めかけたその瞬間今までの記憶が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
『やっと起きましたか、兄さん』
『頼む・・・どうか頼む!神様でも悪魔でも何でもいい。どうか俺に守るべき人を守る力を!頼むっ!』
『俺は、俺はこの魔法たちと一緒に戦う』
『っていうことは俺、風魔法ほぼ何にも使えないんだ・・・』
最上級魔法、それは俺がこの世界で唯一使える6つの魔法たち。
俺は魔力がないに等しいけど。なぜか最上級魔法だけは使えたんだよな・・・。
一つだけこの人生で試せなかったけど。
『レベル上げの際に自分のレベルよりも低い敵を瀕死にできる』
そういえばそうだったな。自分より下のやつを瀕死にできるんだっけ。
まあこの世界ではそんなレベルとかいう概念がないからわからずじまいだったけどな。
『・・・・50ってまじか』
・・・魔力。それは今俺がいるこの世界で唯一魔法の関するものが数値としてあらわされるもの。
結局俺よりもひどい奴なんて学園はおろか中学校にすらいなかったっけ。
『なんだこの丸いのは。ユーキ殿よりも魔力が低いではないか』
カチッと頭の中で何かのピースがはまる音がした。
魔力・・・。唯一数値化されているもの・・・。目の前のこいつは俺より低い・・・?
まさか、そんなわけない。だってゲームではレベルだった。
でも・・・今の俺がすがれる最後の希望かもしれない。
だんだんと魔力が回復しつつあるようで先ほどよりも目に光が戻っていた目の前の魔物。
もう動けない、戦えない。ただ最後にやってみる価値はあるかもしれない。
「これが・・・俺の最期のあがきだ・・・」
死神の誘惑
手のひらから何かが噴き出る感覚がある。
が、発動と同時に猛烈な睡魔に襲われてしまう。
これは目を閉じたら死ぬ奴かもしれない。ただもうあらがうすべがない。
パキッ
何かが割れる音とともに俺は夢の世界へといざなわれてしまった。




