38.あきらめない。あの人のためにも
時は少しさかのぼりバグハンドとユーキたちよりも少し離れたビルの中。
「・・・ん?ここは・・・?」
「柊さん!よかった意識を取り戻したのですね!!」
「おお、夕貴殿の妹じゃないか。はっ!今、今戦況はどうなっているのだ!!!」
勢いよく飛び起きようとするが全身に激痛が走り口から血があふれ出す。
ポタ、ポタと口を伝い地面を赤く染めていく。
「ダメです柊さん!外傷は私の回復魔法で気休め程度には直りましたが中の臓器までは直せてません!!多分・・・あの落雷を受けたぐらいですからなんかの臓器はやられているかと・・・」
言われてみると腹部が猛烈に痛い。おそらくあばらも何本かかやられているだろう。
「ぐふっ、そうか。ただ私が意識を取り戻せたのはおぬしのおかげといいうことだな。ありがとう」
「そんなお礼なんて!!! 柊んさんが私たちに防御結界を張ってくれなかったら今頃どうなっていたか・・・。まさか自信を犠牲になさるなんて」
「別に犠牲にしたわけではない。優先度を考えて結界を張ったら私に張る前に魔法が当たっただけのことだ。自分の不甲斐なさを恥じるべきであろう。それより夕貴殿たちが戦っているのはどの方角だ?」
立ち上がろうとするも全身が軋みうまく立てない。倒れかけたところを成瀬レイが優しく抱え込んで手伝ってくれる。
「こっちのほうです。ここからでも多分見えると思います」
「かたじけない・・・。おお、確かにやっておるな」
その時だった。
夕貴殿が上空高くに飛び、見たこともないような巨大な魔法陣を手に宿しおそらく最後の一手であろう魔法を打ち込もうとしているのが見えた。
それを補佐するようにエルサ殿と東雲殿が敵の注意を惹き、リラ殿が氷で動きを封じて完璧な連携のもと魔法が撃ち込まれた。
「これは・・・勝負あったのではないですか!?」
その様子を一緒に見ていたレイ殿が感嘆の声を上げるがなぜか胸がざわつく。
確かに夕貴殿の渾身の魔法は奴に直撃したし、覆っていた装甲もばらばらと崩れていき奴の魔法によって歪んでいたフィールドも元の形に戻り始めている。
ただ、やつの周りの不穏な空気だけは変わらず残っていた。
「まだだ・・・まだ奴の魔力は爛々と燃えておる!!」
そこからは完全に無意識だった。
重力に従い落ちていく夕貴殿目掛けて防御結界を力の限りとばす。
もう魔力も体力も残っていないためたった一枚結界を飛ばしただけで視界がゆがみ体勢を崩す。
口からはまた血が伝い、前に突き出した手が異常なくらいに震え始める
「柊さん!?」
「ふふ、腕輪を壊した甲斐があったというものだ・・・・。これが本当の最期の盾だ・・・。レイ殿、私の事は大丈夫だ、あとは夕貴殿を助けてやってくれ・・・」
薄れゆく意識の中私の結界がなんとか夕貴殿のもとにたどり着いたのを見届け、私はゆっくりと目を閉じた。
*****
「・・・・・」
「・・・・・・・・さん!」
「に・・・さん!兄さん!!」
ああ、どこかで俺を呼ぶ声がする。
ただもう動く力はどこにも残っていない。もう目を開ける余力すらない。
あれからどれくらいたった?今ここはどこだ?あいつはどうなった?
まだ俺は生きているのか?
わずかにまだ仕事をしている耳に注意を傾けるがまだ今の状況は把握できていない。
まるで今まで長い長い目夢を見ていたようだ。猛烈に体がだるく、気を抜いたら寝てしまいそうだ。
今地面に寝そべっているのが唯一の手掛かりでありあとはもう真っ暗闇しかない。
「兄さん!!わたしは戦い続けます!だから早く・・・戻ってきてください!!!」
どこかで誰かの声が聞こえる。この声は誰だっけ・・・。
その声はすぐに硬い何かと何かがぶつかり合う音の中に溶けていきその音源を見失ってしまう。
さきほどから何度も爆発音や金属音が木霊し続けている。
ここは戦場か?
誰と誰の戦いだ?
「ごはっ!!・・・・げほっげほ!」
先ほどとは違い低い、男性のうめき声が近くで聞こえる。どうやら何人か俺の周りにいるみたいだ。
「はっ、はっ、・・・おい・・・こいつの事は頼んだぞ」
そういって音の主が遠ざかっていく。敵に向かっていったのか?
すぐにまだ弾ける音が聞こえる。
敵、敵、敵・・・
バグハンド・・・・。
そうだ、俺は今あいつと戦ってたんだ。でも確か叩き落されたはずだ。
・・・誰かが守ってくれた?
じゃあ戦うしかないじゃないか。寝そべってる暇なんかないじゃないか。
動け俺の体、開け俺の目。
頼む・・・。
・・・動かない。
だが唯一動く耳だけがまた先ほどまでは聞こえなかった音をとらえた。
それは何か鋭利なものが空気を割きこちらに向かっているよな風切り音だった。
「おい、成瀬!!!!それはやばい、逃げろ!!!!!」
「いえ、私は逃げません。だって私がこの人を、兄を守るって決めましたから」
「ばっかやろう!!!!」
魔法陣のような何かが割れるような音がした後、何かが肉を割くような音が聞こえる。俺の体に生暖かい何かがかかる。
そうだ。先ほどまで俺の名前を呼んでいたのはレイじゃないか。
なんでそんな大切な人を忘れていたんだ。
「ぐっ!・・だから・・・私があの怪物を倒す!!!」
大地を蹴る音。また周りに響き渡るに鈍い音。
「ーっ!」
そして甲高い声が戦場に響き渡る。
悲鳴?ヒメイ?ダレノ?レイ?
やったのは誰だ?あいつだよな。あいつしかいないよな。
赤く鈍く光る球体。全部あいつのせいだ。
許さない。
大切な人たちをぼろぼろにしたあいつを。
体が動かない?でもまだ俺にはやれることがあるじゃないか。
もう口すらも動かせないから心の中で強く念じてみる。
俺に力を・・・氷帝の憂い
*****
正直もうだめだ。
成瀬が渾身の一撃を放ったおかげで敵はもう崩壊寸前というところまできたのだがあと一手が足りない。
その成瀬はその後敵に叩きつけられて意識を失っちまったし、先ほどまで一緒に戦っていたエルサ、リラと呼ばれていた女子生徒たちも暴れまわるあいつに叩きつけられ瓦礫の上でだらんと倒れている。
今動けているのは俺と成瀬の妹らしき女子だけだ。
その妹も先ほど夕貴狙って放たれた鋭利な瓦礫を身を挺して守ったためその右腕に瓦礫が突き刺さりもう拳すら握れなくなっている。
そんなぼろぼろの状態でも果敢に敵に向かっていく様を見て、半ばあきらめている俺はもう疑問しかなくなってきてしまった。
なぜ、そこまで戦い続けられるんだ?何を一体信じているんだ?
必死に相手の攻撃をよけながら俺も攻撃の手を緩めないが、剣に迷いが出てきてしまっている。
ひたすらに攻撃を続けているとレイと呼ばれる子と同じところに着地し、二人同時に体勢を整えるタイミングがあったため思わず聞いてしまった。
「はぁっ、お前は、何でまだ戦う意志が残っているんだ?」
「愚問ですね。だってまだ
私の兄さんは負けてませんから」
彼女がそう告げた直後、俺らの背後で巨大な氷柱が出現した。
その氷柱の中央、そこから広がる円状の氷のフィールドの中央部には地面と氷で一体化している少年、成瀬夕貴の姿があった。
「なっ、なんだあれ・・・」
「あの人が諦めない限り、私もあきらめません」
顔に汗をびっしりと流し血を滲ませながら少女ははにかんでそう告げた。




