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37.失ったもの

約10分

それは他の魔物との戦いで魔力や体力を消耗させられた俺らの全力が続く時間、そしてバグハンドがもう手を付けられなくなるほど成長するまでの時間。

もう色々と考えている時間はない。10分間全力を出し切って勝てなかったら俺らの負けだ。

湧き出る雑念や不安をかき消すように俺は強く大地を踏みしめた。



「柊さんとリラは防御やサポートを!弘人、エルサ、レイは俺と一緒にあいつをできるだけ破壊するぞ!!」

足場がどんどん崩壊していくこのフィールドでありったけの声で叫ぶ。届いたかどうかはわからないが振り返ってる暇はない。


「おおぉおおお!くらえ化け物!! 熱風拳!!!!」

「食らいなさい! 裁きの炎槌!!」

俺よりも一足先に炎魔法組二人がバグハンドのもとまで到達したようで二人とも見るからに強力な魔法を打ち込んでいはいき、だんだんと装甲が剥がれてくるのが実感できるようになってきた。

そのうち一方的に受けていたバグハンドの核が赤く光る。

「エルサ、弘人離れて!」

俺が言葉を発すると同時に手を大きく広げかっさらうようにおおきくふりまわす。

なんとか声が届いたようで二人ともすれすれのところでかわすことができた。

そしてこの後確か・・・

「柊さん、みんなに結界を!」

「あい分かった!」

即座にこの場にいる6人を半透明で立方体の結界が囲う。

バグハンドはその手の平を宙に向け、手のひらの中央にある核から上向かってレーザーを放つ。そのレーザーははるか上空で弾け今までの瓦礫よりもはるかに速い速度で俺らに降り注ぐ。


何とかよけようとするも足場はとうに崩れているし何発かは俺らを守っている結界に当たってしまう。

大体3発が限界ってところか。

「リラ!バグハンド目掛けて氷の道を作ってくれ!!こいつはこの攻撃のあと若干動きが遅くなる!!!」

「わかった・・・!」

なんとか攻撃をよけながらリラが放った氷魔法は崩れかけている大地ごとバグハンドのいる上空に向かって伸びていく。これで宙にいるあいつへの道ができた。


三発目があたり俺の結界は割れてしまうがもう関係ない進むだけだ。


「いっけえぇええええええ!!」

右手に闇属性の身体強化魔法を何重も重ね掛けしてさらにアリグナクで覆う。


若干動きが遅くなったバグハンド目掛け強化しまくった拳を何度も振りぬく。

何度も何度も何度も何度も。

遠くからはエルサが先ほどよりも巨大な炎でできた槌を上空に生成してバグハンド目掛けて振り下ろす。

「こんの野郎!!! これでも食らいやがれ!闇魔法第10廻 ディストロフィズム」

右手に巨大な魔法陣が現れその勢いでたたきつける。

その衝撃で少しづつだがやつの組織に亀裂が入り始めた。ありえない衝撃が来てしびれるが知ったことではない。

「私も続きます!」

「俺もだ!!」


紫に光るオーラを纏うレイと燃え盛る炎の渦を身に宿す弘人が俺に続いて打撃を加えるがなかなかこれといった有効打にならない。どうやら最初の魔物を倒す段階で時間がかかりすぎたようだ。


「・・・!みんな逃げて!!!もう・・・・抑えられない・・・・・!」


4人でひたすらに攻撃を続けていると今まで聞いたことの無い大声でリラが叫んだ。

リラのほうを向くや否や先ほどまで大地を固めていたリラの氷が音を立てて崩れ、大量の瓦礫が下から噴き出すように飛び散る。また足場が崩れていく。

くそっ、こいつだから俺らのほうに集中してなかったのか・・・


「みんな上よ!!!何か来るわ!」


まずい完全にあいつの動きを見るのを忘れていた。崩れ行く大地に気を取られていたがどうやらさらにほかの魔法の準備もしていたみたいだ。


先ほどよりも崩れ始めているその手は人差し指だけを宙に立てるようなモーションをとる


「これはやばいっ!!!みんな防御魔法を・・・」


遅かった。次の瞬間には俺ら一人一人目掛けて巨大な落雷が天から降り注いだ。

俺の雷神の怒り(トラローク)ほどの威力ではないが轟音とともに白く光る稲妻がこの場を、俺らの視界を真っ白に染め上げた。





「・・・・・動く・・・?」

確かに雷は俺に直撃した。その衝撃で吹っ飛ばされたところまでは覚えているが痛みはあまりない。

急いで起き上がってみると俺と同時にリラ、弘人、エルサ、レイがよろよろと立ち上がった。


「まさか!?」

今立ち上がらなかった一人を必死に探すが見当たらない。そうこうしている間にもバグハンドは瓦礫を超能力のように浮かせ俺ら向かって飛ばしてくる。大技を使った後だからか、動きに少し鈍さが見えるがそれでも鬱陶しいことには変わりはない。


「柊さん!?柊さんっ!!」


レイのほうから叫び声が聞こえた。

うねる大地、降り注ぐ隕石を必死に避けながらレイのところまで無我夢中で駆けていく。


「レイ!柊さんは無事!?」

「まだ息はありますが意識がありませんっ!柊さんが自分以外のみんなめがけて防御壁を出してくれて・・」

「泣くなレイ!俺らの戦いはまだ終わってない!!柊さんが俺らに託してくれたんだ!!」

だらんと力なく横たわる柊さんにレイの涙がこぼれるがここで止まるわけにはいかない。


「そうだぞ成瀬妹!!おれらには時間がないんだろう!?やるしかねえぞ!!そうこうしてるうちにまたあいつの装甲が厚くなってくんだぞ!!」


「くっ、きゃあ!・・・がはっ」

「エルサ!!!」

「今注意をひいてるから早く・・・柊さんを安全なところに・・・」

地面から何本もの剣のような巨大な岩塊が突如突き出しエルサを弾き飛ばした。それでもエルサは向かっていくのをやめない。下からも上からも様々な無機物がエルサに向かって飛び交いぼろぼろになっていくが進むのを諦めなかった。

進むのをやめないエルサに向かって極太のレーザーを放つが弘人がエルサをかばい飛び込んで避けるが腹に少しかすったようで腹部には血がにじんでいる。

リラも必死に動く物体を凍らせてフィールドを整えていくがバグハンドの攻撃も何回か直撃し、知らないうちに傷だらけになっていた。


「レイは柊さんを安全なところに持って行って!あいつは俺たちが何とかする!」

柊さんの体をレイに託し空に浮くバグハンド目掛けて闇魔法を放つがびくともしない。

それどころか先ほどの落雷で飛び散った破片がどんどんあいつのところに集まっていき、大きさがさっきよりも大きくなっていく。レーザーを放つためにむき出しになっている手のひらの中央で赤く光る核を壊すことだけが俺らの勝ち筋だ。ただそれも周りの装甲が厚ければ握るような動作をされただけで最強の盾になってしまう。


・・・正直やりたくなかったがここまで来てはもう仕方がない。リスクなんか考えている余裕なんてなくなった。

右手に集中をあつめて深呼吸をする。


「リラ、上からあいつ向かって魔法を放つから一瞬でもいいから動きを止めてくれ。できるか?」

「わかった・・・まかせて」

リラが目をつむり集中力を高め魔法の詠唱を始める。

足に限界まで身体強化をかけ、さらに足元に何重も魔法陣を出して反発力を高めてバグハンド目掛けさらに高いところまで飛ぶ。


それに気づいたバグハンドが俺めがけて真上にレーザーを放とうと予備動作へと移る。

「俺らを無視してんじゃねえ!!!」

が、今交戦中のエルサと弘人がやつ目掛けて最大化力の魔法を浴びせ照準をずらしてくれた。

こうしてわずかにひるんだ奴には一瞬のスキが生まれる。


「いっけえ!!!闇魔法第11廻 アースクエイク!!!」


右手に今まで出したことの無いような巨大な魔法陣が現れる。この魔法は魔法陣を発動するのに少し時間がかかるがその時間はエルサと弘人が稼いでくれた。もちろん右手はアリグナクで覆っている。今まで発動したことの無い上級魔法だからどうなるかは知らないが強力であることには間違いない。

流石にこれを食らったらやばいと判断したのか、手を握りしめ逃げるような動作をしようとする。

「リラ!!!!」

「絶対障壁」

が、その少し先にリラの目が開かれて膨大な氷の波が押し寄せ目の前の空間全てを凍らせていく。

エルサと弘人は先に避難しており、同じく避難しようとしたバグハンドだったがその胴体の半分くらいが氷の波にのまれて動きが止まった。


「いっけぇええええええええ」


もう右手はどうなってもいい。それほどまでに右手を強く握りしめて巨大な魔法陣をまとった右手を振りぬく。

奴に直撃したとたん、アリグナクで覆っていた右手の鉄の鎧はいとも簡単にひびが入り砕け散りミシミシッと骨が折れる音がする。肩あたりまで衝撃が来た気がする。

バグハンドを固定していた氷は砕け散り、その体を覆っていた忌々しき装甲たちはボロボロと砕けていく。やつの魔法がゆるみ、その瓦礫とともに重力に従い落下していく。

「ああ、これで終わった・・・のか?」


崩れ行く世界を見ながら落ちていく俺はぽつりとつぶやいた。













が、次の瞬間全身が握りつぶされるような感覚に襲われた。いや、握られている。


「グゴガアアアアアアアッ!」


そのぼろぼろになった手はまだ生きていた。

さっきよりもみるからに貧弱になったその手は俺をつかみ、地面にたたきつける。

ここで俺の意識は途切れた。





誤字脱字報告、ブクマ、評価ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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