35.戦う理由
大会本部にて
「何が起こっているの!?」
「学園長大変です!!!摸擬戦場内に突然魔物が出現しました!そ、それにこんな魔物見たことがありません・・・!!!」
「とりあえずあなたたちは選手を全員強制転移させて!!あともう連絡が言ってるとは思うけど王国軍に連絡してできる限りの戦力を総動員させて!あれは、あれは今まで王国に現れた魔物のなかでもかなりヤバイ魔物かもしれない・・・!」
モニターに映しだされている様々な無機物がつぎはぎのようにくっつけられた巨大な手をにらみつける。
あんなおぞましい怪物は今までの人生においてみたことがない。もはやおとぎ話の世界のようにも思える。
あの魔物が現れてからこの本部にサイレンが鳴り響き、ここにいる職員全員でこの事態をなんとか抑えねばならないのだが一向に強制転移が行われる様子がなくだんだんといら立ちが募っていく。
「まだなの!?早く選手たちを・・・」
「た、大変です・・・きょ、強制転移ができません・・・。もしかしたらあの怪物に転移魔法具を吸収されてしまったのかもしれません・・・」
なんどもキーボードのボタンを押している職員が絶望し切った顔でこちらを振り返る。
「なんですって!!じゃ、じゃあ早くゲートを開けて・・・」
「それも無理です!!先ほどからゲートを開けるよう試みておりますが全く反応がありません!!!」
「なっ・・・」
どういうことなんだ。もう訳が分からない。
「アナウンスは?アナウンスはまだ生きてる!?」
「まだ生きてます!!!ただもう時間の問題かと・・・」
「早く貸して!!!」
職員が手渡してきたマイクをひったくるようにして奪う。
なんとかして出来る限りの情報を中へ伝えなくては。
『皆さん聞いてください!!ただ今強制転移とゲートの開放を試みておりますがどうやらシステム機器が破損してしまったようです!こちらも最善を尽くしますが・・・・』
ブツンッ!
「どうか・・・どうか・・・・・」
自分の非力さにはらわたが煮えたぎるような感情を覚える。
目の前で生徒たちが恐ろしい目にあっているのに自分は何もできない。ただ眺めていることしかできない。
「学園長!!!王国軍三番隊全軍参った!今の現状を報告していただきたい!」
「ルーン!!異常事態よ!!!突然魔物が現れて強制転移もアナウンスもカメラも、ゲートを開けることもできなくされたわ」
「なんだと!で、では今中には誰がいるのですか?」
「今中にはアドミラ学園の選手とフロイド学園の選手が合わせて10人くらい」
「各々の転移装置はどうなっているのですか?それも強制転移システムが破壊されたら動かなくなるものなんですか?」
「いえ、強制転移とダメージによる転移はネットワークが違うから多分大丈夫。腕輪が破壊されたりしない限りは」
「・・・・・外側から破壊して中に入ることは?」
「多分、いや絶対無理よ。あれはこの国で一番丈夫なガラスと金属に解けない魔法を付与しているから」
「ならば魔物側から破壊して外に出てきてくれるまで私たちは何もできないということですね」
「そう・・なるわ。情けないけどそれが現実よ」
「学園長・・・」
「わかってるわよルーン、多分今考えてることは同じね。指導者としては失格だけれどおそらくそれがあの魔物に勝つための最善策だわ」
「では私たちは魔物が外に出た時に立ち向かえるようあたりを兵で固めておきます。観客はもう避難できてますよね?」
「ええ、最初のタイミングで誘導はできてるわ」
「・・・・あの中にあの少年がいるっていうだけで少しだけ希望を持ってしまいますね。やはり学園長も成瀬夕貴という男にはほかの事は違う何かがあると思ってるのでは?」
「そうね、その通りよ。あわよくばあの子たちがあの魔物を・・・。なんて生徒を頼るなんて指導者失格よ。でもあの子ならもしかしたらッて思っている自分もいるの」
「では私たちは外に出てきた時に備えて警護に回ります。何かあったらすぐに連絡してください」
「わかったわ」
ルーンが兵を引き連れて会場へと向かっていく。
私にはその姿を見つめることしかできなかった。
*****
そのころ会場内部。
「アナウンスが途中で切れましたね。どうやら強制転移もできないみたいですし私たちでこの魔物をどうにかするしかないってことですかね」
「ダメージによる転移の方はまだ生きてるのかしら?」
「多分生きてると思うぞ。現にこの腕輪はまだ動いてるからの」
「アドミラ学園のみんな!ここは一時休戦と行こう。流石にこの魔物は協力しないとやばい!!」
「ええ、その通りよ!・・・ってユーキ!さっきからどうしたの下ばっかり向いて!」
「そうじゃぞユーキ殿!!!おぬしがそんなおびえていてどうする!!!」
無理だ。だってあれはあの『バグハンド』だぞ?みんなあいつが何者か知らないからまだ勝てる気でいるだろうけど俺はもう心が折れている。例えるなら戦車に生身の人間が立ち向かおうとしているようなもんだ。勝ち目なんてない。こいつが出た時点でもうゲームオーバーだ。
「っ!!!東雲殿後ろ!!!!!」
弘人たちのチームがいる後ろにまた突然ワープゲートが現れ魔物が次々と出てくる。
その魔物たちはフロイド学園の選手たちを背後から切り裂き致命傷を負わせていく。
柊さんの声に唯一反応した弘人だけが転がるようにして難を逃れたがほかの選手たちは次々と転移していってしまう。残ったのは弘人だけだ。
ああ、ここまで一緒なのか。バグハンドが出るときは大量の魔物を引き連れているっていうのが難しいポイントの一つだったのだがそこまで一緒みたいだ。さらに絶望感が俺を襲う。
「ちっくしょお!何なんだよ本当に!!!ちょっと見てない隙にあのバケモンもどんどん大きくなってるしよ!!早いうちになんとかするしかないんじゃないのか!?」
「そのとおりね。おそらく援軍は来ないし私たちで何とかするしかないわよ」
「そうと決まればやるしかないだろ!おい、成瀬!!!何ぼーっとしてるんだ早く構えろ!!!」
無理だ。勝てない。セーブ&ロードがあるゲームならまだしも一回しかないこの世界において勝てる術が見当たらない。たとえ転移されたとしてもこいつが会場を突き破って外に出れば人類は皆殺しにされるに違いない。心が折れる音が聞こえた気がする。
「魔物が来るわよ!みんな構えて!!」
「ワープゲートからどんどん出てくる魔物に、ついには宙に浮きだしたバグハンドの悠長な攻撃にむかってみんなが魔法を発動しあらがうが俺だけ虚空を眺めている。現実を受け止められない。
「歯ぁくいしばれこの野郎っ!!!!」
そんな俺に向かって顔面に右ストレートがぶち込まれる。
うつろな目をしていた俺には不意打ちも同然で何の抵抗もできることなく吹っ飛ばされる。
その衝撃で離れかけてた意識が戻る。
「っ痛てえな!何すんだ!!」
「なんだよお前のさっきからのその態度は!!!現実を受け止めてないような顔しやがって!お前は一体どこ見てるんだよ!!!」
弘人に胸ぐらをつかまれるが俺は目をそらして力なくつぶやく。
「・・・あいつにはどうやったって今の俺たちじゃ勝てない」
「そんなもんやってみなきゃわかんねえだろ!やってもいねえのにそんなこと言うんじゃねえ!」
「違う、俺は・・・」
「あいつのことを前から知っている。だから勝てるわけがないことも知っている。ですか兄さん?」
「・・・・・」
「確かに兄さんはあの化け物の事を知っていて、私たちじゃ勝てないとわかっているのかもしれません。ただ、世の中には負けるとわかっていても立ち向かわないといけない時だってあるんですよ?もしかしたらその勇気が奇跡的な結果につながるかもしれませんしね」
弘人から解放されて自由になる。その間もみんなは魔物と戦っているわけだが俺はただ下を向いているだけだ。レイの言ってることは正しいがゲームの時の戦いで俺は若干トラウマになっている。
動かそうとしても足が言うことを聞いてくれない。
「ねえユーキ、たしかに私だって怖いよ?でもね、何かみんなと一緒だと何とかなりそうな気もしてるの!ねえそうでしょうユーキ?」
「わたしは・・・あなたに勇気をもらった。でも・・・いまのあなたは前の私と同じように・・・ただ事実におびえて絶望して・・・立ち止まってるだけ。ユーキも一歩踏み出さなきゃダメ・・・」
「いつまでそこで止まっておるのだ!私が夕貴殿を守ってやるから安心しろ!!なんたって私は結界姫だからな」
・・・最初は何となく耳に入ってきた言葉たちが何故か脳みその中で大きくなり、響き心に残る。
そしてどこかでこのセリフを見たことがある。
見たことがある・・・。そうだ、このセリフはゲームでヒロインたちがバグハンドを見て絶望した主人公に向けて言った言葉と丸々一緒だ。
何も知らないけど立ち向かおうとする彼女たち、ほとんど知ってるがゆえに足がすくんでしまっている俺。
そして今俺の横には主人公がいて、本来主人公が言われる言葉を俺が受け止めて・・・。
「あとはお前だけだ成瀬。お前は目の前で大事な人達が傷つけられて行ってもいいのか?負けるとわかっている試合だからって放棄していいのか?一縷の望みからすらも目を背けてもいいのか!?未来が決まっていたとしてもそれを変えるくらいの努力はしろよ!!!!!」
「・・・・いやだ。目の前で人が傷つくのは見たく・・・ない」
「じゃあ動け!!!ほら、俺を助けてみろっ!!!」
そういって刀を投げ捨て生身になり、襲い掛かる魔物の爪を受け入れようとする弘人。
それを見て心がどうこう考えるよりも先に体が動いた。気づいた時には大地を蹴っていた。
「それが答えだ成瀬。この戦いには理論も未来も何もないし考えていても何も生まれない。あるのは動かなきゃ誰かが死ぬっていう事実だけだ」
顔を上げるとみんなと目が合う。
おれはこの人たちを守らなければ、ならない。
それがどんな絶望が相手だったとしても。
さっきまで俺が考えていたことの答えはでなかったけれど、今俺がやらなければならないことの結論はもう出た。
「俺に力を貸してくれ・・・神話の拒絶」




